ハンター合宿、カオスにつき
すべてはゴン=フリークスが「みんなで夕食を食べたい!」と言ったことから始まった。それが全ての計画だったはずだ。
キルア=ゾルディックは「どうでもいい」と言いながら、こっそり大量のお菓子を買い込んでいた。レオリオ=パラディナイトは「みんなのために料理を作る」と宣言した。クラピカは冷静に「料理をしたことはあるのか?」と尋ねた。レオリオは三秒間沈黙し、そして「ない」と答えた。
なぜか、ゴンのシンプルな夕食のアイデアは二泊三日のグループ合宿――ハンター合宿、カオスにつきへと発展し、招待客のリストはどんどん増えていった。
ヒソカがニヤリと笑いながら突然現れた。クロロはまるで普通のことのように本を読んで座っていた。ビスケは「修行の合間の休息が大事だ」と言いながら、最もリラックスしている人物だった。ネテロ会長は誰にも言わずに静かにみんなの朝食を作り始めた。
あらゆる場面でカオスが巻き起こった。ゲーム対決はいつの間にかキルア対ヒソカになり、ゴンが身体を張って止めなければならなかった。料理当番のくじはイルミに当たり、部屋中が静まり返った。自己紹介の夜のセッションでは、クラピカが「クラピカです」と
ハンター合宿、カオスにつき - キルア、荷物が多すぎる問題――お菓子と参加者リストの衝撃
ロッジ・パルマの玄関ドアを押し開けると、木の香りがふわっとした。
ゴン=フリークスは赤いキャップのつばを持ち上げて、中を見回した。
広い。
リビングだけで40畳はある。暖炉がでんと置いてあって、窓から朝の秋の光が差し込んでいる。天井が高くて、木の梁が何本も渡っている。外はクレーナ丘陵の針葉樹が風に揺れていて、葉っぱが赤と黄色に染まり始めていた。
「[serious]ゴンさん」
玄関の脇に、白髪まじりの小柄な男が立っていた。日焼けした顔に細かいしわが刻まれている。元D級ハンターで引退後に管理人になったというジョバン・ペイリーだ。昨日ヨークシンシティの協会支部で会った時と同じく、小さなノートを持っている。
「[serious]一点、昨日の確認を繰り返させていただきます」
ゴンは姿勢を正した。
「もちろんです」
「[serious]念能力の屋内使用は禁止です」
ジョバンはリビングの壁に近づき、すでに貼ってあった一枚の紙を指さした。
【念能力の屋内使用を禁じます。違反者は今後5年間の利用禁止処分】
でかい字で書いてある。
「[serious]過去にここが全壊したのは三度。いずれも利用者の念能力が原因です。念能力——生命エネルギーオーラを操る技術のことですが、プロハンターが室内で本気で使えば、建物なんてひとたまりもありません」
「[gentle]わかってます。みんなに伝えますね」
「[serious]壁の穴は120万ジェニー。電気設備は50万。水道管は80万。BBQグリルは30万。昨日もお話ししましたが」
「……覚えてます」
(みんな気をつけてくれるといいな)
ゴンの頭の中に参加メンバーの顔が浮かんだ。キルア。クラピカ。レオリオ。ネテロ会長。ビスケ。モラウさん。それから——
クロロ。ヒソカ。
……うん、きっと大丈夫。みんないい人だから。
ジョバンは何も言わなかった。ただ、ゆっくりとノートを閉じて管理棟へ引っ込んだ。その背中が少し、疲れているように見えた。
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ゴンが荷物を部屋に運び終えて、リビングのソファに座ってぼんやりしていた頃、玄関の外からずるずると何かを引きずる音がした。
ずるずる。ガコン。ずるずる。ガコン。
妙に規則的な音だ。
「[surprised]誰?」
玄関ドアが開いた。
「[serious]……手伝え」
銀色のショートヘアに青い目。14歳のキルアが、カートを二台引きながら立っていた。カートの上には段ボール箱が積み上がっている。一台に二箱。合計で三箱。
ゴンは玄関に駆け寄った。
段ボールを持ち上げようとして、ちょっと重かった。
「[surprised]なんでこんなに重いの」
「[serious]チョコロボくんが12箱。ポテチが30袋。あとグミが各種」
「……」
「[serious]なんだよ、その顔」
「[surprised]キルア、合宿って三日間だよな?」
「[serious]わかってるよ」
「[serious]じゃあこれ、お菓子屋さん始めるの?」
真顔で聞いた。キルアが少し黙った。
「[sarcastic]……始めない」
二人がかりで段ボールを室内に運び込んだ。それだけで15分かかった。玄関が完全に塞がっていたからだ。箱の角が扉の枠にぶつかるたびに、ゴンはジョバンの言葉を思い出した。壁の穴は120万ジェニー。段ボールじゃ穴は開かないけど。
室内に全部運び終えると、キルアはすぐにしゃがんで段ボールを開けた。チョコロボくん——チョコをコーティングしたスナック菓子で、一箱200ジェニーだ——を取り出して、横に並べ始める。ポテチはフレーバー別に分けて、グミは種類ごとに積む。
3分で完璧に整理された。
「[gentle]……几帳面だね」
「[serious]これだけないと不安なんだよ」
照れる様子もなく、当然のように答えた。キルアがチョコロボくんを一箱手に取って、中身を確認している。その顔が、いつもの冷静な表情から少しだけ柔らかくなっていた。
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キルアが荷物を片付け終えて最初にしたのは、ロッジの裏を探索することだった。
ゴンが「一緒に行く!」と言ったので二人で裏口に出ると、すぐに音がした。
さらさらと、水の流れる音。
林の中を少し歩くと、幅3メートルほどの清流が見えた。セピナ川だ。ロッジ・パルマの裏手を流れる清流で、クレーナ丘陵の湧水を水源にしているらしい。水は透き通っていて、川底の石がはっきり見える。両岸の紅葉が水面に映っていた。
キルアはしゃがんで、指を川に突っ込んだ。
5秒くらい、そのまま動かなかった。
「[excited]冷たい?」
「[serious]12度くらいかな。ちょうどいい」
立ち上がると、すたすたとロッジへ戻って行った。
ゴンがきょとんとしていると、2分後にキルアが戻ってきた。チョコロボくんが入ったビニール袋を持っている。
「[serious]これ、冷やす」
キルアは川の浅瀬にビニール袋を沈めた。近くの石を持ってきて、袋が流されないよう四方を囲む。さらに上流側に平たい石を置いて流れを緩やかにした。5分ほどで、完璧なチョコ冷却システムが完成した。
「[excited]すごい」
「[serious]川で冷やしたチョコが一番うまいんだよ。当たり前だろ」
当たり前かどうかはよくわからなかったが、ゴンはなんとなく頷いた。
キルアはその後、川へのルートの草を踏んで道を作り、帰りに踏む石の位置も決めた。完全に自分の拠点だった。
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ロッジに戻ると、キルアがリビングのテーブルに一枚の紙を広げた。
参加者リストだ。
「[serious]部屋割り、決めとこう。まず——」
「[excited]そうだな! まず俺とキルアは同じ部屋がいいよな!」
「[serious]それは当然として」
キルアがリストに目を走らせる。ゴン。キルア。クラピカ。レオリオ。ネテロ会長。ビスケ。モラウ——
「[serious]ああ、まあいいんじゃない。クラピカとレオリオを隣の部屋にして——」
キルアの指がリストを下りていく。そこで、ぴたりと止まった。
「[surprised]……ヒソカ?」
低い声だった。
「[gentle]みんな来てくれるって、うれしいよな!」
キルアは答えなかった。もう一行下を指でなぞった。
「[cold]……クロロ」
「[gentle]幻影旅団の団長さんだよね。会ったことあるし、大丈夫だぜ」
キルアの顔色が一段階下がった。さらに下を見た。
もう一秒、静止。
「[cold]……なんで、イルミの名前があるんだよ」
完全に固まった。
ゴンはきょとんとした。
「[excited]キルアのお兄さん! こっちの方向で来るって聞いたから声かけたんだ。来てくれるって!」
キルアがゆっくりとゴンを見た。
「[serious]……ゴン、聞け」
「うん」
「[serious]ヒソカは戦闘狂だ。強い相手と戦いたくて仕方ない奇術師。クロロは幻影旅団の団長。盗賊集団のトップ。イルミは僕の兄で、あの人が来たら——」
「[excited]みんないい人だって!」
「[serious]絶対ヤバい展開になるぞ。断言できる」
「[gentle]大丈夫だよ! ここは念能力の屋内使用禁止だし、ジョバンさんのルールもあるし!」
キルアは額に手を当てた。
……まあ確かに念能力は使えないか。でも、あいつらが念なしで普通の人間かというと——
「[serious]……わかった。わかったよ。でも何かあっても僕は知らないからな」
「やった!」
キルアが力なく笑った。えくぼが少し浮かんだ。
「[sarcastic]やったじゃないんだよ、まったく……」
部屋割りはゴンとキルアが同室に決まった。残りのメンバーの割り当ては、全員揃ってから決めることになった。
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午後になった。
ゴンとキルアがリビングでのんびりしていると、玄関のドアが開いた。
小柄な少女が入ってきた。
でも、ゴンはすでに知っている。あれは少女じゃない。
ビスケット=クルーガー。外見は10代にしか見えないが、実年齢は57歳のベテランハンターだ。変化系の念能力者で、ゴンとキルアにとっては師匠にあたる。金色の巻き毛に、大きな青い目。荷物をしっかり持って、まっすぐ歩いてくる。
リビングに入るなり、ビスケは立ち止まった。
ぐるっと部屋を見回した。
南向きの窓。日当たりのいい方角。暖炉からの距離。ソファの角度——
3秒で判断して、リビング中央の一番大きなソファに荷物を置いた。
「[serious]ここ、私のね」
「[surprised]先輩、早……」
「[serious]特訓の合間の休息も鍛錬のうちよ。いいソファで寝るのは、戦士の義務みたいなものだわ」
キルアが呆れた顔をした。ゴンは元気よく立ち上がった。
「[excited]ビスケさん、来てくれてよかった!」
ビスケは少しだけ微笑んだ。
「[gentle]悪くないわね。誰を誘ったの」
ゴンが参加者リストを見せると、ビスケが眉を上げた。
「[surprised]……ヒソカに、クロロ?」
「みんな来てくれるって!」
ビスケはキルアを見た。キルアが「だから言ったのに」というような顔で肩をすくめた。
ビスケは深く、ゆっくりと息を吐いてから、荷物の中から細長い箱を取り出した。洋菓子の箱だ。
「[serious]まあ、座って話しましょうか。修行合宿と思えば悪くない環境ね」
「[serious]お菓子持ってきたんですか」
キルアの目が一瞬だけ動いた。先ほど川に沈めたチョコロボくんのことを思い出しているような顔だ。
「[sarcastic]人のを狙わないでよ、キルア」
「[surprised]狙ってません」
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ビスケが到着してしばらくして、廊下の奥から足音がした。
ゆっくりとした、軽い足音だ。
キッチンへつながる扉が開いた。
白い道着に、頭を丸めた小柄な老人。推定110歳超。ハンター協会第12代会長——アイザック・ネテロだ。この世界に約700人しかいないプロハンターのうちでも最高峰に位置する人物で、ゴンたちにとっては協会のトップにあたる。
ネテロ会長は全員に軽く手を振った。
そのまま迷わずキッチンへ向かった。
「[surprised]あ、会長! キッチンって——」
冷蔵庫が開く音がした。
ゴンとキルアが顔を見合わせた。
キッチンを覗くと、ネテロ会長が大型冷蔵庫の中身を確認していた。何が入っているか確かめながら、引き出しから包丁を取り出している。自然な手つきだ。人の家のキッチンとは思えない慣れ方だ。
「[surprised]え、何か作るんですか?」
「[gentle]みんな腹が減るじゃろう」
それだけ言って、野菜を刻み始めた。
キルアがゴンの耳に顔を寄せた。
「[whispers]……110歳超えのハンター協会会長が、誰にも頼まれてないのに料理してる」
「[whispers]うん」
「[whispers]手伝った方がいいのかな」
ゴンがキッチンに入った。
「[gentle]会長、手伝いましょうか」
ネテロが包丁を止めずに答えた。
「[serious]見ておれ」
短く、明快だった。
ゴンは素直に一歩下がった。
キッチンの壁に目が行った。ジョバンが貼った紙が、そこにもあった。
【念能力の屋内使用を禁じます】
ネテロ会長がリズムよく野菜を刻んでいる。白髪の老人が、普通の包丁で、普通のまな板の上で、当たり前のように料理をしている。
この人の念能力は、人類最強クラスだとゴンは知っている。本気を出せば何でもできる。でも今は、包丁しか持てない。ルールだから。
(……なんか面白いな)
ゴンはそっと思った。
この三日間、みんなそうなんだ。
どれだけ強くても、どれだけ特別な力を持っていても、ここでは包丁で料理して、ソファで寝て、川でお菓子を冷やす。それだけだ。
リビングからビスケの声がした。
「[serious]キルア、その菓子、どこに隠したの?」
「[serious]川です。関係ないでしょ」
「[sarcastic]川……?」
ゴンは小さく笑った。
夕方の光が窓から差し込んでいる。針葉樹の影が庭に長く伸びていた。紅葉したカエデが、橙色に輝いている。
(夕方になったら、またメンバーが来るな)
ゴンはリビングに戻りながら、参加者リストをもう一度頭の中で思い浮かべた。
ヒソカ。クロロ。イルミ。
キルアは絶対ヤバい展開になると断言した。それは、まあ、そうかもしれない。
でも——
(とりあえず今のところは、いい感じだぜ)
ゴンはソファにどっかり座った。キッチンから包丁の音がする。ビスケがお菓子の箱を開けている。キルアが窓から川の方向を確認している。
秋の夕暮れが、ロッジ・パルマをゆっくりと包んでいた。