AIで書くなら、プロットが全部を決める
プロットを書かずに小説を書く人はたくさんいます。書きながら見つけるほうが面白くなる、というのは本当です。ただしそれは、書いている本人が終わりを知っているか、少なくとも探しに行けるからです。 AIにはそれができません。だからAIで書く場合に限り、プロットの有無が品質のほぼ全部を決めます。
モデルは、終わりを知らずに書き始めている
言語モデルは構想してから書いているわけではありません。ここまでの文字列を見て、次の一語の確率を計算し、そこから引く。書き出した時点で、結末は存在しません。
この性質が何を引き起こすか。各時点でもっともらしい続きを選び続けるので、常に「今いちばん自然な次」に落ちます。 対立が起きれば和解へ、謎が出れば説明へ、感情が高ぶれば回想へ。どれも自然ですが、未来の一点のために今を我慢する、ということができません。
プロットというのは、まさにその「未来の一点」を先に文字にしたものです。つまりAIに書かせる時のプロットは、構成メモではなくモデルが持っていない情報そのものになります。人間が書く時とは役割が違います。
プロットがないと、引き直すたびに別の話になる
実務で最も差が出るのはここです。AIで書くと、必ず何度か書き直します。気に入らない回が出るのは当然で、捨てて引き直すのが正しい直し方でもあります。
ところがプロットがないと、引き直すたびに違う話が返ってきます。一回目は復讐の話、二回目は和解の話、三回目は家族の話。どれも読めるが、繋がらない。前回と同じ方向に、違う文章で戻ってくる、ということが起きません。
プロットがあると、同じ方向のまま何度でも引き直せます。「第4話で診療所が焼ける」が決まっていれば、焼け方だけが毎回変わります。 選べる状態になるので、三回引いて一番いいものを選ぶ、という使い方が成立します。
つまりプロットは、品質を上げる道具というよりやり直しを可能にする道具です。ここが人間が書く場合との一番大きな違いだと思っています。
プロットに書くのは、出来事ではなく決定
よくある失敗は、出来事だけを並べたプロットです。「事件が起きる」「対立する」「和解する」。これは書いても効きません。どれも平均が存在する言葉なので、モデルは平均を返してきます。
書くべきなのは決定のほうです。誰が、何を選ぶか。 「彼は師匠を庇わないと決める」「彼女は嘘をついたまま黙っている」。決定には平均がないので、その一行が全部を動かします。
もう一つ効くのは、失うものを名指しすることです。「大切なものを失う」ではなく「十年続けた診療所と、医師免許」。固有名詞まで落とすと、AIは以降それを守ります。
第1話 出会い
第2〜3話 仲間になる、絆が深まる
第4話 裏切りが起きる
第5話 どん底
第6〜7話 逆転、勝利
第1話 妹の治療費のために違法な仕事を受ける(選ぶ)
第2〜3話 依頼主を信用する。三度助けられ、名前で呼び合う仲になる
第4話 依頼主が彼を売る。金のためではなく、自分の弟のため
第5話 逮捕される。妹の治療は止まる。依頼主は何も言わない
第6〜7話 依頼主を許さないまま、妹のために証言する。二人は二度と会わない
逆に、プロットに書かないほうがいいもの
台詞と描写は書かないでください。書くとモデルはそれを要約的になぞります。 プロットに「彼は『行くな』と叫ぶ」と書くと、本文でもその一行が孤立して置かれるだけで、そこに至る流れが作られません。
場面の細かい段取りも不要です。何時にどこで誰が入ってきて、という手順を書くと、本文が進行表の消化になります。決定と、失うものと、その回の終わり方。この三つで足ります。
長さの目安で言うと、七話ぶんで四百字から八百字あれば十分です。それ以上書くと、書いたぶんだけ本文が説明的になります。
プロットは一度渡せば済む、というのは誤り
ここは私たちが実際に踏んだところです。あらすじの段階で守られていた条件が、本文を書く段になって反転する、という現象がありました。「最後まで報われない」「誰にもバレない」といった、作者がいちばん大事にしていた条件ほど戻されます。
理由は単純で、そういう物語が学習データでは少数派だからです。プロットは数百字、モデルが学習した「報われる物語」は膨大。放っておけば多数派が勝ちます。
対策は繰り返すことです。私たちは作品の核になる意図を先に抽出して、あらすじ・構成・本文のすべての段階に最優先で注入するようにしました。一度書けば伝わる、という前提が間違っていました。
プロットは、その人の人生が入る唯一の場所
文章はAIが書けます。描写も、会話も、場面転換も。残っているのはプロットだけと言ってもいいくらいです。
そしてプロットは、まさに人生が入る場所です。何を失ったら痛いのか。誰に裏切られたら立ち直れないのか。どこまでなら許せるのか。 これは学習データの平均から出てきません。出典が一人しかない情報です。
だから、プロットを書く作業は面倒な前準備ではなく、その作品を自分のものにする唯一の工程になりました。ここを他人(あるいはAI)に任せると、出てくるのは誰の物語でもないものになります。
そして自分のためだけに読むなら、他人に受けるプロットである必要もありません。 自分がどこで胸を締めつけられるかだけを基準にしていい。市場では成立しない構成でも、読むのが一人なら成立します。
プロットができたか確認する5点
- 各話に「誰が何を選ぶか」が一つ以上入っているか
- 失うものを、固有名詞まで落として書いたか
- 台詞や描写を書き込みすぎていないか
- 絶対に曲げない条件(報われない・バレない等)を別立てで書いたか
- その条件を、あらすじ段階と本文段階の両方で渡す用意があるか
よくある質問
プロットなしで書き始めてはいけませんか?
人間が書くならまったく問題ありません。AIに書かせる場合だけ事情が違います。モデルは終わりを知らずに書き始めるため、行き先を渡さないと常に最も穏当な続きへ落ちます。
プロットはどれくらい細かく書くべきですか?
七話ぶんで四百〜八百字が目安です。各話に「誰が何を選ぶか」と「何を失うか」があれば十分で、台詞や場面の段取りまで書くと本文が要約的になります。
途中でプロットを変えてもいいですか?
構いません。むしろ一章(七話)ごとに決め直すほうが自然です。ただし変更後の条件も、あらすじ段階から渡し直してください。前の条件が残っていると混ざります。
プロットもAIに作らせてよいですか?
候補を出させるのは有効です。ただし選ぶのと、失うものを決めるのは自分でやってください。そこが平均から外れる唯一の場所なので、任せると誰の物語でもないものになります。