ハンター合宿、カオスにつき
すべてはゴン=フリークスが「みんなで夕食を食べたい!」と言ったことから始まった。それが全ての計画だったはずだ。
キルア=ゾルディックは「どうでもいい」と言いながら、こっそり大量のお菓子を買い込んでいた。レオリオ=パラディナイトは「みんなのために料理を作る」と宣言した。クラピカは冷静に「料理をしたことはあるのか?」と尋ねた。レオリオは三秒間沈黙し、そして「ない」と答えた。
なぜか、ゴンのシンプルな夕食のアイデアは二泊三日のグループ合宿――ハンター合宿、カオスにつきへと発展し、招待客のリストはどんどん増えていった。
ヒソカがニヤリと笑いながら突然現れた。クロロはまるで普通のことのように本を読んで座っていた。ビスケは「修行の合間の休息が大事だ」と言いながら、最もリラックスしている人物だった。ネテロ会長は誰にも言わずに静かにみんなの朝食を作り始めた。
あらゆる場面でカオスが巻き起こった。ゲーム対決はいつの間にかキルア対ヒソカになり、ゴンが身体を張って止めなければならなかった。料理当番のくじはイルミに当たり、部屋中が静まり返った。自己紹介の夜のセッションでは、クラピカが「クラピカです」と
ハンター合宿、カオスにつき - 食料、全部なくなった件について――モラウさん、それは困ります
台所の冷蔵庫は、昨夜の台所の物音のせいで、ゴンはなんとなく嫌な予感がしていた。
クレーナ丘陵の朝は、今日も空気が冷たかった。窓の外のカエデが朝日にオレンジに光っている。合宿三日目。最終日の朝だ。
ロッジ・パルマのキッチンに一番最初に入ったのはレオリオだった。
大型冷蔵庫の扉を開けた。
止まった。
もう一台の冷蔵庫を開けた。
また止まった。
「[surprised]……え」
廊下に向かって、レオリオが叫んだ。
「[angry]おい!! 冷蔵庫の中身が全部なくなってるぞ!!!」
その絶叫で、ロッジじゅうが起きた。
ゴンが飛び起きて台所へ走った。キルアが眠そうな顔で廊下に出てきた。ビスケがソファから半身を起こした。クラピカが静かに扉を開けて出てきた。ネテロ会長がキッチンの入り口にひょこっと顔を出した。ヒソカが欠伸をしながら現れた。クロロが本を持ったまま廊下に立った。イルミが無表情のまま台所の前に来た。モラウが最後に、少しだけゆっくりとした足取りで姿を見せた。
全員が、冷蔵庫を代わる代わる開けた。
パンも、肉も、野菜も、卵も、調味料まで——何もない。本当に何もない。
「[angry]なんで全部なくなってんだよ!!」
「[serious]誰か食べたんでしょ」
「[serious]誰が食べたんだ」
レオリオが全員を見渡した。
「[angry]正直に言え。食べたやつ、手を挙げろ」
誰も手を挙げなかった。
「[sarcastic]食べ物より別のもので腹を満たしてたからね、僕は♦」
にっこりと笑いながらそう言った。全員が一歩、ヒソカから離れた。「別のもの」が何なのかを各自が考え始めて、全員の顔がこわばった。
「[cold]昨夜は本を読んでいた。台所には近づいていない」
本から目を上げず、淡々と述べた。嘘をついているようには聞こえなかった。そういうのが一番怖い、とキルアは思った。
「[angry]私が食べるわけないじゃない! あんな量、太るでしょ!」
語気が強かった。体型の話になると人が変わるらしい。
ネテロ会長がにこっとした。
「[gentle]わしは朝の四時から庭で瞑想しておったよ。お腹は空いておったが、食事の前に動くのが習慣でな」
飄々とした笑顔のまま言った。
イルミが、無表情のまま口を開いた。
「[cold]私はキルアの分だけは守るつもりで、他のものには手を触れていない」
キルアが兄の顔を見た。
「[serious]それはそれで怖いからやめろ」
「[cold]なぜ」
「[serious]なぜって言われても」
クラピカは何も言わなかった。ただ静かに全員の顔を、順番に、一人ずつ観察していた。
ゴンがふと気づいた。
全員が何かを言った。一人だけ、まだ何も言っていない。
「[serious]……モラウさんは?」
全員がモラウを見た。
モラウ=マッカーナシは、その巨体を少し縮めて、視線を床に落としていた。海ハンターとして修羅場を何度もくぐってきたはずの大男が、今、なぜか視線を上げられないでいる。
レオリオが「食べてないよ、くらい言えるだろ」という目でモラウをじっと見つめた。
数秒が経った。
「[sad]……食べた」
低い声だった。
「[serious]腹が減ってた」
それだけだった。
一瞬の沈黙。
「[angry]なんで全部食べたんだ!!!」
爆発した。廊下に声が響いた。管理人のジョバンが聞いたら「念能力は使ってないよな?」と確認しに来たかもしれない。
「[angry]肉も! 卵も! パンまで! 調味料まで!! 一人で全部食ったのかお前は!!」
ビスケが深くため息をついた。疲れたため息だった。
クラピカが冷めた目でモラウを一秒見て、視線を外した。それだけで、クラピカが何を思っているかは十分伝わった。
モラウが謝ろうとして、どこを向けばいいかわからず、台所の中でうろうろし始めた。巨体がぐるぐると動く。誰かに謝りたいのに、怒っている顔が多すぎてどこにも顔を向けられない。その様子がまたコミカルで、キルアが「まったく……」と額に手を当てた。
キルアがその瞬間、ある考えが頭をよぎって動きを止めた。
お菓子のストック。
セピナ川に沈めてある分は大丈夫なはずだ。でも棚に置いてある分は?
キルアが全速力で部屋へ走った。足音がドタドタと廊下を駆け抜ける。三秒後、戻ってきた。
「[serious]川の分は無事だった」
誰も聞いていなかったが、本人は安心した顔だった。そのキルアの真剣さが別の意味でおかしくて、ネテロ会長が小さく笑った。
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それからロッジは、バラバラになった。
レオリオがモラウに何かを言い続けながらリビングへ移動した。ビスケがソファに戻った。クラピカが廊下の方へ静かに歩いていった。クロロが本を開きながら椅子に戻った。ヒソカがウッドデッキへ出ていった。イルミが無表情のまま自分の部屋に戻った。ネテロ会長がキッチンに入って、空になった冷蔵庫をもう一度開けて閉じた。
台所に残ったのは、ゴンだけになった。
ゴンはキッチンの窓の前に立って、外を見ていた。秋のクレーナ丘陵が見える。カエデが赤くて、朝日が明るくて、空が青かった。昨日も一昨日もきれいだと思った景色が、今日は少し遠く感じた。
ゴンは自分が集めた顔ぶれを思い返した。ヒソカが来て、クロロが来て、イルミがいて、モラウがいて。レオリオとクラピカも来た。ビスケも会長も。
こんなにたくさんの人が、合宿にいる。
でも今、みんなバラバラの方向を向いている。
三日間一緒に過ごしてきたのに、モラウが食料を食べたというだけで、全員が別々の場所に散っていった。
ゴンは小さな声で、誰にも聞こえないつもりで言った。
「[sad]……僕のせいかな」
窓の外を見たまま。
「[sad]こんなにたくさんの人を呼んだのが、間違いだったのかな」
ゴンが笑っていなかった。
いつも笑っているゴンが、今、笑っていない。
キルアが台所の入り口で止まった。
チョコロボくんの袋を手に持ったまま、ゴンの背中を見ていた。ゴンは振り返らない。窓の外を向いたまま、動かない。
キルアの顔から、さっきまでの「まったく」という呆れた色が消えた。
それは一瞬のことだった。でも、はっきりと変わった。
キルアがゴンのところへ歩いていった。ゴンの隣に並んで、外を見た。二人とも黙ったまま、カエデの赤と朝の空の青だけが窓の向こうに続いている。
遠くのリビングで、レオリオの声がまだモラウに何かを言い続けているのが聞こえた。別の部屋からは、クラピカが荷物をまとめているような、かすかな音がした。
キルアがゴンの横顔を確認した。
ゴンの笑顔は、まだ戻っていなかった。
キルアは一度口を開きかけて、閉じた。また開きかけた。
何かを言おうとしている。何を言うつもりなのかは、表情にだけ浮かんでいた。決めた、という顔。面倒くさそうなふりをやめた顔。
朝のクレーナ丘陵が、静かに光っていた。