水
水無月凛
1話 100pt
夕暮れの街角に、少年は立ち尽くしていた。病院帰りの足が、境界の看板の前で止まる。「回復の見込みは、現時点では判断できません」——その言葉の意味を、十七歳の桜遥は噛みしめる。彼が目指してきた「てっぺん」の男が、倒れた。原因不明の病。街の治安をたった一人で支えてきた総代・梅宮一が、病床に伏せっている。 これは、拳ひとつで生きてきた少年が「居場所」の意味を知り、そして喪失の淵で再び立ち上がるまでの物語だ。 風鈴市。かつて無法地帯と呼ばれたこの街を、暴力ではなく対話で変えた防衛集団「ボウフウリン」。その頂点に立つ梅宮の存在が揺らぐとき、街の均衡は静かに崩れ始める。路地裏で中学生を追い詰める外部の少年たち。手薄になるパトロール。動揺する仲間たち。桜は拳を握りしめながら、それでも飛び出さない。感情のままに動いて、梅宮がくれた街を壊したくないから。しかし、飛び出さない自分を、彼は誰よりも強く責めていた。 「お前なんかに、てっぺんは無理だ」——非常階段でそう告げる杉下京太郎。梅宮を崇拝し、病室の前に三日間立ち続ける男の言葉は、容赦なく桜の無力を突きつける。中学時代、喧嘩しか取り柄のなかった自分。