幼馴染と、あまくてぬるい檻の中で
高校卒業後、漠然とした夢を追いながらフリーターをしている真翔は、とある事情から幼馴染の灯里と同棲することになる。
驚くほど美しく成長した灯里との生活は、真翔の理性を容赦なく削っていく。部屋着姿で無防備にくつろぐ彼女、ちょっとしたことで赤くなる頬——正気を保つだけでも精一杯の毎日だ。
そんなある夜、酔った灯里が真翔の布団にもぐりこみ、こう囁く。「昔からずっと、好きだったんだよ」——触れ合う手、吐息が混ざるほど近づく顔。長年の友情は、激しく生々しい欲望へと溶けていった。汗ばむほどに絡み合う身体、彼の名を喘ぐ彼女の声と、肺を満たす灯里の匂い。
だが、これは甘い恋の始まりなんかじゃない。互いを焼き尽くす執着の幕開けだった。灯里は真翔のスマホをチェックし、仕事のシフトをすべて把握し、十分の遅刻にも百回の着信を残す。「ずっと一緒にいてくれるよね?」という甘い囁きには、「逃したら許さないから」という本気の脅迫が潜んでいる。
真翔が友人・静生に相談すると、涙目の灯里は「私のこと、誰かに話した?」と詰問。翌日には、朗らかな笑顔で静生との縁を完全に断ち切ってしまう。性的な支配は武器となり、彼女の身
幼馴染と、あまくてぬるい檻の中で - 甘い縄、熱い夜——帰る場所が檻になる日
六月も下旬に差しかかろうとしていた。
真翔の生活は、この二週間でがらりと変わった。恋人同士になってから、灯里の優しさは前よりもっと深くなったように感じる。朝は必ず早く起きて朝ごはんを作ってくれるし、洗濯もちゃんと分けてくれる。一人暮らしが長かったからか、家事の手際は真翔よりずっと良かった。
でも、何かが変わった。
何かが、少しだけ——。
倉庫のバイトから帰ってきた真翔は、じっとりと汗で湿ったシャツを着替えながら、今日の違和感を思い返した。
同僚の田中が、「ラーメン奢るよ」って言ってきたのは、倉庫の裏口を出たところだった。時刻は午後六時。日が長くなったから空はまだ青い。
「[excited]今日給料日だったからさ、一杯どう?」
田中は高校の同級生で、今は同じ倉庫でバイトしている。身長が高くてガタイのいい、気さくなやつだった。
「[serious]悪い、今日はちょっと……」
断る口実が思いつかなくて、結局十五分くらい店の前で立ち話をした。倉庫の暗さが辛いとか、社員の佐藤がうるさいとか、そんな話。
(まあ、ちょっとくらい遅れても大丈夫だろ)
そう思っていた。
アパートについた時、スマホの画面を見て血の気が引いた。
不在着信。十六件。
LINEには、今どこ? なんで電話出ないの 何かあった? という短いメッセージが十四件も届いている。時間はすべて、真翔が田中と話していた十五分の間だった。
(やべえ)
玄関の前で、足が止まる。
鍵を差し込もうとした瞬間、扉が内側から開いた。
「[cold]……おかえり」
灯里が立っていた。
深紅のウェーブがかった長い髪は、いつも通り艶やかだ。琥珀と銀のオッドアイも、いつも通りの色。でも、その目尻がほんの少しだけ、つり上がっているように見えた。
「[scared]ただいま……」
「[gentle]遅かったね。心配しちゃった。何かあったのかなって」
灯里は笑顔だった。
でも、その笑顔はどこかピンと張り詰めた膜のように薄くて、触れたら破れてしまいそうに見えた。白いブラウスと、落ち着いた色のロングスカート。大人っぽい服装が、かえって彼女の不安定さを際立たせている。
「同僚に、ちょっと話しかけられてさ。田中って奴で、ラーメン奢るって」
灯里の目の奥で、何かがチラリと光った。
でもすぐに消える。
「[gentle]そっかー。連絡してくれればよかったのに」
それだけだった。
真翔はほっとして、汗まみれの体を風呂で流す。シャワーの水音が、狭い浴室に響いた。
(こんなに心配してくれるなんて、大事にされてるな)
たしかにそう思った。でも、十六件の不在着信。十五分の間に、だ。コンビニのシルバー24に寄らなかったら、もう少し早く着いてたはず。帰宅予定時刻の五分前にはもう、灯里は玄関の前で待っていたのかもしれない。
(そこまで?)
首をひねりながら、風呂から上がる。
夕飯の席で、その違和感はもっと強くなった。
灯里はいつも通り、明るく話していた。
「今日ね、クライアントがすごく面倒くさくてさー」
「へえ」
「デザインの修正を五回も。五回だよ? あきれるでしょ」
「大変だったな」
会話は普通だった。
でも、テーブルの下で、灯里の両手が真翔の手首をつかんでいた。
ぎゅっと。
離れないように、そこに固定するように。指が食い込むほど強い力だった。
「……なあ、灯里」
「[gentle]ん? どうしたの?」
灯里はほほえむ。琥珀と銀の目が、ただひたすらに真翔を見つめている。
「いや、ちょっとトイレ……」
真翔が席を立とうとすると、手首をつかむ力がギリッと強くなった。
ほんの一瞬。
でも、真翔の骨に鈍い痛みが走る。
「[gentle]あ、ごめんね。つい、離したくなかったんだ」
灯里は悪びれずに手を離した。
真翔は口の中で「まあ、いいか」とつぶやいて、トイレに立った。戻ってくると、また手首をつかまれる。ご飯を食べ終えるまでの三十分間、ずっとそうだった。
(重い、なのかな)
(でも、これが愛情ってやつなのか?)
真翔は真剣にわからなくなっていた。
夕食の片付けが終わると、灯里は急に無口になった。
食器を洗う手を止めて、真翔の方を振り返る。
「[whispers]……今夜、一緒に寝よ」
恋人になってから、ほとんど毎晩そうだった。
灯里は真翔の手を引いて、寝室に入る。部屋の真ん中にはダブルベッドがあって、シーツはいつも清潔に取り替えてある。枕もふたつ。最初はひとつしかなかったのに、真翔が来てから増えた。
灯里はベッドの端に座ると、真翔の首に腕をまわした。長い深紅の髪が揺れて、石けんの匂いがふわりと香る。
「[whispers]ねえ、マナト。私のこと、好き? 本当に?」
震える声だった。
「好きだよ」
真翔が答えると、灯里は深く息を吸った。
それから、急に泣き出した。
「[crying]マナトがいなくなったら、私、何もできなくなるの」
大粒の涙が、琥珀と銀の目からこぼれ落ちる。鼻の頭が赤くなって、声が震えて。
「子供の頃から、ずっとそうだった。私にはマナトしかいなかった。だから、嫌いにならないで。絶対に」
「嫌いになるわけないだろ」
そう言いかけた真翔の口を、灯里の唇がふさぐ。
キスだった。
強くて、どこか必死なキス。
灯里の舌が真翔の口の中に入ってきて、歯列をなぞる。唾液が混ざり合う、生温かい感触。真翔は彼女の細い肩を抱き返し、そのままベッドに押し倒された。
灯里の手が真翔の服を脱がしていく。いつの間にかブラウスもスカートも脱ぎ捨てて、彼女は裸だった。白い肌が、カーテンの隙間から差し込む街灯の光でぼんやりと浮かび上がる。
バストは小さめで、先端の乳首は淡い桜色だった。細い腰、すらりと伸びた脚、太ももの内側のやわらかそうな肌。
「[crying]マナト……マナト……」
灯里は泣きながら、真翔のちんこに手を伸ばした。もう硬くなっていて、先端からは先走り汁がにじみ出ている。彼女の細い指が、カリの裏側をやさしくなぞる。
「んっ……」
灯里は真翔の首筋に顔を埋め、鎖骨を舐め、胸の突起を軽く噛んだ。痛みとくすぐったさが混ざった感覚が、腰に響く。
それから、彼女は体をずらし、真翔のペニスを自分のまんこにあてがった。すでに濡れていて、トロトロの愛液が太ももを伝っている。
「[whispers]入れるよ……」
ゆっくりと、腰が下りていく。
ずぶぶ……と、狭い膣がちんこを包み込んでいく感覚。奥まで入ると、灯里の内部のヒダがきゅうきゅうと締まった。熱い。ぬるぬるしている。
「あぁっ……はぁ……マナトのが、中に……」
灯里は泣き止み、切なげに眉をひそめながら腰を動かし始めた。最初はゆっくりとしたピストンだったが、次第に激しくなる。
「マナト、好き、好き、好きっ」
彼女の腰が打ちつけられるたびに、結合部からグチョグチョと水音がした。
真翔も腰を突き上げる。奥にあたるたびに、灯里が小さく悲鳴をあげた。
「そこっ、奥、だめっ……あぁ、あぁぁっ!」
灯里の爪が、真翔の背中に食い込んだ。
痛い。
でも、彼女は離さない。抱きしめる腕にも、腰にも、全身に力がこもっている。
(離さない)
その意思が、痛みとして伝わってくる。
灯里は一度目の絶頂を迎えた。ビクビクと体が震え、膣が痙攣する。その締め付けに、真翔も射精しそうになるのを必死でこらえた。
夜はまだ長い。
二度目の情事は、もっと深かった。
正常位で向かい合い、燈里の脚が真翔の腰に絡みつく。汗で湿った肌と肌が密着して、体温が混ざり合う。
ピストン運動が速くなるにつれて、灯里の喘ぎ声も大きくなった。
「あっ、あん、いい……気持ちいいよ」
そのとき、燈里の口が真翔の耳元に近づく。
「[whispers]ずっと一緒だよね?」
「ああ」
真翔が息を切らしながら答えると、彼女は言った。
「[whispers]離れたら、私……」
言葉が、途中で止まる。
沈黙。
数秒の空白が、その場の空気を一気に冷たくした。
灯里の目から、また涙が一粒こぼれる。でも、口元はほんの少しだけ弧を描いていた。泣いているのか、笑っているのか。
(私……なんだ? 死ぬのか? どこかへ行くのか? それとも——全部壊すのか?)
真翔の思考が凍りつく。
でも、灯里がその瞬間に強く腰を押し付けてきて、すべてが白くかすんだ。
「イくっ……!」
どくん、どくん、と精液が彼女の膣の奥に吐き出されていく。白濁したザーメンで、子宮口が満たされる。
「ああぁぁっ……!」
灯里も同時に絶頂した。
彼女の体が大きく跳ね、膣が真翔のペニスを強く締め付ける。長い、深い絶頂だった。
行為が終わると、灯里は穏やかな顔で眠り始めた。
真翔の胸の上で、スースーと寝息を立てている。泣き疲れて、満足して、安心しきった寝顔だった。
真翔は天井を見つめる。
頭の中であの言葉が繰り返される。
『離れたら、私……』
その先が何なのか、どうしても気になった。
(聞けばよかったのか? いや、聞くのが怖かったのか?)
十九歳の真翔には、まだ「愛」がよくわからない。
大事にされてると思う。好きだとも思う。
でも、この感じは——。
(なんでこんなに、背中が冷たいんだろう)
答えは出なかった。
翌朝。
日差しがまぶしくて、真翔が目を覚ますと、灯里はすでに起きていた。
ベッドの端に腰かけて、なにかをじっと見つめている。
手に持っているのは、真翔のスマホだった。
「……何してるの」
声をかけると、灯里は振り返らなかった。
「[gentle]バイト、何時上がり? 今日」
淡々とした声。
画面には、倉庫バイトの男女混合グループチャットが開かれている。昨日、立ち話をした田中とのやりとりや、シフト表の確認メッセージがずらっと並んでいた。
灯里の細い指が、画面をスワイプする。
一人のメンバーで、指が止まった。
「ナカムラ」。
女性らしき名前と、花のアイコン。
灯里は無言で、そのアイコンをじっと見つめた。
沈黙が重たい。
「なあ、それ、俺のスマホだけど」
やっとの思いで言うと、灯里はパッと顔を上げた。
笑顔だった。
「[laughing]だって、パスワード教えてもらったじゃん? 恋人なんだから当然でしょ」
そういって、スマホをベッドに置く。
真翔は何も言い返せなかった。
たしかにロック番号は教えた。でも、それは無断で見ていいって意味じゃない。
(でも、恋人同士には「無断」なんてないのかな?)
しっかりした正解が、真翔にはわからなかった。
朝食のトーストをかじりながら、灯里が明るく言う。
「[excited]ねえ、今日のバイト、私も駅前で時間潰してていい? 帰りに一緒に帰ろうよ」
マルトシティのことだ。駅ビルの本屋とかカフェで待つつもりなんだろう。
(そこまでして一緒にいたいのか?)
疑問がよぎったが、断る言葉が出てこない。
気がつけば「わかった」と答えていた。
灯里は嬉しそうに笑い、コーヒーを一口すする。
真翔はスプーンを持ったまま、窓の外を見た。六月の空は薄曇りで、すっきりしない。
外に出るたびに、彼女の目が近づいてくる。帰る場所があるから、バイトにも行ける。でも、そのたびに十六件の不在着信が頭をよぎる。
(これは、なんていうんだろうな)
言葉にできない感覚が、胸の奥でじわじわと広がっていく。
それが愛情なのか、それとももっと別のなにかのか。
真翔はまだ、名前をつけられずにいた。