AIのキャラクターが、全員同じ喋り方になる理由

AIに複数の人物を書かせると、名前と口癖は違うのに、中身が同じになります。同じ速度で喋り、同じ距離感で人に接し、同じ理屈で決断する。原因ははっきりしていて、モデルは人格を記憶していないからです。毎ターン、渡された設定文を読み直して、その場で人格を組み立て直している。一貫性の問題に見えているものは、実際には入力の問題です。

モデルはキャラクターを覚えていない

会話を続けるほど人物が馴染んでくる、という感覚は錯覚です。モデルの側には前のターンの記憶がなく、毎回、設定文と会話履歴をまとめて読み直しています。十回目の返答も、一回目と同じ手続きで作られています。

つまり人物が崩れるのは、モデルが忘れたからではありません。その回に渡した入力が、前の回と違っていたからです。一貫性は記憶ではなく、入力の再現性の問題です。

ここを取り違えると、対策の方向を間違えます。「もっと覚えさせよう」として設定を足していくと、たいてい悪化します。理由は次の節です。

設定文は、驚くほど弱い

実際の数字を出します。私たちが一話を書かせるときにモデルへ渡す指示文は、数万字あります。物語の構造、場面の内容、禁止事項、文体、すべて含めての量です。そのうち人物の話し方や性格に割かれているのは、300〜450字程度です。全体の1%に届きません。

さらに厄介なのは、同じ設定で二回書かせたときの差が、設定を変えたときの差より大きい場合がある、ということです。ばらつきが指定の効果を上回る。「設定を変えたのに反映されない」と感じるとき、実際に反映されていないのではなく、指定が弱すぎて確率のゆらぎに埋もれていることがあります。

これは指定が無意味という話ではありません。弱い指定に情報を足しても強くならない、という話です。効かせたいなら、量ではなく種類を変える必要があります。

形容詞で渡すと、その形容詞の平均が返ってくる

「クールで無愛想」と書けば、無愛想の平均が返ってきます。語尾を削り、視線を外し、短く答える人物。これはあなたの人物ではなく、学習データの中の無愛想の重心です。全員が同じになる直接の原因がここにあります。

モデルは形容詞を受け取ると、その語が使われていた文脈の平均を再現します。形容詞は平均への指示です。

代わりに渡すのは選択です。同じ状況で何を選ぶか。これは平均を持たない情報なので、分布の山が動きます。

形容詞で渡す

「クールで、他人に興味がない。でも本当は優しい」

選択で渡す

「人が転んでも助け起こさない。代わりに、落ちたものを拾って黙って渡す」

「礼を言われると、その場を離れる」

禁止を並べるほど、棒読みになる

これも実際に踏みました。台詞だけが翻訳調になる(地の文は自然なのに、喋り出すと急に不自然になる)という問題が出たとき、最初にやったのは禁止語リストを足すことでした。「この言い回しを使わない」「こう喋らない」。足すほど悪化しました。

制約が増えると、モデルは安全側に退避します。指示を逐語的に満たすことが最優先になり、自然さが後回しになる。結果として、条件は満たしているが人間が喋らない台詞が出てきます。

解決したのは引き算でした。禁止を削り、「地の文と同じ自然さで喋らせる」という一行だけ残した。これで戻りました。禁止型の指示は、ほぼ必ず過補正を生みます。

情報を大量に渡すと、人格が壊れる

もう一つの失敗例です。ある作品のキャラクターに、背景設定を詳しく注入したことがあります。経歴、関係、過去の出来事。結果、そのキャラクターは冷酷で無機質な受け答えをするようになりました。情報を持っているのに、人として壊れている。すぐ元に戻しました。

理由はおそらく、事実の羅列を渡すと、モデルが「事実を参照して答える」モードに寄るからです。人格は事実の集合ではないので、集合として渡すと人格の形をしなくなる。

情報量は一貫性を作りません。 一貫性を作るのは、状況に対する反応のほうです。

それでも、人物が立つ瞬間はある

ここまで限界の話をしてきましたが、AIで書いた人物が読者の記憶に残ることは実際にあります。条件ははっきりしていて、書いた人がその人物について何か具体的なことを知っているときです。

「人に礼を言われるとその場を離れる」という一行は、平均からは出てきません。誰かを見ていた人か、自分がそうである人しか書けない。そして、その一行さえあれば、あとの千通りの場面はAIが書けます。人物を立てているのは一行で、量ではない。

これまで、人物を書き分けられるかどうかは技術の問題とされてきました。長く書いて、削って、直して身につけるもの。その工程が短縮された結果、残ったのは「誰かをよく見ていたかどうか」だけになりました。書く技術を持たない人が、強い観察を持っていることは珍しくありません。今まではそれが作品にならなかっただけです。

キャラを渡す前の4点

  • 形容詞ではなく、具体的な選択や挙動で書いたか
  • 禁止(〜しない)ではなく、する内容で書いたか
  • 経歴の羅列になっていないか(事実より反応を書く)
  • その人物にしか当てはまらない一行が、一つ以上あるか

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よくある質問

会話を重ねればキャラクターは馴染んできますか?

馴染んでいるように見えますが、モデル側に記憶はありません。毎回、設定と履歴を読み直して人格を組み直しています。安定させたいなら、渡す設定を毎回同じにすることです。

設定を詳しく書けば書くほど良くなりますか?

なりません。事実を大量に渡すと、人格ではなく参照モードに寄って受け答えが無機質になることがあります。量より、反応を一つ具体的に書くほうが効きます。

「この喋り方をしないで」と指示しても直りません

禁止型の指示は過補正を生みやすく、台詞が棒読みになる方向に働きます。禁止を減らし、望む方向を一行で書くほうが安定します。

キャラクターが全員同じ理屈で動いてしまいます

形容詞で人物を指定している可能性が高いです。形容詞はその語の平均を呼び出すので、全員が平均へ寄ります。同じ状況での選択を書き分けてください。

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