メタルギア学園:スネークの受難
転校初日、校門の坂道を全速力で駆け上がったソリッド・スネークは、運悪く女子生徒と衝突。オレンジジュースまみれになった制服、冷たい視線の風紀委員長、なぜか学園中に広まるセクハラの噂——。人工島ウムウェルト島に広がる超巨大学園で、彼を待っていたのは最悪のスタートだった。しかも生徒会長から告げられたのは「特別監視対象」への指定。監視役は、あのジュース事件の相手・メリル。反発し合う二人の、険悪きわまりない関係が始まる。だがスネークには、この学園に来た秘密の理由があり——。ラブコメ×学園サスペンス、ここに開幕。
メタルギア学園:スネークの受難 - 夜明けの発表会~触れた指先と、消えない地響き~
「……監視対象の少年、君の正体はね——」
白髪を後ろに撫でつけた老人が、値踏みするような目でスネークを見据えた。高価そうなスーツの袖から覗く手は、不気味なほど落ち着いている。地下施設の冷たい空気が、肌に張り付くようだった。
スネークは拳を握りしめた。左眉の古い傷跡が、じくじくと疼く。
(ここで、終わるわけにはいかない)
「……あんたの話を聞く気はない」
「ほう。だが、君の知る権利だ。君が何者で、なぜここにいるのか。それを知らずに、君は戦えるのかね?」
ビッグボスが一歩、踏み出す。革靴の音が、地下の静寂を裂いた。
その時だった。
ウィーーーーーーーーーーーーーッ!!
けたたましい警報音が、地下施設の壁という壁から一斉に鳴り響いた。赤いランプが回り、床が振動する。ハウンドガードの男たちが、一瞬、動きを止めた。
「な、なんだ!?」
「警報だと!?誰が鳴らした!?」
ビッグボスの目が、初めて大きく見開かれた。
「……何をした、スネークくん」
スネークは、口元をわずかに歪めた。
「ったく、面倒くせぇな。あんたが俺の正体を喋るってんなら、こっちも最後の手段を使わせてもらう」
スネークは、ポケットからスマホを取り出した。画面には、通話中の表示。相手の名は、『オタコン』。
「スネークくん! 今だ! 警報は学園中のスピーカーに流れてる! ハウンドガードの連中も、校内の警備に手を取られてるよ!」
「上出来だ。後は、脱出するだけだ」
スネークは、振り返った。
「メリル! 博士とエレンを連れて、先に行け!」
「え、あんたは!?」
「俺は、ここで時間を稼ぐ。すぐに追いつく」
「バカ言わないで! 一人で残るなんて——」
「メリル。お前なら、できる。博士とエレンを、頼んだ」
メリルは、唇を噛みしめた。意思の強そうな琥珀色の瞳が、不安と怒りで揺れている。
「……絶対、後から来なさいよ。約束だからね」
「ああ。約束だ」
メリルは、エレンとドラゴ博士の手を取った。
「行くわよ、二人とも!」
「でも、スネークが……」
「あいつを信じるの。あいつは、絶対に大丈夫だから」
エレンは、一瞬だけスネークを見つめた。汚れた衣装のまま、それでもその瞳は、舞台に立つ時のような強い光を宿している。
「……必ず、また会いましょう。私のパートナー」
三人が、非常階段へと走り出す。
ビッグボスは、慌てる様子もなく、スネークを見ていた。
「……面白い。警報ごときで、私の計画が止まると思っているのかね?」
「止まるとは思ってない。だが、あんたの目を、少しだけでも俺に向けさせられれば、それでいい」
「……その目、いい。実にいい。だからこそ、君の正体を知らないことが、惜しい」
「俺の正体なんて、後でいくらでも調べられる。今は、あの三人を逃がすことが最優先だ」
スネークは、身構えた。
ビッグボスは、ゆっくりと拍手をした。
「……見事だ。では、行くがいい。今は、見逃してやろう。だが、次はないぞ」
「……なんだと?」
「君の正体を明かすには、まだ早い。舞台が整っていない。今日のところは、退屈な前座だった。……行け。君の大切な人たちが、待っている」
スネークは、ビッグボスの真意を測りかねた。だが、今は、迷っている時間はない。
「……覚えておけ。あんたの思い通りには、ならない」
スネークは、背を向けて、非常階段へと走り出した。
——
非常階段は、冷たい鉄の匂いがした。
一段一段を、全力で駆け上がる。心臓が、胸の奥で激しく脈打つ。肺が、酸素を求めて悲鳴を上げる。
「スネークくん! このまま上へ! 地上の出口はもうすぐだ!」
スマホの向こうから、オタコンの早口が飛んでくる。
「お前、今どこにいるんだよ!?」
「僕は、学園の外からシステムにアクセスしてるんだ! ハウンドネットの管理権限を使ってね! 君たちの位置情報も、全部把握してる!」
「ったく、情報屋は伊達じゃねぇな」
「褒めてもらって嬉しいよ! でも、後ろからハウンドガードが来てる! 急いで!」
振り返る。数人のハウンドガードが、警棒を手に追いかけてくる。濃紺のセキュリティスーツが、非常灯の赤に照らされて不気味に揺れる。
「待て! 止まれ!」
「止まるかよ、バカが」
スネークは、足を速めた。
その時、前方の踊り場から、メリルの声が聞こえた。
「スネーク! 伏せて!」
スネークは、反射的に身を伏せた。
直後、何かが飛んでくる。赤い筒状のもの。消火器だ。
メリルが、安全ピンを抜いて、床に叩きつけた。
バシュウウウウウッ!!
白い粉塵が、階段を一気に覆い尽くす。視界が真っ白になった。
「ごほっ! な、なんだこれは!?」
「前が見えん!」
「今よ! 早く!」
スネークは、白煙の中を駆け抜けた。粉塵が目に染みる。呼吸が苦しい。でも、止まらない。
「消火器を破裂させるとは、なかなかやるじゃねぇか」
「あんたを助けるためなら、何でもやるわよ。……バカ」
メリルの手が、スネークの腕を掴んだ。
「こっちよ。博士とエレンは、上の階で待ってる」
「……ありがとう。助かった」
「……え」
メリルが、一瞬だけ足を止めた。白い粉塵の中で、彼女の頬が、ほんのりと赤く染まっているように見えた。
「べ、別に。あんたが死んだら、私の監視の意味がなくなるからよ」
「ったく、素直じゃねぇな」
「うるさいわね! ほら、行くわよ!」
二人は、再び走り出した。
——
地上への扉を開けた瞬間、夜明け前の冷たい空気が、全身を包み込んだ。
空は、東の空がわずかに白み始めている。星が、まだ、いくつか残っていた。
「……外だ」
「……やっと、出られたのね」
エレンが、涙をこぼしていた。汚れた衣装のまま、それでも、彼女の顔は、朝焼けの光を浴びて、驚くほど美しかった。
「……エレン。すまなかった。私のせいで、お前まで……」
博士が、エレンの肩を抱いた。やつれた顔には、深い疲労と、安堵の色が浮かんでいる。
「……父さん。謝らないで。私は、大丈夫。それより、スネーク」
エレンは、スネークを振り返った。
「ありがとう。あなたのおかげで、また、踊れる」
「ったく、礼を言われるほどのことはしてねぇよ。それより、発表会はどうするんだ? 今日、予定通りにやるんだろ?」
エレンは、微笑んだ。
「ええ。やるわ。この汚れた衣装のままでも、みんなに私の踊りを見せたいの」
「……本気か? 体はボロボロだろ」
「本気よ。踊りは、私の命。それに、待ってくれている人がいる。私の踊りを、見たいと言ってくれた人が」
エレンの瞳は、まっすぐだった。
メリルが、そっとスネークの袖を引いた。
「……あんた、あの子の気持ち、わかってあげなさいよ」
「……お前、エレンのこと、嫌ってたんじゃねぇのか?」
「ば、バカ! 今は、そんな話してる場合じゃないでしょ! それに、あの子の踊りは、本当にすごいんだから」
メリルの顔が、また赤くなった。
スネークは、苦笑いした。
「……わかった。発表会、やろうぜ。俺たちも、手伝う」
「……あんた、たまにはいいこと言うじゃない」
「たまには、ってなんだよ」
「そのままの意味よ」
——
夜明けの学園ホール。
収容人数1500人の多目的ホールに、朝日が差し込んでいた。
舞台には、エレンが一人、立っていた。
衣装は、地下施設で汚れたまま。髪も、乱れたまま。でも、彼女の背筋は、まっすぐに伸びていた。
客席には、スネーク、メリル、オタコン、そして、風紀委員長のナオミの姿があった。
「……エレンさん、本当に踊るつもりなんだね」
オタコンが、メガネをくいっと上げながら言った。
「あの子は、そういう子よ。自分で決めたことは、絶対に曲げない」
ナオミは、切れ長の黒い瞳で、舞台を見つめていた。手には、いつもの小さな手帳。違反者記録用の手帳が、今は、彼女の緊張を隠すための道具のように見えた。
「……規則ですから、本当なら、こんな時間に集会を開くことは許可できませんわ。でも、これは、特別です」
「ナオミさん、素直じゃないなあ」
「……余計なことを言わないでくださいまし」
その時、舞台の照明が、ゆっくりと点灯した。
エレンが、深く息を吸い込む。
そして、踊り始めた。
——
音楽は、なかった。
でも、彼女の体から、音が聞こえるようだった。
腕が、空を切る。足が、床を打つ。指先が、空気を掴む。
汚れた衣装が、まるで、羽のように見えた。
バレエ。
それは、かつてボリショイ・バレエ団の花形スターと呼ばれた少女の、魂の叫びだった。
監禁されていた日々。
暗い地下の記憶。
それらすべてを、振り払うように。
エレンは、踊った。
客席から、息を呑む気配がした。
「……すごい」
メリルの声が、震えていた。
「……ああ。本当に、すごいな」
スネークは、舞台から目が離せなかった。
エレンの一挙手一投足が、美しくて、痛々しくて、それでいて、力強かった。
(こいつは、本当に、踊りが好きなんだな)
スネークは、思った。
(好きなことを、奪われて、それでも、また、こうして舞台に立てる。……強いな)
胸の奥が、じわりと熱くなる。
同時に、隣に座るメリルの存在を、強く意識した。
彼女の、栗色の髪。
意思の強そうな琥珀色の瞳。
左耳の小さなピアス。
(こいつも、強い)
スネークは、メリルの横顔を見た。
メリルは、舞台に釘付けだった。その瞳は、涙で潤んでいる。
(泣いてるのか)
スネークは、何か言おうとした。
でも、言葉が出てこなかった。
その代わりに、彼は、そっと、自分の手を、メリルの手の近くに置いた。
——
エレンの踊りが、終わった。
静寂。
一拍遅れて、客席から、割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「ブラボー! エレンさん、最高だよ!」
オタコンが、立ち上がって拍手を送る。
「……見事でしたわ。エレンさん」
ナオミも、静かに拍手をしていた。
「……エレン……!」
メリルは、涙を流しながら、拍手をしていた。
スネークも、拍手をした。
(よかった。本当に、よかった)
心から、そう思った。
エレンは、舞台の上で、深々とお辞儀をした。
その顔は、汗と涙で光っていた。
「……みなさん。ありがとうございました。私、また、踊れて、本当に、幸せです」
エレンの声は、震えていた。
でも、その笑顔は、夜明けの太陽よりも、輝いていた。
——
発表会が終わり、客席の熱気が、少しずつ冷めていく。
スネークとメリルは、まだ、隣同士に座っていた。
ふと、スネークは、気づいた。
自分の小指が、メリルの小指に、触れている。
ほんの、わずかに。
でも、確かに、触れていた。
スネークの心臓が、跳ねた。
メリルも、気づいたようだった。
二人は、同時に、手を引っ込めた。
「……ご、ごめん」
「……べ、別に、謝ることないわよ」
メリルの顔が、耳まで真っ赤になっている。
スネークも、自分の顔が熱いのがわかった。
(なんで、手が触れただけで、こんなにドキドキするんだ)
スネークは、心の中で、自分にツッコミを入れた。
「……あ、あんた、今、私の手、触ったでしょ」
「いや、触ったって言うか、勝手に触れてたと言うか……」
「触ったのは、事実でしょ。セクハラよ、セクハラ。風紀委員長に報告しようかしら」
「おい、やめてくれよ。あの人に知られたら、何をされるか……」
「……冗談よ。バカね」
メリルが、小さく笑った。
「……ったく、心臓に悪い」
「……あんた、心臓、ドキドキしてるの?」
メリルが、スネークの顔を覗き込んだ。
「……な、なんでそんなこと聞くんだよ」
「……だって、私も、してるから」
メリルの声が、小さくて、でも、はっきりと、聞こえた。
スネークは、言葉を失った。
「……監視役だから、隣にいただけよ。別に、あんたのことなんて、なんとも思ってないんだから」
メリルは、顔を背けた。
でも、その耳は、真っ赤だった。
スネークは、深呼吸をした。
(今、言わなきゃ。言える時に、言わないと)
スネークは、メリルの手を、今度は、はっきりと、握った。
「……え!?」
メリルが、振り返った。
「……俺は、メリルと一緒にいられて、嬉しかった」
スネークの声は、不器用で、でも、真剣だった。
「……あんた、それ……」
「監視役とか、そういうの、関係ない。俺は、お前と、一緒にいたかった」
メリルの瞳が、大きく見開かれた。
そして、その瞳が、みるみるうちに、涙でいっぱいになっていく。
「……バカ。あんたって、ホントに、バカ」
メリルは、涙をこぼしながら、笑った。
「……私も、一緒にいられて、嬉しかったわよ。……バカ」
二人の間に、気まずくも温かい沈黙が流れた。
握った手から、メリルの体温が、伝わってくる。
スネークは、その温かさを、確かめるように、もう一度、強く握った。
メリルも、握り返してきた。
朝日が、二人を、優しく照らしていた。
——
発表会の片付けが終わった後、オタコンが、スネークを呼び止めた。
「スネークくん。ちょっと、話があるんだ」
オタコンの顔は、いつもの明るい表情ではなく、真剣そのものだった。
「どうした、改まって」
「警報で学園中が混乱したおかげで、通信ログを解析する時間が稼げたんだ。その結果、わかったことがある」
「……なんだ?」
「ビッグボスが、メタルギア起動の準備を進めている。これは、もう、噂のレベルじゃない。実際に、地下施設のシステムに、起動シーケンスのコードが送信されている形跡があるんだ」
「起動シーケンスだと? じゃあ、あの地響きは……」
「うん。おそらく、メタルギアのシステムが、少しずつ稼働し始めている。でも、まだ決定的な証拠じゃない。通信ログは暗号化されていて、完全に解読できたわけじゃないからね」
オタコンは、メガネをくいっと上げた。
「でも、これは、かなりヤバい状況だ。次の手を考えないと」
「……ああ。わかってる。ビッグボスの目的は、まだ、はっきりしない。だが、メタルギアを起動させようとしてるのは、間違いない。俺たちで、止めるしかない」
スネークは、拳を握りしめた。
(メタルギアの謎。そして、俺の正体。……ビッグボスは、何かを知っている。絶対に、暴いてみせる)
スネークは、決意を新たにした。
「オタコン。引き続き、調査を頼む。俺も、できることを探す」
「もちろん! 情報収集は、僕の得意分野だからね! 任せてよ!」
オタコンは、笑顔でサムズアップした。
——
同日夕方。
理事長室。
ビッグボスは、一人、窓の外を見ていた。
夕日が、島を、赤く染めている。
「……次はないぞ、スネーク君」
ビッグボスは、不敵な笑みを浮かべた。
その直後だった。
ゴゴゴゴゴゴ……
足元から、低い地響きが、聞こえてきた。
ビッグボスは、窓の外を見つめたまま、笑みを深くした。
「……始まりの時は、近い。私の、メタルギアが、目を覚ます」
地響きは、次第に大きくなり、学園の日常の裏で、確実に、何かが動き始めていた。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。