終わりの勇者 - 第一話
七年間。勇者カイは七年という歳月をかけて、ようやくその場所にたどり着いた。仲間たちは途中で死んだ。最初の仲間は魔物の群れに飲み込まれ、二番目の仲間は呪いに蝕まれ、三番目は——彼は今もその名前を口にできない。
城門には番兵すらいなかった。
それが不気味だった。七年間、無数の魔物と戦い、無数の罠を越えてきた。なのに最後の城だけが、まるで彼を招くように静まり返っていた。
石畳の廊下を歩くたびに、足音だけが響いた。壁には肖像画が並んでいる。歴代の魔王たちだろうか。どれも似た顔をしていた。疲れた目。閉じた口。まるで何か重いものを飲み込んだような表情。
玉座の間の扉は、触れる前に開いた。
「待っていた」
声は思ったより若かった。
玉座に座っていたのは、カイと同じくらいの年齢に見える青年だった。黒い外套。銀の髪。しかしその目だけが異様に古かった。千年分の疲労を溜め込んだような、深い闇色の瞳。
カイは剣を抜いた。
「抵抗しないのか」
「する必要がない」と魔王は答えた。立ち上がりもせず、ただ静かに続けた。「お前が私を殺しても、次の魔王が生まれるだけだ。それがこの世界の仕組みだから」
「知っている」とカイは言った。「それでも俺は来た」
魔王が初めて表情を動かした。驚きではなかった。何か別のもの——安堵に近い何かが、その古い目を一瞬だけ揺らした。
「なぜだ」
カイは剣を構えたまま、一歩踏み出した。
「七年間、ずっと考えていた。お前を倒した後、この世界はどうなるのかを。誰も教えてくれなかった。王も、神官も、女神の使いでさえも。みんな同じことしか言わなかった。魔王を倒せ、世界を救え。それだけだ」
「それだけで十分だろう」
「十分じゃない」
静寂が落ちた。
城の外で風が鳴った。遠くで何かが軋む音がした。まるで世界そのものが息を詰めているようだった。
「お前の名前を教えてくれ」とカイは言った。「魔王としてじゃなく、お前自身の名前を」
長い沈黙だった。
玉座の青年は目を伏せ、誰かの名前を思い出すように唇を動かした。そして絞り出すように、一言だけ言った。
「……エル」
その声があまりにも普通だったので、カイは思わず剣を下げた。
英雄譚には続きがある。しかしカイの話は、ここで全ての教本から外れ始めた。