AIにあらすじを書かせると、要約になる
AIに「あらすじを書いて」と頼むと、起きる出来事が順番に並んだ文章が返ってきます。正確で、過不足がなく、まったく読みたくなりません。 これは二つの理由から起きています。モデルにとって「あらすじ」という語が要約の指示であること。そしてもう一つ、情報を伏せるという判断が、次の一語を予測する仕組みの中に存在しないことです。
モデルにとって、あらすじとは要約のことである
モデルは語の意味を、その語が使われてきた文脈から学びます。「あらすじ」という語の周辺にあった文章の大半は、内容紹介です。何が起きるかを順に説明したもの。だから「あらすじを書いて」と言われると、内容紹介を書くのが最も確率の高い応答になります。
ここで起きているのは誤解ではなく、指示の解釈としては正しい動作です。私たちが「あらすじ」という語で呼んでいるものが、実は二つあるだけです。内容を説明する要約と、読む気を起こさせる引き。前者を頼んでいるのに後者を期待している、という食い違いが原因です。
伏せるという判断が、仕組みの中にない
引きの本体は、書かないことです。何が起きるかを言わずに、起きたことの重さだけを伝える。読者に空白を作る。
しかし逐次予測は、今ある情報からもっともらしい続きを出す装置です。何かを知っていて、あえて書かない、という動作が構造上ありません。 知っている情報は、書いたほうが確率が高い。だから全部書きます。
これは温度や語彙の問題ではないので、「もっと思わせぶりに」と指示しても解決しません。思わせぶりな語彙(謎、秘密、そして——)が増えるだけで、情報量は減りません。語彙で引きを作ろうとすると、いちばん安い煽り文になります。
平凡な日常は、ある出会いによって一変する。
隠された過去、明かされる真実——。
彼女が選ぶ道の先に待つものとは?
妹が死んだ日、姉は病院にいなかった。
十年後、姉は同じ病院の当直に立っている。
あの日どこにいたのかを、まだ誰にも話していない。
そもそも、渡した文の役割を取り違えることがある
関連する事故を一つ。私たちは作者のプロフィール文を英訳する処理を持っているのですが、挨拶調で書かれた文を渡したところ、訳文ではなく「私は翻訳者です。どのようなお手伝いをしましょうか」という返答が保存されたことがありました。渡した文を、翻訳対象ではなく指示だと解釈したわけです。
モデルにとって、入力はすべて同じ文字列です。どれが指示でどれが素材かは、書式と文脈から推測しているだけで、確実ではありません。あらすじを作らせるときも同じで、渡した設定メモの一部を指示と誤読することがあります。
対処は単純で、役割を明示することです。「以下は作品の設定です。これをもとに、読者に見せるための紹介文を書いてください」と、素材と依頼を分けて書く。これだけで事故はほぼ消えます。
逆に、この工程でAIは異様に強い
ここまで欠点を並べましたが、あらすじ作りはAIが最も役に立つ工程の一つでもあります。得意な作業がはっきりしているからです。
候補の量産。 同じ設定から十通りの紹介文を出すのは一瞬です。人間が十通り書くと半日かかり、しかも五本目あたりから語彙が擦り切れます。
整合性の検査。 本文と紹介文で人物の年齢が違う、時系列が合わない、といった照合はモデルのほうが速く正確です。
順番の入れ替え。 同じ三つの情報を、どの順で出すかで引きの強さは変わります。全順列を試すのは機械の仕事です。
つまり、選ぶ作業だけが人間に残ります。 そして選ぶには基準が要る。基準というのは「自分がこの話のどこを読ませたいか」なので、結局そこだけは人間が持つことになります。
感情を動かす紹介文は、AIと書ける
引きを作れないのはモデルの限界ですが、何を伏せるかを人間が決めれば、その周りの文章はAIが書けます。 「妹が死んだ日、姉は病院にいなかった」という一行を出せるのは書いた人だけです。そのあとに続く二行の運び方、語順、句読点の置き方は、十通り出させて選べばいい。
これまで、あらすじが書けないせいで読まれなかった作品は相当あったはずです。本文は面白いのに、入口の三行で損をしている作品。入口を作る技術と、物語を持っていることは別の才能で、両方を要求されるのが今までの構造でした。 その片方が外部化された結果、物語だけを持っている人の作品が読まれる可能性が上がります。
あらすじを頼む前の4点
- 「あらすじ」ではなく「読者に見せる紹介文」と書いたか(要約タスクに落とさない)
- 素材(設定)と依頼を、明示的に分けて渡したか
- 伏せる一点を、自分で決めたか
- 候補を複数出させて、選ぶ側に回ったか
よくある質問
AIのあらすじが説明くさくなるのはなぜですか?
モデルにとって「あらすじ」は要約の指示だからです。学習された「あらすじ」の多くが内容紹介なので、内容紹介を返すのが最も確率の高い応答になります。「読者に見せる紹介文」と言い換えると変わります。
「思わせぶりに書いて」では駄目ですか?
語彙だけが思わせぶりになり、情報量は減りません。「隠された真実」「選ぶ道の先に」といった煽り文が増えるだけです。何を書かないかは人間が指定してください。
結末は書くべきですか?
結末そのものより、結末の手前で止めるほうが機能します。ただしジャンルによっては結末の提示が安心材料になるので、読者が何を求めて読むかで決めてください。
AIはあらすじ作りのどこで役に立ちますか?
候補の量産、本文との整合性チェック、情報を出す順番の入れ替えです。人間に残るのは、どれを選ぶかと、何を伏せるかの判断だけです。