御崎蒼志は並外れた味覚の持ち主だ。複数の味を同時に感じ取り、その調和を本能的に理解するという希有な才能を持つ。この才能はかつて京都での挫折を招いた。名門料亭で修業中、伝統的な懐石の枠を超えた彼の挑戦は、師匠から「日本料理の本質を忘れている」と叱責される結果となった。新たな道を求め、彼はパリへと旅立つ。 一つ星ミシュランのレストラン『ルミエール』で、蒼志は厳格なシェフ、ジャン=ポールのもとで働く。ジャン=ポールはフランス料理と日本料理の根本的な違いを理解するよう彼に求める。「フランスのルールを日本料理に当てはめるな」と言い、蒼志に「引き算の美学」や「季節の息吹」を掴ませようとする。 そんな静かな日常が変わるのは、店のパティシエール、ルイーズが彼の実験的な料理を味わった時だった。彼女はその中に隠された迷いと憧れを感じ取る。それは彼女自身も抱える感情だった。伝統的なフランス菓子の枠から抜け出せずにいるルイーズと蒼志は、まだ恋愛には至らないものの、未だかつてないものを共に創り出そうとする相互の共鳴を育んでいく。 物語は春から初夏のパリを舞台に、全七話で展開する。蒼志は失敗の過去と向き合い