クロノワール 〜黒に染まらない2人〜
叶と葛葉は『クロノワール』と呼ばれる人気のデュオユニットで、ゲームスキルと軽妙な掛け合いで知られている。ファンは二人をカップリングとして応援しているが、本人たちはただのパートナーだ。叶はクールを装っているが実は孤独で、葛葉は強がっているがドジな吸血鬼。ある日、新メンバー『ルミナ』が現れ、デビュー配信で葛葉に大胆に告白する。「先輩、あなたの闇に惹かれました。私をあなたの色に染めてください」。配信は大炎上。葛葉は顔を赤らめて叫ぶ。「血は吸わねえよ!」。叶はなぜか落ち着かない気持ちになる。
一方、叶の幼馴染『シオン』が突然「叶くんのことが好きです」と宣言し、勝手に家に上がり込んで夕食を作り始める。ルミナは葛葉をストーキングし、風呂を覗こうとし、シオンは叶の配信に乱入する。クロノワールの配信は恋の戦場と化す。「おい叶、なんか言えよ!」「そっちこそルミナと仲良くしてるじゃねえか!」「してねえよ!」「シオンさんにデレデレしてるのはそっちだろ!」——しかし口論の裏で、二人とも相手が取られることを望んでいない。
事態はルミナの真の目的が明らかになるとさらにエスカレートする。彼女は二人を引き離そうと
クロノワール 〜黒に染まらない2人〜 - 赤い瞳の新人と、揺れる独占欲 ―俺たちの関係性って何だ?―
スタジオの空気が、まだどこか重たかった。
昨夜のことを、叶は頭の隅で何度も繰り返していた。配信終わりに届いたルミナからのDM。『葛葉先輩の弱点、教えてください』。あの短い一文が、妙に引っかかって離れない。
(弱点って、なんで俺に聞くんだよ)
叶は機材の電源を入れながら、小さく息を吐いた。モニターが青白く光り、配信デスクの上を照らす。壁にはファンからのイラスト色紙。黒い三日月と星のロゴが入ったクロノワールのマーク。何百回と見てきたこの場所が、今日は少しだけ違って見える。
約束の時間は午後二時。今はまだ一時半前だ。
叶はコーヒーメーカーのスイッチを押した。豆の香りが部屋に広がる。葛葉はいつもギリギリに来る。いや、今日はちゃんと来るだろうか。昨日の既読スルーの件もある。叶はスマホを確認した。葛葉からの連絡は、まだない。
コンコン、とノックの音がした。
「……早いな」
叶がドアを開けると、そこに立っていたのは、銀色の髪をした少女だった。
腰まで届く銀色のロングヘア。毛先だけが血のように赤い。大きな赤い瞳は、薄暗い廊下でもはっきりと輝いていて、その瞳孔は普通の人間とは違い、縦に細長く伸びている。小柄な体を、黒いフリルのついたワンピースで包んでいた。首元には赤いリボン。笑うと、口元だけが先に動いた。
「先輩、はじめまして。新人のルミナです」
ルミナは深々と頭を下げた。丁寧な仕草だった。でも、その視線は最初から叶ではなく、叶の後ろ——スタジオの奥に向けられていた。
「ああ、どうも。クロノワールの叶です。約束の時間、まだ三十分あるけど」
「すみません。どうしても、早くお会いしたくて」
ルミナはそう言って、叶の横をすり抜けるようにスタジオの中へ入っていった。すれ違いざま、彼女の髪から甘い匂いがした。花のような、でも少しだけ鉄の混じったような、不思議な匂い。
「わあ、ここがクロノワール・スタジオ。思ったより広いんですね。あ、この色紙、ファンの方からですか? すごく丁寧に描かれてる」
ルミナは壁に貼られたイラスト色紙を眺めながら、無邪気な声を上げた。その姿は、年相応の少女そのものだった。
「コーヒー、飲む? 今淹れてるところだけど」
「いただきます。お砂糖、たくさん入れてくださいね」
叶がコーヒーを淹れていると、後ろからドアの開く音がした。
「お、もう来てたのか! 早いな叶!」
振り返ると、葛葉がスタジオのドアを開けて立っていた。黒いニット帽、黒いパーカー。いつもの配信スタイルだ。夕焼けのような赤い瞳が、部屋の中をざっと見回して、ルミナの姿で止まった。
「お、新人か? よろしくな」
葛葉が気さくに手を差し出す。
ルミナは、その手を見つめた。そして、葛葉の顔をじっと見上げた。
赤い瞳が、赤い瞳を捉える。
ルミナの唇が、ゆっくりと開いた。
「……やっと、会えました」
その声は、さっきまでの明るいものとは違っていた。深く、静かで、まるで何かを確かめるような響き。
スタジオの空気が、わずかに張り詰める。
「……は? 何が?」
葛葉が困惑したように眉を寄せる。
ルミナは微笑んだ。今度は、さっきよりもずっと深く。
「先輩。私、あなたの闇に惹かれました」
その言葉が、スタジオに落ちた。
叶はコーヒーカップを握ったまま、動けなかった。葛葉は目を見開いている。
ルミナは、まるでそれが当然のことのように、続けた。
「私を、あなた色に染めてください」
一瞬の沈黙。
「はあああああ!? 俺は吸わねえよ! 何言ってんだお前!?」
葛葉が顔を真っ赤にして叫んだ。
叶は、その様子を横で見ながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(なんだ、これ)
心臓が、少しだけ速くなっている。理由がわからない。ただ、ルミナの赤い瞳が葛葉だけを見ていることが、やけに気に障った。
「……まあ、とりあえず座ろう。配信の打ち合わせもしたいし」
叶は平静を装って、コーヒーカップを差し出した。
「ありがとうございます、叶さん」
ルミナはカップを受け取り、一口飲んだ。それから、葛葉の隣に自然と移動する。叶の隣ではなく、葛葉の隣。
(あれ、俺、空気?)
叶は心の中で呟いた。ルミナは最初から最後まで、葛葉にしか興味がない。その事実が、ちくりと胸に刺さる。
「で、お前、何者なんだよ。いきなり闇とか染めてくださいとか、意味わかんねえぞ」
葛葉が腕を組みながら、ルミナを睨む。
「私はただの新人ですわ。今日からクロノワールの皆さんとコラボ配信をさせていただく、ルミナと申します」
ルミナはにこりと笑った。その笑顔は完璧だった。でも、叶は気づいていた。ルミナの目が、笑っていないことに。
「まあ、とりあえず、自己紹介から始めようか。配信の流れも決めないと」
叶は進行役に回ろうとした。いつものように、クールに、落ち着いて。でも、ルミナはずっと葛葉の隣に立とうとする。叶が話しかけても、ルミナの視線は葛葉に向いたまま。
(なんなんだ、この感じ)
叶は胸の奥のざわつきを無視して、配信の準備を進めた。
——
配信開始の時間が来た。
叶はいつものように、カメラの前で軽く息を整えた。隣には葛葉。その隣に、ルミナ。
「よし、いくか」
叶がカメラをオンにした瞬間、コメント欄が動き始めた。
『きたああああ』『叶くん今日もかっこいい』『葛葉くん!』『あれ、誰かいる?』『美女がいるぞ』
視聴者数は、普段の開始直後と同じくらい。数百人規模だ。クロノワールの配信は、始まってから徐々に伸びていくタイプだった。
「お前ら、今日は特別だぞ! なんと、新人が来てる!」
葛葉がカメラに向かって声を張り上げる。
「はじめまして。新人配信者のルミナです。今日はクロノワールの皆さんと、ゲームをしながらお話できたらと思っています」
ルミナがカメラの前に座った瞬間、コメント欄が一気に加速した。
『誰だこの子美人すぎ』『クロノワールに新加入?』『赤い目が綺麗』『え、待って、かわいい』
視聴者数が、じわじわと上がっていく。叶はモニターの数字をちらりと見た。さっきまで数百人だった数字が、もう数千人になっている。
「おいおい、みんな落ち着けって。新人のルミナちゃんだ。今日は俺たちと一緒にゲームしてもらう」
葛葉が笑いながらカメラに向かって手を振る。
その瞬間、ルミナが口を開いた。
「クロノワールの葛葉先輩」
声のトーンが、変わった。
さっきまでの明るい自己紹介とは、まったく違う。静かで、真っ直ぐで、それでいて有無を言わせない強さがあった。
「私、あなたの闇に惹かれました」
スタジオの空気が、凍りついた。
コメント欄が、一瞬止まった。
「私を、あなた色に染めてください」
次の瞬間、コメント欄が爆発した。
『告白www』『修羅場きたああああ』『叶さんの顔が凍りついてる』『なにこれ公式カップリング爆誕?』『葛葉くん赤くなってる』
視聴者数が、一気に跳ね上がる。数千人だった数字が、数万人になり、十万を超える。ミラーボックスのコメント欄が、スクロールするのも追いつかない速度で流れていく。
「はあ!? 俺は吸わねえよ! 何言ってんだお前!?」
葛葉が椅子から立ち上がって叫んだ。顔は耳まで真っ赤だ。
「吸ってほしいなんて言ってませんわ。ただ、私をあなた色に染めてほしいとお願いしただけですの」
ルミナはにこにこ笑っている。その笑顔が、余計に葛葉を追い詰める。
『染めてくださいって色々な意味でやばい』『これはガチ告白では』『叶くんが無表情なのが逆に怖い』『叶さん、嫉妬してる?』
叶は、コメント欄のその言葉を見て、心臓がどくりと鳴った。
(嫉妬? 俺が?)
違う。そんなはずはない。叶はただ、相棒が困っているのを助けようとしているだけだ。
「配信、配信。落ち着け、葛葉。ルミナちゃんも、初日から飛ばしすぎだ」
叶は取りなすように言った。でも、自分の声が少しだけ震えていることに気づいた。
「叶さん、私、本気ですのよ? 葛葉先輩は私の運命の人ですもの」
ルミナがカメラに向かってウインクする。
コメント欄がさらに加速する。視聴者数は十五万を超えていた。
『運命の人www』『これは公式が最大手』『クロノワールに爆弾投下された』『葛葉くんの顔がトマト』
「ふざけんな! お前、初日から何やってんだ! 俺と叶の配信をぶち壊す気か!」
葛葉が本気で怒り始めた。
「ぶち壊すだなんて。私はただ、お二人の輪に入りたいだけですのに」
ルミナは悲しそうな顔をしてみせる。でも、その目は笑っていた。
叶は、その目の動きを見逃さなかった。
(この子、わざとやってる)
ルミナは計算して、この状況を作り出している。配信を盛り上げるためではなく、何か別の目的で。
「……まあ、とりあえず、ゲームを始めよう。コメント欄がすごいことになってるけど、みんな、温かい目で見守ってやってくれ」
叶は無理やり話を進めた。
ゲームが始まっても、ルミナの暴走は止まらなかった。
「葛葉先輩、私、この敵倒せません。助けてください」
「自分でやれ!」
「冷たい……叶さん、葛葉先輩が冷たいです」
「はいはい。ほら、葛葉、助けてやれよ。新人なんだから」
「なんでお前が仕切るんだよ!」
「お前が動かないからだろ」
『夫婦喧嘩www』『叶くんが正論』『葛葉くん、素直じゃない』
視聴者数は、さらに伸び続けていた。
——
配信が終わったのは、午後五時を過ぎた頃だった。
最終的な同時接続数は、十五万八千人。クロノワールの過去最高記録を更新していた。新規登録者は、その日だけで三万人を超えた。
「すっげえな、おい。十五万って、俺たちの最高記録の倍じゃねえか」
葛葉が配信データを見ながら興奮している。
「ああ、ルミナちゃん効果だな。すごいよ、初日でこれは」
叶は機材を片付けながら答えた。
「いえ、お二人の人気のおかげですわ。私一人では何もできませんもの」
ルミナが微笑む。
葛葉が、ちらりとルミナを見た。
「お前、なんであんなこと言ったんだよ。配信で告白とか、正気か?」
「正気ですわ。私、嘘はつきませんもの」
「は?」
「葛葉先輩の闇に惹かれたのも、あなた色に染めてほしいと思ったのも、全部本当ですの」
ルミナは、まっすぐに葛葉を見上げた。
叶は、その会話を背中で聞きながら、機材を片付ける手を止めた。
(闇って、なんだよ)
葛葉の何を知っているというのか。叶は、ルミナの言葉が引っかかって仕方なかった。
「ルミナちゃん、お疲れ様。明日からもよろしくね」
叶は振り返って、笑顔を作った。
「はい、叶さん。よろしくお願いします」
ルミナは頭を下げた。でも、その目は、叶ではなく葛葉を見たままだった。
叶の胸の奥で、何かがちくりと痛んだ。
(見捨てられる恐怖)
そんな言葉が、頭をよぎった。
——
配信終了後、ルミナが先にスタジオを出た。
葛葉が、叶に聞こえないように、ルミナの後を追って廊下に出た。
「おい、ルミナ」
ルミナが、ゆっくりと振り返った。
「なんでしょう、葛葉先輩」
その表情は、カメラの前の笑顔から一変していた。年齢不相応に冷たく、何かを値踏みするような目。
「お前、何者だ。あの告白、何が目的だ」
葛葉が低い声で問いかける。
ルミナは、くすりと笑った。
「先輩、そんなに動揺しないでください。面白くないです」
その言葉に、葛葉の背筋に冷たいものが走った。
(この感覚、知っている)
どこかで、この冷たさに触れたことがある。
「私はただの新人ですよ。でも、一つだけ言えることがあります」
ルミナは、葛葉に一歩近づいた。
「あなたの隣は、私がいただきます」
それだけ言って、ルミナは去っていった。
葛葉は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
——
翌日。
叶の自宅マンション、笹塚の1LDK。
夕方の光が窓から差し込む中、叶はゲームのコントローラーを握っていた。今日はオフ。配信もない。久しぶりの完全な休日だった。
「叶くん、ごはんできたよ」
台所から、シオンの声がした。
叶が振り返ると、シオンがエプロン姿で料理を運んでくるところだった。黒髪ストレートのロングヘアは、今日も手入れが行き届いていて、光に当たると天使の輪ができる。深い紫色の瞳が、叶を見て微笑んだ。
「悪いな、いつも。勝手に作らせてるみたいで」
「気にしないで。私が好きでやってるんだから。それより、今日はハンバーグよ。叶くんの好きな、デミグラスソースたっぷりの」
シオンがテーブルに料理を並べる。ハンバーグ、サラダ、味噌汁、ご飯。どれも丁寧に作られていて、湯気が立っている。
叶は、箸を手に取った。
「いただきます」
「召し上がれ」
二人で向かい合って食べる。この光景は、何年も続いている日常だった。
「ねえ、叶くん」
シオンが、箸を置いた。
「なんだよ」
「昨日の配信、見たよ。あの新人さん、すごい積極的だったね」
シオンが、何気ない口調で言った。でも、その目は叶の反応を探っている。
「ああ、ルミナちゃんね。びっくりしたよ。配信初日であれは、なかなかできない」
叶はハンバーグを口に運びながら答えた。
「そう……葛葉さんに、あんなに真っ直ぐに告白してたわね」
シオンの声が、少しだけ低くなった。
「まあ、あれは配信の盛り上げだろ。本気で言ってるようには見えなかったし」
叶は、そう言いながら、昨日のルミナの目を思い出していた。
(本気じゃない? いや、あれは……)
「叶くん」
シオンが、手を止めた。
「なんだよ、改まって」
「叶くんも、あの子みたいに誰かに告白されたら、どうするの?」
シオンが、探るような目で叶を見つめた。
叶は、一瞬、箸を止めた。
「何だよ、急に。告白なんてされないだろ、俺は」
叶は笑って流した。
「……そうなんだ」
シオンは、それだけ言って、また食事を再開した。
でも、その声には、かすかな落胆が混ざっていた。
叶は、その変化に気づかなかった。
——
その夜。
叶は、ベッドに横になりながら、天井を見つめていた。
頭の中に、昨日の配信の光景が浮かんでは消える。ルミナの告白。葛葉の赤面。視聴者数の爆発。そして、あのざわつき。
(なんで、あんなに落ち着かなかったんだ)
叶は、自分の胸に手を当てた。
心臓が、まだ少しだけ速い。
(葛葉が、誰かに取られるかもしれない)
その考えが浮かんだ瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
叶は、目を閉じた。
記憶が、過去に遡っていく。
——
小学校の頃。
転校続きの日々。父の仕事の都合で、二年に一度は引っ越しがあった。友達ができても、すぐに別れが来る。何度も繰り返すうちに、叶は友達を作ることをやめた。
休み時間は、いつも一人だった。教室の隅で、携帯ゲーム機を開く。画面の中の世界だけが、叶の居場所だった。
ゲームのコントローラーを差し出すことでしか、他人と繋がれなかった。
「お前、ゲーム上手いんだってな。一緒にやらないか」
そう声をかけられて、嬉しくて、でも、どう答えていいかわからなくて。
中学に上がって、オンラインゲームを始めた。
そこで出会ったのが、葛葉だった。
『お前、上手いな』
初めてのボイスチャットで、そう言われた。
声だけの相手。顔も知らない。名前も、ハンドルネームだけ。
でも、その一言で、世界が変わった気がした。
初めて、誰かに認められた。
初めて、自分がここにいてもいいんだと思えた。
それから、毎日のように二人でゲームをした。夜遅くまで、朝まで、時間を忘れて。
葛葉は、叶のことを「上手いな」と褒めてくれた。叶は、葛葉の豪快なプレイに笑った。
気づいたら、叶にとって葛葉は、世界そのものになっていた。
——
叶は、目を開けた。
天井が、ぼんやりと見える。
(だから、怖いのか)
ルミナやシオンの出現で、叶の中の何かが刺激されている。
見捨てられる恐怖。
また一人になる恐怖。
叶は、唇を噛んだ。
(俺は、葛葉に何を望んでるんだ)
答えは、出なかった。
——
週末。
ヴェルデュール・エージェンシー事務所。
渋谷のデジタル・ヒルズ地区、雑居ビル5階。会議室には、叶と葛葉が並んで座っていた。
二人の正面には、社長の神楽坂玲。元トップ配信者で、今は配信者事務所の経営者。四十代の女性だが、年齢を感じさせない鋭い目をしていた。
「今日呼んだのは、他でもない。あなたたちの今後についてよ」
神楽坂が、テーブルの上に資料を広げた。
「今後、ですか」
「ええ。クロノワールは、登録者百二十万人。中堅上位として、安定してる。でも、ここからもう一段、上を目指すには、何かが必要だわ」
「何かって、なんすか」
葛葉が、少し不機嫌そうに聞いた。
「新メンバーの加入よ。ルミナちゃんと、シオンちゃん。二人を加えて、新ユニットとして活動してみない?」
叶は、息を呑んだ。
「プラスって……俺たち三人になるってことですか?」
「そう。クロノワール+。黒い三日月と星のロゴに、白い十字を加えるの。悪くないでしょ?」
神楽坂は、微笑んだ。
「ふざけんな。俺と叶は、二人でクロノワールだ。今さら他の奴を入れるなんて、冗談じゃねえ」
葛葉が、即座に拒否した。
叶は、葛葉の反応を見て、少しだけ安心した。
(葛葉も、同じ気持ちなんだ)
でも、神楽坂は、そんな二人の反応を楽しむように、続けた。
「あら、そう? でも、二人の関係性って、視聴者には付き合ってるように見えるって話よ? それ、本人たちはどう思ってるのかしら」
神楽坂の目が、叶と葛葉を交互に見た。
「それは……」
叶は、言葉に詰まった。
(俺たちは、ただの相棒で……)
そう言おうとした。でも、声が出なかった。
葛葉が、そっと目を逸らした。
「まあ、考えておいて。急ぐ話じゃないから。でも、ルミナちゃんの配信効果は、データが証明してる。あの日の新規登録者数、三万よ。これが何を意味するか、あなたたちならわかるでしょ?」
神楽坂は、そう言って立ち上がった。
「それじゃ、また連絡するわね」
神楽坂が会議室を出ていった。
残された叶と葛葉は、しばらく無言だった。
——
事務所を出た後、叶と葛葉は、並んで歩いていた。
渋谷の夕暮れ。人混みが、二人の間を流れていく。
「……なあ」
葛葉が、口を開きかけた。
「なんだよ」
叶が、葛葉の横顔を見る。
「……何でもねえ」
葛葉は、首を振った。
「なんだよ、言えよ。気になるだろ」
「うるせえ。別に、なんでもねえって言ってるだろ」
葛葉は、前を向いて歩き出した。
叶は、その後ろ姿を見つめながら、神楽坂の言葉を思い出していた。
『二人の関係性って、視聴者には付き合ってるように見えるって話よ?』
(俺たちは、ただの相棒だ)
そう思う。でも、胸の奥で、何かが引っかかっている。
『それ、本人たちはどう思ってるのかしら』
神楽坂の言葉が、頭から離れない。
叶は、葛葉の背中を追いかけながら、小さく息を吐いた。
渋谷の空が、ゆっくりと夜の色に染まっていく。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。