Re:ゼロから始める異世界生活 残り香のカンパネラ
『Re:ゼロから始める異世界生活』の新たな物語が、ここに幕を開ける——
これは、戦いの物語ではない。喪失と、記憶と、それでも手放せない想いの物語だ。
王選の激戦を終え、ようやく訪れた穏やかな午後。紅茶の香りが溶ける庭で、スバルはエミリアの笑顔を見つめていた。しかしその胸の奥には、ロズワールの言葉が棘のように突き刺さったまま。死に戻りの孤独。誰にも言えない痛み。何度も死んで、何度もやり直して、そのたびに心に積もる黒い沈殿物。
そんな日常の均衡を、古い鐘の音が破る。
アーラム村の外れに建つ、四百年前の魔女教の遺物——記憶を喰う鐘楼。夜ごと響くその音は、人々から大切なものを少しずつ奪っていく。孫の名前を忘れた老婆。自分が何を待っているのか分からなくなったベアトリス。そしてスバル自身もまた、ポケットの中の青い刺繍のハンカチ——大切なはずなのに、渡してくれた相手の顔が思い出せない——
じわじわと侵食する忘却。それでも消えない、胸の奥の痛み。
「何かを切り捨てたら、全員を殺してやり直させてやる」
あの声が、再び蘇る。
これは、忘れてはいけないものを、それでも忘れていく物語。失う怖さ