騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜
黒い企業で命を落とした20歳のタツヤは、女神の手違いで異世界に転生する。お詫びとして授かったスキルは、女性の本音が視える能力だった。
最初はその有用性に半信半疑だったが、冒険者ギルドで出会った金髪の女騎士リュネ・ヴァルデュール。冷たく棘のある外面とは裏腹に、その内なる声はまったく別物で――。
以来、戦闘中であれ浴場であれ、周囲の女性たちの本音が聞こえてくる。氷の女王と呼ばれる美貌の魔術師セリア・フィレンツァは実は寂しがり屋で、エルフの姫は人間の男に興味津々、女海賊船長は究極のツンデレ、計算高い女商人は一途な恋心を秘めていた。
スキルを駆使し、最強の美女たちの弱点や秘密を知ったタツヤは、次々とその心と身体を開いていく。だが、彼女たちの内なる声は愛情と同時に、昏い独占欲にも満ちていて、タツヤは日々の混沌に巻き込まれていく。
そんな中、女たちの本音から、この世界を統べる魔王が実は女であり、千年もの間『真実の愛』を探し求めていることを知る。タツヤは彼女すらも落とすことを決意する。
世界を救うのか、ハーレム王国を築くのか、それともヤンデレ地獄に堕ちるのか。本音が聞こえるからこそ、タツヤ
騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜 - 死んで異世界、拾われて本音筒抜け——運命の金髪に目が離せない
深夜のオフィスで、田中タツヤは床に倒れていた。
蛍光灯がチカチカしてて、それがやけにまぶしい。山積みの書類の向こうで、誰かが冷めたコーヒーを机に置く音が聞こえた気がした。モニターには【今月の残業時間:200時間突破!】って文字が、なんかの罰ゲームみたいに点滅してる。
(ああ、そうか)
指一本、動かない。ブラック企業に入って半年。毎日終電で帰って、土日もなくて、上司に怒鳴られてばかりで。でも、辞めたら人生終わりだって、そう思ってた。
(俺、こんなところで、死ぬんだ)
誰かに名前を呼ばれた気がしたけど、それももう、遠かった。
深い眠りに落ちるように、タツヤの意識は途切れた。
――そして。
「[excited]あー、えっとですね! 手違いが発生しまして!」
真っ白で無音の空間に、ぽわんと光る丸い玉が浮かんでいた。野球ボールくらいの大きさで、ふわふわ揺れてる。タツヤが呆然と見つめていると、光の玉は申し訳なさそうに、でもどこか軽いノリで話し始めた。
「[scared]本来転生するはずだった人と、お名前がちょっと似てたみたいで……あはは……」
「……は?」
呆気にとられて、それしか言えなかった。名前が似てたからって、そんな理由で? 社畜生活で磨き上げた忍耐力も、これは想定外だ。
「[excited]というわけで! お詫びのチートスキルです! どうぞ!」
光の玉がぱあっと輝くと、タツヤの頭の中に変な知識が流れ込んできた。スキル名は《女性の本音聴取》。読んで字のごとく、視界に入った女性の心の声が、自動でぜんぶ聞こえちゃうらしい。
「[surprised]いや、ちょっと待って! それって覗き見じゃないですか!」
「[gentle]オンオフできないけど、男性には無効だから安心して! じゃ、良い異世界ライフを!」
言い捨てて、光の玉はぱっと消えた。
「……マジかよ」
タツヤは白い空間にひとり残されて、ぼんやり立ち尽くした。
(死んだのか、俺。で、間違えられて、変なスキルもらって、これから異世界?)
うまく整理できなくて、頭をかいた。でも、考えてる間に、白い空間がぐにゃりと歪み始める。視界が暗くなって、遠くから潮の香りがしてきて――。
次の瞬間、タツヤは固い石畳の上に尻もちをついていた。
「いって……」
鼻を突く潮風。遠くでカモメが鳴いてる。ごった返す魚市場の喧騒と、馬車の蹄鉄が石を打つ音。見上げると、石造りの建物が立ち並んで、風に揺れる看板には、まったく知らない文字で何かが書いてある。
ここが、異世界か。
タツヤはまず、自分の体を確認した。20歳前後の、まだ若い体に戻ってる。黒いショートヘア、左耳には小さい傷跡。目は深い茶色で、昔から「眠そう」って言われた顔だ。服装は白いシャツに黒のスラックス、それに革製のベスト。ポケットは空っぽで、剣も武器も何もない。
(お金も、装備も、知り合いもゼロか)
社畜時代の処世術が、体に染みついていた。パニックになる前に、まず状況把握。深呼吸ひとつ。
(大丈夫だ。まだ何とかなる)
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
――あの人、どこか呆然としてるわね。旅人かしら。
通りすがりの女性行商人の心の声が、耳元でささやかれたみたいに、すっと頭に入ってきた。タツヤはびっくりして彼女を見たけど、彼女はにこりと笑っただけで、別の客の方へ行ってしまった。
(あ、本当に聞こえるんだ……)
スキルが、ちゃんと発動してる。
でも、それだけじゃなかった。道行く女性たちの雑多な心の声が、まるでノイズみたいに次から次へと流れ込んでくる。
――今日の魚、ちょっと高いわね。
――あの人すごい筋肉……ちょっと見とれちゃった。
――子供にやるお菓子、どこで買おうかしら。
ぜんぶが聞こえて、ぜんぶが頭の中でぐるぐる回って、ちょっと気持ち悪かった。聞きたくないことまで、ぜんぶ。
(これは……慣れるのに時間がかかりそうだな)
タツヤは小さくため息をついて、石造りの建物が並ぶ通りを歩き出した。馬車が横を通りすぎる。道の端には、なんだかぼんやり光る街灯――あれが魔法の灯りなんだろうか。
人々の会話から「魔物が出た」「銀翼の会で依頼を受けろ」なんて単語が拾える。どうやらこの街には、銀翼の会っていう冒険者を集める組織があるらしい。そして依頼を受ければ、魔物を倒してお金がもらえる仕組みだ。
港町の通りを進むと、やがて三階建ての大きな石造りの建物が見えてきた。看板には銀色の翼をかたどった紋章。ここが、銀翼の会カルナック支部か。
中に入ると、一階は広い酒場と依頼所が一緒になったような場所だった。がやがやとした喧騒の中、いろんな格好をした冒険者たちが、壁に貼られた依頼書を眺めている。
【スライム討伐・E級・報酬:銅貨10枚】
【ドラゴン討伐・S級・報酬:1000ゴールド】
ランクがEからSまであること。低いランクの依頼からこなして、お金を稼いでいくこと。ここに来るまでの道すがら、なんとなくわかってきた。
タツヤはカウンターへ向かった。
「[gentle]登録したいんですけど」
カウンターに立っていたのは、茶髪をポニーテールにした美人の受付嬢だった。年の頃は二十代半ば。マリスという名札をつけて、ぱっと目を引く笑顔を浮かべている。
「[gentle]ありがとうございます! それでは、登録費として10ゴールドいただきますね」
彼女の声はとても優しい。でも、タツヤの頭には、その瞬間――。
――またか。装備もなし、お金もなし。どうせ最初の依頼で死ぬ能無しじゃない。時間の無駄なのよね。
彼女の本音が、はっきりと流れ込んできた。
タツヤは表情を変えなかった。社畜時代、上司にどれだけ怒鳴られても平気な顔をしてきたんだ。これくらいで動揺はしない。
でも、胸の奥がちょっとだけ痛んだ。
(そうか。この世界じゃ、俺は最底辺か)
「[sad]すみません、今はお金がなくて……」
「[gentle]あら、では申し訳ありませんが、保証人もしくは資金をご用意いただかないと……登録はできかねますね」
――さっさと出てってくれないかしら。邪魔なのよね。
「[serious]わかりました。失礼します」
タツヤはくるりと背を向けた。愛想笑いの裏であんなにボロクソ言われるなんて。便利なスキルだけど、聞きたくない言葉までぜんぶ届くのは、なかなかにきつい。
ギルドを出たタツヤは、お腹をぐうと鳴らした。転生してから、まだ何も食べてない。
路地の壁に寄りかかって、ぼんやりと空を見上げる。夕日が港を赤く染め始めていた。海からの潮風が、肌に冷たい。
行き交う冒険者たちの雑談が耳に入る。
「――パトロン契約するか? あいつ、新人のくせに生意気だけど、金だけはあるんだよな」
「報酬の三割も持っていかれるのは痛えけど、最初のうちは必要かもな」
パトロン契約。上位の冒険者が新人に登録費や訓練をあげて、そのぶんあとから報酬をがっぽり取る仕組み。タツヤはぼんやり考えた。
(誰かにパトロンになってもらえれば、登録費がなんとかなるのか)
でも、声をかける相手もいない。さっきのマリスの本音を思い出すと、余計に気が重くなった。
そんな時だった。
――今だ、後ろから……。
スキルが、不意に反応した。タツヤはとっさに身をかわす。後ろから伸びてきた手が、空を切った。振り返ると、10代後半くらいの女の子が、路地の壁に背をつけて、しまったって顔をしてる。
――見つかった! でもこの人、武器もないし弱そう。強く出れば諦めるでしょ。
彼女の本音が、また聞こえた。
「[sad]なに、お腹空いてるの?」
女の子はぽかんと口を開けた。
「[surprised]なんでわかったの……?」
「[gentle]お腹空いてるなら、一緒に方法を考えようよ」
女の子は、しばらく唖然としてから、ぱっと走り出した。逃げながら、彼女の心の声がどんどん遠ざかっていく。
――こわ……でも、ちょっと……変な人。
変な人、か。そうかもしれない。
でも、タツヤはちょっと嬉しかった。このスキルは、危険察知にも使える。自分の身を守る、大事な武器になるかもしれない。
だけど、空腹と疲労で足がふらついて、また壁にもたれてしまった。
「どうする……どうすればいいんだ」
小さく呟いた、その正面から。
カツカツと、鎧の足音が近づいてくる。
夕日を背にして歩いてくるのは、白い鎧に青いマントをまとった女騎士だった。まっすぐな金の髪が、夕日に透けてきらきら光ってる。蒼い瞳は、獲物を狙う鷹みたいに鋭くて、でも、どこか寂しげだった。
年の頃は十八くらいだろうか。腰に下げた剣が、動くたびに陽光を跳ね返す。背は高く、しなやかで、彫刻みたいに整った横顔。リュネ・ヴァルデュール――名前は、まだ知らないけど。
タツヤは疲れで体が動かなくて、よけるのが間に合わなかった。
どん、と。
角でぶつかって、女騎士が持っていた羊皮紙の束がばさばさと散らばる。タツヤは派手に尻もちをついた。
「[cold]みすぼらしい格好で、道の真ん中に突っ立っているから悪い。どけ」
彼女はちらりともこっちを見ず、落ちた書類を一枚一枚、無表情で拾い始めた。ギルドから出てきた冒険者たちが、くすくすと笑いながら通りすぎていく。
「[sad]す、すみません」
謝りながら立ち上がろうとした、その瞬間――。
――あれ? ぶつかった拍子に、顔が近かった。目が大きくて、まつげ長くて……なんか……ちょっと、かわいいかも。
女騎士の心の声が、あまりにはっきりと、タツヤの頭の中に流れ込んできた。
――って、何考えてるの私!? 誰に見られるわけでもないのに、顔が熱い、最悪!
タツヤは立ち上がりかけた姿勢のまま、固まった。
外見は、完璧に冷たい。鎧を着て、剣をさげて、表情ひとつも変えないで。なのに内面はこれか――! 乙女全開にもほどがある。
なんだか、胸の奥がざわついた。
(この子、実は……すごくかわいいんじゃないか?)
冷たく突き放す声と、まつげ長くてかわいいかもって内心の間のギャップが、頭の中でぐるぐる回る。
恋愛とか、そういうのとはちょっと違うかもしれない。でも、この子のこともっと知りたい、って思ってしまった。
リュネは書類を拾い終えると、何も言わずに歩き出そうとした。
(このスキルは、相手が何を望んでるかわかる。何が急所かもわかる。元社畜として、人の顔色を読んで生きてきた俺には、これが一番の武器になるかもしれない)
立ち上がったタツヤは、歩き去る背中を見つめながら、そう確信した。同時に、強制的に他人の本音を聞き続けることへの罪悪感も、静かに胸の奥に芽生えた。
(でも、これを使わなきゃ、俺はこの世界でただ死ぬだけだ)
「[serious]ちょっと、待って――」
声をかけようとした、その時には、リュネはもうギルドの重い扉を開けて、中に消えていた。
「……もう一度会えたら、今度は準備してから話しかけよう」
タツヤは閉まった扉を見つめて、小さく呟いた。
夕日が港を真っ赤に染めている。嘆きの海からの潮風が、髪を揺らした。
タツヤは石畳の段差に腰を下ろして、ぼんやりと考えた。所持金ゼロ。装備ゼロ。知り合いゼロ。宿もない。元社畜の強みは、忍耐力と空気を読む力だけ。
でも。
あの女騎士の心の声は、全部聞こえた。孤独で、誰かに必要とされたくて、でも素直に言えなくて――そんな寂しがり屋の本音。
(あの本音を使えば、パトロン契約を引き出せるかもしれない)
そう思ったら、ちょっとだけ、道が開けた気がした。
まつげ長くてちょっとかわいいかも、って声がまだ耳の奥に残ってて、なんだか自分の頬が熱い。
「[angry]って、なに考えてんだ俺は!」
ぶんぶんと頭を振ったけど、胸のざわつきは消えなかった。あの金髪の蒼い瞳が、頭から離れない。腹が、ぐうと鳴る。現実的な問題と、心のざわつきがごちゃまぜで、笑えてくる。
ギルドの窓に、ふと目をやった。
リュネが、依頼掲示板を眺めながら、何かを考えている。距離があるからスキルは届かないけど、彼女は不意に、扉の方へ視線を向けた。
――なんか、また向こうから目が合いそうな気がする。
そんな、根拠のない確信が、タツヤの中に灯った。
やるべきことは、はっきりしてる。
まずは登録費の10ゴールド。一文無しでどうやって用意するか。そして、あの女騎士にどうやって近づいて、パトロン契約を引き出すか。
この変なスキルと、社畜で培った根性だけが頼りだ。
港に、夕闇が降り始めていた。