ゴーレム転生者、異世界をプロレスで制す 〜二体の猿が最強への道を拓く〜
日本の大学院生カイは、不慮の事故で命を落とし、気がつくと剣と魔法の異世界に転生していた。気まぐれな神に選ばれ、ゴーレム召喚スキルを授かる。召喚されるゴーレムは二体の巨大な猿型で、常時起動しているが自我はなく、カイの命令でのみ動く。冒険者ギルドでは嘲笑の的。ベテランのゴダンは「ゴーレム二体など役立たずだ」と吐き捨てる。
だが、カイには秘密の武器があった。前世で培った理系学生としての知識と、筋金入りのプロレスファンとしての観戦歴だ。ゴーレムに独自のファイトスタイルを命じ、モンスターをスープレックスやドロップキック、コブラツイストで叩きつける。依頼を次々と成功させ、ギルド内で存在感を増していくカイ。安全のはずの薬草採取クエスト中、ヒューネのパーティが特殊モンスターに壊滅寸前まで追い込まれる。偶然居合わせたカイは、完璧な二体連携でこれを撃破。彼の評価は一夜にして一変する。
やがてカイは、初めての真の壁に直面する。幻影系の魔物・マロウノ影。物理攻撃がまったく効かない。カイは生まれて初めて撤退を余儀なくされる。霊体に対抗すべくゴーレムの素材構成を改良しつつ、王都に便利な現代知識を広めていく。
ゴーレム転生者、異世界をプロレスで制す 〜二体の猿が最強への道を拓く〜 - 最強魔導師グレンヴァルド、圧倒の決闘と完敗の悔しさ
夜の静寂が、ラムの角亭の二階を包み込んでいた。
窓から差し込む月明かりが、床一面に散らばった羊皮紙の設計図を青白く照らしている。石と鉄の素材サンプルが机の上に山積み。壁には、ゴーレムの構造を書き殴ったメモが何枚も貼られていた。
カイは椅子に座ったまま、机の上の小さな金属片を指で弄んでいた。魔鉱石の欠片だ。ヴォルガ山脈で採れる、魔法を吸う石。マロウノ影に敗れてから、彼はこの石に賭けていた。
(魔力を纏わせる回路は、あれから何度も試した。微かだが、霊体に干渉できる可能性はある。でも、あの最強魔導師に通じるか?)
黒いショートヘアは、いつも以上に撥ねている。寝癖というより、何日もまともに寝ていない証拠だ。黒い瞳は充血し、目の下には濃い隈が浮かんでいた。
「……ゴーレムの構成素材を、状況に応じて切り替える。思念操作の精度を、もっと上げないと」
カイは立ち上がると、部屋の中央で両手を広げた。
「来い、ゴーレム」
床に魔法陣が浮かび上がる。薄い光の輪が二つ、ゆっくりと回転する。次の瞬間、部屋の中に二体の大猿型ゴーレムが出現した。
身長約二・二メートル、体重推定三百キロの巨体。石と鉄を組み合わせた外装が、月明かりを受けて鈍く光る。意思を持たない人形。カイの思念でのみ動く、彼だけの戦士。
「右、ラリアットの構え。左、スープレックスの体勢」
ゴーレムたちが、ぎぎぎと関節を軾ませながら動く。右腕を水平に伸ばした一号。相手の腰を抱え込むような低い姿勢を取る二号。
(魔力の流れを、外装の表面に薄くコーティングする。そうすれば、物理だけじゃない。魔法にも、少しは耐えられるはず)
カイは目を閉じ、ゴーレムへの魔力供給を意識する。胸の奥にある、魔核が脈打つ。ラーヴェを変換し、ゴーレムへと送り込む。
だが。
「……っ、あ」
視界が、ぐらりと揺れた。
魔力の消費が、体の限界を超えている。頭の奥が痛み、吐き気が込み上げる。魔素酔いの症状だ。
「まだ……まだだ。あと少しで、回路が安定する」
カイは歯を食いしばり、ゴーレムへの魔力供給を続ける。二体のゴーレムの表面に、うっすらと青白い光が走る。魔力のコーティングが、形成されつつある。
だが、その代償は大きい。カイの顔から血の気が引き、立っているのがやっとという状態だった。
ドンドンドン。
「カイ! あんた、まだ起きてるのかい?」
ドアの向こうから、宿の女将ミラ・ホルンの声がした。カイは慌ててゴーレムを消そうとしたが、魔力が乱れてうまくいかない。
「ちょ、待って。今、消すから!」
カイは必死にゴーレムへの魔力供給を遮断した。二体のゴーレムが、音もなく消えていく。
「……はあ、はあ、はあ」
カイはその場に膝をついた。冷や汗が背中を伝う。心臓が激しく脈打ち、耳の奥で血液の流れる音が聞こえる。
「入るよ」
ミラがドアを開けた。四十代の世話好きな女将は、腰に手を当てて部屋の中を見回す。
「あんた、また部屋を散らかして……って、顔色がひどいじゃないか。大丈夫なのかい?」
ミラの声が、心配そうに変わる。カイは無理に笑顔を作った。
「へへ、大丈夫っすよ。ちょっと夜更かししすぎただけ」
「そうは見えないよ。あんた、この数日まともに寝てないだろ。明日の決闘、大丈夫なのかい?」
ミラの言葉に、カイの笑顔が一瞬固まった。
(明日の決闘。王国最強の宮廷魔導師、グレンヴァルドとの決闘。負けるわけにはいかない。いや、勝てるとは思ってない。でも、何もできずに終わるのは、絶対に嫌だ)
「大丈夫です。任せてくださいよ」
カイは立ち上がると、軽く肩を回した。
「それより、明日の朝食、多めに頼んでいいっすか? 決闘の前に、腹ごしらえしときたいんで」
「……あんた、本当に大丈夫なのかい? 無理はするんじゃないよ」
ミラはなおも心配そうにカイを見つめた。カイは笑って手を振る。
「大丈夫大丈夫。俺、しぶといんで」
ミラはため息をつくと、ドアを閉めて去っていった。
カイは一人になると、再び床に座り込んだ。
(大丈夫……なわけないよな。相手はあのグレンヴァルドだ。王国最強。俺が何をしようと、勝てる相手じゃない。でも)
カイは拳を握りしめた。
(でも、やるしかない。逃げるのは、もう嫌だ。前世の俺は、いつも逃げてばかりだった。教授に研究を奪われても、何も言えなかった。やり直すチャンスを自分から捨てた。もう、あんな思いはしたくない)
窓の外を見上げる。月が、雲の切れ間から顔を出した。
(明日、全部出し切る。ゴーレムと一緒に、全力でぶつかる。それでダメなら、その時はその時だ)
カイはゆっくりとベッドに倒れ込んだ。
意識が、遠のいていく。
(ああ……寝なきゃ。明日は、早い)
彼は、泥のように眠りに落ちた。
——
翌日。
王都フォルクハルトの東端に位置する闘技場「コロ・ディアーナ」は、かつてない熱気に包まれていた。
収容人数約三千人の観客席は、朝早くから王都中の人々で埋め尽くされている。貴族から平民、冒険者から商人まで、あらゆる階層の人間が、この決闘を見ようと集まっていた。
「おい、あれが噂のゴーレム使いか?」
「ああ、カイ・クロサキって若者だ。特殊個体を倒したっていう」
「相手はグレンヴァルド様だぞ。勝てるわけがない」
「でも、あの最強魔導師が自ら決闘を申し込んだんだ。何かあるに違いない」
観客たちのざわめきが、闘技場全体を包み込む。
最前列の一角には、ゴダンの姿があった。赤茶の短髪、血走りがちな赤褐色の目。顎から頬にかけて無造作に生えた無精ひげ。彼は剣の柄に手を置いたまま、顎を上げて闘技場を見下ろしていた。
「ヘッ、ゴーレム野郎が、どこまで持つか見ものだな」
ゴダンは鼻で笑った。彼の周りには、ゴダン派の冒険者たちが数人控えている。
「あのガキ、グレンヴァルド様に挑むなんて、身の程知らずもいいとこだ」
「どうせ一瞬で終わるさ。いい気味だ」
ゴダンは、ニヤリと笑った。
「そうだな。あの邪道ゴーレムが、本物の魔法の前に木っ端微塵にされるのを、特等席で見物してやろうぜ」
その時、闘技場の入り口が開いた。
カイが、ゆっくりと闘技場の中央へ歩み出る。
黒いショートヘアは、今日はきっちりと整えられている。黒い瞳は、まっすぐに前方を見据えていた。その表情は、普段のお調子者な雰囲気とは違い、研ぎ澄まされた刃のような鋭さを帯びている。
「来たぞ!」
「カイだ! ゴーレム使いの!」
観客席から、歓声と野次が入り混じった声が飛ぶ。
カイは、闘技場の中央で立ち止まった。
(これが、俺の全力を出す場所。やってやる)
カイは両手を広げた。
「来い、ゴーレム!」
魔法陣が展開される。二体のゴーレムが、カイの左右に出現した。
今回は、鉄の構成素材をメインにしたゴーレムだ。銀色の巨体が、陽光を反射して眩しく輝く。その姿は、まるで鋼鉄の戦士のようだった。
「おおおお!」
「あれがゴーレムか! すげえ!」
観客席が、どよめきに包まれる。
カイは、ゴーレムたちに思念を送る。
(一号、右前方。二号、左後方。いつでも動けるように、構えておけ)
二体のゴーレムが、ぎぎぎと音を立てて配置につく。
その時、闘技場の反対側の入り口が、ゆっくりと開いた。
「……お待たせしました」
静かな、しかし闘技場全体に響き渡る声。
銀の長髪を緩く流し、深い紫の瞳を眠たげに細めた男が、優雅な足取りで闘技場の中央へと歩いてくる。整いすぎた顔立ち。歩くたびに、ローブから微かに星のような光がこぼれる。
グレンヴァルド。レスティア王国最強の宮廷魔導師。
彼が現れた瞬間、闘技場の空気が一変した。観客たちのざわめきが、水を打ったように静まる。
「……さすが、王国最強。オーラが違う」
誰かが、小声で呟いた。
グレンヴァルドは、カイの前に立つと、優雅に一礼した。
「カイ・クロサキ君。本日は、私の退屈しのぎにお付き合いいただき、感謝する」
カイは、軽く肩をすくめた。
「退屈しのぎね。まあ、俺もあんたとやれるなら、全力を出せるってわけだ。感謝してるよ」
グレンヴァルドは、微笑んだ。目は全く笑っていない。
「それは何より。では、始めましょうか」
グレンヴァルドは、指輪をした指で空中に円を描いた。
「準備はよろしいか?」
カイは、ゴーレムたちに思念を送る。
(いくぞ。最初の一撃で、あいつの出方を探る)
「いつでも来いよ! 行け、一号! ラリアットだ!」
カイの叫びと同時に、右前方のゴーレム一号が動き出した。
銀色の巨体が、地を這うように突進する。その右腕が、水平に伸びる。
「おおおお!」
観客席から、歓声が上がる。
ゴーレム一号のラリアットが、グレンヴァルドの首元を狙って振り抜かれる。
だが。
「ふむ」
グレンヴァルドは、軽く片手を振った。
それだけだった。
突如、凄まじい風が巻き起こった。
ドゴォォォォン!!!
風の魔法が、ゴーレム一号の巨体を吹き飛ばす。三百キロの鉄の塊が、まるで紙切れのように宙を舞い、闘技場の壁に激突した。
ガァァァン!!!
壁が砕け、ゴーレム一号が瓦礫の下に埋もれる。
「なっ……!」
カイは、言葉を失った。
(あのゴーレム一号を、片手で吹き飛ばした? 風の魔法だけで?)
「どうしました? まだ始まったばかりですよ」
グレンヴァルドは、涼しい顔で立っている。その余裕が、カイの焦りを煽る。
「まだだ! 二号、スープレックスだ!」
カイは、左後方のゴーレム二号に指示を出す。
ゴーレム二号が、グレンヴァルドの背後に回り込み、その腰を抱え込もうとする。
「なるほど。投げ技ですか。面白い」
グレンヴァルドは、地面に手を触れた。
「ですが」
地面が、隆起した。
ドゴォォォン!!!
土塊が、ゴーレム二号の足元から噴き上がる。その土塊が、ゴーレム二号の足を砕いた。
ガギャァァァン!!!
ゴーレム二号の足首が、ひしゃげる。巨体が、バランスを崩して前のめりに倒れた。
「くそっ!」
カイは、ゴーレム二号に思念を送る。
(立て! 立てるか!)
だが、足を砕かれたゴーレム二号は、起き上がることができない。
「……君のゴーレムは、物理的な破壊には弱いようだ。足を砕けば、動きを止められる」
グレンヴァルドは、冷静に分析する。その口調は、まるで実験を観察する学者のようだった。
カイは、歯を食いしばった。
(くそ……あいつの魔法は、風だけじゃない。土も使う。多彩すぎる。でも、まだ手はある)
カイは、ゴーレム一号を瓦礫の中から再起動させた。
「一号、素材を石に切り替えろ! 質量を上げて、パワーボムの威力を最大化する!」
ゴーレム一号が、瓦礫の中から立ち上がる。その外装が、鉄から石へと変化していく。銀色の輝きが、灰色の重厚な質感へと変わった。
「ほう。素材を切り替える。それは初めて見ました。実に興味深い」
グレンヴァルドの紫の瞳が、きらりと光った。
「だが、質量が増えれば、動きは鈍くなる。その隙を突かれることは、考えないのですか?」
グレンヴァルドは、指で空中に円を描く。
「風刃」
無数の風の刃が、ゴーレム一号に襲いかかる。
ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!
石の外装が、風の刃に削られていく。ゴーレム一号の表面に、無数の傷が刻まれた。
「それでも、動くか。頑丈ですね」
グレンヴァルドは、感心したように言った。
カイは、ゴーレム一号と二号に同時に思念を送る。
(一号、パワーボムの構え。二号、ドロップキックだ。二人同時に、あいつを挟み撃ちにする!)
「行けー! ボディスラムだー!」
カイの叫びとともに、ゴーレム一号がグレンヴァルドを正面から捉え、その巨体を持ち上げようとする。同時に、ゴーレム二号が、片足を砕かれた状態のまま、残った足で地面を蹴り、ドロップキックを放った。
「ほう。連携ですか」
グレンヴァルドは、微笑んだ。
「ですが」
グレンヴァルドは、両手を広げた。
「炎壁」
彼の周囲に、炎の壁が展開された。
ゴォォォォ!!!
灼熱の炎が、ゴーレム一号と二号の攻撃をすべて防ぐ。いや、防ぐだけではない。
「……あっ」
カイは、目を見開いた。
炎が、ゴーレムの表面を溶かし始めていた。石の外装が、灼熱の炎で赤く焼け、ドロドロと溶けていく。
「熱で、表面が溶ける。素材を切り替えても、熱には耐えられないようだ」
グレンヴァルドは、淡々と解説する。
「くそ……! ゴーレムを再召喚する!」
カイは、ゴーレムを再召喚しようと、魔力を集中させる。
だが。
「……がっ」
膝が、崩れた。
魔力が、尽きかけている。昨夜の改良で消耗した魔力が、回復しきっていない。
「どうやら、魔力が尽きたようだ」
グレンヴァルドは、ゆっくりとカイに近づいてくる。
「君のゴーレムは、実に面白い。プロレス技を模した攻撃、素材の切り替え、二体の連携。どれも、私の知らない発想だ。だが」
グレンヴァルドは、カイの目の前で立ち止まった。
「私の相手には、まだ早い」
グレンヴァルドは、指で空中に円を描いた。
「風刃」
風の刃が、二体のゴーレムを粉砕した。
ガシャァァァン!!!
石と鉄の破片が、闘技場に散らばる。
「……ああ」
カイは、自分のゴーレムが粉々になるのを、ただ見ていることしかできなかった。
グレンヴァルドは、カイの胸ぐらを掴むと、そのまま地面に投げ飛ばした。
ドシャッ!
カイの体が、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
全身に、激痛が走る。骨が折れた音がした。
カイは、立ち上がろうともがいた。
(立て……立てよ……! まだ……終わってない……!)
だが、体が動かない。指一本動かせない。
「……君は、これからもっと面白くなれる」
グレンヴァルドの声が、上から降ってくる。
「私の魔法を見て、何を感じた? 風、土、炎。これらは、ほんの一部に過ぎない。私が本気を出せば、この闘技場ごと消し飛ばせる」
グレンヴァルドは、カイを見下ろしながら、静かに言った。
「だが、君には、その『本気』を引き出す可能性がある。君のゴーレムは、まだ進化の余地がある。そうは思わないか?」
カイは、唇を噛んだ。血の味がした。
(可能性……? そんなの、今の俺には、ただの慰めだ。俺は、何もできなかった。あいつの魔法に、一撃も入れられなかった)
「……君の、勝ちだ」
カイは、搾り出すように言った。
グレンヴァルドは、静かに頷いた。
「ええ。私の勝ちです。だが、これは終わりではない。君の旅は、まだ始まったばかりだ」
グレンヴァルドは、そう言い残すと、闘技場を後にした。
その背中を、カイは地面に倒れたまま見送った。
「……っ」
悔しさが、込み上げてくる。
涙が、滲んだ。
「はは……なんだよ、これ。全然、笑えねえ」
カイは、地面に爪を立てた。
その時だった。
「へッ! 見ろよ、あのザマを!」
最前列から、ゴダンの嘲笑が聞こえた。
「王国最強に挑んだはいいが、手も足も出ずに、地面に這いつくばってるぜ! これが、ギルドで調子に乗ってたゴーレム野郎の末路だ!」
ゴダンの声が、闘技場に響き渡る。
「ゴーレムが粉々になって、泣いてやがる! いい気味だ! 冒険者の誇りもねえ邪道が、これで身の程を知っただろうよ!」
観客席から、ゴダンの仲間たちの笑い声が上がる。
「ハハハ! あのゴーレム、紙くずみたいに吹き飛ばされたな!」
「これで、あのガキも少しは現実を見るだろ」
カイは、地面に倒れたまま、その声を聞いていた。
(……そうだ。俺は、まだ何もできてない。この世界で、何かを成し遂げたわけじゃない。ただ、ちょっと目立っただけだ。それで、調子に乗ってた)
カイの目から、涙がこぼれた。
(悔しい。悔しい。悔しい)
声にならない叫びが、胸の中で渦巻く。
(あいつに、一撃も入れられなかった。ゴーレムが、あんなに簡単にやられるなんて。俺のゴーレムは、あんなもんじゃない。もっと、もっと強くできるはずなのに)
カイは、ゆっくりと体を起こした。
全身が痛む。骨が軋む音がする。
だが、カイは立ち上がった。
「……見てろよ」
カイは、小さく呟いた。
「見てろよ、ゴダン。見てろよ、グレンヴァルド。俺は、まだ終わってない。次は、絶対に、一撃入れてやる」
カイは、よろよろと闘技場を後にした。
——
決闘から、数時間後。
闘技場の控え室は、静まり返っていた。
カイは、一人、控え室の床に座っていた。
手には、一枚の羊皮紙。インク壺と羽ペンが、傍らに置かれている。
「……グレンヴァルドの魔法。風、土、炎。どれも、ゴーレムの物理攻撃を、簡単に無力化した」
カイは、羊皮紙に、自分の敗因を書き出していく。
「風の魔法は、ゴーレムを吹き飛ばす。土の魔法は、足場を崩す。炎の魔法は、表面を溶かす。……物理攻撃だけじゃ、どうしようもない」
カイは、ペンを走らせる。
「必要なのは、魔法への対抗手段。ゴーレムに、魔法耐性を付与する。魔鉱石を、もっと効率的に組み込む。あるいは、ゴーレム自体に、魔法を発動させる回路を組み込む」
カイの手が止まる。
「……でも、それには、もっと魔力が必要だ。俺の魔核は、まだ未熟すぎる。ゴーレムを二体維持するだけで、精一杯だ」
カイは、拳を握りしめた。
「だったら、魔核を鍛える。魔力の総量を増やす。ゴーレムの維持コストを下げる。やるべきことは、山ほどある」
カイは、羊皮紙に、さらに書き足していく。
「ゴーレムの新たな形態。魔法耐性の付与。魔力効率の改善。……これが、俺の次の課題だ」
涙が、視界を滲ませる。
だが、カイは、ペンを止めなかった。
「……負けた。完敗だった。でも、これで終わりじゃない。絶対に、強くなってやる。あいつに、一撃入れるまで、絶対に、諦めない」
カイは、床に拳を叩きつけた。
ドンッ!
鈍い音が、控え室に響く。
拳の皮が破れ、血が滲んだ。
だが、カイは、痛みを感じなかった。
それよりも、胸の奥で燃え上がる、新しい炎の方が、ずっと熱かった。
(俺は、まだ、この世界で、何も成し遂げてない。でも、必ず、成し遂げてみせる。ゴーレムと一緒に、この世界の頂点を、目指してやる)
カイは、血の滲む拳を見つめながら、静かに誓った。
控え室の窓から、夕日が差し込んでいた。
赤い光が、床に散ったゴーレムの破片を、静かに照らしていた。
カイは、その破片を拾い上げると、しばらく掌に乗せて見つめた。
そして、ゆっくりと、指を閉じた。Noveliaとは?
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