ハンター合宿、カオスにつき
すべてはゴン=フリークスが「みんなで夕食を食べたい!」と言ったことから始まった。それが全ての計画だったはずだ。
キルア=ゾルディックは「どうでもいい」と言いながら、こっそり大量のお菓子を買い込んでいた。レオリオ=パラディナイトは「みんなのために料理を作る」と宣言した。クラピカは冷静に「料理をしたことはあるのか?」と尋ねた。レオリオは三秒間沈黙し、そして「ない」と答えた。
なぜか、ゴンのシンプルな夕食のアイデアは二泊三日のグループ合宿――ハンター合宿、カオスにつきへと発展し、招待客のリストはどんどん増えていった。
ヒソカがニヤリと笑いながら突然現れた。クロロはまるで普通のことのように本を読んで座っていた。ビスケは「修行の合間の休息が大事だ」と言いながら、最もリラックスしている人物だった。ネテロ会長は誰にも言わずに静かにみんなの朝食を作り始めた。
あらゆる場面でカオスが巻き起こった。ゲーム対決はいつの間にかキルア対ヒソカになり、ゴンが身体を張って止めなければならなかった。料理当番のくじはイルミに当たり、部屋中が静まり返った。自己紹介の夜のセッションでは、クラピカが「クラピカです」と
ハンター合宿、カオスにつき - レオリオとクラピカ、ようやく到着――イルミ飯と自己紹介地獄の二日目
朝のロッジ・パルマは静かだった。
キルア=ゾルディックがリビングのソファで丸まって、チョコロボくんの三袋目を開けていた。ゴン=フリークスは窓の外のカエデを見ていた。クレーナ丘陵の朝は空気が冷たく、昨夜のじゃんけん大会の騒ぎが嘘みたいに静かだ。
そこへ玄関が勢いよくバン、と開いた。
「[excited]俺が来たぞ!!」
スーツがくしゃくしゃだった。七三分けが崩れて前髪がぼさぼさで、目の下に濃いクマができている。声だけやたらと元気だが、顔色が土みたいに悪い。
ゴンが立ち上がった。
「[surprised]レオリオさん……大丈夫ですか?」
「[excited]大丈夫だ! 医学の試験勉強で一晩明かしたが、そのまま来た! 気合いは十分だ!」
そう言いながらよろけた。
キルアがチョコロボくんを食べながら、冷静な目でレオリオを見た。
「[serious]……座ったら」
「[excited]座らん! 俺が今日の料理を全部やってやる! 昨日ネテロ会長に全部任せちまったからな、今日こそ俺が——」
「[cold]料理をしたことはありますか」
声がした。
玄関口に、細身の人影が立っていた。黒髪のポニーテール。真剣な表情と細い眉。クラピカだった。いつの間に入ってきたのか、荷物を一つ持ったまま静かにそこに立っている。
レオリオが三秒、黙った。
「[serious]……ない」
クラピカが無言でリビングに入ってきた。レオリオが気まずそうな顔をした。
「[excited]でもやる! 気合いでなんとかなる!」
「[sarcastic]昨日の焼きそばの麺が全滅したのを覚えてますか」
「[angry]うるさい!! あれは火加減の問題だ!」
「[serious]くじ引きで当番を決めるって話でしたよね」
「[excited]くじ関係なく俺がやる!」
話が完全に元に戻った。キルアが静かに次のチョコロボくんを開けた。
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クラピカがリビングに一歩踏み込んだ。
その瞬間、足が止まった。
部屋の隅の一人がけの椅子に、男が座っていた。黒いコート。本を開いている。クロロ=ルシルフルだ——幻影旅団の団長にしてA級賞金首。昨夜からロッジにいたが、クラピカはまだ顔を合わせていなかった。
リビングの空気が変わった。
レオリオが何かを言いかけて、止まった。キルアがチョコロボくんを持ったまま動かなくなった。ゴンだけが状況をうまく飲み込めていない顔をして、クラピカと、クロロと、クラピカをかわりばんこに見ていた。
クラピカの手が、ほんのわずか動いた。視線がクロロに固定される。クロロは本から目を上げない。ただそこにいる。何も言わない。何もしない。
静寂が三秒、四秒と続いた。
クラピカがゴンを向いた。
ゴンは難しいことは考えていなかった。ただまっすぐ、クラピカを見ていた。それだけだった。
クラピカが小さく息を吐いた。
「[cold]……今日は休戦です」
短く言って、窓際の椅子に荷物を置いた。
キルアが、誰にも聞こえない声でゴンに言った。
「[whispers]……こいつ、すごいな」
ゴンは「何が?」という顔をした。キルアはそれ以上言わなかった。
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「[excited]じゃあ料理当番、くじ引きで決めよう!」
全員が集まった。紙切れをちぎって名前を書き、箱に入れる。
ネテロ会長が「よいぞ」と言って最初の一枚を引いた。ビスケ。ビスケが「まあ、いいわ」と言った。次がモラウ。巨体の海ハンターが「おう」とうなずいた。レオリオが「次は俺だろ!」と前に出たが、引いた紙にはキルアの名前が書いてあって二人ともしょんぼりした。
そして最後の一枚を引いた人物が、無表情で紙を開いた。
「[cold]イルミ=ゾルディック」
ロッジが五秒、完全に静止した。
イルミ=ゾルディックはキルアの長兄だ。目が人形みたいに動かない。声のトーンが一切変わらない。この男が料理に何か仕込むかもしれない——その考えが全員の頭に同時に浮かんだのが、表情を見れば明らかだった。
キルアが低い声で言った。
「[serious]……兄貴」
モラウが巨体をかすかに震わせながら言った。
「[serious]俺が味見し……てやろうか」
声がわずかに浮ついていた。
イルミは何も言わずにキッチンへ向かった。その背中を、全員が祈るような顔で見送った。
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できあがった料理は、見た目だけは普通だった。
炒め物と汁物。白米。一見どこにもおかしな点はない。
全員が食堂に集まり、テーブルの上を見つめた。誰も箸をつけない。レオリオが「毒の検知って医学で習ったっけ……」とぼそっと言った。ビスケが「一応、見た目は普通ね」と言った。
ゴンが一番先に箸を取った。
一口食べた。
止まった。
「[surprised]……うまい」
全員がゴンを見た。ゴンがもう一口食べた。止まった。
「[surprised]マジでうまい」
キルアが慎重に一口食べた。動かなくなった。クラピカが一口食べた。少し眉が動いた。モラウが一口食べて、箸を止めて、天井を見た。レオリオが食べてから「うまいんだけど……」と言って口をつぐんだ。
食堂が妙な静寂に包まれた。料理が异常においしいのに、誰も喜んでいない。みんな動きを止めたまま、じっと自分の箸を見ている。
「[serious]……毒、入ってないよな」
「[cold]入れていません」
「[serious]……なんで」
「[cold]ゴンが楽しそうにしているから」
キルアが複雑な顔で炒め物を見た。一口食べた。また止まった。
「[serious]……兄貴がこんなうまいもの作るの、初めて知った」
それだけ言って、黙々と食べ続けた。
ネテロ会長が汁物をすすって、静かに言った。
「[gentle]うまいのう」
安堵でも困惑でもなく、ただ事実として。その一言で、全員がなんとなく食べ始めた。誰も安心していないが、食べてしまった。完食した。不思議な空気のまま、昼食は終わった。
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午後、ゴンが両手を広げた。
「[excited]せっかくだから、自己紹介しよう!」
ビスケが「まあいいわ」と言った。ネテロ会長が「よいぞ」と言った。レオリオが「俺から行くぞ!」と声を上げた。
レオリオはさっそく医学生であること、夢があること、今日徹夜明けで来たことをよどみなく喋った。キルアが「それ全部昨日の移動中に聞いた」と言ったが、レオリオは気にしなかった。
ビスケが「ビスケット=クルーガー。ハンター歴三十数年」とだけ言って、年齢については一切触れなかった。
そしてクラピカの番が来た。
「[cold]クラピカです」
黙った。
レオリオが立ち上がった。
「[angry]もっと言え! 趣味とか! 好きな食べ物とか!」
「[cold]それで全部です」
「[angry]いやあるだろ何か!! 年齢でも出身でも——」
クラピカが長い沈黙の後、言った。
「[cold]……鎖が好きです」
場が静止した。
うん……そうか……という空気が全員を包んだ。レオリオが天を仰いだ。
「[serious]……もっと普通のを言ってくれよ」
ゴンだけが目を輝かせた。
「[excited]鎖、かっこいいよね!」
クラピカがちらりとゴンを見た。何も言わなかった。でもその目が、ほんのわずかだけ柔らかくなった気がした。
続いてヒソカの番が来た。
「[sarcastic]ヒソカ♦ 趣味は……ふふ♠」
全員が聞かなきゃよかったという顔をした。キルアが膝に顔を埋めた。
そしてクロロの番になった。
ゴンが呼びかけた。
「[serious]クロロさんはどうですか?」
クロロが本から初めて目を上げた。
「[cold]クロロ=ルシルフル。幻影旅団の団長。今は休暇中だ」
また本に目を戻した。
その瞬間。
クラピカの目が、一瞬だけ赤みを帯びた。
クルタ族——クラピカの一族が壊滅させられた。その犯人が幻影旅団だ。感情が高まった時だけ赤く変わる目が、今、明らかに揺れていた。全員がその変化に気づいた。誰も動かなかった。一秒、二秒——
「[excited]は、はい! 次! モラウさん! モラウさんの番です!」
大きな声だった。
モラウが反射的に立ち上がった。
「[surprised]お、おう! モラウ=マッカーナシ! 海ハンター! 好きな食べ物は魚全般!」
全員の視線がモラウに移った。クラピカの目が、静かに元の色に戻っていった。
ゴンが意図してやったのか、ただそうしただけなのか。キルアにはわからなかった。でも結果として、その場は収まった。
「[whispers]……こいつ、本当にすごいな」
小声でつぶやいた。誰にも聞こえない声で。
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夕方になった。
賑やかなロッジを離れて、ゴンとキルアはロッジ裏の小川のそばにいた。セピナ川——クレーナ丘陵の湧水が流れる清流で、キルアが昨日からお菓子を冷やしている場所だ。川幅は三メートルほど、流れはゆっくりで、水温が低いから長く浸けておくとちょうどいい温度になる。
キルアが川から引き上げたチョコロボくんを食べていた。ゴンが川岸に座って水面を見ていた。
しばらく川の音だけが続いた。
「[gentle]キルア、ジンに会った時さ」
キルアが咀嚼のペースを保ったまま聞いていた。
「[gentle]大事なのは何を見つけるかじゃなくて、誰と一緒にいるかだって——ジンが言ってたんだよね」
川の流れを見ながら、いつもより少し静かな声で話すゴンの横顔は、普段の元気な感じとは少し違った。
「[gentle]だから合宿、やりたかったんだよね」
キルアは何も言わなかった。川を向いたまま、チョコロボくんを一枚食べた。水の音が続く。遠くでレオリオとモラウが何かで揉めている声がかすかに聞こえた。
しばらくして、キルアが言った。
「[serious]……そういうこと、急に言うなよ」
川を向いたままだった。
キルアがチョコロボくんを一枚、ゴンに向かってそっと差し出した。
ゴンがそれを受け取った。
「[gentle]ありがと」
「[serious]……別に」
二人はしばらくそのまま、川の音を聞いていた。
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夜が来た。
全員が部屋に引き上げて、ロッジが静まり返った。ゴンとキルアは同じ部屋だった。二つのベッドが並んでいて、窓から夜の丘陵が見える。
ゴンはすぐに眠った。規則正しい寝息が聞こえてくる。
キルアは天井を見ていた。今日のことをぼんやりと思い返していた。イルミの料理が異常においしかったこと。クラピカの目が赤くなった瞬間。ゴンがあの一声で全部止めてしまったこと。
(ジンの言葉か……)
誰と一緒にいるか。
キルアは目を閉じかけた。
その時、聞こえた。
廊下の奥——台所の方向から、かすかな音がした。
冷蔵庫が開く音。続いて、かちゃかちゃと何かの食器が動く音。
キルアが体を起こして、耳を澄ませた。
音はすぐに止んだ。
静寂が戻ってきた。風が丘陵の木々を揺らす音だけが窓の外で続いている。
キルアは再び横になった。
(朝になればわかる)
そう思いながら目を閉じた。ゴンの寝息が聞こえる。川の音がかすかに聞こえる。
台所で何が起きたのか、今は何もわからない。