AIのキャラが同じ喋り方になる理由 — 語尾は一割でしかない

「〜ですわ」「〜だぜ」と語尾を指定しても、人物は書き分けられません。語尾を外した瞬間に全員が同じ喋り方に戻るからです。口調の本体は語尾ではなく、一人称・速度・そして何を言わないかにあります。 そしてこの三つは、AIに渡す情報としてもまったく別の効き方をします。

語尾は口調の一割でしかない

同じ内容を「〜ですわ」で言っても「〜だぜ」で言っても、伝わる情報は同じです。人物が違って見えるのは、内容そのものが違う時だけです。

例えば「雨が降ってきた」という状況で、三人の人物に一言ずつ言わせてみます。「濡れるな」「傘、持ってる?」「……傘は、貸さない」。語尾は誰も特徴的ではありませんが、三人とも別人です。見ているものが違うからです。

口調を作るとは、その人物が世界のどこを見ているかを決めることです。

語尾だけ変えた三人

A「雨が降ってきましたわね」

B「雨が降ってきたぜ」

C「雨が降ってきたっす」

見ているものを変えた三人

A「洗濯物」

B「濡れて帰ると、また何か言われる」

C「……傘、一本しかないけど」

語尾は、最も平均を呼びやすい情報である

語尾の指定がなぜ弱いのかを、仕組みから説明します。語尾は学習データの中で、記号として強く結びついているからです。「ですわ」と書けば、お嬢様口調の文章群の平均が呼び出されます。

つまり語尾を指定するというのは、その語尾を使っていた既存の人物像をまるごと呼び出すことに近い。だから語尾だけは守られるのに、中身が全部同じになります。書き分けているつもりで、既製品を並べていることになります。

対して、言わないことの指定は統計に重心がありません。「この人物は謝らない」「この人物は理由を説明しない」。 これに対応する平均は存在しないので、分布の外へ出られます。

決めるのは三つだけ

一人称。 俺・僕・私・自分・名前呼び。これは人物の自己像そのものなので、一番重い決定です。途中で変わる場合、それは事件になります。

話す速度。 一息で喋りきる人か、二言で切る人か。長い台詞を書けるのは前者だけで、後者に長台詞を言わせると別人になります。

言わない領域。 この人物が絶対に口にしないこと。弱音を言わない、褒めない、謝らない、自分の家族の話をしない。ここが最も人物を作ります。

仕組みから見ると — 口調は、毎回その場で組み立て直されている

モデルは人物の設定を記憶として持っているわけではありません。文脈に書かれた情報から、その都度もっともらしい喋り方を再構成しています。だから設定が薄いと、書くたびに少しずつ違う人物になります。

ここで「クールな口調」のような形容詞が効かない理由も見えます。クールという語から再構成される喋り方は、学習データ全体の平均的なクールです。毎回、同じ平均に戻ってしまうので、その人物固有の癖は育ちません。

一方で、一人称・一息の長さ・言わない領域の三つは、次の一語の確率を直接縛ります。一人称が俺と決まっていれば、私という語の確率はほぼゼロになる。言わない領域を決めておけば、その方向の続きが選ばれにくくなる。形容詞と違い、生成のたびに同じ制約が効き続けます。

長く書かせて口調がぶれた時は、直前の数話でその三つが実際に使われているかを見てください。使われていなければ、文脈から薄れています。もう一度書いて見せれば戻ります。

「言わない」が人物を立てる仕組み

読者は、言われたことより、言われるべきなのに言われなかったことを覚えます。ピンチで一度も助けを呼ばない人物は、それだけで性格が伝わります。

「言わない領域」を一つ決めておくと、その人物が出てくる場面すべてに一貫性が生まれます。しかも書くのが楽になります。迷った時に「この人はこれを言わない」で削れるからです。

逆に、何でも言う人物は書きやすい代わりに、印象に残りません。

何でも言う人物

「怖いよ。でも行かなきゃ。みんなを助けたいんだ。俺、頑張るよ」

弱音を言わない人物

「行く」

 声が震えていたが、本人は気づいていないようだった。

口調が崩れる瞬間を、作品の武器にする

一貫した口調を決めたら、一度だけ壊す場面を用意してください。敬語の人物が敬語をやめる、一人称が変わる、いつも黙る人物が喋り続ける。

これは強力です。読者は何話もかけてその人物の喋り方を覚えているので、崩れた瞬間に「何かが起きた」と分かります。説明が一行も要りません。

崩すのは物語を通して一度か二度。三度目からは、ただ安定していない人物になります。

AIに書かせる場合、口調は形容詞で渡さない

「クールな喋り方」「優しい口調」と指定すると、AIは平均的なクール、平均的な優しさを返します。どこかで読んだ人物になります。

渡すなら三つです。一人称、一息の長さ、言わない領域。「一人称は俺。二言以上続けない。礼を言わない」。これだけで、AIは何十話にわたって同じ人物を書き続けられます。

口調がぶれた時は、たいてい三つのどれかを決めていません。決め直せば直ります。

渡すのは、その人が絶対に言わないこと

実務では三つを決めて渡します。一人称、話す速度、言わない領域。

一人称は文全体の重心を変えます。速度は文の長さに直結します。そして言わない領域が、人物の輪郭を決めます。

自分の周りにいる誰かを一人思い出して、その人が絶対に言わない台詞を考えてみてください。それが一行あれば、AIは全編でその人物を保てます。保つことは得意で、発明が苦手というのが、この機械の性質です。

一人称・一息の長さ・言わないこと。この三つを決めたら、あとは何十話でも同じ人物として書き続けられます。

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よくある質問

方言を使いたいのですが

使って構いませんが、正確さより一貫性です。中途半端に標準語が混ざるほうが不自然に見えます。語尾一つと単語二つに絞って、最後まで統一してください。

キャラが増えると書き分けられません

書き分けは三人までは語尾でも持ちますが、それ以上は「言わない領域」で分けてください。五人いても、全員が違うものを言わなければ混ざりません。

途中で口調が変わってしまいました

直すより、変わった理由を作るほうが早いことがあります。読者は変化を歓迎します。ただし理由が無いまま揺れるのは、ただの破綻です。

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