プリコネ学園!〜ペコペコおなかと恋の嵐〜
ユウキという少年が、過去の記憶を一切持たないまま日本の高校に転校してくる。彼はあらゆる面で平均的だが、ただ一つだけ例外があった。理由もなく女の子たちが彼に惹かれてしまうのだ。初日、ペコリーヌという明るい女の子が彼にぶつかり、お腹が空いたと訴える。彼がおにぎりを差し出すと、彼女は涙を流し、これがずっと探していた味だと告げる。突然、ユウキの頭に不思議な光景がよぎる——草原、剣、そして彼の名を呼ぶ少女。しかし、思い出せない。
翌日、ユウキは冷徹で完璧な生徒会長キャルに生徒会室へ呼び出される。彼女は、ユウキの話をやめないペコリーヌに何をしたのか問い詰める。そこへ、どこかでユウキを知っていると主張する、優しい優等生コッコロが現れる。三人の少女たち、いずれも彼との特別な繋がりを確信している。
やがて、美しい料理部部長のシズルが彼を追い詰め、彼の料理が再現しようとしていた失われたレシピと一致すると主張する。彼女の妹キョウカは、近づかないようにと彼に警告する。一方、ユウキは、憧れ、嫉妬、そして希望の眼差しを向ける少女たちと次々に出会う。
学校の裏庭で、彼はユイに出会う。彼女は、ユウキに出会えてよ
プリコネ学園!〜ペコペコおなかと恋の嵐〜 - 桜の下の誓い~記憶を取り戻す代償、それでもあなたを守りたい~
桜の木の下で、ユウキは一人、ユイの言葉を反芻していた。
(共鳴魔法のコストが、僕の記憶……)
頭の奥が、まだ少し重い。昨夜、ここで聞いた話は、あまりにも大きすぎて、まだ現実として飲み込めていない。
「……ユウキ」
白いワンピースの裾が、夜明け前の風に揺れる。ユイは、まるで最初からそこにいたかのように、桜の幹の陰から静かに現れた。
「考えてくれた?」
「……うん。でも、まだ、わからないんだ」
ユウキは、地面に座り込んだまま、膝を抱えた。土の冷たさが、ズボンを通して伝わってくる。
「僕が記憶を取り戻せば、また、みんなを危険な目に遭わせるかもしれない。でも、このまま何も知らないままでいるのは、もっと怖い」
「そうね。あなたは昔から、そういう人だったわ」
ユイは、ユウキの隣に、音もなく腰を下ろした。彼女の体温が、かすかに空気を揺らす。
「自分が傷つくことより、誰かを傷つけることを、いつも恐れていた。……だから、あなたは一人で全部を背負って、そして、私の前から消えた」
「……ごめん」
「謝らないで。謝るべきは、私の方なのよ」
ユイの長い黒髪が、風に流れる。彼女の横顔は、悲しみよりも、どこか懐かしさに満ちていた。
「あなたの共鳴魔法は、他者の魂と響き合う力。それは、あなたの優しさの証明でもある。でも、その力を使うたびに、あなたは自分の過去を代償に払ってきた。……あの日、王国を守るために、あなたは全てを捨てた。あなた自身の記憶も、そして、私との約束も」
ユウキは、何も言えなかった。
ユイの言葉の一つ一つが、自分の知らない自分を形作っていく。それが、遠い昔話ではなく、自分のことだという実感が、じわじわと胸に広がっていく。
「僕は……君に、どんな約束をしたの?」
「……『必ず戻る』と。そう言って、あなたは戦場へ向かったわ」
ユイは、桜の幹に手を触れた。
「この木は、かつて誓いの丘に立っていた。あなたと私が、初めて出会った場所。そして、最後に別れた場所。……だから、この木の下に来れば、あなたの魂が少しずつ目を覚ますと思っていたの」
その時だった。
ざわ、と。
桜の枝が、風もないのに震えた。
ユウキの視界の端で、無数の花びらが、まだ咲いていないはずの枝から、光の粒のように溢れ出した。
「……え?」
「始まってるわ。あなたの魂が、仲間を呼んでるの」
ユイは、静かに立ち上がった。
「私は、もう行くわ。あなたの答えは、きっと、あなたの大切な人たちが連れてきてくれるから」
「待っ——」
言いかけた時、ユイの姿は、もう、朝靄の中に溶けていた。
残されたのは、ユウキと、光を帯び始めた桜の木だけ。
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「ユウキくん……!」
息を切らせて、裏庭の柵を乗り越えてきたのは、ペコリーヌだった。
いつもの二つのお団子が、ほどけかかっている。琥珀色の大きな瞳は、涙でいっぱいに潤んでいた。
「ペコリーヌ……どうしてここに?」
「だって、ユウキくんが、いなくなっちゃったから……! おじいちゃんに聞いたの! ユウキくんが、ここにいるかもしれないって!」
ペコリーヌは、ユウキの胸に飛び込むようにして、しがみついた。
「ごめんなさい……! 私のせいで、ユウキくんが学園を追い出されちゃった! 私が、変な記憶を見ちゃったから! 私が泣いたりしたから、ユウキくんの力が暴走して……!」
小さな体が、震えている。
「違うよ。ペコリーヌのせいじゃない」
ユウキは、ペコリーヌの頭に、そっと手を置いた。
「僕が、僕の力を制御できなかったからだ。ペコリーヌは、何も悪くない」
「でも……でも……!」
「ありがとう。探しに来てくれて、嬉しいよ」
ユウキがそう言うと、ペコリーヌは、顔をくしゃくしゃにして、さらに大粒の涙をこぼした。
「ユウキくん……! あのね、私、決めたの! ユウキくんの作るごはんが、私の生きる意味なの! だから、また、おにぎり、作って! 約束して!」
「……約束?」
「うん! 私、ユウキくんのおにぎりを食べるまで、もう絶対に死なないから! だから、ユウキくんも、私のためにおにぎりを作り続けて! ずっと! 永遠に!」
無茶苦茶な理屈だった。
でも、その無茶苦茶さが、今は、胸にしみた。
ユウキは、おにぎりを握る自分の手の温もりを思い出した。ほかほかのご飯の湯気。塩の粒。ペコリーヌが「おいしい!」と笑う顔。
「……うん。約束するよ」
ユウキは、涙を堪えながら、うなずいた。
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「……何を泣いているのよ」
冷たい声が、裏庭に響いた。
振り返ると、銀色のロングヘアを完璧に整えたキャルが、腕を組んで立っていた。氷のような青い瞳が、ユウキを真っ直ぐに見据えている。
「キャルさん……!」
「生徒会長の私が、いなくなった転校生を探すのは当然でしょ。……別に、あんたのことが心配だったわけじゃないわ」
「それと、言っておくけど、私はもう生徒会長じゃないわ。辞表を叩きつけてきたのよ」
「えっ!? どうして!?」
「……あんたを守れない生徒会長に、意味はないからよ」
キャルは、一歩、ユウキに近づいた。
「私は、あんたを守るために生まれてきた。前世で、守れなかったあんたを、今度こそ絶対に失いたくない」
彼女の声が、微かに震えている。
「……私は、あんたのことが、好きなのよ」
裏庭の空気が、張り詰めた。
ペコリーヌが、驚いた顔でキャルを見る。
「えっ……キャルさん、それって……」
「黙ってなさい。今、私はユウキに言ってるの」
キャルは、ユウキの目を、まっすぐに見つめた。
「あんたが覚えていなくても、私は覚えてる。前世で、あんたが私を守ってくれたことも、私が守れなかったことも、全部。それだけで十分よ。私は、あんたの傍にいたい。それだけが、私の望みなの」
「……キャルさん」
ユウキは、何と答えればいいのか、わからなかった。
自分には記憶がない。彼女の想いに、応える資格があるのか。
「ごめん。僕、まだ、何も思い出せないんだ。だから、キャルさんの気持ちに、ちゃんと応えられるか、わからない」
「……それでいいのよ。あんたが覚えていなくても、私は覚えている。それだけで、十分。今は、それで」
キャルは、そう言って、ほんの少しだけ、微笑んだ。
氷が溶けるような、柔らかい笑みだった。
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「……皆様、お揃いのようですね」
静かな声がして、コッコロが、裏庭の入口に立っていた。
長い黒髪を三つ編みにした、おっとりした雰囲気の少女。胸元の星型ペンダントが、朝の光を反射して、きらりと光る。
「コッコロちゃんまで……」
「ふふ。私の星が、ユウキ様の居場所を教えてくださいました。ずっと、星縁の杜を探していたのですが、ようやく、ここに辿り着きましたわ」
コッコロは、ユウキの前に進み出ると、恭しく頭を下げた。
「ユウキ様。あなたの記憶を取り戻すのが、私の使命です」
「使命?」
「はい。前世、アストラリア王国で、ユウキ様は、王国を守るために、ご自身の全てを捨てられました。そのお姿を、私は、ずっと、祈りの中で見ておりました」
コッコロの翠色の瞳が、真剣な光を帯びる。
「しかし、記憶を取り戻すことは、ユウキ様にとって、幸せではないかもしれません。1200年前の苦しみも、悲しみも、全て思い出すことになるのですから」
「それでも、私は、ユウキ様がご自身の過去と向き合うお手伝いをしたい。……ユイ様と同じ警告ですが、それでも、私は、ユウキ様の魂が望む道を、支えたいのです」
「……ありがとう、コッコロちゃん」
ユウキは、コッコロの手を、そっと握った。
「それでも、僕は、みんなの想いに応えたい。僕が、みんなを守りたいんだ」
コッコロの目から、涙が、一筋、こぼれた。
「……ユウキ様」
彼女は、ユウキの手を、ぎゅっと握り返した。
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「……あら、皆さん、おはようございます」
甘やかな声とともに、シズルが、裏庭に現れた。
長い黒髪を揺らし、上品な微笑みを浮かべている。その後ろから、不機嫌そうな顔のキョウカが、ひょこっと顔を出した。
「シズルさんに、キョウカさんまで……」
「ふふ、あなたの気配を追ってきたら、ここに辿り着いたわ。……やっぱり、この場所には、特別な力があるのね」
シズルは、桜の木を見上げた。
「ねえ、ユウキくん。あなたの料理が、前世のレシピそのものだって、この前、お話ししたわよね。……私は、あなたの味をもう一度、私に教えてほしいの。お願い」
シズルは、ユウキの前に、深く頭を下げた。
「シズルさん!? 頭を上げてください!」
「……お姉ちゃんが、そこまで言うなら、私も信じるわ」
キョウカが、腕を組みながら、横から口を挟んだ。
「でも、もし、お姉ちゃんを泣かせたら、許さないから。……私は、お姉ちゃんが認めた人なら、協力するわ」
「ありがとう、キョウカさん」
「……べ、別に、あんたのためじゃないわ。お姉ちゃんのためよ」
キョウカは、顔を赤くして、ぷいっと横を向いた。
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「……五人、揃ったわね」
いつの間にか、ユイが、桜の木の下に立っていた。
「ユイ……!」
「ユウキ。あなたの答えを、聞かせてくれる?」
ユイは、静かな瞳で、ユウキを見つめた。
「記憶を取り戻せば、あなたはまた、私を置いて消えるかもしれない。それでも、いいの?」
裏庭に、沈黙が落ちた。
五人の少女たちが、息を呑んで、ユウキを見つめる。
ユウキは、一人一人の顔を見た。
ペコリーヌ。キャル。コッコロ。シズル。キョウカ。
みんな、自分のことを、必要としてくれている。
「……わからないよ。まだ、何も。でも、逃げたくないんだ。みんなが、僕を必要としてくれているから。僕は、みんなの想いから、もう逃げない」
ユウキは、ユイの目を、まっすぐに見つめ返した。
「だから、お願い。僕に、本当のことを教えてほしい。僕が、何者なのかを」
ユイは、しばらく、ユウキを見つめていた。
それから、ふっと、柔らかく微笑んだ。
「……なら、私も協力するわ。1200年前の真実を、あなたに伝えるために」
ユイは、桜の木の幹に、手を触れた。
「共鳴魔法は、あなた一人のものではない。あなたを想う人たちの、魂の波長と共鳴する力。……制御する第一歩は、誰かを守りたいと、強く願うことよ。かつて、あなたが、そうしたように」
ユウキは、ユイの言葉を、胸に刻んだ。
「……もう、誰も傷つけない。みんなを守る」
ユウキは、桜の木に向かって、誓いを立てた。
「皆さん、手を」
ユイに促され、ユウキは、五人の少女たちと、手を繋いだ。
ペコリーヌの温かい手。キャルの白い手袋越しの、少し冷たい手。コッコロの小さな手。シズルの柔らかな手。キョウカの、少し汗ばんだ手。
六人で、輪になる。
「共鳴魔法は、あなた一人のものではない。みんなの想いが、あなたを支える」
ユイの声が、静かに響いた。
「みんな、ありがとう」
ユウキが、呟いた瞬間——
ふわり、と。
桜の木全体が、淡い光に包まれた。
まだ咲いていないはずの枝から、無数の花びらが溢れ出し、それが、光の粒となって、空中に舞い上がる。
「わぁ……!」
「なに、これ……!」
「……綺麗ですわ」
「桜が、光ってる……」
「……嘘でしょ」
光の粒が、少女たちの周りを、くるくると舞う。
その光景を見た瞬間、五人の少女たちの脳裏に、それぞれの記憶の断片が、走馬灯のように駆け巡った。
——広大な草原。
——手に馴染む、一振りの剣。
——静かな祈りの言葉。
——温かな食卓と、笑い声。
——そして、姉妹で交わした、固い絆。
「……ああ、思い出した……」
ペコリーヌの目から、涙が溢れる。
「私、飢えた民を救えなかった……でも、今度は、ユウキくんのごはんで、みんなを笑顔にしたい……」
「……私も、思い出したわ。あなたを、守れなかったあの日のことを」
キャルの頬を、一筋の涙が伝う。
「今度こそ、守ってみせる。絶対に」
「私も、ですわ。ユウキ様の祈りを、今度は私が、支えます」
コッコロは、涙を流しながら、微笑んだ。
「……私のレシピ。あなたに、教えてもらったのね」
シズルは、ユウキの手を、ぎゅっと握った。
「……お姉ちゃんの、大切な人。だから、私も」
キョウカは、涙をこらえるように、唇を噛んだ。
光の粒が、一際強く輝いた。
その時、ユウキの脳裏に、声が響いた。
——必ず、戻る。
それは、紛れもなく、自分自身の声だった。
若く、力強く、そして、誰よりも優しい声。
(これが、前世の僕の声……?)
ユウキの胸に、熱いものが込み上げる。
涙が、溢れた。
「……僕は、必ず、戻るって、約束したんだ」
ユウキは、初めて、自分の過去と向き合う勇気を持った。
光の粒が、ゆっくりと、朝の空に溶けていく。
桜の木は、元の静けさを取り戻していた。
しかし、その枝の先には、確かに、小さな蕾が、膨らみ始めていた。
---
スマートフォンが、震えた。
ユウキが画面を見ると、一通の通知が届いていた。
「星縁学園理事会より:共鳴魔法保持者、ユウキ殿。学園復帰の審議を開始するため、本日、理事長室までお越しください」
「……審議?」
「……ついに、動き出したわね」
キャルが、ユウキのスマートフォンを覗き込む。
「学園復帰の審議。これは、あんたの運命を決める戦いの始まりよ。……でも、大丈夫。今度は、私が、絶対に守るから」
「私も! 私も、ユウキくんを応援するよ! おなかすいたけど!」
「私も、ユウキ様の力になりますわ」
「私も、あなたの味方よ」
「……私も、お姉ちゃんのためなら、協力してあげるわ」
五人の少女たちが、ユウキの周りに集まる。
「……みんな、ありがとう」
ユウキは、涙をぬぐい、笑った。
その笑顔は、朝日のように、温かかった。
桜の蕾が、風に揺れる。
審議の日まで、あと少し。
ユウキと少女たちの、新たな戦いが、始まろうとしていた。Noveliaとは?
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