騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜
黒い企業で命を落とした20歳のタツヤは、女神の手違いで異世界に転生する。お詫びとして授かったスキルは、女性の本音が視える能力だった。
最初はその有用性に半信半疑だったが、冒険者ギルドで出会った金髪の女騎士リュネ・ヴァルデュール。冷たく棘のある外面とは裏腹に、その内なる声はまったく別物で――。
以来、戦闘中であれ浴場であれ、周囲の女性たちの本音が聞こえてくる。氷の女王と呼ばれる美貌の魔術師セリア・フィレンツァは実は寂しがり屋で、エルフの姫は人間の男に興味津々、女海賊船長は究極のツンデレ、計算高い女商人は一途な恋心を秘めていた。
スキルを駆使し、最強の美女たちの弱点や秘密を知ったタツヤは、次々とその心と身体を開いていく。だが、彼女たちの内なる声は愛情と同時に、昏い独占欲にも満ちていて、タツヤは日々の混沌に巻き込まれていく。
そんな中、女たちの本音から、この世界を統べる魔王が実は女であり、千年もの間『真実の愛』を探し求めていることを知る。タツヤは彼女すらも落とすことを決意する。
世界を救うのか、ハーレム王国を築くのか、それともヤンデレ地獄に堕ちるのか。本音が聞こえるからこそ、タツヤ
騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜 - 快気祝いの断罪劇——本音が暴いた悪意と、二人だけの夜明け
ギルド一階の酒場に、ざわざわと人が集まっていた。
壁のランタンが揺れるたび、影がうごめく。
長机の上には安い酒と、盛り合わせの干し肉。
ドルフが「リュネの快気祝いだ」と言って声をかけた集まりだった。
三十人ほどの冒険者たちが、杯を片手に話している。
「あの女騎士さん、大怪我だったらしいぜ」
[C級の依頼で相打ちか。無事で何よりだ]
「でも、あのEランクの男も一緒だったんだろ?」
ささやく声が、いくつも聞こえる。
タツヤは末席で、ヴィオラと並んで座っていた。
彼女は銀の髪を揺らし、無表情で杯を見下ろしている。
――中身、蜂蜜酒。匂いだけで喉が焼ける。
ヴィオラの本音が、スキルを通して流れ込む。
彼女は静かに杯をテーブルに戻した。
音も立てず、顔色も変えない。
――甘い、苦手。でも顔に出すな、氷の女王なんだから。
「……ぷっ」
タツヤは思わず吹き出した。
「[cold]何がおかしいのですか」
「[gentle]いや、その、なんでもないです」
――絶対、何か察してる顔。
ヴィオラの耳が、ほんの少しだけ赤くなる。
スキルが拾う周囲の本音も、ざわついていた。
――副マスター、今日は妙に機嫌がいい。
――何か企んでる感じがする。
――あの太ったオッサン、嫌い。
タツヤはコップの水を一口含み、上座を見た。
ドルフが、にこにこと笑いながら立ち上がる。
「[excited]皆、集まってくれて嬉しいよ! 本日は、我らがヴァルデュール家の令嬢が無事に回復されたことを祝う、めでたい席だ!」
手を叩き、愛想を振りまく。
その腹の中は、スキルでも読めない。
(来るな)
タツヤは膝の上で拳を握った。
「[serious]さて、祝いの席で恐縮だが」
空気が、変わった。
複数人が顔を見合わせる。
「[serious]リュネとEランクのタツヤが結んでいたパトロン契約について、見直しの提案がある。彼の任務失敗と、リュネの負傷は無関係ではない。今後、同様の事態を避けるためにも、ここで契約の無効を――」
「[serious]ちょっと待ってください」
静かな声だった。
でも、酒場全体に届いた。
ドルフの笑顔が、わずかに硬直する。
タツヤは立ち上がった。
心臓がうるさい。
でも、膝は笑っていない。
「[serious]一つ、確認させてください」
隣でヴィオラが立ち上がり、手にしていた書類の束を隣の冒険者に渡した。
手から手へ、紙が配られていく。
「[cold]三件の依頼台帳に改竄の痕跡があります。番号の飛びと、発注経路の不自然な変更。こちらが証言書の写しと、本物の台帳控えです」
ざわ、と空気が波立つ。
冒険者たちが書類を覗き込み、眉をひそめる。
「な、なんだこれ……三年前の依頼だ」
「採番が一個飛んでるぞ」
「[angry]捏造だ! そんなものが証拠になるか!」
ドルフの声が、裏返った。
その時、酒場の扉が開いた。
白い包帯。
金色の髪。
リュネが、立っていた。
顔色はまだ青白い。左肩から胸にかけて包帯が巻かれ、左腕は布で吊られている。
でも、目は真っ直ぐに前を向いていた。
――ここに私がいないわけにはいかない。タツヤの隣に立ちたい。
スキルが、リュネの本音を拾う。
タツヤの胸が、きゅうと痛んだ。
「[cold]ギルドマスター、ご覧ください」
リュネが、静かに言う。
カウンターの奥から、銀髪を一つに束ねたエルフの女性――銀翼の会カルナック支部長、ミレーヌ・シルフィードが歩み出た。
その眉は厳しく寄せられ、鋭い目が書類に向けられる。
酒場が、水を打ったように静まった。
ミレーヌは一枚、また一枚と書類をめくる。
その度に、部屋の温度が下がっていく。
ドルフの額に、汗が滲んだ。
「[cold]……ガンドール副マスター」
書類を机に置く。
その音が、妙に大きく響いた。
「[cold]この証拠について、説明を求めます」
ドルフの顔が、真っ青になった。
愛想笑いが、へばりついたまま消えない。
「[scared]こ、こんなもの、でっちあげだ! あの小僧が! あのEランクが!」
「[serious]冒険者二名、副マスターの身柄を確保しなさい」
その瞬間、ドルフが内ポケットに手を突っ込んだ。
「くそっ!!」
取り出したのは、親指ほどの赤黒い石。
召喚石だ。
ドルフが石を床に叩きつける。
バァァン!!
煙が爆発した。
テーブルがひっくり返り、杯が床に散る。
「うわっ!」
「なんだ!?」
煙の中から、唸り声が聞こえた。
二体。
中型の魔狼が、酒場の中央に出現していた。
灰色の毛皮に、黄色く光る目。口から唾液が滴り、鋭い牙がむき出しになっている。
「[scared]ひっ……!」
冒険者たちが一斉に後退した。
ドルフはその隙に、裏口へ走り出す。
(行かせるか!)
タツヤはスキルを全開にした。
メス個体の本能が、頭の中に流れ込む。
――縄張りがわからない。ここはどこだ。
――煙の匂い、嫌い。
――あの太った男、なんか臭い。
「[angry]あいつら、ドルフの匂いが嫌いみたいです!!」
酒場中の冒険者が、一瞬ぽかんとした。
――よりにもよってそれを言うの……?
隣でヴィオラの本音が聞こえた。
「[serious]でも、有効です!」
その言葉で、動きが再開する。
「[serious]あんたはそっちの出口を塞げ!」
リュネが包帯姿で叫び、右手で剣を抜いた。
魔法剣が、淡い青の光を放つ。
彼女は右の魔狼に切りかかり、一体を引きつけた。
「[cold]左は私が」
ヴィオラの手から、氷の柱が三本、立て続けに放たれる。
ドゴッ! ドゴッ! ドゴッ!
柱が左の魔狼の足を凍らせ、壁際に押さえ込んだ。
タツヤはドルフが逃げ込もうとする出口の前に、立ち塞がった。
両手を広げる。
「[sarcastic]どけ!! この役立たずが!!」
ドルフが顔を歪め、唾を飛ばす。
「[serious]どこにも行かせませんよ。もう、終わりです」
後ろから、静かな声が降ってきた。
「[cold]副マスター・ガンドール、観念しなさい」
ドルフの肩が、がくんと落ちる。
その瞬間。
リュネの魔法剣が、右の魔狼の核を貫いた。
ヴィオラが放った氷の槍が、左の魔狼の核を砕く。
二体同時に、魔狼が光の粒子となって消えた。
酒場に、沈黙が落ちる。
誰かが、拍手した。
それが連鎖し、拍手が広がる。
口笛も聞こえた。
「すげえ! 一瞬で倒しやがった!」
「あの怪我で動けるのか、あの女騎士……!」
リュネが、壁に手をついて、わずかによろめいた。
「っ……」
包帯の隙間から、汗が一筋、白い首筋を伝う。
タツヤが駆け寄り、左腕を支えた。
手が触れる。
包帯越しの体温。
リュネの肩が、小さく跳ねた。
――この人の手、あたたかい。離したくない。
リュネの本音が、スキルに届く。
彼女はタツヤの手を振り払わなかった。
「[whispers]……ありがとう」
声は、本当に小さかった。
「[gentle]無茶しないでくださいよ」
自分の声が、少し掠れているのに気づく。
心拍が、速くなっていた。
少し離れた場所で、ヴィオラが二人から視線を外し、ギルドマスターの方を向いた。
――いいな。
スキルに届いたのは、ほんの一音だけ。
ドルフが、冒険者二名に腕を掴まれ、ギルドの奥へ連行されていく。
抵抗する力は、もう残っていなかった。
「[serious]処分はギルドの規則に従います」
ミレーヌが宣言し、酒場はようやく落ち着きを取り戻した。
冒険者たちが、次々にタツヤたちの周りに集まってくる。
「お前、この前は見くびって悪かったな。なかなかやるじゃねえか」
「氷の女王と組んであの太鼓腹を追い詰めるとは、たいしたもんだよ」
タツヤは軽く頭を下げながら、カウンターの向こうをちらりと見た。
マリスが、立っていた。
ポニーテールの茶髪が、かすかに揺れている。
彼女はタツヤたちをじっと見つめ、そして目を伏せた。
――私、ずっと見て見ぬふりしてた。ごめんなさい。
どこにも向けられない謝罪の本音が、スキルに流れ込む。
タツヤは黙って、それを胸にしまった。
人の輪が落ち着いた頃、ヴィオラが踵を返した。
「[cold]役目は果たしました。では、私はこれで」
銀の髪が揺れる。
「[serious]待ってくれますか」
タツヤの声に、ヴィオラの足が止まった。
彼女は振り返らない。
「[gentle]ありがとうございました。一人でやり続けてくれていたから、今日があったと思います」
ヴィオラの肩が、わずかに揺れた。
――泣きそう。なぜ。二年ぶりに、誰かに言われた。アルテに言いたかった言葉を、この人が言う。
混乱した感情が、スキルを通して伝わる。
タツヤは、それ以上何も言わなかった。
「[sarcastic]……あなたも、時々ギルドに顔を出しなさい」
隣から、感謝のかけらも感じさせない声が飛ぶ。
「[sarcastic]迷惑をかけた分、しっかり働いてもらう」
――それを言うのか……。
ヴィオラの本音に、呆れと、なぜか小さな笑いが混じっていた。
彼女は振り返らず、わずかに口角を動かした。
「[cold]……今後も、有用な情報があれば共有します」
それだけ言って、ヴィオラは夜の街へ消えていった。
貝殻の宿、三階の角部屋。
窓から嘆きの海を渡る夜風が、薄いカーテンを揺らしている。
ランタンの灯りが、部屋を橙色に染めていた。
リュネはベッドに腰を下ろし、深く息を吐いた。
包帯が、呼吸に合わせてわずかに動く。
「[gentle]……疲れましたね」
タツヤがランタンを消そうと手を伸ばした時だった。
「[whispers]今夜は、一人にしないで」
低い声。
リュネの手が、タツヤの手首を握った。
細い指が、震えている。
――もう強がりたくない。ずっとそばにいてほしい。ただそれだけ。
スキルが、リュネの本音を拾う。
タツヤはリュネの手を、両手で包んだ。
床に膝をつき、彼女と目の高さを合わせる。
ランタンの残光が、リュネの金髪を照らしていた。
包帯の端からのぞく鎖骨の白さ。
潤んだ蒼い瞳が、タツヤを見上げている。
「[gentle]行かないよ」
タツヤの指が、リュネの手の甲の上で、ゆっくりと動く。
リュネが、空いた手でタツヤの頬に触れた。
白い指先が、そっと輪郭をなぞる。
「[whispers]……熱い」
「[gentle]今更気づきましたか」
二人の間の空気が、静かに変わった。
リュネが、引き寄せる。
タツヤはそれに逆らわず、ベッドの縁に腰を下ろし、彼女の肩を抱いた。
包帯越しの体温。
リュネの浅い呼吸が、耳のすぐ近くで繰り返される。
鎧も、剣も、何もない。
ただ一人の女の子として、タツヤにもたれかかる重さ。
(これが、彼女が背負ってきた孤独の重さか)
タツヤは思った。
窓の外で、波の音が遠く聞こえる。
リュネの手が、タツヤの服の胸元を指先で掴む。
そのまま、彼女の呼吸がゆっくりと深くなり、肩の力が抜けていった。
眠ったのだ。
タツヤは、彼女の寝息が安定したのを確認してから、そっと天井を見上げた。
ドキドキと、自分の心臓がまだうるさい。
(……寝れる気がしねえ)
口元だけで、苦笑した。
朝が来るまで、二人は動かなかった。
窓から差し込む光が、部屋を白く変えていく。
リュネが、先に目を覚ました。
自分の頭が、タツヤの肩に乗っていることに気づく。
――いつから……全部見られてた? 最悪、最高、最悪。
「うるさ」
思わず声に出た。
スキル越しの本音が、爆音すぎる。
「[scared]な、なにがうるさいのよ!?」
リュネが真っ赤になって飛び起き、枕を掴んでタツヤの顔に押し付けた。
「[laughing]いや、なんでもないっす」
タツヤは目を開けたまま、口元だけで笑う。
「[angry]見てないで起きなさいよ!」
頬を赤くしたまま、リュネが立ち上がる。
――……おはよう。
スキルに、恥ずかしそうな本音が届く。
「[gentle]おはようございます、リュネ」
リュネが、少しの間を置いた。
「[whispers]……おはよう」
――また、こうしていたい。
その本音に、タツヤは枕に顔を埋めて、声が出ないようにした。
同じ朝。
カルナックの北東、霧深き森の縁。
朝霧がうっすらと立ち込める木立の中、銀色の長いウェーブヘアが風に揺れていた。
長く尖った耳。
左右で色の違う瞳――左は銀、右は金。
セリア・フィレンツァは、手の中の小さな封書を握りしめ、街を見下ろしていた。
好奇心に満ちた翠の光が、その瞳に宿っている。
「[whispers]……あの噂の人間の男に、会いに行きましょう」
密書の封蝋には、ドルフが使っていたものとは別の、誰のものかまだ判明しない紋章が押されていた。
誰が、何のために彼女を動かしたのか。
目的は、霧の中に溶けたままだ。
彼女の後ろで、木々が静かに朝風に揺れていた。
この街に、新たな波乱が静かに近づいている。