ふわもこ学園ライフ!~ねえねえ、きょうの放課後はなに食べる?~
ふわもこ学園ライフ!~ねえねえ、きょうの放課後はなに食べる?~
フワワとモココは、ふわふわの白い犬耳を持つ双子の姉妹。今日は小さな地元の学校に通う初めての日。フワワは水色が好きで、モココはピンクが好き。ふたりはいつも一緒に、息ぴったりに「こんにちは!」と挨拶する。
お姉さんのフワワは、おっとりしていて少しマイペース。妹のモココは、元気いっぱいでちょっぴり子どもっぽい。ふたりの好きなものは、いちごやブルーベリーなどのベリーのスイーツ、それにゲームとアニメ。学校の自由時間には、クイズゲームをしたり、おやつを分け合ったりする。
初日のこと。隣の席の男の子が自己紹介をする。田中くん。恥ずかしがり屋で少し不器用だけど、とても優しい男の子。モココが突然たずねる。「田中くんは、ベリー好き?」田中くんは顔を赤らめて、「う、うん、好きだよ」と答える。フワワはそれを見て、静かに微笑む。
その日から、三人のちょっとおかしな、日常が始まる。
お昼になると、モココが田中くんのお弁当をのぞきこんで、「おいしそう!」と言う。田中くんはおかずを分けてくれる。フワワが「モココ、取りすぎだよ」と叱る。でも田中く
ふわもこ学園ライフ!~ねえねえ、きょうの放課後はなに食べる?~ - どっちも大切——屋台のクレープと、まだ名前のない関係
文化祭の夕暮れが、モフレシアの街をやわらかく包んでいた。
田中家のアパートの前。古びた鉄骨階段の下で、フワワとモココは並んで立っていた。
二人とも、さっきまで走ってきたせいで、息が少し弾んでいる。フワワの白い犬耳は汗でしっとりと濡れ、水色のリボンが夕風にふわりと揺れた。モココのピンクのリボンも、同じ風に揺れている。
「……お姉ちゃん、心臓の音、聞こえる?」
モココが、小さく呟いた。
「うん。モココの心臓、すごく速いわ。ドキドキしてるのね」
「お姉ちゃんだって、すごい速いよ」
モココの言葉に、フワワは自分の胸に手を当てた。確かに、心臓が痛いくらいに脈打っている。
(田中くんに、会える)
(でも、会ったら、何を話せばいいの)
昨日の夜、玄関でモココとぶつかったこと。田中くんが高熱で倒れたこと。そして、さっき門の前で、田中くんの姉に「会わせられない」と言われたこと。
全部が、フワワの頭の中でぐるぐると回っていた。
「……モココ、手、繋ごうか」
フワワが手を差し出すと、モココは一瞬迷ってから、ぎゅっと握り返してきた。
モココの手は、冷たかった。それでも、握り返してくれたことが、フワワにはたまらなく嬉しかった。
「……うん」
二人が手を繋いだまま、アパートの階段を見上げていると——
ガチャリ。
玄関のドアが、内側から開いた。
「あら。やっぱり、まだいたのね」
現れたのは、田中くんの姉のさくらだった。
大学生だという彼女は、肩までの黒髪を無造作にまとめ、薄いカーディガンを羽織っている。弟と同じ、やさしげな茶色の瞳。でも、その目は弟よりずっとしっかりとしていて、こちらをまっすぐに見据えていた。
「さ、さくらさん……」
フワワの声が、上ずった。
さくらは、ふっと小さく笑った。
「そんなに緊張しないで。さっきは、ちょっと意地悪しちゃったわね。ごめんなさい」
「え……?」
モココが、フワワの腕にしがみついたまま、さくらを見上げる。
さくらは、腕を組んで、二人の顔をじっと見比べた。
「たける、今、あなたたちのことで悩んでる。すごく、苦しそうに。でもね——」
さくらは、そこで言葉を切った。
夕風が、アパートの前の植え込みを揺らす。
「——でも、会いたいって。二人に、ちゃんと話したいって。そう言ってるの」
フワワの胸の奥が、きゅっと締まった。
モココが、フワワの腕を握る力を強くする。
「私、ちゃんと聞きたい」
モココの声は、震えていた。でも、その目は、まっすぐにさくらを見ていた。
「私も、聞きたいです。田中くんの、本当の気持ちを」
フワワも、さくらの目を見返した。
さくらは、二人の顔を、もう一度、じっと見た。
それから、ふっと表情をやわらげた。
「……ふふ。二人とも、いい顔するのね。たけるが夢中になるわけだわ」
「えっ!?」
「ゆ、夢中って……」
二人の顔が、一気に赤くなる。
さくらは、からかうように笑いながら、玄関のドアを大きく開いた。
「さ、入って。たけるの部屋、案内するわ」
——
田中家のリビングは、こぢんまりとしていたが、きれいに片付いていた。
壁には、家族の写真が何枚か飾ってある。小さな男の子が、さくらに抱っこされている写真。たぶん、田中くんだ。
「はい、お茶。熱いから、気をつけてね」
さくらが、二人の前に、湯気の立つマグカップを置いた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとう、さくらさん」
二人は、ソファに並んで座った。ぎこちない。背筋が伸びている。
さくらは、二人の向かいの椅子に座ると、マグカップを両手で包みながら、ぽつりと言った。
「たける、今日ずっと、あなたたちの写真見てたのよ」
「写真……?」
「ほら、あの子、ゲームもスイーツ作りも下手でしょ。でも、あなたたちと一緒に写った写真だけは、すごく大事にしてて。文化祭の準備で撮ったやつ、何枚も何枚も、寝ながら眺めてたの」
フワワとモココは、顔を見合わせた。
「あの子、ほんとに不器用で。好きな子が二人もできちゃって、どうしたらいいか分かんなくなっちゃったのね」
さくらの言葉に、二人は、思わず苦笑してしまった。
重い空気だったのに、さくらの口調があまりにも自然で、弟を想う気持ちが溢れていて。
「……ふふ。田中くんらしいです」
「もー、田中くんってば、ほんとバカなんだから」
モココの口元が、ようやく、ほんの少しだけほころんだ。
——
田中くんの部屋の前。
さくらが、ドアを二回、軽くノックした。
「たける。フワワさんとモココさん、来てくれたわよ」
しばらく、間があった。
それから、部屋の中から、かすかな声が聞こえた。
「……は、はい。どうぞ」
フワワの犬耳が、その声の震えを、はっきりと拾った。
(田中くん、すごく緊張してる)
(それに、声が、熱で苦しそう)
さくらが、そっとドアを開けた。
部屋の中は、薄暗かった。カーテンが閉められていて、夕方の光が、わずかに差し込むだけ。
ベッドの上に、田中くんが、横たわっていた。
顔が、真っ赤だった。39度の熱のせいで、額には汗が浮かび、髪の毛がしっとりと張り付いている。手首には、姉のお下がりだという黒いリストバンド。
「た、田中くん……」
モココが、フワワの後ろから、そっと顔を覗かせた。
田中くんは、ゆっくりと体を起こそうとした。
「あ、あの、すみません。こんな、かっこうで……」
「いいのよ、寝てて。無理しないで」
フワワは、ベッドの横に、そっと座った。
モココも、フワワの隣に、ちょこんと座る。
田中くんは、布団を握りしめた。
その手が、小刻みに震えている。
「……あの、ぼく……」
田中くんの唇が、震える。
フワワの犬耳が、彼の喉の奥から絞り出される声を、一つ残らず聞き取っていた。
(苦しい。怖い。でも、伝えなきゃ)
声の震えが、そう語っていた。
「ぼく……フワワさんも、モココさんも、どっちも大切で、選べないんです」
田中くんの目から、涙が、こぼれた。
「二人とも、好きなんです。どっちかなんて、決められない。決めたら、どっちかが、傷つく。それが、嫌で。……ごめんなさい」
田中くんは、布団を、ぎゅっと握りしめた。
指が、白くなるほど。
「ずるいよ、そんなの!」
モココが、叫んだ。
「どっちか決めてよ! そうしたら、モココ、諦められる! なのに、そんなの、ずるい! 田中くんのバカ!」
モココのピンクの耳が、激しく震える。大きな目から、涙が、ぼろぼろとこぼれ落ちた。
「ごめん……ごめんなさい……決められないから……ごめん……」
田中くんは、布団を握りしめたまま、何度も謝った。
フワワは、二人の声を、じっと聞いていた。
ケモミミ聴覚が、田中くんの喉の震えを、モココの泣き声の裏にある叫びを、余すことなく拾い上げる。
(ああ、そうだったんだ)
(私たち、二人で、田中くんを、ここまで追い詰めてたんだ)
フワワの胸に、冷たいものが、ゆっくりと広がった。
(私、ずっと、お姉ちゃんだからって、自分の気持ちを隠してきた)
(それが、優しさだと思ってた)
(でも、違った。ただ、逃げてただけだった)
フワワは、田中くんの、震える手を見た。
それから、モココの、涙でぐしゃぐしゃの顔を見た。
そして、自分の、心の奥底を、見つめた。
「……田中くん」
フワワは、静かに、田中くんの名前を呼んだ。
田中くんが、涙で濡れた顔を、ゆっくりと上げる。
「選ばなくていいのよ」
フワワの声は、自分でも驚くほど、静かだった。
「……え?」
「今は、選ばなくていいの。田中くんが、どっちも大切だって、そう思ってくれてる。それだけで、私は、嬉しいの」
フワワは、微笑んだ。
涙が、一筋、頬を伝った。
それから、フワワは、モココの方を向いた。
「モココ、ごめん。私、ずっと、あなたのためって言いながら、自分から逃げてただけだった」
モココの目が、大きく見開かれた。
「本当は、私も、田中くんのこと、好き。でも、お姉ちゃんだからって、言い訳して、あなたに譲る振りをしてた。そうすれば、自分が傷つかなくて済むから。……ずるいのは、私のほうだったの」
フワワの白い犬耳が、完全に垂れた。
水色のリボンが、重力に従って、しおれた花のように下を向く。
「ごめんね、モココ。お姉ちゃん、ごめんね」
フワワの涙が、ぽたぽたと、自分の膝の上に落ちた。
十五年間、心の奥に押し込めてきた、本当の気持ち。
それが、今、涙と一緒に、溢れ出していた。
「お姉ちゃん……」
モココが、フワワの手を、ぎゅっと握った。
「私こそ、ごめん。お姉ちゃんに、隣にいてほしかっただけなの。田中くんのこと好きだけど、お姉ちゃんが遠くに行っちゃうのが、嫌だっただけなの」
モココの声が、震える。
「お姉ちゃんが、モココより先に、どこか行っちゃう気がして。田中くんと、二人で、どこか行っちゃう気がして。それが、すごく、怖かったの」
モココの涙が、フワワの手の甲に、ぽたぽたと落ちた。
「モココ……」
「お姉ちゃん、モココ、お姉ちゃんと一緒がいい。田中くんも、お姉ちゃんも、どっちも、モココの隣にいてほしいの」
モココが、フワワに、しがみついた。
フワワは、モココの体を、ぎゅっと抱きしめた。
二人の犬耳が、互いの涙で、しっとりと濡れていく。
「……ごめんね。お姉ちゃん、どこにも行かないわ。モココの隣に、ずっといる」
「ほんと? 約束してくれる?」
「うん。約束する。お姉ちゃん、モココの隣に、ずっといるから」
姉妹は、ベッドの横で、ぎゅっと手を握り合った。
十五年間、言葉にできなかった依存と独占欲が、ようやく、二人の間で、形になった。
それは、醜いものじゃなかった。
ただ、あったかくて、少し痛くて、でも、確かに、二人を繋ぐものだった。
田中くんは、二人の様子を、じっと見つめていた。
それから、震える声で、言った。
「……ぼく、いつか、ちゃんと、気持ちを返します。今は、ごめんなさい。でも、いつか、必ず」
田中くんの目は、熱で潤んでいた。でも、その奥に、確かな決意があった。
「うん。待ってるわ」
「モココも、待ってる! 田中くん、早く元気になってね!」
モココの声は、まだ涙声だった。でも、その口元は、笑っていた。
三人は、静かに、笑い合った。
——
田中家を出ると、外は、すっかり夕暮れだった。
文化祭の喧騒が、遠くから、風に乗って聞こえてくる。
「たける、少しなら外の空気、吸っても大丈夫よ。熱、下がってきたし」
さくらが、田中くんに、薄手の上着を羽織らせながら言った。
「……はい。ありがとう、姉ちゃん」
田中くんは、まだ少しふらつきながらも、さくらに支えられて、外に出てきた。
四人は、モフレシア商店街——スイートアベニューへと、ゆっくり歩いていった。
文化祭の屋台が、商店街の入り口にも、いくつか出ていた。
ベリーの香りが、あたり一面に漂っている。
「あ! クレープ屋さんだ! お姉ちゃん、クレープ食べたい!」
モココが、フワワの腕を引っ張った。
「ふふ。さっきまで、あんなに泣いてたのに。もう元気ね」
「泣いたらお腹すいたの! それに、文化祭、全然楽しめてなかったし!」
モココは、もう、いつもの元気なモココに戻っていた。
フワワは、その姿を見て、心の底から、ほっとした。
「じゃあ、買いましょうか。田中くんは、何がいい?」
「え、あ、ぼくは……その、同じのでいいです」
田中くんは、まだ顔が赤い。熱のせいか、それとも、別の理由か。
「たける、素直に食べたいもの言いなさいよ。せっかくの文化祭なんだから」
さくらが、弟の背中を、ぽんと叩いた。
「……じゃ、じゃあ、ベリーのクレープで」
田中くんは、小さな声で言った。
——
四人は、スイートアベニューのベンチに並んで座り、ベリークレープを食べた。
いちごと、ブルーベリーと、ラズベリーが、たっぷりと入ったクレープ。
甘酸っぱい香りが、夕風に乗って、鼻をくすぐる。
「おいしい! やっぱり、ベリーのクレープは最高だよ!」
モココが、大きな口で、クレープにかぶりつく。
口の周りに、クリームが付いていた。
「モココ、口の周り、クリームだらけよ」
フワワは、ハンカチを取り出して、モココの口元を拭いてやった。
「えへへ。お姉ちゃん、ありがとう」
「ふふ。どういたしまして」
田中くんは、そんな姉妹のやりとりを、隣で、じっと見ていた。
「……二人とも、本当に仲がいいんですね」
「当たり前だよ! お姉ちゃんとモココは、双子なんだから!」
「でも、喧嘩もするのよ。昨日みたいに」
「……昨日は、ごめんなさい。モココ、お姉ちゃんに、ひどいこと言った」
モココが、クレープを膝の上に置いて、うつむいた。
「いいのよ。私も、ひどいこと言ったわ。おあいこよ」
フワワは、モココの頭を、そっと撫でた。
「……お姉ちゃん、いちごのとこ、一口ちょうだい」
モココが、フワワのクレープを、じっと見つめた。
フワワは、自分のクレープの、いちごが一番たくさん乗っている部分を、モココの口元に、そっと差し出した。
「はい、どうぞ」
「あーん! ……おいしい! お姉ちゃんのクレープ、すごくおいしい!」
モココが、目を輝かせて、笑った。
フワワは、その笑顔を見て、思った。
(ああ、私、この笑顔のために、ずっと、自分の気持ちを隠してきたんだ)
(でも、もう、隠さない)
(私の気持ちも、モココの気持ちも、田中くんの気持ちも、全部、大切にする)
(それが、きっと、私たちの、新しい関係)
クレープの味は、母ココナのタルトとは、違う味だった。
もっと、甘くて、少し、酸っぱくて。
でも、それが、今の三人の味なんだと、フワワは思った。
「……また、三人で、何か作ろうね」
フワワが、言った。
「うん! 今度は、クレープも作りたい! それから、タルトも、リベンジする!」
「……はい。今度は、ちゃんと、三人で」
田中くんが、照れくさそうに、笑った。
文化祭の夕暮れの中で、三人の影が、長く伸びていた。
フワワの白い犬耳と、モココのピンクの犬耳が、同じリズムで、ゆっくりと揺れていた。
——
別れ際。
さくらが、フワワの隣に、そっと近づいてきた。
「フワワさん、あとで連絡するわ。たけるのこと、少し、話したいの」
さくらの声は、モココには聞こえないように、小さく、耳元で囁かれた。
「……はい。わかりました」
フワワは、小さく頷いた。
さくらは、にこりと笑って、田中くんの背中を支えながら、アパートの方へ戻っていった。
その時。
「モココちゃん!」
どこからか、くるみが現れた。
栗色のショートボブを揺らして、星形のヘアピンをきらめかせながら、モココに駆け寄ってくる。
「くるみちゃん!? どうしてここに?」
「文化祭の帰りに、商店街で何か買おうと思って。そしたら、モココちゃんたちが見えたから!」
くるみは、そう言いながら、モココのポケットに、何かを押し込んだ。
「モココ、何かあったら連絡して。あんたの味方になるから」
くるみは、モココの耳元で、そう囁いた。
「え……くるみちゃん?」
「じゃあね! フワワちゃんも、おつかれさま! また明日、学園で!」
くるみは、手を振りながら、人混みの中へ消えていった。
モココは、ポケットの中のものを、そっと取り出した。
小さなメモ用紙。
そこには、くるみの連絡先と、『あんたの味方になるから』という言葉が、丸っこい字で書かれていた。
モココは、そのメモを、ぎゅっと握りしめた。
「モココ、帰りましょうか」
フワワが、モココの手を取った。
「……うん」
モココは、メモをポケットにしまい、フワワの手を握り返した。
姉妹は、家路についた。
夕暮れの空に、一番星が、ぽつりと光っていた。
二人の耳は、同じリズムで揺れていた。
でも、フワワの手の中には、さくらの言葉の重みが。
モココの手の中には、くるみのメモの温もりが。
それぞれ、違う温もりが、残されていた。
求める温もりの方向は、もう、完全には、重なっていなかった。
それでも、今は、まだ。
二人は、繋いだ手の温もりだけを、確かめながら、歩いていた。Noveliaとは?
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