ハンター合宿、カオスにつき
すべてはゴン=フリークスが「みんなで夕食を食べたい!」と言ったことから始まった。それが全ての計画だったはずだ。
キルア=ゾルディックは「どうでもいい」と言いながら、こっそり大量のお菓子を買い込んでいた。レオリオ=パラディナイトは「みんなのために料理を作る」と宣言した。クラピカは冷静に「料理をしたことはあるのか?」と尋ねた。レオリオは三秒間沈黙し、そして「ない」と答えた。
なぜか、ゴンのシンプルな夕食のアイデアは二泊三日のグループ合宿――ハンター合宿、カオスにつきへと発展し、招待客のリストはどんどん増えていった。
ヒソカがニヤリと笑いながら突然現れた。クロロはまるで普通のことのように本を読んで座っていた。ビスケは「修行の合間の休息が大事だ」と言いながら、最もリラックスしている人物だった。ネテロ会長は誰にも言わずに静かにみんなの朝食を作り始めた。
あらゆる場面でカオスが巻き起こった。ゲーム対決はいつの間にかキルア対ヒソカになり、ゴンが身体を張って止めなければならなかった。料理当番のくじはイルミに当たり、部屋中が静まり返った。自己紹介の夜のセッションでは、クラピカが「クラピカです」と
ハンター合宿、カオスにつき - ヒソカが来た!ゲーム大会、一触即発の夜
ウッドデッキの木の手すりは、夕方になると少しひんやりする。
ゴン=フリークスはその手すりに両肘をついて、庭の紅葉したカエデを眺めていた。赤いキャップを少し持ち上げて、風に顔を向ける。クレーナ丘陵の秋の空気は澄んでいて、ヨークシンシティのあのごちゃごちゃとした匂いとは全然違う。
キルア=ゾルディックは隣のデッキチェアに座って、ジュースのパックにストローを刺していた。銀色の短い髪が夕風に少し揺れる。今日の午後、川から引き上げてきたチョコロボくんを三箱確認し終えた後の、珍しいリラックスした顔だ。
「[gentle]今日、ビスケさんうるさかったな」
「[serious]お菓子の保管場所を川に変えたのが気に入らなかっただけだよ」
ゴンはおかしくなって少し笑った。キルアがジュースをすする。夕日がカエデの葉をオレンジに染めていた。
のどかだった。
ほんの一瞬だけ。
「[serious]……ゴン」
キルアの声のトーンが、わずかに変わった。
ゴンが振り返ると、キルアが手すりの向こうのデッキの端を見ていた。
そこに、人が立っていた。
長い赤い髪。白と黒のピエロのような衣装。口の端が、ゆっくりと上がっている。
ヒソカ=モロウだ。
いつから立っていたのか、わからない。足音も聞こえなかった。ただそこに、当然のように存在していた。
キルアがジュースを吹き出した。
ぶッ、という音が静かな夕方のデッキに響いた。キルアが口を押さえて咳き込む。ゴンが慌てて背中を叩こうとしたが、キルアがそれを手で制して、ヒソカをじっと見た。
「[angry]……なんで……いんの」
「[laughing]招待されてないのに来たら悪かったかな♠」
悪そうな顔ではなかった。むしろ楽しそうだった。どこから情報を仕入れたのか、ヒソカは一切説明する気がない様子で、手すりをひとまたぎしてデッキに入ってきた。
「[excited]ヒソカ! 来てくれたんだね!」
「[angry]ゴン!! 来てくれたじゃない!!」
キルアが小声で叫んだ。ゴンは少し困った顔をしたが、もうヒソカはリビングへ向かう玄関ドアに手をかけていた。事実として合流した。既成事実だ。
キルアが深くため息をついた。
「[serious]……まったく」
その声に、本気の拒絶ではなく、「やっぱりこうなった」という疲れたあきらめが混じっていた。
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それから十分も経たないうちに、玄関の方でまた物音がした。
リビングでジュースを飲んでいたゴンが顔を向けると、玄関ドアがしずかに開いた。
黒いコートに、本を一冊持った男が入ってきた。黒い短髪、鋭い目。幻影旅団——盗賊集団の団長にしてA級賞金首——クロロ=ルシルフルだ。
クロロはリビングをさっと見回した。ヒソカがソファに座っているのを確認した。ビスケがお茶を飲んでいるのを確認した。そして何も言わずに、リビングの隅の一人がけの椅子に座り、持ってきた本を開いた。
読書を始めた。
リビングが静止した。
ビスケがティーカップをテーブルに置く音だけが響いた。
ゴンはクロロを見た。クロロは本を読んでいる。誰にも話しかけない。要求もしない。ただ読んでいる。
キルアがゴンの横に来て、耳に口を寄せた。
「[whispers]……何しに来たんだあいつ」
「[whispers]休みに来たんじゃないかな」
キルアが二秒黙った。
「[serious]それが一番怖いんだけど」
キッチンの方からネテロ会長がひょこっと顔を出した。白髪の小柄な老人が、クロロをちらりと見て、また引っ込んだ。鍋を混ぜる音が再開した。何も言わなかった。動じていない。それがまたゴンには少しおかしかった。
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ネテロ会長の夕食は、見事な和食だった。
大きな鍋に作られた汁物、焼き魚、白米、それからゴンには名前のわからない小鉢がいくつか。食堂のテーブルに並んだ料理の匂いが廊下まで広がって、ゴンのお腹がぐうと鳴った。
全員が食堂に集まり、席につこうとした。
その瞬間だった。
ヒソカがすっとキルアの隣の椅子に手を置いた。
「[cold]そこはダメ」
キルアが即座に言って、ヒソカから最も遠い席の方へ移動した。ヒソカが空いたキルアの隣の椅子を引こうとすると、キルアがさらに一席ずらした。ヒソカが歩く。キルアが移動する。
「[laughing]キルアくん、逃げないでよ♦」
「[angry]逃げてない。離れてるんだよ」
テーブルを半周した頃、ゴンが立ち上がった。
「[serious]俺がヒソカの隣に座るよ」
ヒソカがゴンを見て、少し楽しそうな顔をした。キルアがゴンを見た。
「[serious]……お前がそれでいいなら、いいけど」
釈然としない顔だったが、キルアは自分の席を確保した。ゴンの反対隣だ。ヒソカとの間にゴンが挟まる形になった。
ビスケが席に座りながら小さくため息をついた。
「[serious]夕食前からこの騒ぎ……」
クロロは一番端の席に、自然と座っていた。誰に案内されたわけでもないのに、誰ともぶつからない場所を選んでいる。本はいったん閉じて、汁物の入った器を手に取った。
ネテロ会長がキッチンから最後の小鉢を持って来て、自分の席についた。
「[gentle]冷めないうちに食べよ」
短く言った。それが合図になって、全員が箸を取った。
数秒間、食堂は静かだった。
ゴンが汁物を一口飲んで、目を丸くした。
うまい。シンプルに、本当にうまい。昆布のうまみが柔らかく広がって、体の中があたたかくなる感じがした。
「[excited]会長、すごいうまいです」
ネテロ会長がにこっとした。
「[gentle]そうじゃろ」
キルアも黙って食べていた。その顔が、少しだけ穏やかになっていた。
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食後、ゴンがリビングで思い切り伸びをした。
「[excited]みんなでゲームしようぜ!」
キルアが「また言い出した」という顔をしたが、止めなかった。ビスケがソファに深く腰を落ち着けて「まあいいわ」と言った。ネテロ会長が「よいぞ」と言った。
ヒソカが興味深そうに立ち上がった。クロロは本を膝に置いて、観戦の体勢をとった。
対戦カードをくじ引きで決めることになった。細く切った紙に番号を書いて、箱の中に入れる。ゴンが紙を作っている間、キルアが「変な組み合わせになったら嫌だな」とぼそっと言った。
「[gentle]大丈夫だよ」
「[sarcastic]その台詞、全然信用できないんだよね」
最初の数枚は問題なかった。ネテロ会長対ビスケ。ゴン対クロロ。
そして、一枚のくじが開かれた。
キルア=ゾルディック 対 ヒソカ=モロウ。
リビングの空気が変わった。
ゴンは紙を持ったまま動きを止めた。ビスケのため息が聞こえた。ネテロ会長が静かにお茶をすすった。
キルアの目が、すっと細くなった。笑顔が消えた。銀色の髪の下で、その青い目が全然別の光を持ち始めた。ゾルディック家の三男。暗殺一家で育った彼の中に眠っている何かが、静かに動き始めた。
ヒソカが指を一回鳴らした。パチン、という音が響いた。口の端がゆっくりと上がる。
「[laughing]いい組み合わせじゃないか♣」
二人の間の空気が重くなった。
ゴンが立ち上がった。そのまま、二人の間に体を割り込ませた。両手を広げて、二人の視線をさえぎる。
「[serious]ちょっと待って! ゲームはみんなで楽しむものだよ! 殺し合いじゃないよ!」
少しの間。
キルアがゴンを見た。ゴンは真剣な顔をしていた。変に力が入っている。真正面からキルアを見ている。
キルアが数秒黙った。
それから、ふっと息を吐いた。目の光が、少しだけ薄れた。
「[serious]……仕方ないな」
「[sarcastic]つまらないね♠」
ヒソカは残念そうに言ったが、従った。
ゴンが振り返ってヒソカを見た。
「[serious]じゃあ全員参加のじゃんけん大会にしよう!」
ビスケが天井を見上げた。
「[serious]……この子たち、ゲームひとつでこの騒ぎ。先が思いやられるわ」
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じゃんけん大会が始まると、奇妙なことが起きた。
キルアが相手の手の動きを読もうとして、考えすぎた。グー、チョキ、パー、どれが来るかを真剣に分析し始めて、出すタイミングを逃した。フリーズした状態で「あ」と言いながら負けた。
「[angry]なんで……じゃんけんに読み合いがある前提で考えてるんだよ……」
ヒソカはトランプの手品で培ったタイミング操作の技術を駆使しようとした。しかし手を出す瞬間のタイミングはじゃんけんの勝敗に全く関係ないため、普通に負けた。
「[sarcastic]これはトリックが通じないゲームだね♦」
ゴンは何も考えずにパーを出し続けた。なぜか奇跡的に勝ち続けた。三回連続で勝ったあたりで、ゴン自身が一番驚いていた。
「[excited]マジか!」
最終的に優勝したのはネテロ会長だった。ぽん、ぽん、ぽんと、なんのためらいもなく手を出して、全員に勝った。
副賞はキルアの段ボールから拝借したチョコロボくん一箱だった。
キルアの顔が微妙になった。
ネテロ会長が袋を開けながら言った。
「[gentle]わし、これ好きなんじゃ」
「[serious]……そうですか」
キルアは強くは言えなかった。
クロロはずっと壁際の椅子から観戦していた。本を読んでいた。一回だけ顔を上げて、キルアのフリーズした瞬間を見て、また本に視線を戻した。その表情は読めなかった。
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ゲーム大会が終わり、全員がそれぞれの部屋に引き上げた。
ゴンとキルアは同じ部屋だった。二つのベッドが並んでいて、窓からクレーナ丘陵の夜の木々が見える。月が出ていた。
二人が布団に入って、しばらく天井を見ていた。
部屋は静かだった。遠くのリビングで誰かが動く気配だけがかすかにある。
「[gentle]なあ、キルア」
「……なに」
「[gentle]最初に会った時のこと、覚えてる?」
キルアが一瞬、黙った。
天井を見ていた視線が、少しだけ横に動いた気がした。
「[serious]……なんで急に」
「[gentle]今日みんなで騒いでたら、なんか思い出して。あの時から、ずっとキルアはキルアだなって——」
「[serious]チョコロボくんがネテロ会長に取られたのが本気で悲しい」
ゴンが少し笑った。
「[gentle]それ今関係ないじゃん」
「[serious]いや、関係あるよ。あの一箱は今月の在庫の中で一番状態が良かったやつだったから」
ゴンはしばらく待った。キルアが昔の話を掘り下げるのを嫌がっている空気は、ちゃんとわかった。照れてるんだな、とも思った。だから、それ以上は言わなかった。
「[gentle]会長、チョコロボくん好きって言ってたね」
「[serious]まあ、会長だから文句は言えない。でも残念だよ」
「[gentle]明日買い出し行く時に買えばいいじゃん」
キルアが少し黙った。
「[serious]……ノッカー・マートにチョコロボくん、あるかな」
「[gentle]あるよ、きっと」
「[serious]……まあ」
それだけ言って、キルアは目を閉じた。
部屋に静寂が戻ってきた。
月が窓の外で白く輝いていた。風が木々を揺らす音が、遠くから聞こえてくる。ゴンも目を閉じた。
今日だけで、なんだかいろんなことがあった。ヒソカが来て、クロロが来て、じゃんけんで会長が優勝して、キルアがフリーズして。
ゴンは少し笑いたくなったが、我慢してそのまま眠りに落ちていった。
合宿、一日目の夜が終わった。