この素晴らしい世界に祝福を! ―めぐみんのif―
魔王を倒した後、カズマとその一行はアクセルで平和に暮らしていた。しかし、紅魔の里に帰るはずだっためぐみんは、今やカズマの家に居候していた。彼女は里の掟を破って家出してきたのだ。めぐみんはカズマに真剣に結婚を迫る。カズマは断るが、めぐみんは愛の証だと言って爆裂魔法で家を爆破し続ける。ダクネスはめぐみんの気持ちを理解し、アクアは飲み代が減ると強く反対する。めぐみんのライバルであるゆんゆんも加わり、カズマへの愛を宣言する。こうしてカズマは一度に三人の女性に追いかけられることになる。めぐみんは彼のためだけに爆裂魔法を使うと言い、ゆんゆんは自分の魔法は彼を守るためだと言い、ダクネスは変態的な発言をする。カズマはただ普通の生活を望んでいるだけなのに、誰も聞く耳を持たない。
ある日、めぐみんは紅魔の里から追手が自分を連れ戻しに来ることを知る。追手は妹のこめっこで、めぐみんは後継者になるために里へ戻るべきだと主張する。めぐみんはカズマと一緒にいるために家を出たと言って拒否する。カズマは争いに巻き込まれ、こめっこは彼がめぐみんを幸せにできないなら自分がもらうと言う。ダクネスとゆんゆんも乱闘に加わり、カ
この素晴らしい世界に祝福を! ―めぐみんのif― - 紅蓮の誓い ―爆裂の光の中で、やっと本音を言ってくれたね―
朝の冷たい空気が、里長の館の石壁に染みていた。
カズマは固い床に座ったまま、窓から差し込む薄明かりを見つめていた。紅蓮山脈の朝は、アクセルよりもずっと静かで、ずっと冷たい。息を吐けば、白く濁って消える。
(今日が、決着の日か)
右手の甲にある古い傷を、親指でなぞる。魔王を倒した時の傷。あの時も、朝は冷たかった。
「カズマさん、おはようございますわ」
声の方を向くと、めぐみんが部屋の入り口に立っていた。紅色のツインテールは、きっちりと結われている。いつもの黒いマントに、赤い瞳。手には、里伝来の魔杖『爆裂の友』を握っていた。
顔色は、昨日より少しだけ良くなっていた。でも、まだ完全ではない。目の下に、うっすらと疲れの色が残っている。
「ああ、おはよう。……眠れたか?」
「ええ、まあ。カズマさんこそ、目の下に隈ができていますわ。一睡もしていないのではなくて?」
めぐみんは、少しだけ心配そうに、カズマの顔を覗き込んだ。
「ガキの頃から、大事な日の前は眠れない質なんだよ。……それより、朝飯は?」
カズマが立ち上がると、廊下からぱたぱたと軽い足音が聞こえてきた。
「カズマお兄ちゃん、お姉ちゃん! 朝ごはん、できたの! ゆんゆんお姉ちゃんが、すっごくおいしいお粥を作ってくれたんだよ!」
こめっこが、赤いおかっぱ頭を揺らしながら、勢いよく飛び込んできた。両手で、いつものぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている。その無邪気な笑顔は、これから里長との最終協議があるとは思えないほど明るい。
「こめっこ、廊下は走らないと、いつも言っているでしょう」
「えへへ、だって、お腹すいたんだもん」
めぐみんはため息をついたが、その口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。
食堂へ向かうと、ゆんゆんが食卓の準備をしていた。茶色がかった赤い髪を、今日は後ろで一つに結んでいる。エプロン姿が、妙に板についていた。
「カズマさん、おはようございます。……あの、お口に合うか分かりませんけど、山菜のお粥です。体が温まりますよ」
ゆんゆんは、少し照れながら、湯気の立つ椀を差し出した。
「おお、うまそうだな。いただく」
カズマが一口すすると、山菜の香りと優しい塩味が口に広がった。冷えた体に、じんわりと染みる。
「……うまい。ゆんゆん、お前、料理うまくなったな」
「ほ、本当ですか!? えへへ、里にいる間、少し練習したんです。……カズマさんに、おいしいって言ってもらえて、嬉しいです」
ゆんゆんは、顔を赤くして、もじもじと指を絡めた。
「ゆんゆん、あなた、いつの間にそんな練習を。……カズマさん、私も、次は腕によりをかけて作りますわ。爆裂魔法で、一瞬で温めますの」
「やめろ! 粥が炭になるだろ!」
「あら、火加減は任せてくださいませ。……多分」
「多分って言ったな、今。絶対にやめろ」
食堂に、笑い声が小さく響いた。
その時、重厚な扉が開く音がした。
全員の視線が、一斉に入り口へ向かう。
立っていたのは、里長だった。白髪を後ろで束ね、紅魔族の正装に身を包んだ老女。その背筋は、年齢を感じさせないほど真っ直ぐに伸びている。
「……食事の邪魔をしてすまぬ。だが、時間だ。広間へ来い」
里長の声は、静かだった。でも、その静けさの中に、有無を言わせない重みがあった。
カズマは、椀を置いた。
「……行こう」
広間は、昨日と同じように冷え切っていた。
石造りの壁に、紅魔族の歴史を刻んだ壁画が並んでいる。1200年前、紅魔族の先祖メグリナが、爆裂魔法で魔王を封印した場面。その下で、里長が、玉座のように据えられた椅子に腰を下ろした。
カズマたちは、その正面に立った。
めぐみんが、一歩、前に出る。
「里長様。……お話とは、何でしょうか」
めぐみんの声は、震えていなかった。
里長は、しばらく、めぐみんの顔をじっと見つめていた。深い皺の刻まれた顔。赤い瞳が、孫娘の姿を映している。
「……めぐみん。明日の儀式で、封印の安定化を試みる。そして、その後、お前は里に残り、跡継ぎとして、生涯、爆裂魔法で封印を守り続けるのだ」
里長の言葉は、まるで判決を読み上げるようだった。
「……私が、里に残る?」
「そうだ。血の盟約に従い、跡継ぎは里に残り、封印を守る。これは、1200年前から続く、紅魔族の掟。お前の祖母としても、里長としても、これ以外の道はない」
その時、カズマが、一歩前に出た。
「待てよ、婆さん」
里長の視線が、カズマに向く。
「何だ、小僧」
「跡継ぎを、里に縛る必要なんてない。外で爆裂魔法を撃ち続けさせれば、封印は保てる。そういう方法もあるはずだ」
カズマの声は、落ち着いていた。でも、その目は、真っ直ぐに里長を見据えている。
「……何を言っている。爆裂魔法の威力は、里の魔力が満ちた土地だからこそ、最大限に発揮される。外で撃ったところで、封印を安定させる力は半減する。それに、掟は掟だ。1200年、誰一人として破った者はいない」
「だったら、俺が初めての破り手になる。……いいか、婆さん。あんたの孫娘は、道具じゃない。14歳の女の子だ。里のため、封印のため、掟のため——そんな理由で、一生をこの山奥に閉じ込めるなんて、間違ってる」
カズマの言葉に、里長の眉が、ぴくりと動いた。
「……小僧、お前に何が分かる。紅魔族の宿命を、何も知らぬ部外者が」
「ああ、知らないよ。紅魔族の宿命なんて、知るか。でもな、俺は知ってる。こいつが、爆裂魔法を撃つ時に、どんな顔をするか。こいつが、俺の隣で、どんな風に笑うか。……それを、里の掟ってだけで、奪わせるわけにはいかない」
カズマは、右手を、ぎゅっと握りしめた。
「……カズマさん」
めぐみんが、小さく、カズマの名を呼んだ。
里長は、長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「……ならば、証明してみせろ。お前の言う方法で、封印が安定することを。今日、祭壇で、儀式を行う。それで封印が安定すれば、めぐみんの里外での活動を、特別に認めよう。……しかし、失敗すれば、孫は里に戻す。これは、里長としての、最後通告だ」
「……上等だ。やってやるよ」
カズマは、里長の目を、真っ直ぐに見返した。
広間の空気が、張り詰めた。
でも、その張り詰めた空気の中に、確かに、何かが動き始めていた。
封印の祭壇へ向かう道は、紅蓮山脈の奥深くへと続いていた。
赤く染まった岩肌が、両側から迫ってくる。足元は、滑りやすい砂利道。時折、冷たい風が吹き抜けて、めぐみんのツインテールを揺らした。
「カズマお兄ちゃん」
こめっこが、カズマの隣に、ちょこちょこと駆け寄ってきた。ぬいぐるみを抱えたまま、小走りでついてくる。
「ん? どうした、こめっこ」
「あのね、お姉ちゃんのこと、教えてあげる」
こめっこは、前を歩くめぐみんの背中を見つめながら、小さな声で言った。
「お姉ちゃんはね、昔から、一人で何でも背負おうとするの。里の修行も、爆裂魔法の練習も、ぜーんぶ、一人で。……でもね、本当は、すっごく寂しがり屋なんだよ」
「……そうなのか?」
「うん。小さい頃、夜に、一人で泣いてたの。私、見ちゃったんだ。お姉ちゃん、『私が、しっかりしなきゃ』って、何度も何度も、呟いてた。……里長様が、お姉ちゃんに、すごく厳しかったから」
こめっこの声が、少しだけ震えた。
「お前も、同じだろ」
カズマが、静かに言った。
「……え?」
こめっこが、顔を上げた。
「お前も、一人で、何でも背負おうとしてる。追手としての使命も、姉への気持ちも、ぜーんぶ、一人で。……違うか?」
こめっこは、しばらく、カズマの顔を見つめていた。
やがて、小さく、こう呟いた。
「……私、お姉ちゃんみたいになりたかっただけなの。強くて、かっこよくて、みんなに頼られてるお姉ちゃんに。……だから、里長様に、『お前の爆裂魔法は、姉を超える』って言われて、すごく嬉しかった。……でも、違ったの。私は、お姉ちゃんを追いかけてただけ。……お姉ちゃんが、里を出て行った時、私、本当は、寂しかったの。追手として来たのも、お姉ちゃんに会いたかったから、なのかもしれない」
こめっこは、ぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめた。
「……こめっこ」
カズマは、こめっこの頭に、ぽん、と手を置いた。
「お前は、お前だ。姉の代わりでも、姉のコピーでもない。……それでいいんだよ」
こめっこは、カズマの手の温かさを感じながら、こくりと頷いた。
その会話を、ゆんゆんが、少し後ろで聞いていた。
(私も、めぐみんみたいになりたくて、ここまで来た)
ゆんゆんは、前を歩くめぐみんの背中を見つめた。
(めぐみんは、いつも、私の先を行く。爆裂魔法も、カズマさんへの気持ちも。……でも、私も、負けたくない。私も、私のやり方で、カズマさんの力になりたい)
ゆんゆんは、小さく拳を握った。
祭壇は、紅蓮山脈の最深部にあった。
巨大な洞窟の入り口を抜けると、そこは、まるで別世界だった。
天井は高く、壁一面に、赤く光る魔導回路が刻まれている。その光が、洞窟全体を、不気味な紅色に照らしていた。
「……ここが、封印の祭壇か」
カズマは、息を呑んだ。
洞窟の中央には、巨大な台座があった。台座の上には、ひび割れた水晶が、浮かんでいる。水晶の中心で、赤い光が、脈打つように明滅していた。
「あれが、魔王封印の要。1200年前、我らの先祖が、爆裂魔法で封じた、魔王の残滓だ」
里長が、台座の前に立った。
「……封印の緩みが、深刻だ。見ろ、水晶のひび割れを。このままでは、いずれ、封じていた魔力が、外に漏れ出す」
里長の指差す先で、水晶のひび割れから、赤い光が、ちろちろと漏れ出していた。
「では、始めるぞ。めぐみん、台座の上へ」
「……はい」
めぐみんは、『爆裂の友』を握りしめ、台座へと歩いていった。
「カズマさん。……見ていてください。私の、最高の爆裂魔法を」
めぐみんが、振り返って、カズマに微笑んだ。
「ああ。……無理はするなよ」
カズマは、頷いた。
めぐみんは、台座の上に立ち、杖を掲げた。
「我が名はめぐみん。紅魔族随一の爆裂魔法使い。……封印の要よ、我が魔力を受け取り、その緩みを鎮めよ」
めぐみんが、詠唱を始めた。
「紅蓮の炎、深淵の理。万象を砕き、天地を焦がす、究極の一撃——エクスプロージョン!」
めぐみんの全身から、紅い魔力が溢れ出した。
杖の先端に、眩い光が集まっていく。
ドォォォォン!!!
爆裂魔法が、水晶に向かって放たれた。
洞窟全体が、紅い光に包まれる。
しかし——
水晶のひび割れは、少しも塞がらなかった。
いや、むしろ、ひび割れは、さらに広がっているように見えた。
「……ぐっ……あぁっ……」
めぐみんが、その場に崩れ落ちた。魔力を使い果たし、立っていられなくなったのだ。
「めぐみん!」
カズマが、駆け寄ろうとした。
「……これでは、足りぬ。やはり、めぐみん一人の魔力では、封印の緩みを、抑えきれん」
里長の声が、冷たく響いた。
「……これでは、足りぬ。やはり、里に残すしかない。……めぐみん、お前には、里で、封印の力を、高める修行を、続けてもらう」
その時——
「私も撃つ!」
こめっこが、飛び出した。
「こめっこ!? 何を言ってるの! あなたの爆裂魔法は、まだ制御が——」
「お姉ちゃんが一人で撃てないなら、私が隣で撃つ! それだけなの!」
こめっこは、めぐみんの隣に立った。
「私も、やります! 上級魔法『紅蓮の導』で、二人の魔力を同調させます! これなら、二人の爆裂魔法の威力を、倍以上に高められます!」
ゆんゆんも、前に出た。
「ならば、私が結界を張る! このダクネス、クルセイダーとして、祭壇を守ってみせる!」
いつの間にか、ダクネスが、洞窟の入り口に立っていた。金髪のロングヘアが、赤い光に照らされて、黄金色に輝いている。
「……お前、いつの間に来たんだよ」
「カズマ、私を置いて行くなんて、ひどいではないか。……だが、こういう時こそ、私の出番だ。この痛み、たまりませんわ! さあ、カズマ、私に、結界を張るという、苦しい役目を——」
「はいはい、ありがとうございます。じゃあ、さっさと張ってくれ」
カズマは、ダクネスの変態的発言を、軽く流した。
「……仕方ないわね。私も、女神として、手伝ってあげるわ。めぐみんの魔力酔いを、癒し続ければいいんでしょ」
アクアが、めぐみんの傍らに立った。水色の長い髪が、洞窟の空気に揺れる。
「アクア、お前、酒は飲んでないだろうな」
「失礼ね! 女神を何だと思ってるのよ! 今日は、まだ、一滴も飲んでないわ!」
「まだ、って言ったな。……まあいい、頼む」
カズマは、祭壇の周囲に刻まれた魔導回路を、じっと見つめた。
(この回路……魔力の流れが、一方向に固定されてる。めぐみん一人の魔力を、水晶に注ぐための回路だ)
カズマは、しゃがみ込んで、回路を指でなぞった。
(これを、三人分の魔力を、段階的に共鳴させられるように、組み替えれば……)
「おい、小僧。何をしている」
「回路の組み替えだ。……格闘戦の応用で、物理的に、魔力の流れを変える。こういうの、得意なんだよ」
カズマは、魔導回路の一部を、手で、ぐいっと動かした。
ガキン、と、石がずれる音がした。
「……何だと? 魔導回路を、物理的に、組み替えるだと? そんなこと、聞いたことがない」
里長の声が、初めて、驚きに震えた。
「俺も、やったことない。……でも、やるしかないだろ。大切な奴を、道具にさせないために」
カズマは、汗を拭いながら、回路を組み替え続けた。
「……完成だ。三人の爆裂魔法を、段階的に共鳴させる。最初にめぐみん、次にこめっこ、最後にゆんゆんの上級魔法で、魔力を一つにまとめる。……これで、封印を安定させる」
カズマは、立ち上がった。
「……信じられん。そんな即興の仕組みで、封印が安定するはずがない」
「やってみなきゃ、分からないだろ。……めぐみん、もう一度、立てるか?」
カズマは、めぐみんに手を差し伸べた。
「……はい。カズマさんと一緒なら、何度でも」
めぐみんは、カズマの手を取って、立ち上がった。
「こめっこ、準備はいいか?」
「うん! 私、お姉ちゃんと一緒に、撃つ!」
こめっこは、ぬいぐるみを抱え直した。
「ゆんゆん、頼む」
「はい! 私、めぐみんとこめっこの魔力を、絶対に、一つに繋いでみせます!」
「ダクネス、結界」
「任せなさい! この身を盾に、祭壇を守る!」
ダクネスが、両手を広げ、大規模な結界を展開した。
「アクア、めぐみんの魔力酔いを、癒し続けろ」
「分かってるわよ。……さあ、私の癒しの力、思い知りなさい!」
アクアが、めぐみんの背中に手を当てた。
「……では、行くぞ。全員、タイミングを合わせろ。……めぐみん、合図を頼む」
カズマは、祭壇の脇に立ち、魔導回路に手を置いた。
「……はい。……皆さん、ありがとうございます。……私、一人じゃなかったんですね」
めぐみんは、仲間たちの顔を、一人ずつ見つめた。
「……では、行きますわ! 我が名はめぐみん。紅魔族随一の爆裂魔法使い。……我が全力を、ここに!」
めぐみんが、杖を掲げた。
「エクスプロージョン!!!」
紅い光が、炸裂した。
「私も! エクスプロージョン!!!」
こめっこの爆裂魔法が、めぐみんの光に重なる。
「紅蓮の導! 二人の魔力を、私が繋ぎます!!!」
ゆんゆんの上級魔法が、二人の魔力を、一本の光の柱へと束ねた。
「結界、最大出力! このダクネス、祭壇を守り抜く!!!」
ダクネスの結界が、洞窟全体を包み込む。
「癒しよ、届け! めぐみん、負けないで!」
アクアの癒しが、めぐみんの体を支え続ける。
「……これで、どうだあああああ!!!」
カズマが、魔導回路を、全力で押し込んだ。
ガキン!!!
回路が、新たな形に、はまった。
瞬間——
三人の魔力が、段階的に共鳴を始めた。
めぐみんの赤。こめっこの赤。ゆんゆんの赤。
三つの赤が、渦を巻き、一つに重なり、やがて、純白の光へと変わった。
「……な、なんだ、この光は……!」
里長が、目を見開いた。
水晶のひび割れが、白い光に包まれて、少しずつ、塞がっていく。
「……封印が、安定していく……!」
里長の声が、震えた。
そして——
ドォォォォォォォン!!!!!!
洞窟全体を揺るがす、大爆発。
白い光が、全てを包み込んだ。
爆発の光が、なかなか収まらない。
白い光の中、カズマは、めぐみんの元へ駆け寄った。
「めぐみん!」
「……カズマ、さん……」
めぐみんは、膝をついて、肩で息をしていた。でも、その顔は、確かに、笑っていた。
カズマは、めぐみんを、ぎゅっと抱きしめた。
「……俺も、お前と一緒にいたい」
カズマの声が、白い光の中に、溶けていった。
「……え?」
「嫁にしてくださいって、言われるのを、待ってるだけだった。……でも、もう、逃げない。俺も、お前と一緒にいたい。……だから、帰ろう。アクセルに。俺たちの家に」
カズマは、めぐみんの体を、強く、強く、抱きしめた。
めぐみんは、目を丸くして、カズマの顔を見つめた。
やがて、その大きな赤い瞳から、涙が、こぼれ落ちた。
「……やっと……やっと、本音を言ってくれましたね」
めぐみんは、涙でぐしゃぐしゃの顔で、微笑んだ。
「……うるさい。これ以上、泣かせるな」
カズマは、悪態をつきながら、めぐみんの頭を、優しく撫でた。
「……カズマさん、私、嬉しいです。……嬉しくて、涙が、止まりません」
めぐみんは、カズマの胸に、顔を埋めた。
その時——
「ちょっと待ってください! 私も、負けません! 私も、カズマさんが好きです!」
ゆんゆんが、飛び込んできた。
「ゆ、ゆんゆん!? お前、今、空気読めよ! っていうか、この状況で、何言ってんだ!」
「だって、私だって、カズマさんのこと、ずっと、ずっと、好きだったんです! めぐみんばっかり、ずるいです! 私も、カズマさんと、一緒にいたい!」
ゆんゆんは、真っ赤な顔で、カズマの腕にしがみついた。
「私も、カズマを守る! そして、踏まれたい! いえ、まずは、この感動的な場面に、私も混ぜていただきたい!」
ダクネスも、参戦してきた。
「お前、結界はどうした! それに、踏まれたいって、お前、本当に、空気読めないな!」
「あら、結界は、もう必要ないでしょう? 封印は安定したのですから。それに、カズマ、私のことは、いつでも踏んでいいのですよ。むしろ、踏んでください」
ダクネスは、恍惚とした表情で、カズマに迫った。
「お姉ちゃん! 私も、応援する! でも、私も、カズマお兄ちゃんのこと、嫌いじゃないよ! だから、私も、混ぜて!」
こめっこまで、笑いながら、カズマに飛びついてきた。
「こめっこ! お前は、まだ、11歳だろ! っていうか、お前ら、全員、正気か!? 俺の、平和な、生活を、返せええええ!!!」
カズマの叫びが、洞窟に、こだました。
「……騒がしいな。……だが、悪くない」
里長は、白い光が収まっていく祭壇を見つめながら、小さく、そう呟いた。
祭壇での儀式から、数日が経った。
カズマたちは、紅魔族の里を出発し、アクセルへの帰路についていた。
里の入り口で、こめっこが、めぐみんに、ぎゅっと抱きついた。
「お姉ちゃん、私、里に残る。……でも、また会いに来る。今度は、追手じゃなくて、妹として」
こめっこは、涙をこらえながら、笑った。
「……ええ。待ってるわ。……こめっこ、あなたは、私の、自慢の妹ですの」
めぐみんも、妹を、強く抱きしめ返した。
「……お姉ちゃん、大好き」
「……私もよ、こめっこ」
姉妹は、しばらく、抱き合っていた。
「……カズマお兄ちゃん、お姉ちゃんを、よろしくね。……お姉ちゃんを、泣かせたら、私が、爆裂魔法で、吹き飛ばしに行くから」
こめっこは、カズマに向かって、にっこり笑った。
「……お前、笑顔で、怖いこと言うなよ。……まあ、任せろ」
カズマは、苦笑いしながら、こめっこの頭を、ぽんと叩いた。
「……では、行くぞ。アクセルに、帰る」
カズマは、背を向けて、歩き出した。
その後ろを、めぐみん、ゆんゆん、ダクネス、アクアが、続く。
里長は、館の二階の窓から、その背中を、じっと見つめていた。
「……跡継ぎを、里に縛るな……か。……孫の選んだ道、見届けよう」
里長は、小さく、そう呟いた。
アクセルへの帰路。
山道を下りながら、めぐみんは、カズマの隣を歩いていた。
「……カズマさん」
「ん?」
「私、明日も、爆裂魔法の練習をしますわ。……カズマさんの家の前で」
「やめろ! 家が、また、吹き飛ぶだろ!」
「ふふ、愛の証ですわ」
めぐみんは、いたずらっぽく笑った。
「……はあ。……まあ、いい。でも、家の前だけは、やめろよ。……家の前だけは」
カズマは、ため息をついた。
その夜、野営地で。
カズマは、めぐみんの手を、握りしめた。
「……離さないで」
めぐみんが、小さく囁いた。
「……ああ、離さない」
カズマは、めぐみんの手を、強く握り返した。
星空が、二人を、静かに照らしていた。
一方、紅魔族の里では。
こめっこが、里長に、カズマの告白のことを報告していた。
「……カズマお兄ちゃんが、お姉ちゃんに、『一緒にいたい』って言ったの。それで、お姉ちゃん、すっごく嬉しそうに、泣いてた」
こめっこは、無邪気に、報告した。
「……そうか」
里長は、静かに頷いた。
しかし、その報告は、すぐに、里の長老たちの耳にも入った。
「……里外の者が、跡継ぎ候補に、求婚を……? それは、血の盟約に、反するのでは……」
「……しかし、封印は安定した。あの小僧の、即興の仕組みで……」
「……掟は、掟だ。……だが、封印を守るためには、あの小僧の協力も、必要かもしれん……」
里の奥深くで、新たな議論が、始まっていた。
アクセルに戻った夜。
ゆんゆんは、自室で、一人、窓の外を見つめていた。
「……私、まだ、諦めませんから。……カズマさん、私のことも、見てください」
ゆんゆんは、小さく、そう呟いた。
その時、アクセルの街の遠くで、空が、一瞬、赤く光った。
「……え? 今の、光……?」
ゆんゆんは、目を凝らした。
でも、空は、もう、いつもの暗闇に戻っていた。
「……気のせい、ですよね。……きっと」
ゆんゆんは、そう自分に言い聞かせて、カーテンを閉めた。
しかし、その光は、気のせいではなかった。
アクセル郊外の観測所で、魔石が、再び、不気味な明滅を始めていた。
魔力異常の兆候が、再び、観測されていた。
静かな夜だった。
でも、その静寂の奥で、確かに、何かが、再び、動き始めていた。Noveliaとは?
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