アーケイン:おかしなおかしな大変身!ピルトーヴァー大パニック
ピルトーヴァーの街で、天才発明家ジェイスと親友のヴィクターが作った魔法装置が突然爆発!
街中に広がった奇妙な光を浴びた人々が、次々と異性の姿に変わってしまう!?
いつもはクールでハンサムなケイトリン・キラマンは無骨な少年に。元気いっぱいのヴァイは美しいレディに。怖いもの知らずのジンクスは男の子に、そして物静かで心優しいヴィクターは可憐な少女になってしまった!
「うわあああん!あたしの大きな筋肉がなーい!」
「なんであたし、こんなドレス着てるの!?」
自分の新しい姿を見て、みんな大パニック! 鏡の前で倒れる者、変わり果てた自分の声に驚いてヘリコプターから落ちそうになる者、好きな人の前で顔を赤らめてしまう者まで。
街は笑い声と悲鳴、そしてドキドキの連続で大騒ぎ。
一番の大問題は、親友同士のジェイスとヴィクター。ヴィクターが女の子になってからというもの、ジェイスはなぜか胸が高鳴ってしまい、まともに顔を見ることすらできない。
「ねえジェイス、なんで私から逃げ回るのよ!?」
「べ、別に理由なんてない!ただ…その、スカートが短すぎるんだ!」
そんな中、みんなで協力して元に戻ろうとす
アーケイン:おかしなおかしな大変身!ピルトーヴァー大パニック - 朝からパニック!評議会とドキドキとブラジャー
朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいた。
ピルトーヴァーの東、学術区画にある小さなアパートの一室。昨夜の混乱が嘘のように、部屋の中は静かだ。机の上には、爆発で壊れた装置の図面と、走り書きのメモが散らばっている。
その部屋の主は、ベッドの上で身動き一つしなかった。
ヴィクターだ。
いや、今の彼女は——ヴィクター。科学者としての鋭い灰色の瞳は、今は天井を見つめている。肩まで伸びた黒髪が枕の上に広がり、細くて長い指がシーツをぎゅっと掴んでいた。
「[whispers]……寝返りが打てない」
理由はわかっている。胸の重みだ。昨夜は疲れ切っていて気づかなかったが、どうやら横向きで寝ると、この新しい体のパーツが自重で引っ張られて、妙な圧迫感があるらしい。
(これは……人間工学に反する設計だ)
ヴィクターは真顔でそう考えてから、ハッと我に返った。
(何を考えてるんだ、私は)
体を起こす。ぶかぶかのシャツの襟元が、肩からずり落ちそうになる。慌てて手で押さえた。鏡に映る自分の姿が、視界の隅に入る。
やっぱり、女の子だ。
昨日、ジェイスの装置が爆発して、虹色の光——シフトライトを浴びてから、全てが変わってしまった。約3200人の市民が性別反転したと、ケイトリンが言っていた。
(データを取らなければ)
ヴィクターは枕元のノートを手に取った。『被験者V、就寝時の体位と上半身の質量の関係について』。昨夜、震える手で書き殴った文字だ。
(よし。まずは着替えだ)
彼女は立ち上がり、昨日ケイトリンが緊急手配してくれた衣類の包みを開けた。中身は、簡素な白いブラウスと、動きやすそうなスラックス。
そして——ブラジャー。
ヴィクターはその布切れを目の高さに掲げて、しばらく無言で見つめた。
「[serious]問題:背面ホック式の着用方法が不明。データが足りない」
彼女はノートに素早くメモを取る。
『人間工学に基づく下着設計の必要性について:背面ホックは関節可動域を無視している可能性が高い。前開き式プロトタイプの設計を推奨する』
よし、書いた。
「[whispers]……理論は完璧だ。あとは実践だけだ」
ヴィクターはブラジャーを手に、深呼吸した。
まず、腕を通す。これはできた。肩紐を上げる。これもできた。問題は、この背中で留める小さな金具だ。
後ろ手を回す。
「ぐっ……」
指が届かない。いや、届くには届くのだが、目で見えない位置で、三つの小さなホックを同時に留めるというのは、物理学の難問にも等しい。
片方を固定しようとすると、もう片方が外れる。
「[frustrated]くっ……」
もう一度。今度は肘が壁に当たった。
ドンッ!
「[scared]い、痛っ……」
涙目になりながら、彼女はノートに『問題点2:着用時の周辺環境への衝突リスク。壁から少なくとも50センチメートルの距離が必要』と書き足した。
(私は科学者だ。分子構造を自在に再配列する装置を設計した男だ。それが——)
もう一度。
「ええい、このっ……!」
格闘すること数分。汗だくになりながら、ついにホックがカチリと音を立てた。
「[surprised]で、できた……!」
鏡の前に立つ。肩で息をしながら、自分の姿を見る。
ちゃんと着ている。ちょっと紐がねじれているけど。
(ブラジャー一つで、こんなに疲れるとは)
ヴィクターはノートに最後の一行を書き加えた。
『結論:現在の女性用下着は、人間工学に反する兵器である。早急な技術革新が必要。担当:私』
その時だった。
コンコンコン。
「ヴィク——!迎えに来たぜ!」
ドアの向こうから聞こえてきた明るい声に、ヴィクターの体がビクッと跳ねた。
ジェイスだ。
「[scared]ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ準備が——」
慌ててブラウスを掴む。ボタンを留めようとして、指がもつれた。いつもの指の感覚と違う。細くて長い指は、かえって小さなボタンをうまく掴めない。
「[worried]どうした!?大丈夫か!?」
ジェイスの声が心配そうに高くなる。
「[scared]だ、大丈夫じゃない!ちょっと待って!」
「わ、わかった!手伝おうか!?」
その言葉の後、廊下でジェイスが口を押さえて真っ赤になる気配がした。自分の言ったことの意味に気づいたらしい。
「[whispers]……い、今のは違うんだ!違う意味で!」
ドスッ。
何かが壁にぶつかる音。多分、ジェイスの頭だ。
(何をしてるんだ、あいつは)
ヴィクターは真っ赤になりながらボタンを留め終えた。心臓がドキドキする。きっと、先程の格闘のせいだ。そうに違いない。
しばらくして、ようやく部屋から出てきたヴィクターと、壁に額を押し付けて自己嫌悪に陥っているジェイスは、気まずい空気のまま、執行官局本部へと向かった。
石造りの四階建て。秩序大通りに面したその建物の前には、いつもなら凛とした空気が漂っている。
なのに、今日は違った。
「[laughing]ぶっ……くくっ……」
「笑うなと言ってるでしょう!」
エントランスホールに響く野太い怒鳴り声。しかし、その声の主は、筋骨隆々の大男が着崩した執行官の制服をパツパツにしながら仁王立ちしているという、何とも言えない光景だった。
ケイトリン・キラマン。元はキラマン家の令嬢で、エリート執行官。紺色の髪は今は短く無造作で、透き通るような青い瞳が怒りに燃えている。しかし、その肩幅は以前の倍近く、腕は丸太のようだ。
「[angry]これは重大な捜査事案です!シフトライトの原因究明は急務!笑っている場合じゃありませんわ!」
「わ」と言ってから「ですわ」と続くギャップに、新人執行官が堪えきれずに吹き出した。ベテラン執行官たちも肩を震わせている。
「[sad]こ、この——」
ケイトリンが拳を握りしめたその時だ。
「[excited]あんた、前より百倍カッコいいぜ!」
ショッキングピンクの短い髪を揺らし、ヴァイが現れた。挑戦的な灰色の瞳が、ケイトリンを見上げて笑っている。
「その腹筋、どうなってんだ?触らせろよ!」
「[embarrassed]な、何を言うんです!」
ケイトリンが真っ赤になって後ずさる。慣れない大きな体で、ドンッと受付カウンターに腰をぶつけた。書類の束がバサバサと床に落ちる。
「[laughing]だっはっは!見ろよヴィクター、あの真面目だったケイトリンが!」
ジェイスが吹き出した。ヴィクターも思わず口元が緩む。筋肉質の大男が、令嬢の言葉遣いで慌てふためく姿は、確かに面白い。
でも——。
(ヴァイは……一人だけ変わってない)
ヴィクターは、ケイトリンの肩を叩いて笑っているヴァイの横顔を見つめた。
「[gentle]ほら、しゃんとしろよ。執行官のトップだろ?」
「[sad]もう、ヴァイ……あなたはいつもそうやって……」
「[serious]あたしは、あんたが相棒で良かったと思ってるぜ」
その言葉に、ケイトリンの怒りが少しだけ解けた。
でも、ヴィクターにはわかった。ヴァイの明るさの裏に、何かがある。彼女だけがシフトライトの影響を受けなかった。その理由は誰にもわからない。
(仲間外れのようで、不安なんだろう)
ヴィクターはノートを取り出した。『被験者Vai、シフトライト非影響。要因不明。心理的影響の観察が必要』。
そこに、一通の封書が届けられた。
「[serious]評議会からの緊急招集です」
ケイトリンの顔から笑みが消えた。
オーラム・ホール。白大理石と真鍮のドームが輝く、ピルトーヴァーの中央にそびえる議事堂だ。
高い天井の議場に、四人は足を踏み入れた。傍聴席には数人の市民と、奥の隅に一人、黒いスーツを着た痩せた男が座っている。
「[cold]ジェイス・タリス」
白髪の評議員が、高い席から冷たい声を落とした。
「[serious]お前には、輝石法違反の疑いがかけられている。無許可のヘクステック実験により、約3200名の市民が被害を受けた。この責任は重大だ」
ジェイスの顔が、青ざめていく。
「[sad]……全て、俺の責任です」
うなだれるジェイス。その姿を見て、ヴィクターの胸がズキンと痛んだ。
(違う。一人で背負うな)
気がつくと、ヴィクターは立ち上がっていた。
「[serious]その実験は、私も共同で行いました」
議場がざわめく。
細くて小柄な少女が、凛とした声で宣言したのだ。
「[surprised]な、何を——」
「[serious]責任は、私にもあります」
ヴィクターはジェイスの目をまっすぐに見た。心臓がドキドキと、先程よりも速く脈打っている。でも、今はそれどころじゃない。
ジェイスの顔が、驚きから、次第に痛みをこらえるような表情に変わる。
(ありがとう、と言いたいのに言えない。俺のせいで、お前まで……)
そんな心の声が聞こえるようだった。
その時、ケイトリンが鋭く息を呑んだ。
傍聴席の隅だ。
黒服の男が、不気味な笑みを浮かべている。袖口には、歪んだ化学フラスコのエンブレム——シマー商会の紋章が光っていた。
男は、ヴィクターたちが退場する際、すれ違いざまに囁いた。
「[whispers]お気の毒に」
背筋に冷たいものが走るのを、ヴィクターは感じた。
夕方。ヴィクターの自宅に、ラボから持ち帰ったデータログの束が広げられていた。
ヴァリアント・コアの残骸から回収した、かろうじて読み取れる数値の羅列。ヴィクターはペンを片手に、一行一行を検証していく。
(第1ジェム、共振周波数は正常範囲内)
(第2ジェムも問題なし)
そして——第3ジェム。
「[surprised]……なんだ、これは」
ペン先が止まった。
数字が、書き換えられている。それも、非常に巧妙に。一見すると正常値に見えるが、ヴィクターのような共同設計者でなければ気づかない、小数点以下三桁の微妙な改ざんだ。
「[scared]誰かが……わざと?」
事故は、単なるミスじゃなかった。
(これをジェイスに知らせなければ)
顔を上げた。
その時——。
すぐそこに、ジェイスの顔があった。
「[embarrassed]あ……」
「[embarrassed]う……」
二人は同時に息を呑み、動きを止めた。
いつの間にか、ジェイスがすぐ隣に立っていたのだ。データを覗き込もうとしていたらしい。顔と顔の距離が、信じられないくらい近い。
部屋の空気が、変わった。
ヴィクターの胸が、ドキンドキンと音を立て始める。さっきまでデータのことを考えていたのに、今はもう、目の前の金色がかった茶色の瞳のことしか考えられない。
ジェイスの顔が、ゆっくりと赤くなっていく。
「[whispers]ヴィク……俺、お前に……」
ジェイスの喉が、ゴクリと鳴った。
言いかけて、口を閉じる。
「[gentle]……いや。なんでもない」
ジェイスは、まるで逃げるように一歩後ろに下がった。
(今、何を言いかけたんだ)
ヴィクターは手に持ったデータシートを胸に抱えて俯いた。耳の先まで熱い。
「[whispers]な、なんでもない……また明日」
それだけ言うのが精一杯だった。
ジェイスが出て行った後、ヴィクターはベッドに倒れ込んだ。枕に顔を埋める。
(このドキドキは、事故の後遺症の可能性が高い)
(そうに違いない)
(理論的には、そうだ)
でも——枕を抱きしめる手が震えているのは、きっと後遺症のせいじゃない。
夜が更けた。
窓の外ではピルトーヴァーの夜景が輝いている。白い街並みに、オレンジ色の街灯が点々と続き、遠くのパラゴン大橋では青白いヘクステックの光が揺れていた。
ヴィクターは机に向かい、静かにノートをめくる。
先程のデータ改ざんの証拠と、ケイトリンから届いたばかりのメモを並べて。
メモにはこうあった。
『あの男はシマー商会のケミカル・ブローカー、レナードという。ゾウンで非合法のヘクス・ジェム取引をしている疑いがある』
シマー商会。紫色の強化薬物「シマー」を売りさばく、ゾウンの闇組織だ。
ヴィクターはゾウンで貧しい子供時代を過ごした。あの頃、シマー商会の名前は恐怖の象徴だった。
「[whispers]……また、あの地下に戻らなければならないのか」
今の自分の体で、あの危険な街に行くこと。グレイ・ブレスと呼ばれる有毒ガスが漂い、犯罪が日常茶飯事のあの場所へ。
恐怖と不安が混ざり合う。
でも、それ以上に——。
(ジェイスへの、この気持ちはなんなんだ)
ノートの端に、震える文字が書き足されていた。
『問題:被験者Jに対する心拍数上昇は、事故の後遺症の可能性が高い——しかし、仮説が誤りである確率も考慮すべきか。データが決定的に足りない』
ヴィクターはペンを置き、窓の外を見つめた。
ピルトーヴァーの夜景は美しい。でもその地下には、暗い闇が広がっている。そして、自分の心の中にも、名付けようのない感情が静かに渦いていた。