この素晴らしい学園に祝福を!
高校一年生の佐藤カズマは、初日にトラックに轢かれそうになる。女神と名乗る美少女アクアが彼を救う。彼女は願いを一つ叶えると言い、カズマは冗談で彼女を恋人にしてほしいと頼む。彼女は即座に承諾する。こうして二人の奇妙な関係が始まる。
学校では、幼なじみで剣道のエースであるダクネスが、自分と婚約しろと迫る。アクアは自分が恋人だと宣言する。そこへ転校生のめぐみんが愛の告白をし、アクアに決闘を申し込む。三人の少女がカズマを巡って絶えず争う。
体育祭で、カズマは借り物競走で「恋人」と書かれた紙を引き、三人の少女が一斉に彼のもとへ駆け寄り、大騒動になる。彼は保健室送りになってしまう。
アクアは彼の家に引っ越してきて、ダクネスは毎朝迎えに来て、めぐみんは手作り弁当を押し付ける。彼の日常は彼女たちの争いに支配される。
ある日、カズマは告白を決意するが、誰を選べばいいか分からない。アクアは料理で誘惑し、ダクネスは剣道の練習を提案し、めぐみんは毎日爆裂魔法を見せると脅す。彼はただ普通の学校生活を送りたいだけなのだ。
そんな時、屋上で会いたいという差出人不明の手紙が届く。行ってみると、そこには三人の少
この素晴らしい学園に祝福を! - 守護者覚醒!光の翼と、また増える恋の予感の件
目を開けると、見慣れた天井があった。
自分の部屋だ。
佐藤カズマは、ぼんやりとした頭で、昨日のことを思い出していた。
中央公園。漆黒のローブの男。母の形見の写真が、あの男の手に渡っていく瞬間。
(……最悪だ)
体を起こす。右の手のひらを見た。
淡い光が、まだ残っている。でも、それは消えかかった蛍の光みたいに、弱々しい。
「……力、出ないんだな」
声に出して、ため息をついた。
その時。
ガチャリ、と部屋の扉が開いた。
「カズマ! 目が覚めたのね! 私、心配で心配で、朝からずっと祈ってたんだから!」
青く透き通るロングストレートを揺らして、アクアが飛び込んでくる。
澄んだアクアマリンの瞳が、涙でうるんでいた。
「おい、ちょっと待て。なんでお前が俺の家に……」
「何言ってるのよ! 恋人が倒れたんだから、看病するのは当然でしょ?」
アクアは、手に持っていたお椀を、ずいっと差し出した。
「はい、これ。私が心を込めて作った、特製のお粥よ。水魔法でお米をふっくら炊いたの。さあ、あーん」
お椀の中を見る。
……水だ。
米粒が数粒、申し訳なさそうに浮かんでいる、ほぼ水。
「なあ、これ、ただの水だろ」
「違うわよ! これはね、お米のエキスが溶け出した、栄養たっぷりの……あっ」
アクアが、お椀を傾けた。
ザバァ。
「うわっ! 冷たっ!」
布団の上に、水がぶちまけられた。
「ご、ごめんなさい! 今、水魔法で拭くから!」
「水魔法で拭くって何だよ! 余計濡れるだろ!」
「カズマ、大丈夫ですか! 今、助けに来ました!」
今度は、金髪のハーフアップをなびかせて、ダクネスが部屋に飛び込んできた。
手には、竹刀。
背筋はピンと伸び、琥珀色の瞳は真剣そのものだ。
「お前はなんで竹刀持ってんだよ!」
「看病に来たのです。何かあった時のために、竹刀は必需品です」
「看病に竹刀が必要なわけないだろ!」
ダクネスは、ずかずかとカズマの枕元に歩み寄ると、布団の端を掴んだ。
「さあ、カズマ。寝具を整えます。動かないでください」
「いや、自分でやるから……」
ダクネスは、有無を言わさず、布団をバサリと持ち上げた。
そして、そのまま、勢いよくカズマの上に落とした。
ドスッ。
「ぐえっ!」
「……失礼。少し、力加減を誤りました」
「少しじゃない! これ、岩かよ! 布団が岩みたいに固くなってるんだが!」
ダクネスは、真っ赤になって、布団を叩いた。
「こ、これはですね、布団をしっかりと体に密着させることで、体温を逃がさないようにする、古来より伝わる看護技術でして……」
「そんな技術、聞いたことないわ!」
「カズマ先輩! お加減はいかがですの!?」
今度は、深紅のロングヘアを揺らし、右目に眼帯をした少女が、部屋に転がり込んできた。
小さな体。燃えるような赤い瞳。
「めぐみんまで……」
「カズマ先輩! 私、仇を討ちに参りました! あの漆黒のローブの男、私の爆裂魔法で、木っ端微塵にしてやりますの!」
めぐみんは、手に持った小さな杖を、天井に向かって突き上げた。
「おい、やめろ。ここは室内だぞ。爆裂魔法なんか使ったら、家が吹き飛ぶ」
「大丈夫ですの! 今日は、加減しますの! エクスプロージョン!」
ボンッ。
壁に、小さな穴が開いた。
「……あ」
「あ、じゃない! お前ら、看病しに来たんじゃなかったのかよ! なんで部屋がどんどんボロボロになっていくんだ!」
カズマは、頭を抱えた。
「……なんでこうなるんだよ。普通に暮らしたいだけなんだが」
「カズマ、私の特製お粥、まだ残ってるわよ。今度はこぼさないから!」
「もう水はいらん!」
「カズマ、布団を整え直します。今度は、岩にならないように、ふんわりと」
「お前、自分で岩になったって認めたな!?」
「カズマ先輩、壁の穴は、私の爆裂魔法で、もっと大きな穴にしてごまかしますの!」
「余計ひどくなるわ!」
……ああ、もう。
カズマは、天井を見上げた。
三人の少女が、それぞれに、本気で、めちゃくちゃな看病をしている。
(……でも)
アクアの、涙でうるんだ青い瞳。
ダクネスの、真剣そのものの琥珀色の瞳。
めぐみんの、燃えるような赤い瞳。
三人とも、心配して、ここに来てくれた。
それが、伝わってくる。
胸の奥が、じわりと温かくなる。
「……お前ら、ありがとな」
小さく、呟いた。
三人の動きが、ピタリと止まった。
「……カズマ、今、なんて?」
「聞こえなかったなら、もう言わない」
「聞こえました! もう一度、言ってください!」
「私も、もう一度聞きたいですの!」
「やめろ、恥ずかしいだろ!」
その時。
コンコン、と、控えめなノックの音がした。
「……誰だ?」
「ごめんください。ウィズですわ。カズマ君、入ってもよろしいかしら?」
静かで、鈴の音のような声。
「ウィズ……入れよ」
「失礼しますわ」
扉が開き、銀色のロングストレートを月光のように輝かせた少女が、入ってきた。
淡い紫色の瞳。常に微笑みを絶やさない、神秘的な雰囲気。
「あら、皆さん、お揃いですのね」
ウィズは、部屋の中を見渡して、微笑んだ。
「ウィズさん、あなたまで、何しに来たのよ」
アクアの声が、少しだけ、とげとげしくなった。
「カズマ君に、お伝えしなければならないことがありますの。とても、大切なこと」
ウィズの淡い紫色の瞳が、まっすぐにカズマを見た。
「……俺に?」
「ええ。あなたの、ご両親のこと。そして、あなたの力のこと」
部屋の空気が、少しだけ、張り詰めた。
「……聞かせてくれ」
カズマは、ベッドの上で、姿勢を正した。
アクア、ダクネス、めぐみんも、黙って、ウィズの言葉を待った。
ウィズは、静かに、話し始めた。
「カズマ君。あなたのご両親は、あなたに、守護者の力を託しました。それは、ただの力ではありません。あなたを、愛していたからこそ、あなたの中に、希望を残したのですわ」
「……守護者の、力」
「ええ。そして、その力は、あなたが、大切な人を守りたいと、心の底から願った時、目覚めますの」
ウィズは、カズマの右手を、そっと、両手で包んだ。
彼女の手は、冷たかった。
「……昨日、あなたの力は、目覚めかけた。でも、完全ではなかった。なぜだか、分かりますか?」
「……俺が、まだ、迷ってたから、か」
「……いいえ。あなたは、仲間を守りたいと、本気で願った。でも、あなたは、自分の力を、信じていなかった。自分には、何もできないと、心のどこかで、諦めていた」
カズマは、何も言えなかった。
図星だった。
「……それから、これが、一番大切なこと」
ウィズは、カズマの手を、ぎゅっと握った。
「あなたのお母様の形見の写真。あれは、単なる遺品ではありません。虚無の環を封じた、境界の核の、鍵なのですわ」
「……鍵」
「ええ。あの写真の裏に隠された守護者の紋章。それが、境界の封印を、繋ぎ止めている。あの漆黒のローブの男が、写真を奪ったのは、封印を解く、準備のため」
カズマの胸に、重いものが、のしかかった。
母の形見。
ただの、思い出の品だと思っていた。
でも、違った。
両親は、あの写真に、世界の運命を、託していた。
(……俺に、託したのか)
「……カズマ君」
ウィズが、カズマの顔を、覗き込んだ。
「私は、虚無の環の、元メンバーです。組織の罪を、知りながら、逃げてきた。あなたのご両親が、消えていくのを、見ていた。止められなかった。……だから、今度こそ、私は、あなたを守りたい。あなたを守る、義務があるのですわ」
ウィズの声は、震えていた。
彼女の淡い紫色の瞳に、深い悲しみが、浮かんでいた。
「……ウィズ」
カズマは、彼女の手を、握り返した。
「お前の過去は、お前のものだ。でも、今のお前が、俺を守ろうとしてくれてる。それだけで、十分だ」
「カズマ君……」
ウィズの目が、大きく見開かれた。
「……ありがとう、ございますわ」
彼女は、涙を浮かべて、微笑んだ。
「ちょっと、二人で、いい雰囲気にならないでよ!」
アクアが、割り込んできた。
「カズマは、私の恋人なのよ! ウィズさん、あなた、手を握りすぎ!」
「そうです! カズマは、私の婚約者です! 他の女性が、気軽に触れてはいけません!」
「カズマ先輩は、私の、爆裂魔法を見てくれる人ですの! 渡しません!」
三人が、一斉に、カズマに詰め寄る。
「お前ら、なんでそこで喧嘩になるんだよ!」
「だって、カズマが、ウィズさんと、いい感じだったから……」
アクアが、唇を尖らせた。
「カズマ、あなたは、誰を選ぶのですか。私ですか、アクアですか、めぐみんですか、それとも……ウィズさんですか」
ダクネスが、真剣な顔で、カズマを見た。
「……え」
「私も、聞きたいですの。カズマ先輩は、誰が、一番、好きなのですか?」
めぐみんも、燃えるような赤い瞳で、カズマを見上げた。
「いや、待て。なんで、そんな話になるんだ。今は、それどころじゃ……」
「答えてください、カズマ」
「答えるまで、離れませんの」
「私も、聞きたいわ。カズマ、誰が好きなの?」
三人の視線が、カズマに、突き刺さる。
(……無理だ。答えられるわけがない)
カズマは、心の中で、頭を抱えた。
誰が一番かなんて、考えたこともない。
いや、考えないようにしてきた。
だって、答えを出したら、何かが壊れてしまいそうで。
「……俺は、お前ら全員、大事だ。それじゃ、ダメなのか」
絞り出すように、言った。
「……全員?」
「カズマ、それは、優柔不断というものです」
「カズマ先輩、ずるいですの」
「……やっぱり、そうなるよな」
カズマは、ため息をついた。
「……まあ、いいですわ。今は、それで」
ウィズが、静かに言った。
「今は、カズマ君の、優しさに、甘えておきますの。でも、いつか、ちゃんと、選んでくださいね。……私も、候補に入っているのかしら?」
ウィズが、いたずらっぽく、微笑んだ。
「えっ」
「ウィズさん! あなた、今、なんて言いました!?」
「私も、カズマ君のことを、知りたいと思っていますの。まだ、恋かどうかは、分かりませんけど……少なくとも、特別な人ですわ」
「……また、増えるのかよ」
カズマは、天井を見上げて、呟いた。
「カズマ、今すぐ、私を選びなさいよ! 私が、一番、あなたのことを想ってるんだから!」
「私も負けません! 婚約者として、カズマを、誰にも渡しません!」
「私の爆裂魔法で、カズマ先輩の心を、撃ち抜いてみせますの!」
「あらあら、賑やかですわね」
四人の少女が、カズマの部屋で、火花を散らす。
(……これ、どう収拾つけるんだよ)
カズマは、心の中で、深いため息をついた。
……それから、しばらくして。
騒動が、ようやく、落ち着いた。
「……行こう」
カズマは、立ち上がった。
「どこへ?」
「中央公園だ。あいつが、また来るなら、俺が、迎え撃つ」
「カズマ、無茶です! あなたの力は、まだ……」
「分かってる。でも、行かなきゃ、何も始まらない。それに……」
カズマは、四人の顔を、順番に見た。
「お前らが、一緒にいてくれるなら、俺は、もう、迷わない」
「……カズマ」
アクアの青い瞳が、潤んだ。
「……ええ、行きましょう。私の水魔法で、あなたを守ります」
「私の剣も、あなたのために振るいます」
「私の爆裂魔法、今度こそ、決めてみせますの!」
「私も、お供しますわ。……あなたを、守るために」
カズマは、頷いた。
そして、五人で、部屋を出た。
ミラドール中央公園。
空は、青白い光で、覆われていた。
池の水面が、ぐらぐらと、歪んでいる。
「……また、あの気配ですわ」
ウィズが、銀色の髪を風に揺らしながら、呟いた。
「来るわよ、カズマ」
アクアが、左腕の青い腕輪を、光らせた。
「ええ。今度こそ、守り抜きます」
ダクネスが、竹刀を、構えた。
「私の爆裂魔法、とくとご覧あれですの!」
めぐみんが、杖を、突き上げた。
その時。
「——ほう。また来たか、選ばれし者よ」
低い、腹の底に響く声。
公園の奥から、漆黒のローブをまとった男が、現れた。
顔は、深いフードで、見えない。
「お前……!」
「懲りない奴だ。昨日、あれだけ痛めつけられて、まだ、立ち上がるか。無駄だと、分からんのか?」
男が、手をかざした。
池の水面が、爆発した。
無数の黒い影。影渡りが、次々と、這い出てくる。
十、二十、いや、もっと。
「……数が、多い」
「でも、やるしかありません!」
「アクア・アクア・アクアリウム!」
アクアが、詠唱した。
青い光が、水の壁を作り、影渡りの群れを、押し返す。
「やあっ!」
ダクネスが、竹刀を振り抜く。
風切り音。影渡りの一体が、真っ二つに裂け、霧散する。
「エクスプロージョン!」
紅蓮の炎が、渦巻く。
爆発。影渡りの群れが、吹き飛んだ。
「……私も、参りますわ」
ウィズが、右手を、ゆっくりと、持ち上げた。
白い指先に、銀色の光の粒子が、集まっていく。
「……消えなさい」
銀色の光が、影渡りの群れを、包み込んだ。
ギィイイイイイイイイ!
影渡りが、悲鳴を上げて、消えていく。
「……やるではないか」
男が、笑った。
「だが、これで、終わりだ」
男が、ローブの内から、一枚の写真を取り出した。
母の形見の写真。
「……やめろ!」
「封印の核よ、砕けよ」
男が、詠唱した。
写真が、黒い光を、放ち始める。
同時に。
池の水面が、大きく、盛り上がった。
影渡りの数が、倍増する。
「……いけませんわ! 封印が、解かれようとしています!」
ウィズの声が、震えた。
「くっ……!」
ダクネスが、影渡りの群れに、押される。
「きゃあっ!」
アクアが、影渡りに、弾き飛ばされた。
「アクア先輩!」
めぐみんが、駆け寄ろうとする。
しかし、影渡りが、彼女の前に、立ちはだかった。
「……くそっ!」
カズマは、歯を食いしばった。
仲間が、次々と、倒れていく。
自分は、何もできない。
右手のひらの紋章は、淡く光るだけ。
力が、出ない。
(……また、何もできないのか)
(……また、守れないのか)
(……俺は、あの日から、何も変わってない)
両親が、消えた日。
何もできなかった、幼い自分。
あの時の、無力感が、蘇る。
(……嫌だ)
(……もう、失いたくない)
(……みんなを、守りたい)
カズマは、ダクネスから贈られた、剣道着の胸元を、ぎゅっと握った。
その時。
剣道着が、熱を帯びた。
「……なんだ?」
胸元から、白い光が、溢れ出してくる。
「……お袋の、剣道着が……」
光が、カズマの体を、包み込んでいく。
温かい。
母の、手のぬくもりみたいだ。
「……俺は、みんなを、守りたい!」
カズマは、叫んだ。
その瞬間。
背中から、光の翼が、広がった。
まぶしい、白い光の翼。
「なに……!?」
男が、初めて、動揺を見せた。
「うおおおおおおおおおお!!」
カズマは、雄叫びを上げた。
光の奔流が、カズマの体から、溢れ出した。
影渡りの群れが、光に呑まれ、消えていく。
ギィイイイイイイイイ!!
断末魔。
光が、公園中を、包み込む。
「……ぐっ!」
男が、たたらを踏んだ。
カズマは、光の翼を羽ばたかせ、男に、突進した。
「返してもらうぞ! お袋の写真を!」
カズマの手が、男のローブを、引き裂いた。
男の手から、写真が、こぼれ落ちる。
カズマは、それを、空中で、受け止めた。
「……取り戻した」
カズマは、写真を、胸に、抱きしめた。
「……小賢しい」
男が、忌々しげに、カズマを睨んだ。
「だが、封印の核は、既に緩んでいる。虚無の環は、諦めない。お前の、大切なものは、いずれ、全て、闇に呑まれる」
男の体が、闇に溶けるように、消えていく。
「……待て!」
しかし、男は、もう、いなかった。
「……カズマ君」
ウィズが、カズマの傍に、歩み寄った。
「これで、終わりじゃ、ありませんわ。虚無の環の、本当の脅威は、これからですの」
「……ああ、分かってる」
カズマは、写真を、握りしめた。
「でも、俺は、もう、逃げない。みんなと、一緒に、戦う」
カズマの言葉に、四人の少女が、顔を上げた。
「カズマ……」
「……カズマ」
「カズマ先輩……」
「……ええ、一緒に、戦いましょう」
アクア、ダクネス、めぐみんの三人が、涙を浮かべて、カズマに、抱きついた。
「うわっ! お前ら、急に何を!」
「だって、カズマが、かっこよかったから……」
「私、感動しました。やはり、あなたは、私の婚約者に、ふさわしい」
「私、カズマ先輩の、光の翼、忘れませんの!」
「……お前ら、離れろって!」
ウィズは、一歩引いて、その光景を、微笑みながら、見守っていた。
「……よかったですわ」
彼女は、小さく、呟いた。
……翌日。
ミラドール高校。
教室に、カズマの姿があった。
「おはよう、カズマ! 今日も、私が、一番近くにいるわよ!」
アクアが、カズマの隣の席に、陣取った。
「何を言ってるの。カズマの一番近くにいるのは、幼なじみの私です」
ダクネスが、カズマの机の前に、立った。
「いいえ、カズマ先輩の心に、一番近いのは、私ですの!」
めぐみんが、カズマの背中に、ぴったりと、くっついた。
「お前ら、朝から、何やってんだ……」
カズマは、頭を抱えた。
「あらあら、皆さん、お元気ですわね」
そこに、銀色の髪の少女が、現れた。
「ウィズ……お前もか」
「ええ、私も、カズマ君の、一番近くにいたいですもの」
ウィズが、微笑んだ。
「……また、増えるのか」
カズマは、天井を見上げて、呟いた。
「カズマ君」
ウィズが、カズマの顔を、覗き込んだ。
「私は、あなたのことを、知っています。あなたは、この世界を、救うために、選ばれた人。……でも、今は、それ以上に、あなたという人を、もっと知りたいと思っていますの」
「……ウィズ」
カズマの心臓が、少しだけ、跳ねた。
「ちょっと! ウィズさん、朝から、何を言ってるのよ!」
「そうです! カズマは、私の婚約者です!」
「カズマ先輩は、私の爆裂魔法の、一番の理解者ですの!」
四人の少女が、カズマを囲んで、騒ぎ始める。
教室中の視線が、カズマに、集まった。
「……なんで、こうなるんだよ。普通に、暮らしたいだけなんだが」
カズマの、小さな呟きは、少女たちの声に、かき消された。
放課後。
カズマは、一人で、屋上に来ていた。
夕焼けが、空を、赤く染めている。
手には、母の形見の写真。
カズマは、写真を、空に、翳した。
夕日が、写真を、透かして、赤く輝く。
「……母さん、父さん」
カズマは、静かに、呟いた。
「俺、まだ、何もできない。でも、守りたいものが、できた。みんなを、守りたい。……だから、見ていてくれ」
風が、吹いた。
カズマの黒髪を、優しく、撫でていく。
「……俺は、もう、逃げない」
夕日が、カズマの横顔を、照らしていた。
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