AIへの指示の書き方 — 形容詞を渡した時点で、平均値が返ってくる

「もっとエモくして」「切ない感じで」。こう頼んで、返ってきたものにがっかりした経験は、たぶん一度や二度ではないはずです。原因は語彙力でも性能でもありません。形容詞は、書き上がった文章を読んだ人が後から下す評価であって、書く前に渡す材料ではないからです。材料として渡せるものは、実は三種類しかありません。

形容詞は結果であって、材料ではない

「切ない場面」と言われて人間の作家が何をするかというと、切ないという言葉は一度忘れて、具体的な事実を探します。誰が何を言えなかったか、どちらが先に帰ったか、手が触れそうで触れなかったか。切なさは、その事実が読者の中で起こす反応の名前です。

AIに「切なく」とだけ渡すと、この手順が飛ばされます。切ない文章の平均——夕日、沈黙、握りしめた手、届かない背中——が出てきます。どれも間違いではありませんが、どこかで読んだことがある。当然で、平均とはそういうものです。

渡すべきは切なさではなく、切なさを生む事実です。

形容詞を渡した指示

「二人の別れの場面を、切なく書いて」

事実を渡した指示

「二人が別れる。彼女は引き止めてほしいが言わない。

 彼は引き止めるつもりで来たが、彼女が笑ったので言えなくなる」

渡すと効くのは、事実・関係・禁止の三つだけ

事実は、その場面で起きることです。誰が来て、何を渡し、どこへ行くか。ここが決まっていないと、AIは場面を埋めるために会話を水増しします。

関係は、その二人のあいだにある歪みです。片方だけが覚えている出来事、立場の差、嘘。関係が一つ歪んでいるだけで、同じ会話がまったく別の温度になります。

禁止は、書かせないものです。これが一番知られていませんが、一番効きます。AIは渡された材料を全部使おうとするので、放っておくと場面がとっ散らかる。「回想を入れない」「泣かせない」「その場で和解させない」と決めると、輪郭が出ます。

禁止がいちばん効く理由

人間が書く時、書かないことは自然に決まります。書けることの中から選んでいるからです。AIは選びません。思いつく限り全部入れます。だから密度が均一になり、どこが山場か分からなくなる。

禁止を一つ渡すだけで、AIは残った材料でなんとかしようとします。この「なんとかする」が、平均から外れた展開を生みます。制約が作家を助けるという古い経験則は、相手がAIでも成り立ちます。

禁止なし

 彼は謝った。彼女は泣いた。二人は抱き合い、過去を思い出し、

 これからは正直に話そうと誓った。雨は上がっていた。

「その場で和解させない」を足した

 彼は謝った。

 彼女は、傘を差し出した。

「濡れて帰らないでよ」

 それだけ言って、背を向けた。

仕組みから見ると — 禁止は、分布の山を削る操作である

事実や関係を足すのが「分布の山を動かす」操作だとすれば、禁止は山を削る操作です。「和解させない」と書くと、和解へ向かう続きの確率が下がり、残りの選択肢の中から書かざるを得なくなります。

これが特に効くのには理由があります。言語モデルは学習後に、無難で親切な応答へ寄せる調整を受けています。その癖は物語の中にも残り、放っておくと悪役は改心し、対立は和解し、絶望には救いが差し込まれます。書き手が何も言わなければ、物語は勝手に丸くなる。

禁止は、この調整由来の偏りを打ち消せる数少ない手段です。「謝らせない」「泣かせない」「その場で解決させない」。一行書き足すだけで、出力の性質が変わります。

長い指示より、外れた一語

指示は長ければいいものではありません。二百字かけて世界観を説明するより、平凡な設定に一語だけ外れたものを足すほうが効きます。

「優しい幼馴染」は平均です。「優しい幼馴染だが、主人公の失敗を一つ残らず覚えている」にすると、その一語だけで人物が立ちます。覚えているという事実が、優しさの意味を変えるからです。

この一語は、あなたの中にしかありません。世界観の設定はAIが埋められますが、歪みだけは埋められない。指示を書く時間は、そこを探す時間に使ってください。

最も効く語は、あなたしか知らない固有名詞である

ここまで指示の書き方を書いてきましたが、最も強い語の種類を最後に挙げておきます。出典が自分しかない固有名詞です。

「三階の廊下だけ床が鳴る」「祖母は褒めるときだけ敬語になった」。これらは平均を持たない情報なので、確率分布を強く動かします。形容詞が平均を呼ぶのに対して、こちらは平均が存在しない。

AIは五感も人生も持たないので、この種の情報を自力で生成できません。似たものは作れますが、それは他の誰かが書いた記憶の平均です。一行渡すだけで、その文章は他の誰にも書けないものになります。

そして読む側から見ると、ここが効きます。人が文章に共感するのは、内容が自分と一致したときではなく、その一行を書けるのは一人しかいないと感じたときです。背後に人生が推定できると、読者は書き手を人として扱い始めます。

一行の歪みを渡すだけで、そこから先の千通りはAIが出します。合わなければ、何度でも出し直せます。

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よくある質問

指示はどれくらい長く書けばいいですか

一行で足ります。長く書くほど良くなるわけではなく、むしろ長い指示は説明になりがちで、AIはそれを本文に混ぜてしまいます。事実・関係・禁止のどれか一つを、具体的に一行。

同じ指示なのに毎回違うものが出ます

それは正常で、むしろ利点です。三回出させて一番いいものを選んでください。書く労力がほぼゼロなので、選択肢を捨てずに済むのがAIで書く最大の利点です。

キャラの口調が安定しません

口調を形容詞で渡していませんか。「クールな喋り方」は平均が返ります。一人称・語尾・話す時に必ずやる癖、この三つを具体的に決めると安定します。

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