騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜
黒い企業で命を落とした20歳のタツヤは、女神の手違いで異世界に転生する。お詫びとして授かったスキルは、女性の本音が視える能力だった。
最初はその有用性に半信半疑だったが、冒険者ギルドで出会った金髪の女騎士リュネ・ヴァルデュール。冷たく棘のある外面とは裏腹に、その内なる声はまったく別物で――。
以来、戦闘中であれ浴場であれ、周囲の女性たちの本音が聞こえてくる。氷の女王と呼ばれる美貌の魔術師セリア・フィレンツァは実は寂しがり屋で、エルフの姫は人間の男に興味津々、女海賊船長は究極のツンデレ、計算高い女商人は一途な恋心を秘めていた。
スキルを駆使し、最強の美女たちの弱点や秘密を知ったタツヤは、次々とその心と身体を開いていく。だが、彼女たちの内なる声は愛情と同時に、昏い独占欲にも満ちていて、タツヤは日々の混沌に巻き込まれていく。
そんな中、女たちの本音から、この世界を統べる魔王が実は女であり、千年もの間『真実の愛』を探し求めていることを知る。タツヤは彼女すらも落とすことを決意する。
世界を救うのか、ハーレム王国を築くのか、それともヤンデレ地獄に堕ちるのか。本音が聞こえるからこそ、タツヤ
騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜 - 氷の女王と病室の誓い——本音が溶かす、二つの孤独
冷たい石床。
背中が壁に触れている。呼吸のたびに肋骨が痛む。
(俺は、なんで生きてるんだろうな)
タツヤは膝を抱えたまま、ギルドの廊下を見つめていた。ランタンの灯りが、石壁に長い影を落としている。
医務室の扉は、閉まったままだ。リュネの包帯。白い布に滲んだ赤。まだ、目の裏に焼き付いている。
――守れなかった。
自分の手のひらを見る。血の跡は、もうない。でも感覚だけが残っている。ぬるりとした彼女の血の温度。
「[cold]あなたが、あの任務に連れていかれた人間ですね」
声が、した。
顔を上げる。
白いローブ。銀色の長い髪。氷のような青い瞳が、タツヤを見下ろしていた。
いつから、そこに。
まるで空気が凍るような冷たさ。女性は無表情のまま、動かない。
――また、誰かが傷ついた。私がもっと早く動いていれば。
スキルが、拾う。
深い、深い自責の声。冷たい外面の奥で、誰かが自分を責め続けている。
「あんたは……」
「[cold]ヴィオラ・ストームレイン」
言葉は短く、そして重い。
「[cold]氷の女王と、呼ばれている。知らなくても構わない」
――一人でやるには限界だった。誰かと一緒に戦いたいだけなのに。
本音が、痛いほど流れ込んでくる。
タツヤは、ゆっくりと立ち上がった。
「[gentle]その、なんていうか」
膝が笑う。寝不足と空腹で頭がぼんやりしている。
「[gentle]よかったら、座りますか? ここ、床、冷たいですけど」
ヴィオラの動きが、止まった。
氷のような瞳が、わずかに大きくなる。
――この人、今の状況でそれを言うの……?
スキルに、純粋な戸惑いが届く。
「[cold]……状況を、理解していますか」
「[gentle]あんまり」
正直に言う。ヴィオラは一瞬だけ沈黙し、それから、ローブの内側から分厚い書類の束を取り出した。
「[serious]ドルフ・ガンドール。副マスターが過去に三件、同様の手口で冒険者を死地に送り込んだ証拠です」
「[surprised]は」
「[cold]依頼台帳の控え。証言記録。ただし、発注経路の改竄を立証するには正式台帳との照合が必要になる。難しい作業です。私一人では、手に余っていた」
――頼れる人がいなかった。誰にも頼めなかった。
タツヤの胸が、きゅうと痛む。
「[gentle]見せてください」
書類を受け取る。紙の感触。インクの匂い。
視線を走らせる。数字。日付。署名。パターン。
「[gentle]ここ」
指で差した。依頼番号の飛び。
「[gentle]この番号、採番ルールから外れてる。誰かが人為的にずらした痕跡です」
ヴィオラが、目を見開いた。
――この人、なぜこんなことが分かる……使える。
「[cold]……驚きました。たった数分で」
「[gentle]元社畜のサガですよ。書類の不整合は、エクセルで見飽きるほど見てきた」
「[cold]えくせる? 魔導具の一種ですか」
「[gentle]まあ、そんなもんです」
――やっぱり変な人。でも、頼りになる。
本音が、かすかに温かくなる。
深夜。
台帳の照合が一段落し、ランタンの灯りだけが二人を照らしていた。
ヴィオラの銀髪が、光の中で溶けるように輝いている。白い横顔。細い前腕がローブの袖から覗き、傷のない肌が白く浮かんで見えた。
タツヤは、気づいてしまう。
(綺麗だ)
視線が、一瞬止まった。
――見られてる。なぜ平静でいられないの、私は。
スキルに、困惑の声が届く。ヴィオラは顔を動かさない。でも、耳の先がほんの少しだけ赤い。
「[gentle]なんで、一人で調べてたんですか」
沈黙。
「[cold]ギルドに、友人がいました」
声は、冷たかった。でも本音は泣いている。
――二年前。アルテが死んだ。あのときも証拠を集めていたのに、間に合わなかった。もう誰かを見送りたくない。
タツヤは、何も言えなかった。
ただ、深呼吸を一つ。
「[gentle]お疲れ様です、ヴィオラさん」
ヴィオラの体が、固まった。
――誰かにそれを言われたのはいつぶりだろう。
「[cold]……なぜ、そんなことを」
「[gentle]ずっと一人で頑張ってきたんだなと思って」
沈黙が、流れた。
でも、さっきまでの冷たい沈黙じゃない。
少しだけ、空気が柔らかくなった。
夜明け前。タツヤは医務室の扉を開けた。
包帯。白い布。穏やかな寝息。
リュネが、眠っている。左肩から胸元にかけて巻かれた包帯が、ランタンの灯りで浮かび上がる。
椅子を引き、枕元に座る。
「[gentle]リュネ」
声は、震えなかった。
「[serious]ドルフを追い詰める。あなたの代わりに、俺が」
リュネの目が、わずかに動いた。
――守られてもいい、と初めて思った。ずっと一人で抱えなくていいと思えた。この人だから……。
スキルが拾う、かすかな本音。
リュネの目が、細く開く。
涙が、一筋こぼれて白い枕を濡らした。
震える手が、布団から出る。弱々しく、タツヤの手の甲を握った。
「[whispers]……いて」
声にならない声。
でも、スキルじゃない。初めて、リュネ自身の言葉だった。
タツヤは、その手を両手で包んだ。
「[gentle]行かないよ」
リュネの唇が、かすかに震える。
医務室を出ると、廊下でヴィオラが待っていた。
「[cold]報告会の段取りを確認します。ギルドマスター帰還は、明日の正午」
「[gentle]了解です」
「[cold]あなたは、なぜリュネのためにそこまでするのですか」
突然の問い。
タツヤは少し考えてから、答えた。
「[gentle]俺のために庇ってくれた人だから、当たり前です」
ヴィオラが、黙り込む。
――当たり前、か。私は誰かにとって当たり前の存在になれたことが……なかった。
スキルが、孤独な本音を拾う。
「[gentle]ヴィオラさんも、そういう人を作ってみればいいんじゃないですか」
自分で言って、自分で何を言ってるのか分かっていない。
ヴィオラの目が、丸くなる。
――なんで、そんなに簡単に言えるの……。
そして。
「ふ」
ほんの一音だけ。
唇が、わずかに動いた。冷たい目元が、かすかに緩む。
ランタンの灯りの中で、氷の女王が、初めて人前で笑った。
「[surprised]……あれ。今、笑いました?」
「[cold]笑っていません」
――笑った。なんで笑ったの、私。この人、本当に変。
スキルが拾う本音は、混乱と、ほんの少しの温かさでいっぱいだった。
翌朝。
窓から差し込む光が、石床に白く広がっている。
「[scared]あ、あの……ヴィオラさん」
マリスが、青い顔で駆け寄ってきた。
「[whispers]昨夜遅く、副マスター付きの使いが台帳室に入った形跡が」
――なんか嫌な予感がする。でも私がどうこうできることじゃないし……でも、もし本当にリュネさんが意図的に嵌められたなら……。
動揺と良心の葛藤が、スキルに届く。
「[serious]証拠の一部が、先読みされた可能性があります」
表情が、冷たく引き締まる。
「[gentle]二段構えにしましょう。ギルドマスターへの直訴ルートと、証拠の複製分散保管」
「[cold]……いい案です。採用します」
――一人じゃない。今は、違う。
スキルに、ヴィオラの静かな覚悟が流れ込んだ。
医務室。
リュネが、朝の薬を飲みながら窓の外を見ている。包帯はまだ痛々しいが、頬に少しだけ色が戻っていた。
――タツヤが動いてる。私も早く立てるようにならないと。でも今は……信じてもいいかな。
スキルが拾う本音は、静かで、でも確かな決意だった。
ギルドの廊下で、ヴィオラが地図を広げる。
「[serious]報告会の場で証拠を公開する。マリスにはそれとなく位置を確認してもらった」
「[cold]ただ、ドルフが何か仕掛けてくるなら、報告会そのものを潰しに来る可能性がある。その場合の迎撃ルートだけ、一緒に考えてほしい」
その声に、もう先ほどまでの硬さはなかった。
――一人でやるのが当たり前だった。でも、今は。
スキルに届く声が、少しだけ柔らかい。
タツヤはうなずき、地図を覗き込んだ。
闘いは、まだ始まったばかりだ。