ハンター合宿、カオスにつき
すべてはゴン=フリークスが「みんなで夕食を食べたい!」と言ったことから始まった。それが全ての計画だったはずだ。
キルア=ゾルディックは「どうでもいい」と言いながら、こっそり大量のお菓子を買い込んでいた。レオリオ=パラディナイトは「みんなのために料理を作る」と宣言した。クラピカは冷静に「料理をしたことはあるのか?」と尋ねた。レオリオは三秒間沈黙し、そして「ない」と答えた。
なぜか、ゴンのシンプルな夕食のアイデアは二泊三日のグループ合宿――ハンター合宿、カオスにつきへと発展し、招待客のリストはどんどん増えていった。
ヒソカがニヤリと笑いながら突然現れた。クロロはまるで普通のことのように本を読んで座っていた。ビスケは「修行の合間の休息が大事だ」と言いながら、最もリラックスしている人物だった。ネテロ会長は誰にも言わずに静かにみんなの朝食を作り始めた。
あらゆる場面でカオスが巻き起こった。ゲーム対決はいつの間にかキルア対ヒソカになり、ゴンが身体を張って止めなければならなかった。料理当番のくじはイルミに当たり、部屋中が静まり返った。自己紹介の夜のセッションでは、クラピカが「クラピカです」と
ハンター合宿、カオスにつき - 買い出し大行進――最強ハンターたち、丘を下る
キルアがゴンの隣に立ったまま、しばらく何も言わなかった。
窓の外にはクレーナ丘陵の朝が広がっている。カエデが赤い。空が青い。昨日も一昨日も同じ景色だったのに、ゴンはそれを見ていなかった。
キルアはゴンの横顔を確認した。
笑っていない。
ゴンが笑っていないのは、キルアにとって何か重要なものが欠けているのと同じだった。うまく説明はできないが、そういうことだった。
「[serious]ゴン」
ゴンが少し振り向いた。
「[serious]お前のせいじゃないよ」
短かった。でもはっきりしていた。言い訳も前置きもない。
「[sad]でも俺が呼んだから——」
「[serious]モラウが腹減って食べた。それだけの話だろ」
ゴンが口をつぐんだ。
「[serious]腹が減ったなら買いに行けばいい。何が問題なんだ」
そう言いながら、キルアは振り返ってリビングの方へ歩き出した。
ゴンは一秒、その背中を見ていた。
それから、くしゃっと笑った。いつものあの笑顔だった。
キルアは振り向かなかった。でも歩くペースが少しだけ緩んだ。
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リビングは気まずかった。
モラウがソファの隅で体を縮めている。レオリオはまだ何か言いたそうな顔でモラウを見ている。ビスケがソファに寝転がって天井を見ている。クラピカが窓際に立って外を向いている。クロロが本を開いている。ヒソカがトランプをくるくる回している。イルミが壁際に立っている。ネテロ会長が縁側でお茶を飲んでいる。
キルアが全員の真ん中に入ってきた。
「[serious]食料がないなら買いに行く」
全員がキルアを見た。
「[serious]来たいやつだけついてこい」
沈黙。
キルアは内心、一人か二人だろうと思っていた。ゴンは来る。自分もいる。それで十分だ。
ヒソカがトランプをひらりとポケットに入れた。
「[sarcastic]買い物も面白そうじゃない♠」
すっと立ち上がった。
キルアが「え」という顔をした。
クロロが本をそっと閉じた。
「[cold]散歩がてら行こうか」
キルアが「え?」という顔をした。
ビスケが体を起こして伸びをした。
「[serious]いい運動になるわね」
キルアが「いや」という顔をした。
ネテロ会長が縁側から顔を出した。
「[gentle]いい天気じゃ。わしも行くかの」
キルアが「待って」という顔をした。
イルミが壁際からゆっくり動いた。
「[cold]キルアと一緒に歩きたい」
「[serious]嫌だ」
即答だった。イルミは表情を変えなかった。それでも靴を探し始めた。
クラピカが何も言わずに玄関の方へ歩き始めた。
レオリオが立ち上がった。
「[excited]今度こそ最高の飯を作ってやる! 食材は俺が選ぶ!」
モラウが小さく手を挙げた。
「[sad]……俺、荷物持ちをする」
シュンとした声だった。全員の視線がモラウに集まって、一瞬で散った。
キルアが全員の顔を順番に見た。ヒソカ。クロロ。ビスケ。ネテロ会長。イルミ。クラピカ。レオリオ。モラウ。そしてゴン。
「[serious]……なんで全員いるんだ」
誰も答えなかった。全員が靴を履いていた。
ゴンが嬉しそうに言った。
「[excited]みんな来るんだね!」
キルアが疲れた顔で言った。
「[serious]……そうだな」
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クレーナ丘陵の砂利道は緩やかな下り坂だった。
両脇にカエデとナラの木が並んでいて、葉が赤と黄色に染まっている。朝の空気が冷たくて、吐く息が少し白い。砂利を踏む音がざくざくと続いている。
その道を、十一人がぞろぞろと歩いていた。
ハンター。幻影旅団の団長。暗殺一家の兄弟。戦闘狂。海ハンター。年齢百歳超えの会長。全員が食材を買いに、丘を下っている。
「[gentle]料理はできるのか、ヒソカよ」
いつの間にかヒソカがネテロ会長の隣を歩いていた。
「[sarcastic]トランプは切れるけど、野菜は切ったことないね♣」
ネテロ会長が声を上げて笑った。ハッハッハ、という大きな笑い声が丘に響いた。木々の間を抜けて、遠くまで聞こえた。
全員が一瞬、そちらを見た。何があったのか確認してから、各自の方向に戻っていった。
少し後ろでは、イルミがキルアの隣に近づいていた。
キルアが歩くペースを上げた。
イルミが自然な動作でペースを合わせた。
キルアが今度は少し遅くした。
イルミがまた合わせた。
キルアが少しだけ横にずれた。
イルミが横にずれた。
キルアが舌打ちした。
その攻防をレオリオが横目で見ていた。
「[whispers]……大変だな」
小声でクラピカに言った。
クラピカが黙って一回うなずいた。
少し前を、モラウが歩いていた。全員分の荷物を運ぶ準備として、両手をぐーぱーぐーぱーしながら歩いている。その手の動きが一定のリズムを刻んでいて、なぜか目が離せなかった。レオリオが視線を向けると、モラウは真剣な顔だった。本人は大まじめだった。それがかえっておかしかった。
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道の中ほどで、ゴンはふと気づいた。
行列の少し前を、二人が並んで歩いている。いや、正確には並んでいない。数メートルの距離を保ちながら、同じ方向を向いて歩いている。
クロロとクラピカだった。
会話はない。視線も合っていない。クラピカは前を向いたまま黙って歩いている。クロロは木々の紅葉をゆっくり見ながら歩いている。二人の間に風が通り抜ける。
でも、殺気がなかった。
最初にクラピカとクロロが同じ場所にいた時の、あの空気とは違う。あの時はロッジのリビングが凍りついた。今は——ただ、二人が別々のペースで同じ道を歩いている。
ゴンはその二人の背中を見ながら、キルアに小声で言った。
「[whispers]いつかあの二人が、普通に話せる日が来るといいな」
キルアが少し考えてから答えた。
「[serious]それは無理だと思うぞ……たぶん」
ゴンが「そうかな」という顔をした。
キルアがまた少し黙った。砂利を踏む音が続く。遠くでネテロ会長がまた何か言って、ヒソカが返している声がした。
しばらくしてから、キルアが言った。
「[serious]……でも、今日みたいな日が続けば。もしかしたらな」
ゴンがキルアを見た。
キルアはゴンの視線に気づいて前を向いた。
「[serious]何だよ」
「[gentle]うん。そうだよね」
ゴンがにこにこしながらうなずいた。キルアが「別にそういう意味じゃ」と言いかけてやめた。
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丘を下りきる手前で、ゴンが立ち止まった。
後ろを振り返る。
砂利道の上に、全員がいた。
先頭ではモラウが手をぐーぱーしながら歩いている。その少し後ろをレオリオが「今日こそ完璧な食材を選ぶ」という顔で歩いている。クラピカが静かなペースで歩いている。クロロが紅葉を見ながら歩いている。二人の間に数メートルの距離がある。ヒソカがネテロ会長に何か言って、会長が笑っている。ビスケが自分のペースで、特に急ぎもせず歩いている。イルミがキルアに近づいて、キルアが横にずれている。
ゴンはその全員を、端から端まで見た。
本来なら、同じ場所にいるはずのない人間たちだ。ハンターと盗賊。天才と戦闘狂。暗殺一家と、その弟の友人。食料を全部食べてしまった人と、怒っていた人。
それが全員、食材を買いに行くというたった一つの目的のために、同じ方向を向いて歩いている。
ゴンの父、ジンが言った言葉が頭をよぎった。
大事なのは、誰と一緒にいるかだ。
ゴンは笑った。
「[serious]何してるんだ」
キルアが戻ってきた。イルミとの攻防を一時中断してきたらしい。
「[excited]なんでもない!」
ゴンが歩き出した。
丘の木々の間から、村の屋根が見え始めていた。赤い屋根。小さな煙突。ノッカー・マート——クレーナ丘陵唯一の商店——まで、もうすぐだった。
十一人分の足音が、砂利道に続いていった。