ブルーロック 休日の謎解き騒動
突然の「休日宣言」に沸き立つブルーロック寮。隠されたメダルを見つければご褒美の食事、見逃せば地獄のトレーニング――そんな単純な餌に全選手が本気で動き出す中、潔世一は相棒・蜂楽廻とコンビを組んでメダル探しに挑む……はずだった。
しかし蜂楽はスマホをトイレに水没させ、千切豹馬は靴下の片方を、國神錬介はプロテインを三ミリ、御影玲王は凪との思い出が詰まった財布を、それぞれ謎の消失に見舞われる。偶然か、それとも寮に潜む何者かの仕業か?
休日の穏やかな空気の裏で囁かれる、小さな「なくしもの」たちの謎。世界一のストライカーを目指す男・潔世一の負けず嫌いな好奇心に、ついに火がついた。
メダル探し、そして寮を揺るがす珍事件の真相やいかに――クセ強すぎるエゴイストたちが繰り広げる、休日限定の爆笑ミステリーコメディ、ここに開幕!
ブルーロック 休日の謎解き騒動 - 本気の証明――このメダルがなくても、俺は世界一になる
ドアが閉まる音が、廊下に小さく響いた。
潔世一は、四階の廊下に立ち尽くしていた。背中に、ドアの冷たさが残っている。
(お前は、まだ本気じゃない)
凪誠士郎の言葉が、頭の中でぐるぐる回る。
(メダルがなくても、世界一になれる奴にしか、これ、渡さないから)
胸の奥が、じわじわと痛んだ。
違う。そうじゃない。
俺は、本気で探してた。
でも——。
「……くそ」
小さく呟いて、壁に手をついた。
冷たい。
その冷たさが、今の自分には、やけに心地よかった。
足音が、聞こえた。
階段の方から、静かに、ゆっくりと。
顔を上げる。
銀色の髪が、廊下の薄暗い光の中で、ふわりと揺れていた。
氷織羊。
手に、一冊の本を抱えている。水色がかった銀髪は、さらさらとしていて、涼しげな青い瞳が、潔をまっすぐに見つめていた。
「凪に、会ってきたんだね」
静かな声だった。
「……ああ」
「凪は、君の本気を待っているよ」
氷織は、足を止めた。
潔との距離は、二メートルほど。
それ以上、近づこうとはしない。
「お前が仕掛けたんだろ」
「うん。僕が、メダルを隠した」
あっさりと、認めた。
「なんで、そんなことを」
「みんなが、本気になる姿を見たかったから」
氷織の声は、相変わらず、静かで、平坦だった。
でも、その言葉の奥に、何か、熱いものが、隠れている気がした。
「それだけか? それだけで、俺たちを、あんなに振り回したのか」
潔の声が、少しだけ、荒くなる。
「それだけだよ。でも、本気じゃない奴が勝つのは、つまらないから」
氷織は、潔の目を、じっと見た。
「メダルは、自然と、君のものになるはずだった。でも、君は、まだ、報酬にすがっていた。夕食がどうとか、トレーニングがどうとか。そんなもののために、必死になってた」
その言葉が、胸に突き刺さる。
(報酬に、すがっていた)
(俺は、メダルが欲しかったんじゃない)
(負けたくなかっただけだ)
中学時代の記憶が、また、蘇る。
全国大会の決勝。
あの日、俺は、勝ちたかった。
いや、違う。
負けたくなかった。
それだけだった。
勝ちたい、という気持ちから、逃げていた。
「君なら、分かるはずだよ。自分が、本当は何をしたいのか」
氷織は、それだけ言うと、潔の横を通り過ぎていった。
さらさらとした銀髪が、空気を揺らす。
「……お前の本気、見せてみろ」
振り返らずに、氷織は言った。
その声は、廊下に、静かに、溶けていった。
潔は、一人、廊下に残された。
壁に手をついたまま、動けなかった。
(本気じゃない奴が、勝つのは、つまらない)
(報酬にすがっていた)
(負けたくない、だけだった)
全部、その通りだ。
図星だった。
「……くそ」
もう一度、呟いた。
声が、震えていた。
「潔!」
突然、明るい声が、廊下に響いた。
階段の角から、金髪に黒のメッシュが入ったボサボサ髪の少年が、ひょこっと顔を出した。
蜂楽廻。
金色の瞳が、キラキラと、潔を見つめている。
「どうしたの? そんな顔して。メダル、見つかった?」
「……いや」
「え、どうしたの? なんか、元気ないね」
蜂楽が、首を傾げる。
潔は、壁から手を離した。
「蜂楽。俺、間違ってたかもしれない」
「なにを?」
「俺は、メダルが欲しかった。報酬が欲しかった。夕食で好きなものが食いたくて、トレーニングを避けたくて。それだけだったんだ」
潔の声は、掠れていた。
でも、言葉は、はっきらと、自分の口から出てきた。
「でも、違う。俺は、世界一のストライカーになりたいんだ。それは、メダルがあっても、なくても、変わらない。俺の、本気の目標だ」
蜂楽は、しばらく、潔の顔を、じっと見ていた。
そして、にこっと、笑った。
「それでいいんだよ! それが、本気ってやつでしょ!」
「本気……」
「うん! メダルなんか、ただの飾りでしょ! 潔は、世界一になるんでしょ? なら、それで十分だよ!」
蜂楽の声は、どこまでも、明るかった。
「でも、俺は、メダルが欲しかった。報酬が欲しかった。そんな自分が、情けない」
「んなことねーよ! お前はいつも本気だぜ! それでいいんだぜ、それが本気ってやつだろ!」
蜂楽は、潔の背中を、ぽんと押した。
その手が、温かかった。
「ほら、行こうよ! ラウンジで、みんな待ってるよ!」
寮の共用ラウンジ。
夕方の光が、窓から差し込んでいた。
ソファに、潔と蜂楽が、並んで座っている。
潔は、自分の手を見つめていた。
(メダルがなくても、俺は世界一になる)
(そう、決めた)
顔を上げる。
茶色の瞳に、強い光が、宿っていた。
「蜂楽。聞いてくれ」
「なに? 改まっちゃって」
「このメダルがなくても、俺は世界一になる」
はっきりと、言い切った。
蜂楽は、ぱちぱちと、拍手をした。
「潔、かっこいいじゃん!」
「ああ。見せてやるよ。俺の、本気をな」
潔は、小さく、笑った。
その時。
ラウンジの入り口の影で、本を読んでいた銀色の髪の少年が、微かに、口元を緩めた。
氷織羊。
彼は、本を閉じると、静かに、その場を離れていった。
そして、四階の、凪の部屋。
薄暗い部屋の中で、凪誠士郎は、天井を見上げていた。
「……潔。お前なら、分かると思ってたよ」
凪は、ポケットから、メダルを取り出した。
金色の光が、暗い部屋の中で、静かに、輝いていた。
「これ、お前にやるよ。……まあ、まだ、めんどいけど」
凪の部屋のドアが、ほんの少しだけ、開いた。
廊下から、夕日の光が、細く、差し込んでいた。
食堂に、人が集まっていた。
夕食前の、ざわざわとした空気。
だが、今日は、いつもと違う。
千切豹馬が、テーブルに手を叩きつけた。
「俺の靴下を返せ!」
「うるせえ! プロテインを弁償しろ!」
國神が、負けじと怒鳴り返す。
「財布がない……金で買えるなら買うのに……!」
御影が、ポケットをまさぐりながら、情けない声を上げた。
「ふん、貴様ら、王の前で騒ぐな! 俺こそが王だ!」
馬狼が、不敵な笑みを浮かべて、胸を張る。
「俺の直感が当たるはずだぜ! メダルは、あっちだ!」
蜂楽が、指をさしながら、食堂の中を走り回る。
騒然とする一同。
その中で、潔だけが、動かなかった。
食堂の入り口に立ったまま、凪の言葉を、静かに噛みしめていた。
(メダルなんか、どうでもいい)
(本当に本気な奴は、メダルがなくても、本気だ)
(俺は、世界一のストライカーになる)
「……行くぞ」
潔は、静かに言った。
「どこへ?」
「凪の部屋だ。全員、来い」
潔の声は、不思議なくらい、落ち着いていた。
四階。
凪誠士郎の部屋の前。
潔世一、蜂楽廻、千切豹馬、國神錬介、御影玲王、馬狼照英。
六人が、ずらりと並んだ。
潔が、ドアを叩いた。
コン、コン、コン。
「……あー、めんどい」
中から、気の抜けた声が聞こえた。
「入るぞ」
潔が、ドアを開けた。
部屋の中は、相変わらず、薄暗く、散らかっていた。
ベッドの上に、白髪のふわふわした髪が、シーツに沈んでいる。
凪誠士郎。
身長百九十センチの体を、だらりと伸ばしたまま、眠そうな水色の瞳を、こちらに向けた。
「なに、全員で。うるさいんだけど」
「凪! 俺の靴下を返せ!」
千切が、一歩前に出た。
「知らないよ。靴下なんて」
「なら、プロテインは!?」
「知らない」
「財布も知らないか!?」
「知らないって」
「貴様、王を愚弄する気か!」
馬狼が、怒鳴った。
「めんどい。帰って」
凪は、枕に顔を埋めた。
「みんな、落ち着け」
潔が、一歩、前に出た。
「凪。メダルは、お前が持ってるんだな」
「……持ってるよ」
凪は、枕から顔を上げた。
「そのメダル、俺にくれ」
潔が、真っ直ぐに言った。
凪は、眠そうな目で、潔を見た。
「やだよ。めんどい。俺が、一番本気な奴に、これ、渡すって決めたから」
「一番本気な奴?」
「そう。お前ら、みんな、メダル欲しさに、必死になってるだけだろ。でも、本当に本気な奴は、メダルなんか、どうでもいいはずだ」
凪の言葉に、その場の全員が、はっとした。
「なにを言う! 俺は、王として、当然の権利を——」
馬狼が、叫んだ。
「王様は、メダルがなくても王様でしょ。なんで、そんなに欲しがるの」
「ぐっ……」
馬狼が、言葉に詰まった。
「靴下も、プロテインも、財布も。なくしたからって、なんで、そんなに騒ぐの。自分で探せばいいじゃん」
凪の声は、相変わらず、眠そうだった。
でも、その言葉は、妙に、核心を突いていた。
「みんな、本気で探してない。本気で欲しいなら、もっと、必死になるはずだ」
部屋が、静かになった。
誰も、反論できなかった。
その時。
潔が、もう一歩、前に出た。
「凪」
「なに」
「このメダルがなくても——俺は、世界一になる」
潔は、静かに、そう言った。
凪の目が、ほんの少しだけ、開かれた。
「……は?」
「俺は、世界一のストライカーになる。メダルがなくても、俺は、俺の本気で、世界一になる。だから、メダルは、いらない」
潔は、真っ直ぐに、凪を見つめた。
茶色の瞳に、強い光が、宿っていた。
凪は、しばらく、潔の顔を、じっと見ていた。
そして。
「……それだ」
凪は、ゆっくりと起き上がった。
「潔、お前、本気だな」
凪の水色の瞳に、初めて、光が宿った。
「メダルがなくても、世界一になる。その言葉、本気だ。お前に、これ、やるよ」
凪は、ポケットから、メダルを取り出した。
金色の光が、薄暗い部屋の中で、きらりと輝いた。
そして、潔に向かって、放り投げた。
メダルが、弧を描いて、潔の手の中に、すっぽりと収まった。
「凪……!」
「お前が一番、本気だった」
凪は、それだけ言うと、また、ベッドに倒れ込んだ。
「でも、めんどいから、夕食のご馳走、俺の分も、お前が運んでこいよ」
「相変わらずだな、お前は」
潔は、苦笑いした。
「潔、やったじゃん! メダル、ゲットだよ!」
蜂楽が、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
「ふん、まあ、今回は、潔に譲ってやる。王は、寛大だからな」
馬狼が、腕を組みながら、そっぽを向いた。
「俺の靴下……」
千切が、肩を落とした。
「プロテイン……」
國神も、項垂れた。
「財布……」
御影は、まだ、ポケットをまさぐっていた。
「ああ。でも、これは、まだ、終わりじゃない」
潔は、手の中のメダルを見つめた。
(俺の本気、見せてやる)
(世界一のストライカーになって、証明してやる)
窓の外では、夕日が、寮を赤く染めていた。
長い一日が、終わろうとしている。
しかし、潔の心は、燃えていた。
夕食の時間。
食堂は、いつもより、賑やかだった。
潔のチームは、好きなものを、好きなだけ食べられる。
テーブルの上には、唐揚げ、カレー、ハンバーグ、寿司、ラーメン、デザートまで、所狭しと並んでいた。
「うまそう! いただきます!」
蜂楽が、真っ先に、唐揚げに飛びついた。
「お前、食いすぎだろ」
潔も、笑いながら、カレーを口に運んだ。
「……めんどい。運んでこいって言ったのに」
凪が、いつの間にか、隣に座っていた。
「自分で食えよ」
「めんどい」
凪は、だらりと、テーブルに突っ伏した。
「仕方ないな」
潔は、凪の前に、ハンバーグを置いてやった。
「……サンキュ」
凪は、のろのろと、フォークを手に取った。
一方、食堂の窓の外では。
負けた面々が、グラウンドを走っていた。
千切、國神、御影、馬狼。
「くそ! なんで俺が走らなきゃならないんだ!」
馬狼が、先頭を走りながら、叫んだ。
「うるさい! お前がメダルを取れなかったからだろ!」
國神が、後ろから怒鳴り返す。
「靴下もないのに、走るのか……」
千切が、涙目で、走っている。
「財布がないから、タクシーも呼べない……」
御影が、息を切らしながら、泣いていた。
「あいつら、元気だな」
潔は、窓の外を見ながら、笑った。
「だね! でも、なんか、楽しそうだよ!」
蜂楽も、笑った。
「……めんどい」
凪は、ハンバーグを、ゆっくりと食べていた。
食堂の隅では、氷織羊が、静かに本を読んでいた。
時々、窓の外で走る面々を、ちらりと見て、微かに、口元を緩めていた。
(みんな、本気だ)
(それが、見たかった)
氷織は、本に視線を戻した。
翌朝。
潔世一は、自分の部屋で、目を覚ました。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
(そういえば、メダル、どこに置いたっけ)
枕の下に、手をやった。
ない。
ベッドの上を、探した。
ない。
机の上。
ない。
クローゼットの中。
ない。
「……あれ?」
潔は、部屋の中を、ぐるぐると見回した。
メダルが、消えている。
「おい、蜂楽! メダルが——」
潔は、隣の部屋に、飛び込んだ。
「え? どうしたの?」
蜂楽が、寝ぼけた顔で、起き上がった。
「メダルがない!」
「ええ!? また!?」
二人は、顔を見合わせた。
「まさか、また氷織か!?」
「でも、氷織は、もう、メダルを凪に渡したって——」
その時。
廊下から、高らかな笑い声が、聞こえてきた。
「はっはっは! 潔! 貴様、探しているな?」
馬狼照英が、廊下に立っていた。
赤紫がかった黒髪をオールバックにした、鋭い赤い瞳の男。
その手に、金色のメダルが、握られていた。
「馬狼! お前——!」
「俺が本気で探してないと思ったか? お前らが寝てる間に、取り返したぜ」
馬狼は、不敵な笑みを浮かべて、メダルを、ひらひらと見せびらかした。
「なんで、そんなこと……」
「王たる者、一度手にしたものを、簡単に手放すわけがないだろ。潔、このメダルは、俺がもらう。世界一になるのは、この俺だ」
馬狼は、そう言い放つと、くるりと背を向けて、去っていった。
「……あいつ」
潔は、しばらく、ぽかんとしていた。
そして、小さく、笑った。
「まあ、いっか。また、探せばいいさ」
「そだね! 今度は、僕の直感で、絶対見つけるよ!」
蜂楽も、笑った。
四階の、凪の部屋。
凪誠士郎は、ベッドの上で、天井を見上げていた。
「……めんどい」
凪は、小さく呟いて、目を閉じた。
五階の、書庫。
氷織羊は、静かに、本を開いていた。
朝の光が、窓から差し込み、銀色の髪を、きらきらと照らしている。
氷織は、本のページを、ゆっくりとめくった。
その口元は、微かに、笑っていた。
(今日も、ブルーロックは、騒がしい)
(でも、それが、一番、面白い)
氷織は、静かに、本を読み続けた。
今日もブルーロックは、騒がしくて、少しおかしい。
でも、それが、この場所の、いつもの姿だった。Noveliaとは?
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