AIで小説を書くということ — AIは作家ではなく、増幅装置である
AIに「面白い小説を書いて」と頼んだことがある人は、たぶん一度でやめています。出てくるものが、どこかで読んだ話の平均値だからです。ただしそれはAIの限界ではなく、頼み方が間違っているだけです。AIは書き手の代わりにはなりませんが、書き手が一人で抱えていた妄想を、一人では絶対に届かない量まで膨らませることはできます。
AIに「考えさせる」と平均値が出てくる
AIは膨大な文章を読んでいます。だから「面白い話」を求められると、面白かった話の共通項を出します。共通項は平均です。平均は、誰も憎まない代わりに、誰も刺さりません。
一方であなたの中にあるものは、平均ではありません。「幼馴染に十年間バレていない片思い」「敵国の将軍が実は自分を庇い続けていた」「主人公の性別が封印のために偽られている」——こういう歪みは、統計の真ん中からは絶対に出てきません。あなたの中にしか無いからです。
役割を逆にすると、うまくいきます。歪みは人間が出す。膨らませるのはAIがやる。 どちらも得意な方がやるという、それだけの話です。
「面白い異世界転生の小説を書いて」
→ 平凡な高校生が転生し、チート能力を得て、仲間を助ける
「転生した先で、自分を殺した相手の子供の家庭教師になる。
相手はそれを知らない。主人公も名乗るつもりがない」
→ ここから先は、AIが千通りに膨らませられる
仕組みから見ると — 平均は、確率の最頻値のことである
なぜ平均が返るのかは、仕組みを見ると一行で説明がつきます。言語モデルは次に来る一語の確率を計算し、そこから一つ選ぶ、を繰り返しています。「面白い小説を書いて」とだけ渡された時、確率が最も高い続きは、面白いとされた文章に最も多く含まれていた続きです。
つまり平均とは、比喩ではなく統計上の最頻値です。誰かの好みが混ざっているわけでも、手を抜いているわけでもありません。材料が薄い時に最も安全な一語を選んだ結果が、平均に見えるだけです。
指示を具体的にするというのは、この確率分布の山を動かす作業です。「転生した先で、自分を殺した相手の子供の家庭教師になる」と渡した瞬間、そこから続きうる語の分布は、ありふれた転生物とは別の場所に移ります。歪みを渡すとは、分布をずらすことです。
増幅とは、量のことである
一人で書いていると、思いついた場面のうち実際に書けるのは一割もありません。「この後どうなるか」を三通り思いついても、書けるのは一通りです。残りの二通りは、頭の中で消えます。
消えたぶんが、実は一番おいしいことがあります。選ばなかった方の道に、本当に読みたかった展開が入っていた、というのは書いたことのある人なら覚えがあるはずです。
AIに向いているのはここです。三通りとも書かせて、読んで、選ぶ。書く労力がほぼゼロになるので、選択肢を捨てずに済む。これが増幅の正体で、文章がうまくなることではありません。
膨らませた後に、必ず人間が削る
AIは止まりません。放っておくと、どこまでも書きます。だから増幅装置を使う人間の仕事は、書くことではなく捨てることになります。
出てきた三通りのうち二つを捨てる。一つ選んだ中でも、要らない段落を落とす。ここを省くと、量だけあって密度のない話になります。AIで書いた小説がつまらない時、たいてい原因は「AIが下手だから」ではなく「誰も捨てていないから」です。
捨てる基準は一つで足ります。その段落が無くなって困るか。 困らないなら要りません。
彼は立ち上がった。窓の外では雨が降っていた。
彼は少し考えた。それから、もう一度考えた。
長い時間が流れた気がした。実際には数秒だったのかもしれない。
彼は決意した。
彼は立ち上がった。窓の外では雨が降っていた。
傘は持っていかなかった。
キャラに喋らせると、自分の妄想の形が分かる
増幅装置の使い方で、いちばん効くのに知られていないのが「そのキャラと直接話す」やり方です。あらすじを考えるのではなく、登場人物に話しかけて、返ってきた言葉を見る。
これは占いではありません。自分が何を書きたかったのかを、外から見るための手続きです。返ってきた言葉に「そうじゃない」と感じたら、その違和感の中に、あなたが本当に書きたかった人物像が入っています。「そうじゃない」を三回やると、だいたい輪郭が出ます。
Noveliaのキャラ小説は、この使い方をそのまま機能にしたものです。一往復が一話になっていて、話しているうちに物語が伸びていきます。書こうとして固まる人ほど、こちらから入ったほうが早いはずです。
絵と音は、装飾ではなく検査装置である
挿絵や音声は「あると豪華」だと思われがちですが、書き手にとっての本当の価値は別にあります。自分の文章の粗が見えることです。
挿絵を出すと、書いたつもりで書いていなかった部分が分かります。髪の長さも、服装も、背の高さも決めていなかったことに、絵が出てきて初めて気づく。読者はその曖昧さを、ずっと読まされていたわけです。
音声はもっと容赦がありません。読み上げさせると、説明ぜりふが露骨に浮きます。人は自分の事情を声に出して要約しないので、耳で聞くと嘘くさいのがすぐ分かる。黙読では気づけません。
つまり絵と音は、増幅した後の検品です。膨らませる、削る、検品する。この三つが回れば、一人で書いていた時より確実に良くなります。
それでもAIに渡してはいけないもの
一つだけ、渡すと全部壊れるものがあります。何を書きたいかです。
「どんな話にしますか」とAIに聞くのは、増幅装置に増幅する対象を決めさせることです。何も入れずにスイッチを入れれば、出てくるのは平均値です。最初に戻ります。
逆に言えば、必要なのは一行で足ります。歪んだ一行さえあれば、あとは全部渡していい。その一行だけが、あなたにしか出せないものです。
増幅できるのは、入力があるときだけ
増幅装置という言い方をしてきましたが、装置の性質として当然のことが一つあります。入力がゼロなら、出力もゼロです。 何も渡さずに「面白い話を書いて」と頼んだときに出てくるものが平均になるのは、増幅する対象がなかったからです。
そして入力になりうるものは、実はかなり限られています。AIは五感を持たず、人生を持っていません。 痛みも、退屈も、誰かを失うことも経験していない。だから世界の側の情報は、すべて人間から渡されるしかない。
逆に言えば、渡すものは大げさである必要がありません。自分が見たもの、自分が嫌だと思うこと、自分が何度も読み返してしまう場面。 これらは学習データの平均に含まれていないので、渡した瞬間に出力が平均から外れます。
もう一つ、増幅の対象は他人に受ける必要がありません。 これまで物語は、部数が立つ規模の読者に向けて作られてきました。一人のために七話書けるなら、増幅するのは自分の妄想一つで足ります。
増幅装置として使えているかの確認
- 書きたい歪みを、自分の言葉で一行にできているか
- AIに「何を書くか」ではなく「どう膨らませるか」を頼んでいるか
- 出てきたもののうち、捨てた分があるか(全部採用していないか)
- 無くなって困らない段落を残していないか
- 挿絵や音声で、決めていなかった部分を見つけたか
よくある質問
AIが書いた小説は、自分の作品と言えますか
何を書くかを決めたのが自分なら、作品です。増幅装置は望遠鏡と同じで、どこを見るかを決めるのは使う人です。逆に、何を書くかまでAIに決めさせた場合は、誰の作品でもない平均値が出てきます。
文章力が無くても書けますか
書けます。ただし「面白いかどうかの判断力」は要ります。増幅装置を使う仕事は書くことではなく捨てることなので、良し悪しが分からないと捨てられません。判断力は読んだ量で育つので、書けない時期は読む時期です。
AIに任せると、話が平凡になります
たいてい、渡した指示が平凡です。「面白くして」「盛り上げて」は指示ではありません。誰が何をして、どこが歪んでいるかを一行で渡してください。歪みが無ければ、AIは平均を返します。
どこまでAIに書かせていいですか
本文は全部書かせて構いません。渡してはいけないのは「何を書きたいか」だけです。そこだけ握っていれば、あとは量をAIに任せたほうが、一人で書くより遠くまで行けます。