プリコネ学園!〜ペコペコおなかと恋の嵐〜
ユウキという少年が、過去の記憶を一切持たないまま日本の高校に転校してくる。彼はあらゆる面で平均的だが、ただ一つだけ例外があった。理由もなく女の子たちが彼に惹かれてしまうのだ。初日、ペコリーヌという明るい女の子が彼にぶつかり、お腹が空いたと訴える。彼がおにぎりを差し出すと、彼女は涙を流し、これがずっと探していた味だと告げる。突然、ユウキの頭に不思議な光景がよぎる——草原、剣、そして彼の名を呼ぶ少女。しかし、思い出せない。
翌日、ユウキは冷徹で完璧な生徒会長キャルに生徒会室へ呼び出される。彼女は、ユウキの話をやめないペコリーヌに何をしたのか問い詰める。そこへ、どこかでユウキを知っていると主張する、優しい優等生コッコロが現れる。三人の少女たち、いずれも彼との特別な繋がりを確信している。
やがて、美しい料理部部長のシズルが彼を追い詰め、彼の料理が再現しようとしていた失われたレシピと一致すると主張する。彼女の妹キョウカは、近づかないようにと彼に警告する。一方、ユウキは、憧れ、嫉妬、そして希望の眼差しを向ける少女たちと次々に出会う。
学校の裏庭で、彼はユイに出会う。彼女は、ユウキに出会えてよ
プリコネ学園!〜ペコペコおなかと恋の嵐〜 - 桜舞う復活祭~おにぎりと共鳴のゲームチェンジ~
理事長室の扉の前で、ユウキは立ち止まった。
胸の奥が、かすかに熱い。
昨夜、裏庭の桜の木の下で五人の少女たちと交わした誓いが、まだ体の芯に残っている。ペコリーヌの涙。キャルの震える手。コッコロの祈り。シズルの温かい指。キョウカの、ほんの少しだけ柔らかくなった声。
(みんなが、僕のために)
ユウキは、ぎゅっと拳を握った。
「……大丈夫。大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように、小さくつぶやいた。
コンコン、と扉を叩く。
「入りなさい」
低く、よく通る声。ユウキは、ゆっくりと扉を開けた。
部屋の中は、ひんやりとしていた。
広い。やけに広い。壁一面に本棚が並び、分厚い古書がぎっしりと詰まっている。窓から差し込む朝の光が、床に長い影を落としていた。
奥の大きな机の向こうに、理事長が座っていた。
黒いスーツを着た、初老の男性。銀色の混じった髪をきっちりと後ろに流し、細い金縁の眼鏡の奥から、ユウキをじっと見つめている。
「来たわね、ユウキ」
理事長は、手元の書類に目を落としたまま、静かに言った。
「……はい。お呼びだと聞いて」
「ええ。あなたの学園復帰について、最終的な話をしようと思ってね」
理事長は、眼鏡を外し、机の上に置いた。
「単刀直入に言うわ。あなたの共鳴魔法は、もはや『個人の記憶を呼び覚ます力』ではなくなっている。もっと危険で、もっと大きなものに変質しつつあるの」
ユウキは、息を詰めた。
「……変質、ですか」
「ええ。あなたの力は今、周囲の魂を『一時的にシンクロさせる』段階に入っている。つまり、あなたが強く感情を揺さぶられたとき、近くにいる者すべての魂が、あなたを通じて繋がってしまう。前世の記憶どころか、現在の感情や感覚まで、全部が混ざり合う」
理事長の声は、淡々としていた。
「昨日、裏庭で五人の少女たちと共鳴したでしょう。あれが、その力の一端よ」
ユウキの背中に、冷たい汗が滲む。
「……はい。光が、舞って。みんなの記憶が、一瞬、僕の中に流れ込んできました」
「危険なのは、その先よ。シンクロが深まれば、個々の魂の境界が曖昧になる。最悪の場合、複数の人間の意識が混ざり合い、戻れなくなる。そして、その中心にいるあなたの記憶は、もっと早く、もっと深く、削られていく」
ユウキは、唇を噛んだ。
「でも、絶望するのはまだ早いわ。制御する方法は、ある」
理事長は、机の引き出しから、一枚の紙を取り出した。
「共鳴サークル。あなたを中心に、魂の波長が合う者たちが輪を作る。そうすれば、あなたの力は個人ではなく、サークル全体に分散される。暴走のリスクは大幅に減る」
「共鳴サークル……」
「あなたの学園復帰の条件よ。ペコリーヌ、キャル、コッコロ、シズル、キョウカ。この五人は、すでにあなたと深く共鳴している。彼女たちとサークルを組み、あなた自身の力と向き合いなさい」
ユウキは、紙を見つめた。
そこには、五人の名前が、まるで星を結ぶように円形に配置されていた。
「それから、もう一つ。あなたの体内には、記憶結晶の欠片が埋め込まれている。アストラリア王国の最後の生き残りとして、あなたはその欠片を宿して生まれてきた。それが、記憶を失いながらも共鳴魔法を使える理由よ」
「……僕の、体の中に?」
ユウキは、自分の胸に手を当てた。
ドクン、ドクンと、心臓が脈打つ。
その奥に、何かが眠っている。
「あなたは、アストラリア最後の生き残り。そして、その記憶の欠片が、あなたの存在を支えている。忘れないで」
理事長は、眼鏡をかけ直し、ユウキを真っ直ぐに見た。
「行きなさい。あなたを待っている子たちがいる」
---
学園の正門をくぐると、春の匂いがした。
土と、草と、かすかに花の香り。
ユウキが校舎に向かって歩き出すと、遠くから、聞き覚えのある声が飛んできた。
「ユウキくーん!!」
ぴょんぴょん跳ねながら、ペコリーヌが駆けてくる。ふんわりした茶髪の二つのお団子が、太陽の光を受けてきらきら揺れていた。
「おかえりなさい! 待ってたんだよー! おなかすいたー!」
「ただいま、ペコリーヌ。心配かけたね」
「うん! すっごく心配した! でも、ユウキくんが帰ってくるって信じてた! だから、おにぎりいっぱい食べる準備してた!」
「……相変わらずね、あなたは」
銀色の長い髪をなびかせて、キャルが歩いてきた。氷のような青い瞳が、ユウキを捉える。
「おかえりなさい、ユウキ。無事で、よかった」
キャルの声は、いつも通り冷たく澄んでいた。でも、その瞳の奥が、ほんの少しだけ揺れている。
「ただいま、キャル。迷惑かけたね」
「……別に。私は、あなたを守るためにいるんだから。迷惑だなんて、思わないわ」
「ユウキ様、お帰りなさいませ」
長い黒髪を三つ編みにしたコッコロが、ふわりと微笑みながら近づいてきた。深い翠色の瞳が、ユウキを優しく見つめる。
「ご無事で、何よりですわ。私、ずっと祈っておりました」
「ありがとう、コッコロ。君の祈り、届いてたよ」
「ふふ。嬉しいですわ」
「ユウキさん。お帰りなさい」
柔らかな声。シズルが、長い黒髪を風に揺らしながら立っていた。学年一の美人と言われる、静かな微笑み。
「あなたの味を、また探せると思うと、私、とても嬉しい」
「シズルさん。ただいま。僕も、また一緒に料理できて嬉しいよ」
「……お姉ちゃんが待ちくたびれてたわよ」
シズルの後ろから、キョウカが顔を出した。姉と同じ黒髪を、高い位置で一つに結んでいる。鋭い目つきでユウキを睨んだ。
「あんたが帰ってこなかったら、お姉ちゃんがまた泣くところだったんだから」
「ごめん、キョウカ。心配かけた」
「……別に。私はお姉ちゃんの心配をしてただけよ」
キョウカは、ぷいっと横を向いた。
五人の少女たちが、ユウキの周りに集まる。
春の陽射しが、彼女たちの髪を透かして、きらきら光った。
ユウキは、この光景に、なぜか、胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
(懐かしい。どうしてだろう。初めてのはずなのに)
「みんな、聞いてほしいんだ」
ユウキは、五人の顔を順番に見た。
「理事長から、共鳴サークルの話をされた。僕の力を制御するために、みんなの力を貸してほしい。……僕は、まだ、自分のことも、過去のことも、何もわからない。でも、このまま逃げるのは、もう嫌なんだ」
「もちろん! ペコリーヌ、ユウキくんの力になるよ! それに、サークルって、なんか楽しそう!」
「……私は、あなたを守るために生まれてきた。他の子は、近づかないで」
キャルが、一歩前に出た。
「共鳴サークル? 結構よ。でも、私だけで十分。あなたの安全は、私が確保する。他の子たちは、必要ないわ」
「ちょっと、キャルちゃん! 何言ってるの! ユウキくんのごはんは、私の生きる意味なんだよ! キャルちゃんこそ、邪魔しないで!」
ペコリーヌが、頬を膨らませて反論した。
「ごはん? 命がけの話をしてるのよ。あなたの食欲なんて、関係ないわ」
「食欲をバカにしないで! おなかすいたら、戦えないんだよ! 前世でも、そうだったんだから!」
「……前世?」
キャルの瞳が、一瞬、揺れた。
「お二人とも、ユウキ様の前で争わないでくださいませ」
コッコロが、二人の間に割って入った。
「ユウキ様の記憶は、私が管理します。お二人とも、ユウキ様を疲れさせないでください」
「記憶の管理って……コッコロ、あなた何を言ってるの?」
「ユウキ様の魂の波長は、とても繊細ですわ。乱暴に扱うと、壊れてしまいます。私が、祈りで整えて差し上げます」
「あらあら。それなら、私も負けていられないわね」
シズルが、にこりと微笑んだ。
「あなたの味を教えるのは、私の役目。前世のレシピも、きっと思い出せるわ。だから、私が一番、ユウキさんの力になれるはずよ」
「ちょっと、お姉ちゃんまで何を……」
キョウカが、呆れたようにため息をついた。
「あんたたち、節度を持ちなさいよ。ユウキが困ってるでしょ」
「キョウカ……君、僕の味方してくれるの?」
「ち、違うわよ! お姉ちゃんが認めた人だから、仕方なくよ! 勘違いしないで!」
キョウカは、顔を真っ赤にして、そっぽを向いた。
ユウキは、五人の少女たちのやりとりを見ながら、自然と笑みがこぼれた。
(みんな、変わらないな。それが、すごく嬉しい)
「……ねえ、みんな。僕、ちゃんとみんなに謝りたいんだ」
五人の視線が、ユウキに集まる。
「僕のせいで、みんなに怖い思いをさせた。ペコリーヌには、倒れちゃうほど辛い記憶を見せてしまった。キャルには、生徒会長を辞めさせてしまった。コッコロには、街中を探させた。シズルさんとキョウカにも、迷惑をかけた」
「だから、せめて、僕にできることで、お詫びがしたい。……家庭科室、借りられるかな。おにぎり、握らせてほしいんだ」
「おにぎり!! ユウキくんのおにぎり!! 食べたい!!」
ペコリーヌの琥珀色の瞳が、ぱあっと輝いた。
「……あなたの握ったおにぎりなら、食べてあげてもいいわ」
「私も、ぜひいただきたいですわ」
「私も。あなたの味、とても気になるの」
「……私も、お姉ちゃんが食べるなら、一応もらっておくわ」
ユウキは、嬉しくなって、五人の顔を見回した。
「ありがとう! じゃあ、今から準備するね。お米は……家庭科室にあったかな。あ、でも、炊くのに時間がかかるから、まずはお米を研いで……」
料理の話になると、ユウキは早口になる。
「ユウキくん、もうおにぎりのことしか考えてない!」
「ふふ。それでこそ、ユウキ様ですわ」
五人の少女たちの笑い声が、春の空に響いた。
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家庭科室は、夕方の光に染まっていた。
窓から差し込むオレンジ色の光が、調理台の上に長い影を作る。
ユウキは、白いエプロンを身につけ、炊きたてのごはんをしゃもじで切るように混ぜていた。
湯気が、ふわりと立ち上る。
「いい匂い〜! お米の匂いって、なんでこんなに幸せなんだろうね!」
ペコリーヌが、調理台の前に座って、足をぶらぶらさせながら言った。
「……行儀が悪いわよ。大人しく待ちなさい」
キャルは、壁にもたれかかって、腕を組んでいた。
「ユウキ様の手つき、とても丁寧ですわね。まるで、祈りを捧げているようです」
コッコロは、両手を胸の前で組み、うっとりとした表情でユウキの手元を見つめている。
「塩加減が、絶妙ね。あなたの指先から、何かが伝わってくるみたい」
シズルは、ユウキの隣に立って、彼の手元を覗き込んでいた。
「……お姉ちゃん、近すぎ」
キョウカが、シズルの袖を引っ張った。
「あら、だって、見ていたいんですもの」
ユウキは、照れくさそうに笑った。
「えっと、あんまり見られると、緊張するな。……でも、みんなのために握るから、見ててほしい気もする」
「見てる! ずっと見てる! だから、早く食べたい!」
「……早くしなさい。私も、時間は無限じゃないのよ」
「キャルさん、お忙しいのに、来てくださってありがとうございますわ」
「……ユウキのためだから、当然でしょ」
キャルは、少しだけ頬を赤らめた。
ユウキは、塩を手に取り、ごはんに振りかけた。
パラパラと、白い粒が落ちる。
(この感覚。手のひらの温度。ごはんの柔らかさ。……知ってる)
ユウキは、目を閉じた。
(いつも、こうやって、誰かのために握ってた。誰かって……誰だっけ)
頭の奥で、何かがチカチカと光る。
「……あれ?」
「ユウキ様、どうかなさいましたか?」
「……ううん。なんでもない。ちょっと、懐かしい感じがしただけ」
ユウキは、ごはんを手に取り、三角形に握り始めた。
一つ、二つ、三つ。
手際よく、五つのおにぎりができあがっていく。
「できた! できた! 早くちょーだい!」
「はい、ペコリーヌ。熱いから、気をつけてね」
ユウキは、ペコリーヌにおにぎりを手渡した。
ペコリーヌは、両手でおにぎりを受け取ると、大きな口を開けて、ぱくりと頬張った。
もぐもぐ。
ごくん。
「……おいしい」
ペコリーヌの目から、涙がこぼれた。
「おいしいよ、ユウキくん。この味、知ってる。ずっと、ずっと、探してた味。私が、民に食べさせたかった味……」
ペコリーヌの右手首で、麦の穂をかたどった銀のブレスレットが、かすかに光った。
「……私も、もらうわ」
キャルが、おにぎりを受け取り、一口かじった。
彼女の白い手袋の上から、おにぎりの温かさが伝わる。
「……これは」
キャルの青い瞳が、大きく見開かれた。
「……思い出した。あの日、あなたが握ってくれた。戦の前に、いつも。『生きて帰ってきたら、また握ってやる』って……」
キャルの頬を、一筋の涙が伝った。
「私も、いただきますわ」
コッコロが、おにぎりを口に運ぶ。
もぐもぐと、ゆっくり噛みしめる。
「……あたたかい。ユウキ様の祈りが、私の中に、流れ込んできますわ。あの草原で、みんなで笑い合った日々が……」
コッコロの深い翠色の瞳が、涙で潤んだ。
「私も、いただくわね」
シズルが、おにぎりを一口。
「……この味。私が、失くしたレシピ。あなたが、私に教えてくれたのね。ずっと、探してたの。もう二度と、会えないと思ってた」
シズルの目から、涙が溢れた。
「……お姉ちゃん」
キョウカが、シズルの背中に手を当てた。
「……私も、食べるわよ。お姉ちゃんが泣くなら、私も確かめないと」
キョウカは、おにぎりをかじった。
「……なに、これ」
キョウカの目が、見開かれた。
「……私、知ってる。この味。お姉ちゃんと、一緒に食べた。あの、古い台所で。……あんた、本当に、あの時の……」
キョウカの声が、震えた。
その時だった。
ユウキの胸の奥で、何かが、弾けた。
どくん。
心臓が、大きく脈打つ。
視界が、白く染まった。
(あれ……?)
頭の中に、映像が流れ込んでくる。
——広大な草原。
——青い空。
——笑い合う、五人の少女たち。
——その中心で、おにぎりを握る、自分。
「……これは」
ユウキの体が、ふらりと揺れた。
「ユウキくん!?」
「ユウキ! しっかりして!」
「ユウキ様! お気を確かに!」
少女たちの声が、遠く聞こえる。
(この光景、知ってる。五人が、僕を囲んで笑ってる。僕は、おにぎりを握ってる。みんな、おいしいって言って、泣いてる)
(あれ……これ、今と同じ……?)
(じゃあ、あの時も、僕は……)
呼吸が、乱れる。
過呼吸のように、肩が上下する。
「ユウキさん! しっかり!」
「おい、あんた! 目を開けなさい!」
ユウキの視界が、ぐるぐると回る。
五人の顔が、涙で濡れた顔が、心配そうな表情が、ぐにゃりと歪む。
(ごめん……みんな……)
ユウキの意識は、そこで、ぷつりと途切れた。
---
目が覚めると、天井が見えた。
見慣れた、木の梁。
下宿先の、自分の部屋だった。
「……僕、倒れたのか」
ユウキは、ゆっくりと体を起こした。
頭が、少し重い。
窓の外は、もう暗くなっていた。
枕元に、一通の手紙が置かれている。
白い封筒。
差出人の名前は、ない。
でも、ユウキには、誰からの手紙か、すぐにわかった。
封を開ける。
中から、一枚の便箋が出てきた。
便箋には、細くて、きれいな字が並んでいた。
『ユウキへ
あなたが、この手紙を読んでいるということは、あなたの力が、また一歩、真実に近づいたということです。
あなたが記憶を取り戻すとき、私の魂は消えます。
1200年前の私は、あなたの共鳴魔法の暴走で、命を落としました。
今の私は、あなたが私を思い出すことでしか、存在できません。
だから、あなたがすべてを思い出したとき、私は、この世界からいなくなります。
それでも、あなたに会えて、よかった。
私は、あなたが幸せになることを、心から願っています。
——ユイ』
ユウキは、手紙を握りしめた。
指先が、震える。
「……ユイ」
声が、かすれた。
「君は、知ってたんだね。僕が記憶を取り戻せば、君が消えるって。それなのに、僕を導いてくれたんだね」
涙が、手紙の上に落ちた。
インクが、にじむ。
「僕は……どうすればいいの。記憶を取り戻せば、君が消える。でも、取り戻さなければ、みんなの想いに、応えられない」
ユウキは、胸の奥で、何かがぎゅっと締め付けられるのを感じた。
(初めてだ。誰を守るかじゃなくて、何を選ぶか。そんな選択を、迫られてる)
(ユイを選ぶ? それとも、五人の想いを選ぶ?)
(どっちを選んでも、誰かが傷つく)
「……僕は、どうしたら」
ユウキは、手紙を胸に抱きしめた。
夜風が、カーテンを揺らした。
---
翌朝。
星縁学園の桜が、満開だった。
樹齢五百年の古木が、薄紅色の花を、これでもかと咲かせている。
風が吹くたびに、花びらが、ひらひらと舞い散る。
ユウキは、正門の前で、五人の少女たちと合流した。
「ユウキくん! おはよう! 見て見て! 桜が満開だよ!」
ペコリーヌが、ユウキの腕に、ぎゅっとしがみついた。
「これからも、おにぎり作ってね! 約束だよ!」
「……うん。約束する。ペコリーヌのためにも、おいしいおにぎり、作り続けるよ」
「ユウキ。私が守るから、絶対に離れないで」
キャルが、ユウキの手を握った。
白い手袋越しに、彼女の体温が伝わる。
「……ありがとう、キャル。でも、僕も、キャルを守るから」
「……あんたが、私を?」
キャルの頬が、ほんの少し赤くなった。
「ユウキ様の選んだ道を、私は祈りで支えますわ」
コッコロが、胸の前で手を組み、微笑んだ。
「どんな道でも、ユウキ様が迷わないように、私がお祈りいたします」
「ありがとう、コッコロ。君の祈りは、僕の力になるよ」
「あなたの味を、これからも一緒に探したいの」
シズルが、ユウキのもう片方の手を、そっと握った。
「あなたと一緒なら、きっと、失われたレシピも、全部見つけられる」
「シズルさん。僕も、シズルさんと料理できて、嬉しいです」
「……お姉ちゃんが笑ってるから、今日だけは許してあげる」
キョウカが、そっぽを向きながら、小さく言った。
「でも、あんた、お姉ちゃんを泣かせたら、承知しないからね」
「うん。気をつけるよ」
ユウキは、五人の少女たちに囲まれながら、校門をくぐった。
桜の花びらが、雪のように舞い散る。
「みんな、ありがとう。僕は、みんなを守る。そして、自分の過去と、向き合う」
ユウキは、空を見上げた。
満開の桜の向こうに、青い空が広がっている。
「ユイのことも、全部、受け止める。逃げない。絶対に」
ユウキの胸に、ユイの手紙が、静かに眠っていた。
校舎の掲示板に、一枚のポスターが貼られている。
『星縁祭、開催決定!』
色鮮やかな文字が、春の光を浴びて、きらきら輝いていた。
「あ! 星縁祭だって! ユウキくん、一緒に行こうね! 屋台でおにぎり食べよう!」
「……学園祭の警備は、生徒会の仕事よ。私が、あなたの安全を確保するわ」
「ふふ。楽しみですわね。ユウキ様と、星縁祭」
「料理部でも、何か出店したいわね。あなたのレシピで」
「……まあ、お姉ちゃんが楽しみなら、私も手伝うわ」
五人の少女たちの声が、春の空に響く。
ユウキは、ポスターを見上げながら、微笑んだ。
でも、その胸の奥では、まだ、小さな痛みが、ちくりと疼いていた。
(ユイ。君の魂が、消えるかもしれない)
(それでも、僕は、前に進むよ)
(君がくれた、この時間を、無駄にしないために)
桜吹雪が、ユウキの頬を、そっと撫でた。
恋の嵐は、まだ始まったばかりだった。
そして、ポスターの裏側では、誰かの影が、静かに動き出していた。Noveliaとは?
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