アーケイン:おかしなおかしな大変身!ピルトーヴァー大パニック
ピルトーヴァーの街で、天才発明家ジェイスと親友のヴィクターが作った魔法装置が突然爆発!
街中に広がった奇妙な光を浴びた人々が、次々と異性の姿に変わってしまう!?
いつもはクールでハンサムなケイトリン・キラマンは無骨な少年に。元気いっぱいのヴァイは美しいレディに。怖いもの知らずのジンクスは男の子に、そして物静かで心優しいヴィクターは可憐な少女になってしまった!
「うわあああん!あたしの大きな筋肉がなーい!」
「なんであたし、こんなドレス着てるの!?」
自分の新しい姿を見て、みんな大パニック! 鏡の前で倒れる者、変わり果てた自分の声に驚いてヘリコプターから落ちそうになる者、好きな人の前で顔を赤らめてしまう者まで。
街は笑い声と悲鳴、そしてドキドキの連続で大騒ぎ。
一番の大問題は、親友同士のジェイスとヴィクター。ヴィクターが女の子になってからというもの、ジェイスはなぜか胸が高鳴ってしまい、まともに顔を見ることすらできない。
「ねえジェイス、なんで私から逃げ回るのよ!?」
「べ、別に理由なんてない!ただ…その、スカートが短すぎるんだ!」
そんな中、みんなで協力して元に戻ろうとす
アーケイン:おかしなおかしな大変身!ピルトーヴァー大パニック - ゾウンの路地裏で、手が触れた
朝が来た。
ピルトーヴァーの白い街並みに、やわらかな日差しが差し込んでいる。学術区画のアパートの一室で、ヴィクターは机の前に座り、二つのフィルターマスクをじっと見つめていた。
「[whispers]ゾウンか……」
灰色の瞳が、マスクの上をなぞる。ゾウン――あの有毒ガスの漂う地下都市は、ヴィクターが幼い頃を過ごした場所だ。
でも、今のこの体で戻るのは初めてだった。
(大丈夫だ。理論的には、フィルターマスクさえあれば安全だ)
彼女は自分の心に言い聞かせるように、マスクを手に取った。肩まで伸びた黒髪が邪魔で、何度か耳にかけ直す。顔に当てようとしたその時、
ずるっ。
マスクが鼻から滑り落ちた。
「[frustrated]え……」
もう一度。今度はストラップをぎゅっと締めてみる。でも、後ろで結んだ髪のせいで、バンドがうまく固定されない。
ずるっ。
「[scared]な、なんでだ……?」
(データが足りない。旧式マスクのストラップ調節機構は、後頭部の骨格を前提に設計されている。現在の私の頭蓋骨は、男性時より約8%小さい――)
「[laughing]何やってんだ、ヴィク!」
声がして、顔を上げた。
部屋の入り口に、ジェイスが立っている。茶色の髪は今日も寝癖がついたままで、金色がかった瞳が楽しそうに輝いていた。長身でがっしりした体格。いつもの、親友の姿だ。
でも――見られてた。この、マスクと格闘してる姿を。
「[embarrassed]ち、ちがうんだジェイス。これは、えーと……」
「[laughing]ああ、なるほど。サイズが合わないのか!」
ジェイスはあっけらかんと笑いながら近づいてきた。「[gentle]貸してみろよ。ちょっとストラップを直してやる」
ヴィクターがマスクを差し出すと、ジェイスの大きな手がそれを受け取った。
指が、触れた。
ほんの一瞬。マスク越しのわずかな接触。
「[whispers]あ……」
「[scared]う……」
二人同時に固まる。部屋の空気が、ぴたりと止まった。
ジェイスの指が、ヴィクターの頬の横でストラップを引っかけようとして――そのまま動かなくなった。あと数センチで、手が頬に触れる距離。
「[embarrassed]……っ」
ヴィクターは息を呑もうとして、できなかった。心臓が、ドキドキと音を立て始める。この感覚は、理論的に説明できない。データが足りない。でも――。
「[embarrassed]な、何でもない!よし、できた!」
ジェイスが慌てて手を離し、できあがったマスクをぐいっとヴィクターに押し付ける。その顔は耳まで真っ赤だった。
「[hasty]さ、先に行ってるぜ!リフトゲートで待ってる!」
バタバタと足音を立てて、ジェイスは部屋を飛び出していった。
残された部屋で、ヴィクターはマスクを抱えて立ち尽くす。
「[whispers]……データが、足りない」
彼女は小さく呟くと、マスクを顔に当てた。今度はちゃんと固定される。でも、マスクの表面に残ったジェイスの指の感触が、まだ消えなかった。
胸の奥が、じわりと温かくなる。
(これは、事故の後遺症の可能性が高い)
(理論的には、そうだ)
ヴィクターはノートを取り出すと、震える手で書きつけた。
『被験者V、被験者Jとの接触により心拍数上昇。ストラップ調節という実用的行動の中での偶発的な距離の接近が原因と推測される。後遺症の可能性:95%』
でも、残りの5%は――。
ペン先が止まった。
「[whispers]……行かなくちゃ」
彼女はノートを机に置き、もう一つのマスクを手に、ジェイスの後を追った。
――――
リフトゲート第3番。上層ピルトーヴァーと下層ゾウンを結ぶ、巨大な貨客用昇降機だ。一度に200人と貨物15トンを運べる鉄の箱が、ゴウンゴウンと低い駆動音を立てながら地下へと降りていく。
「[serious]ヴィク、本当に大丈夫か?ゾウンなんて、危ないところだぜ」
昇降機の中で、ジェイスが心配そうに言った。
「[serious]大丈夫だ。私は……知っている場所だから」
「[surprised]知ってる?なんで?」
ヴィクターは少し黙った。灰色の瞳が、昇降機の鉄格子の向こうを見つめる。
「[gentle]……私は、ゾウン出身だよ」
ジェイスの目が、大きく見開かれた。
「[surprised]え……お前、ゾウン出身だったのか!?」
「[gentle]ああ。ずっと言ってなかった」
ジェイスは何か言おうとして、口を閉じた。その金色がかった瞳が、ヴィクターの横顔をじっと見つめる。
(こいつ、こんな危険な場所で育ったのか)
(なんで、今まで言わなかったんだろう)
昇降機が停止した。
鉄扉が開く。
その瞬間、灰緑色のもやが、むわりと二人を包み込んだ。
――――
ゾウン。
空気が、違う。
薄緑色のガス――グレイ・ブレスが、足元を這うように漂っている。壁にはネオンの看板がひしめき、紫や青の光が霧の中で滲んで揺れていた。どこかから、金属を叩く音と、怒鳴り声が聞こえる。
「[serious]……懐かしいな」
ヴィクターはフィルターマスク越しに、路地の風景を見渡した。
あの頃と、何も変わっていない。薄暗い通路、ごみごみした市場、すれ違う人々の疲れた顔。みんな、安い簡易マスクを口に当てて、うつむきながら歩いている。
「[surprised]お前、こんなところで……」
ジェイスの声が、いつもより小さい。
「[gentle]うん。ここで育ったんだ。グレイティスト工房組合で、機械の修理をしながら」
「[gentle]……知らなかった。ごめん」
「[gentle]謝ることじゃない。言わなかった私の問題だ」
ヴィクターはそう言って、歩き出した。
ジェイスは、黙って後ろをついてくる。でも、その歩幅が、いつもよりずっとゆっくりだった。ヴィクターの小さな歩幅に、ちゃんと合わせている。
(お前は、こんな場所で一人で頑張ってきたのか)
ジェイスは、前方を歩く細い背中を見つめながら、胸の奥にちくりとした痛みを感じていた。
――――
グレイティスト工房組合。築50年の鉄骨倉庫を改装した、ゾウンの技師たちの拠点だ。中に入ると、油と金属の匂いが鼻をつく。工作機械や実験台が所狭しと並び、数人の技師がそれぞれの作業に没頭していた。
「[excited]ガルム爺さん、いるか?」
声をかけると、工房の奥から白髪交じりの老人が顔を出した。
「[surprised]おお……ヴィク坊か!?姿が変わっちまったって聞いたが……こりゃあ驚いたな」
老技師ガルム。昔、ヴィクターがここで修行していた頃の、師匠のような存在だ。彼は渋い顔で二人を工房の隅の作業台に招いた。
「[serious]それで?評議会の御用聞きが、なんの用だ」
「[serious]単刀直入に聞く。数週間前、不純物入りのヘクス・ジェムがゾウンで出回ったという情報がある。知っているか」
ガルムの顔色が、さっと変わった。
「[scared]……どこでそれを」
「[serious]私たちの装置に、それが使われていた。誰が売ったのか、知りたい」
ガルムは周囲を見回し、声を潜めた。
「[whispers]いいか、これは墓場まで持っていくつもりだった話だ。あのジェムを流したのは、シマー商会の息がかかった手配師だ。レナードって若いブローカーでな……ピルトーヴァーとゾウンを何度も往復して、怪しい化学物質を運んでいたらしい」
「[serious]シマー商会……」
ヴィクターの手が、ぎゅっと握りしめられた。
シマー商会。紫色の強化薬物「シマー」を売りさばき、ゾウンで恐れられる闇組織だ。昔から、この街の影に巣食っていた。
「[scared]それ以上は、もうやめておけ。あいつらに目をつけられたら終わりだ。私はもう老いぼれで、残りの人生を静かに過ごしたいんだ」
「[serious]だが――」
「[angry]帰れ!話は終わりだ!」
ガルムは二人を追い立てるように、工房の外へ押し出した。
バタンと扉が閉まる。
「[worried]……行こう」
ヴィクターは、うつむいたまま歩き出した。
シマー商会。あの組織が、この事件の裏にいるかもしれない。ゾウンで力を持つ彼らに、どう立ち向かえばいいのか。昔の記憶が、灰色の瞳に暗く影を落とす。
「[gentle]ヴィク、大丈夫か?」
ジェイスが、そっと声をかけた。
「[gentle]……大丈夫だ。行こう、ジェイス」
ヴィクターは短く答えた。目が合う。でも、すぐに逸らしてしまう。
今は、この気持ちを説明している余裕がなかった。
――――
帰り道。プリズム小路のネオンが、霧の中でぼんやりと揺れている。
「[sarcastic]おやおや、かわいいお嬢さんじゃないか」
突然、路地の影から三人の男がにじり寄ってきた。
薄汚れた服に、鋭い目つき。ゾウンの闇市場で薬物を売りさばく売人たちだ。
「[sarcastic]そっちの兄ちゃんとデートか?こんな危ない場所で、いい身分だな」
「[scared]……」
ヴィクターは一歩、後ろに下がった。
男だった頃なら、肩で押し退けて終わりだった。でも今は――自分は、こんなに小柄な女性の体だ。相手は三人。体格差がありすぎる。
「[angry]こいつに触るな!」
ジェイスが前に飛び出した。185センチの長身が、ヴィクターをかばうように立ちはだかる。
「[laughing]おお、怖い怖い。上層の坊ちゃんが、勇ましいこって」
「[sarcastic]でも、三対一で勝てると思ってんのか?」
売人たちが、じわじわと距離を詰める。ジェイスは拳を構えたが、多勢に無勢だ。
「[scared]くそっ……」
壁際に追い詰められていく。
その時だった。
ヴィクターの視界の隅に、路地の地面に転がるものが映った。
廃部品だ。ヘクステックの残骸――発光管の破片、小型の共振コイル、それに放電端子。
(いける)
ヴィクターの灰色の瞳が、スッと細められた。
彼女は素早く部品を拾い上げると、手の中でカチカチと組み合わせ始めた。指が、まるで楽器を奏でるように動く。
「[surprised]おい、なにやって――」
「[cold]――終わりだ」
閃光が、炸裂した。
バァァン!!
「[scared]うわあああ!!目が!!」
「[scared]なんだ!?目が見えねえ!!」
即席の閃光弾が、路地を白く塗りつぶす。売人たちは目を押さえてよろめき、悲鳴を上げた。
「[excited]走れ、ジェイス!!」
ヴィクターはジェイスの腕を引っ張り、全速力で駆け出した。
路地を曲がり、階段を駆け上がり、さらに細い袋小路に滑り込む。
二人は壁を背に、肩で息をしながら立ち尽くした。
「[excited]はあっ……はあっ……」
「[surprised]お、お前……今の、どうやったんだ……?」
ジェイスが目を丸くして、ヴィクターを見つめる。
「[gentle]……廃部品で作った即席の閃光弾だ。理論的には、ヘクス・ジェムの残滓と放電端子があれば、指向性の光量増幅は可能だった」
「[laughing]……相変わらず、頭いいな、お前」
ジェイスが、ふっと笑った。
「[embarrassed]いや、私は……いつも君に守られてばかりだから」
ヴィクターは俯いた。
さっき、ジェイスが前に出て守ろうとしてくれたこと。嬉しかった。でも、結局は自分がなんとかしなければならなかった。
(私がもっと、しっかりしていれば――)
「[gentle]ヴィクは昔からすごかったよな」
はっと顔を上げる。
ジェイスが、まっすぐにヴィクターを見ていた。その金色の瞳に、さっきまでの怯えはない。代わりに、何か柔らかな光が宿っている。
「[gentle]俺、お前のこと、ずっとすごいと思ってた。理論も実践も完璧で、でも全然偉ぶらなくて。……今だって、こんなピンチを自分の手で切り抜けちまう。本当に、すごいよ」
「[embarrassed]……そ、そんなこと」
その時だった。
ジェイスの手が、そっと、ヴィクターの手に触れた。
「[whispers]え……?」
「[scared]あ……!」
二人同時に、自分のしていることに気づいた。
ジェイスが、無意識のうちに、ヴィクターの手を握ってしまっていたのだ。
路地裏に、沈黙が落ちる。
「[embarrassed]――っ!!」
ジェイスが慌てて手を離し、ヴィクターもギュッと手を引いて壁の方を向いた。
どちらの顔も、真っ赤だった。
言葉が出ない。
心臓の音だけが、ドクドクと路地裏に響いている。
(なんで、手を握ったんだ、俺)
ジェイスは自分の右手を見つめながら、必死に理由を考えていた。でも、理由なんてなかった。ただ――自分が怯えていて、ヴィクターがすごくて、それで、守らなきゃと思っていたはずなのに、逆に助けられて――安心したんだ。
(手を、握りたかった)
(ただ、それだけだった)
一方、壁の方を向いたヴィクターは、胸の奥が破裂しそうだった。
(ジェイスが、私の手を――)
握られた手を、ぎゅっと胸に抱きしめる。まだ、感触が残っていた。大きな手だった。温かかった。
(これは、事故の後遺症だ)
(心拍数上昇は、単なる生理的反応だ)
(でも――)
ヴィクターは、ぎゅっと目を閉じた。
データが足りない。理由が説明できない。この気持ちを、どう言葉にすればいいのか、わからなかった。
「[gentle]……帰ろう」
ようやくそれだけ言って、彼女は歩き出した。
「[embarrassed]あ、ああ……」
ジェイスはその後ろ姿を、何か言おうとして――でも、言葉が見つからず、ただ黙ってついていく。
――――
帰りのリフトゲートの中。
ゴウンゴウンという駆動音だけが、鉄の箱の中に響いていた。
二人は隣に立ったまま、一度も目が合わない。ヴィクターは俯き、ジェイスは天井を見上げている。
(手の感覚が、まだ残っている)
ヴィクターは、自分の右手をそっと左手で包んだ。心拍数が、まだ上がったままだ。
(心拍数上昇の理由を、事故の後遺症としてノートに記録しなければ)
(でも――今日は、書けない)
彼女は、小さく息をついた。
――――
ピルトーヴァーに戻ると、執行官局から連絡が入っていた。通信機の向こうで、ケイトリンの野太い声が響く。
「[serious]ヴィクター、ジェイス。内部記録を調べたところ、シフトライト事変の前日、シマー商会のケミカル・ブローカー、レナードがピルトーヴァーとゾウンの間を何度も往復していた記録が出てきました」
「[serious]やはり、シマー商会が関与しているのか」
「[serious]ガルムの証言とも一致する。しかし、証拠はまだない。さらに――」
ケイトリンの声が一段と低くなった。
「[serious]今日、あなたたちがゾウンで動いたことを、商会側がすでに把握している可能性があります。注意なさい」
通信が切れる。
ヴィクターとジェイスは、顔を見合わせた。
「[serious]……急がなければ」
「[serious]ああ。でも今日は、俺たち、よくやったと思うぜ」
ジェイスが、少し照れくさそうに笑った。
「[gentle]……そうだな」
ヴィクターも、少しだけ口元を緩める。
(今日の閃光弾、ちゃんと役に立った)
(私はまだ、科学者としてやれる)
それは小さな自信だった。でも、今のヴィクターには、それが何よりも大切なことだった。
部屋に戻ると、ヴィクターは机に向かい、ノートを開いた。
ペンを握る。震えは、さっきよりも少し小さくなっていた。
『本日の成果:不純物入りヘクス・ジェムの流通経路にシマー商会が関与している可能性が濃厚。証人:グレイティスト工房組合のガルム。今後の課題:物証の確保。商会の動きに気づかれた可能性あり、早急な対応が必要』
そして、ページの隅に、小さな文字を書き加えた。
『被験者V、本日、被験者Jの手が偶然触れたことによる心拍数上昇を記録。原因は依然不明。しかし、悪くない感覚だった。要観察』
ヴィクターはノートを閉じ、窓の外を見た。
ピルトーヴァーの夜景が、今日も青白く輝いている。パラゴン大橋のヘクステックの光が、遠くで揺れていた。
でも、その光の下には、まだ見えない闇が広がっている。シマー商会の影、不純物入りジェムの謎、そして――自分の中の、名付けようのない感情。
物語は、まだ始まったばかりだった。