服従訓練
静かな郊外の町で、エリーは孤独な転校生だった。シングルマザーの母親は長時間働きづめで、彼女は誰もいないアパートにひとり取り残される。通い始めた高校は、表面上は清潔で整然としているが、その裏側にはミオという少女が築き上げた冷たいネットワークが張り巡らされていた。
ミオは単なる人気者ではない。あらゆる部活や委員会のコネクションを掌握し、エリーを、金や便宜を差し出す少女たちの共有玩具として売り出したのだ。エリーの初日は体育館の用具室で幕を閉じる。五人の少女が待ち構えていた。彼女たちはエリーを床にひざまずかせ、ためらいもなくたらい回しにする。その様子は撮影され、嘲笑され、掃き溜めのようにマットの上に置き去りにされた。
毎日、新たな呼び出しが届く。二時限目と三時限目の間の三階トイレ。昼休みの美術室。水泳部の練習後のロッカールーム。バレー部員、水泳部員、生徒会。違う顔、違う手、違う命令。最初はただ痛みと無感覚だけがあった。しかし日が経つにつれ、エリーの中で何かが壊れ始める。
「上手くなってきたじゃない」絵の具の染みた布で顎を拭きながら、一人の少女が言う。その言葉にエリーの胸に広がった温もりは
服従訓練 - 揺り籠へようこそ——転校初日の断罪
空は、とりとめもなく青かった。
四月の陽射しが、アスファルトをじわりと温めている。エリーは私立清月館高等学校の正門の前で、少しだけ立ち止まった。手には転入手続きの書類。母は朝早くから仕事に出ていて、見送りの言葉すらなかった。
(三度目だ)
エリーはぼんやりと思った。新しい街、新しい学校。引っ越しのダンボールを開ける匂いにも、もう慣れてしまった。どうせ、友達なんてできない。期待するだけ、疲れるから。
胸の奥が、薄く膜を張ったように重たい。でも、それはもう日常だった。制服のスカートの裾を軽く直し、彼女は校門をくぐった。
校舎は思ったよりずっと広かった。鉄筋コンクリートの本館は四階建てで、正面には大きな時計がかかっている。そこから渡り廊下が伸び、少し離れた場所に木造平屋の旧校舎が見えた。体育館、プール、特別教室棟——建物が点在し、植え込みや部室棟の影が無数の死角を作っている。
誰も、いない。
正確には、生徒たちの姿はある。笑いながら通り過ぎていくグループもいる。でも、その全てが、エリーとは違う透明な壁の向こう側にあるみたいだった。彼女は俯きがちに、職員室への道を歩いた。
教室に入ると、ざわりとした空気が肌に触れた。ホームルームの前、担任の教師が簡単にエリーを紹介し、彼女は黒板の前に立つ。
「……ええと、黒崎、エリーです」
声がうまく出ない。大勢の視線が、針のように刺さる。
(どうせ、また同じだ)
彼女は心の中で呟いた。数週間もすれば、自分はクラスの風景に溶けて、誰の記憶にも残らなくなる。それが、ずっと繰り返されてきたパターンだった。
しかし、その瞬間だった。
「[excited]まあ、転校生!」
弾むような、それでいてどこか人を惹きつける響きを持った声が、教室に響いた。エリーが顔を上げると、一人の女生徒が立ち上がっている。
彼女は、はちみつ色の長い髪を高い位置でポニーテールにまとめていた。少し動くたびに、その髪がふわりと揺れる。猫のような、切れ長の金色の瞳が、真っ直ぐにエリーを捉えている。完璧なまでの笑顔だった。
「[gentle]私はミオ。黒崎ミオ。よろしくね」
ミオ。
彼女が言葉を発するだけで、教室の空気が変わった。さっきまで好奇と無関心が混ざっていた視線が、一斉にミオへと集中する。教師でさえ、彼女の発言を微笑ましく見守っている。
(すごい人だ)
エリーは素直にそう思った。彼女には、人を引きつけるカリスマのようなものが備わっている。自分とは、住む世界が違う人。
昼休み、エリーは一人で中庭のベンチに座っていた。買ったばかりのパンを、あまり食欲もないまま口に運ぶ。その時、視界の端に蜂蜜色のポニーテールが揺れた。
「[gentle]エリーさん、ちょっといい?」
ミオが、すぐ後ろに立っていた。逆光で、彼女の顔が少し影になる。それでも、金色の目ははっきりと輝いていた。
「[excited]今日の放課後、空いてる? 歓迎会を開こうと思ってるの」
「歓迎会……」
「[excited]そう! ウチのクラスだけの、ちょっとした内緒の集まり。転校してきたばかりで不安でしょ? みんなと仲良くなるチャンスだよ」
ミオの笑顔は、とても温かかった。断る理由なんて、どこにも見当たらない。
「[whispers]来てくれるよね?」
耳元に近づけられた声は、甘く、それでいて有無を言わさない響きを持っていた。エリーは小さく頷く。
(こういう時は、受け入れた方がいい)
転校を繰り返した経験が、そう教えていた。違和感は、ほんの少しだけあった。でも、それを言葉にできるほどの確信はない。
ミオは嬉しそうに微笑むと、廊下の向こうに立っている女生徒たちと、ほんの一瞬、目を合わせた。その視線は、冷たく、計算され尽くしたものだった。だが、エリーはそれに気づかない。
放課後。
教室に残っていたエリーの周りを、五人の女生徒が囲んだ。その中心にいたのは、背の高い、無表情な少女だった。肩まで届くボブの髪は天然パーマがかかっていて、吊り目の灰色の瞳が印象的だ。
「ついてきて」
彼女——桜庭莉奈は、それだけ言った。声に抑揚はない。感情が読み取れないその顔は、まるで人形のようだった。
エリーは何か言おうとしたが、気がつくと彼女は五人の隊列に自然に囲まれ、廊下を歩かされていた。前後左右、逃げ道はない。引き返すタイミングを探すが、莉奈の長い脚が一定のリズムで進むので、立ち止まることすらできない。
向かった先は、体育館の倉庫だった。
重い鉄の扉が開かれ、湿った黴と、汗と、古いゴムの匂いが混ざった空気が流れ出る。中は薄暗くて、バレーボールのカートや古びた体操マットが乱雑に積まれていた。頭上では、壊れた蛍光灯が、チカチカと不規則に明滅している。
ガチャン。
背後で、鍵がかかる音がした。
「[cold]よく来たね、エリー」
倉庫の奥、跳び箱の上に、ミオが腰掛けていた。彼女は足を組み、まるで舞台を観劇するかのように、冷たく美しい目でエリーを見下ろしている。そこには、昼間の温かい笑顔は、もう微塵もなかった。
「[scared]な、にを……」
エリーが言い終える前に、体が後ろから押された。バランスを崩し、体操マットの上に倒れ込む。手首を誰かに掴まれ、床に押さえつけられる。
「[cold]動かないで」
莉奈の声が、冷たく降ってきた。彼女の灰色の目は、エリーの混乱と恐怖を、ただ淡々と観察している。
「[scared]やめて……!」
抵抗しようとするエリーの口を、別の女生徒の手が塞いだ。ブレザーが無造作に脱がされ、ブラウスのボタンが引きちぎられる。
(嘘だ、こんなの)
頭の中が真っ白になる。複数の手が、エリーの細く華奢な体を這い回る。スカートがまくられ、太ももに残った青あざが露わになった。誰かの指が、そこをなぞる。
「[whispers]三回目の転校で、もう友達は諦めてるんだって?」
跳び箱の上から、ミオの声が聞こえる。
「[cold]お母さんも忙しくて、連絡もろくにないんだよね。寂しいね。でも大丈夫。私たちが、遊んであげる」
その言葉に、エリーの背筋を悪寒が走った。なぜ、そんなことまで知っているのか。
(この人たちは、最初から——)
思考が追いつかないうちに、女生徒の一人がエリーの顔の上に跨った。黒い下着が目の前にある。
「[cold]これから歓迎会を始めるよ」
ミオの冷酷な宣言と同時に、エリーの頭は女生徒の股間に押し付けられた。
むき出しの性器を、口に押し込まれる。生暖かい感触と、わずかな塩の味。息ができない。エリーはもがいたが、後頭部を力強く掴まれ、動きを封じられる。女生徒は腰を上下に動かし始め、濡れた秘部をエリーの口元に擦り付ける。くぐもった喘ぎ声が、自分の喉の奥から漏れる。
「[serious]角度、もっと上から。光が当たってる」
部屋の隅から、感情のない声がした。顔を向けられないが、久我美月——小さな体躯で真っ直ぐなお団子頭をした、美術部の少女——が、スマートフォンのカメラを構えている。前髪を斜めに深く流したその下で、大きく暗いブルーの瞳が、レンズ越しにエリーを捉えていた。彼女は内気そうな外見に反して、その瞬間、芸術的な残酷さに満ちた口調で実況を続ける。
「[serious]いいね、その涙。苦しそうな顔、綺麗だよ」
一人目の女生徒が退くと、すぐに別の女生徒が前に来た。今度は、エリーの体を仰向けに反転させる。両手首は莉奈に押さえられたままだ。別の女生徒が、エリーの胸に顔を埋め、乳首を舌で転がす。同時に、下半身をまさぐる指が、無遠慮に侵入してきた。
「[scared]いやぁっ……」
膣内を掻き回される異物感に、腰が跳ねる。しかし、複数の手が彼女の細い体をマットに縫い付ける。指が抜き差しされるたびに、グチョグチョという水音が、静かな倉庫にやけに大きく響いた。
「[cold]どう? 少しは気持ち良くなってきた?」
ミオの声が、まるで子守唄のように優しく響く。しかし、その金色の瞳は、獲物を品定めする捕食者のそれだった。エリーは涙で滲む視界の中で、その視線と一瞬、交差した。蛇に睨まれた蛙のように、体が凍りつく。これは単なる恐怖じゃない。もっと深く、自分という存在を根こそぎ奪おうとする、底知れない悪意——。
女生徒たちのローテーションは、機械のように続いた。
エリーの口は、性器を扱くための道具として、次から次へと使われる。髪を掴まれ、頭を前後に揺すられるたびに、口の端から唾液が溢れ、マットに染みを作った。その間にも、下半身では別の女生徒が彼女の膣を弄び、胸元ではまた別の女生徒が乳房を揉みしだく。全身が、彼女たちの快楽のために機能させられていた。
(私は、モノじゃない)
心の中で叫んでも、言葉にはならない。声を上げる力すら、もう奪われていた。
「[serious]次、バックの構図が欲しい。はい、莉奈、彼女を四つん這いにして」
久我美月がカメラを構えながら、淡々と指示を出す。彼女の声はまるで、静物画のデッサンについて話しているかのようだ。莉奈は無言でエリーの体をひっくり返し、腰を高く上げさせた。
誰かが後ろから腰を掴み、何かを擦り付ける感覚。そして、再び異物が膣内に侵入してきた。今度はより深く、奥まで突き入れられる。
「[crying]う、あぁ……」
漏れるのは、もう喘ぎなのか嗚咽なのかわからない声だけ。ピストン運動が始まるたびに、体操マットがギシギシと軋んだ。
(もう、嫌だ)
エリーの意識は、徐々に遠のいていった。まるで、自分の体が自分のものではなくなっていくような解離感。痛みも、恥辱も、少しずつ遠くに感じられる。彼女の瞳から光が消え、深い茶色の目は虚ろに天井の壊れた蛍光灯を見つめていた。
どれくらい時間が経っただろう。
行為が終わると、女生徒たちは乱れた制服を整え始めた。そこには一片の呵責もない。まるで、体育の授業が終わった後のような、日常の一コマだった。
「[serious]お疲れ。はい、これデータ」
美月がスマートフォンを操作する。彼女の小さな手が、液晶画面を素早くスワイプした。
「[cold]明日、学校に来られるといいね」
莉奈は汚れたマットに横たわるエリーを、一度だけ見下ろした。彼女の灰色の目は相変わらず無表情だったが、一瞬、何かを探るような色が浮かび——しかしすぐに消えた。彼女は踵を返し、倉庫を出て行く。
最後に、ミオが跳び箱から飛び降りた。
革靴の音が、コツン、コツンと近づいてくる。彼女はエリーのすぐ横にしゃがみ込み、体液で汚れた彼女の顎に指をかけた。
「[whispers]今日は楽しかった。また明日ね、エリー」
そう言って、彼女は完璧な笑顔を浮かべた。まるで、親友に別れを告げるように。
扉が閉まり、鍵のかかる音がした。
倉庫には、エリーだけが残された。
彼女は仰向けに倒れたまま、動けなかった。太腿には精液がべったりと張り付き、口の中には苦い味が残っている。しかし何より、胸の奥にぽっかりと空いた穴の感覚が、一番きつかった。天井の蛍光灯が、チカ、チカ、と脈打つ。
(誰かに、言わなきゃ)
母に電話しよう。制服のポケットから、スマートフォンを取り出す。画面をつける。
着信履歴は、ゼロ。母からのメッセージも、なかった。
(ああ、そうか)
エリーは、電話をかけるのをやめた。誰も、信じてくれない。誰も、助けに来てくれない。そして何より、この出来事を口にした瞬間、自分は本当に、取り返しのつかない場所まで落ちてしまう——そんな予感が、体の芯を冷たく縛りつけた。
彼女はゆっくりと体を起こし、破れたブラウスをなんとか合わせた。スカートの汚れを拭き取るものは、ない。
校舎を出る頃には、空は茜色に染まっていた。
桜台市の北部、丘陵地帯にあるこの学校からは、傾斜のある坂道が街の中心部へと続いている。バスに揺られながら、エリーは窓の外を見た。暮れなずむ街並みに、明かりがぽつり、ぽつりと灯り始める。温かい家庭の光。他者の生活の温度が、そこにはあった。
でも、自分だけは、透明な膜の内側にいる。
バスが停留所に着き、エリーは降りた。春の夜風が、生温く肌を撫でる。その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
通知を見る。差出人不明のメッセージ。
『明日も楽しみにしています』
その文字は、ミオの冷たく優しい声で、脳内に響いた。画面がやがて暗くなり、エリーの深い茶色の瞳は、ただ虚ろに闇を映していた。