タイトルをAIに付けさせると、平均が出てくる
AIにタイトルを十個考えさせると、そのジャンルで見たことのあるタイトルが十個出てきます。悪くはないが、全部どこかで見たことがある。 理由はいつもと同じで、平均を引いているからです。ただしタイトルに関しては、その前に決めておくべきことがあります。そのタイトルは、誰に向けて付けるのか。
タイトルが読まれる場所を想像する
書店の棚で背表紙を見る読者と、スマホの一覧を親指で流している読者は、まったく違う条件でタイトルを読んでいます。後者に与えられている時間は、一件あたりコンマ数秒です。
その時間で読者が知りたいのは、作品の主題ではありません。この話を読むと、自分はどんな気持ちになれるのかです。ざまあ見ろと思いたいのか、じれったさを味わいたいのか、泣きたいのか。
長文タイトルは、その答えを先に渡しています。だから説明ではなく契約なのです。中身が契約通りなら読者は満足し、違えば裏切りになります。
『灰の系譜』
『それでも空は青い』
『追放されたけど、実家が没落したので帰りません』
『十年片思いした幼馴染の結婚式で、私は司会をやる』
自分のための物語に、タイトルは要らないかもしれない
タイトルは、読んでいない人のための装置です。書店の棚、投稿サイトの一覧、検索結果。 どれも、まだ中身を知らない人が判定する場所です。
ということは、自分のために作った物語にはタイトルが要りません。 中身を知っているからです。これは屁理屈ではなく、作る目的によって必要なものが変わるという話です。
これまで、物語は必ず知らない誰かに届ける前提で作られてきました。届かなければ存在しないのと同じだったからです。一人のために作れるようになると、その前提が外れます。 看板を立てる必要がない物語というものが、初めて成立します。
そのうえで、公開するなら話は別です。読者は0.5秒で自分向けかどうかを判定していて、その判定材料はタイトルしかありません。必要な場面でだけ、正しく作ればいい。
長ければいいわけではない
長文タイトルの失敗例は、あらすじを縮めただけのものです。設定を三つも四つも詰め込むと、読者は読み終える前に指を動かします。
機能しているタイトルは、要素が二つです。状況と、そこに乗る感情の方向。「追放された(状況)」+「帰りません(意思)」。「結婚式で(状況)」+「司会をやる(感情の方向)」。
三つ目を足したくなったら、それはあらすじに書く内容です。
短いタイトルが効く条件
短いタイトルが機能するのは、読者がすでにあなたを知っている場合か、ジャンルが一目で分かる表紙や棚がある場合です。どちらも、タイトル以外の場所に判定材料があります。
連載を始めたばかりで、一覧の中に埋もれている段階では、この条件が揃いません。だから最初は長め、読者がついてから短くする、という順番が現実的です。
文学的なタイトルを付けたい場合は、副題で契約する手があります。『灰の系譜 — 兄を殺した男に、十年仕える』。本題で雰囲気を、副題で判定材料を渡せます。
検索から来る読者を意識する
一覧を流す読者とは別に、検索から来る読者がいます。この層は「異世界転生 追放 ざまあ」のように、読みたいものを言葉で指定して探しています。
タイトルにジャンル語が入っていれば、この経路で見つかります。ただし詰め込むと一覧での判定が下がるので、ジャンル語は一つまでにして、残りはあらすじとタグに置くのが安全です。
両方を満たす形は、だいたいこうなります。ジャンル語一つ+状況+感情の方向。
仕組みから見ると — タイトルは本文の文体まで決める
AIに書かせる場合、タイトルには思わぬ副作用があります。タイトルは文脈の先頭に置かれ、以降の生成すべてに効き続けるという点です。
「〜してしまった件について」のような軽い調子のタイトルを付けると、本文の語り口も軽くなります。逆に硬い文語調のタイトルを付けると、地の文が硬くなる。読者向けの看板のつもりが、書き手(AI)への指示として働いています。
だから、タイトルと本文の温度は一致させてください。軽いタイトルで重厚な話を書きたい場合は、本文側で文体の見本を別途渡す必要があります。放っておくと、タイトルに引っ張られます。
逆手に取ることもできます。文体を変えたい時、指示を足すよりタイトルを変えるほうが早い場合があります。
公開するなら、AIには候補の量産だけ任せる
実務としては、方向だけ人間が決めて、候補はAIに量産させるのが最も効率的です。
方向というのは、何を伝えるかです。状況を伝えるのか、感情を伝えるのか、ジャンルを伝えるのか。 これを決めずに「タイトルを考えて」と頼むと、平均が出ます。
そして必ず、自分の作品の中からそのタイトルにしか使えない語を入れてください。どの作品にも付けられるタイトルは、誰の目にも留まりません。
タイトルを決める前に
- 読者がどんな気持ちになれるか、タイトルだけで分かるか
- 要素は二つに収まっているか(三つ目はあらすじへ)
- ジャンル語は一つまでに抑えたか
- 一覧の中で、他の作品と同じ言い回しになっていないか
- タイトルの温度と、本文の語り口が一致しているか
よくある質問
長文タイトルは古いと聞きました
場所によります。一覧を流す読み方が続く限り、判定材料を先に渡す形は有効です。古いのは形式ではなく、中身が伴わないまま真似ることです。
途中でタイトルを変えてもいいですか
変えて構いません。ただし検索から来ていた読者は一度失われます。変えるなら、本文の方向が変わった時に合わせてください。
AIにタイトルを考えさせると平凡です
タイトルこそ最も平均が出やすい場所です。読後感を一行で渡してから考えさせてください。「ざまあ見たいが、加害者に同情も残る話」と渡せば、候補の質が変わります。