AIの第1話は、なぜ必ず世界観の説明から始まるのか
AIに第1話を頼むと、ほぼ確実に世界の説明から始まります。地名、種族、制度、主人公の生い立ち。親切なのですが、読者はここで離れます。 そして、これは指示が悪いのではありません。物語の冒頭という文脈では、説明文を書くのが統計的に最も自然だからです。
第1話で読者がしている判断は一つだけ
読者は第1話を「読んで」いません。読むかどうかを決めています。面白いかどうかの判断ではなく、この先に時間を使う価値があるかの見積もりです。見積もりは数十秒で終わります。
だから第1話に必要なのは、情報ではなく判断材料です。この話がどっちへ転がりそうか、誰の話なのか、どんな種類の感情が返ってきそうか。これが数十秒で伝われば、読者は残ります。
逆に、世界の成り立ちや国の名前や種族の分類は、判断材料になりません。まだ読むと決めていない人にとって、それはただの負荷です。
自分のために読むなら、第1話は要らないかもしれない
この記事は離脱を防ぐ話ですが、その前に確認しておくべきことがあります。その作品は、誰に読まれるものですか。
公開して知らない人に読まれる前提なら、冒頭の三行が生死を決めます。読者はまだあなたに興味がなく、いつでも閉じられるからです。
一方、自分のために作った物語なら話が変わります。あなたは設定を全部知っていて、その世界にすでに興味があります。 掴みは要りません。読みたい場面から始めていい。
これは冗談ではなく、条件が変わったことの一つだと思っています。これまで、物語は必ず知らない誰かに向けて書かれていました。 部数が立たなければ本にならなかったからです。一人のために作れるなら、その一人が知っていることは説明しなくていい。第1話の作法は、公開するときにだけ必要な技術です。
離脱の引き金は、ほぼ例外なく説明である
止まった13本を並べると、離脱が起きている位置に規則性がありました。世界観の説明が三行続いた直後です。
書き手の側には理由があります。この世界のことを知ってもらわないと、この後の展開の意味が伝わらない。その通りなのですが、順番が逆です。意味が伝わらなくても、何かが起きていれば人は読みます。起きていない状態で説明されると、読む理由がないまま負荷だけがかかります。
設定は、必要になった場所で一行ずつ渡してください。渡す場所が無いなら、それはまだ要らない設定です。
エルドリア大陸の北端に位置するヴァルハイム王国は、三百年前の大戦以降、
魔導院と騎士団による二重統治が続いていた。魔導院は選ばれた魔導士のみが
入ることを許され、その頂点に立つ七賢人は王すら口を出せない権限を持つ。
門の前で、女が一人、鎖に繋がれていた。
通りかかった誰もが目を伏せる。魔導院の印がついた鎖に触れれば、次はこちらが繋がれる。
カナタだけが、足を止めた。
仕組みから見ると — 説明で始めると、AIも説明を続ける
読者が離れる話をしてきましたが、書き手がAIを使っている場合、もう一つの問題が同時に起きています。冒頭が説明だと、その後も説明が続くことです。
直前の文章が次の一語を強く縛るという性質があるので、三行の世界観説明で始まった文章は、四行目も説明になる確率が高くなります。書き手が「そろそろ場面を動かしたい」と思っても、文脈の側が説明を要求し続けます。
逆に、動いている一行から始めれば、続きも動きます。冒頭の三行は、その話全体の文体を決める見本になっている。 読者のためだけでなく、続きを書くAIのためにも、最初の三行で何かを起こしてください。
固有名詞は三つまで
第1話に出す固有名詞は、多くて三つです。人名一つ、場所一つ、その世界特有の言葉一つ。これ以上は覚えられません。
覚えられない固有名詞が四つ目に出てきた時点で、読者は「ちゃんと読むのをやめる」モードに入ります。目は文字を追っていますが、頭に入っていません。そのまま数行で閉じます。
削れない場合は、説明せずに使ってください。「魔導院の印がついた鎖」は、魔導院が何かを説明していませんが、怖いものだと分かります。意味ではなく、扱われ方で伝えるのが最短です。
一行目を、状況の真ん中に置く
一行目に天気や風景を置く癖は、ほとんどの場合うまくいきません。誰の目でそれを見ているか分からないからです。
有効なのは、すでに何かが起きている場所に読者を放り込むことです。鎖に繋がれた女、割れた皿、戻ってこない兄。状況が動いている中に人物が立っていれば、読者はその人物の目を借ります。
「面白い一行」を書こうとする必要はありません。動いている一行であれば足ります。
終わり方は、疑問ではなく予感
第1話の最後を「どうする?」「彼女は何者なのか」で閉じるのは、効いているようで効きません。疑問形は、読者に考えさせる=負荷をかける形だからです。
残すべきは予感です。この先こういうことが起きそうだ、と読者の側が勝手に思う状態。疑問は問いかけですが、予感は手渡しです。
具体的には、次の場面の材料を一つ置いて終わります。「誰にも言わず、彼女は腰の短刀を手に取った」。何が起きるかは書いていませんが、起きることは分かる。これで第2話が開かれます。
彼女は一体、何者なのだろうか。
カナタには、まだ知る由もなかった。
誰にも言わず、彼女は腰の短刀を手に取った。
公開するなら、掴みだけは人間が決める
公開する前提なら、実務はこうなります。最初の三行で、誰かが何かを失いかけている場面を出す。 説明は後から会話に混ぜられます。
AIに任せると必ず説明から入るので、冒頭の一場面だけ自分で指定してください。 「電話が鳴っている場面から始める。相手は名乗らない」。一行渡せば、そこから先は書けます。
そして固有名詞の数を制限すること。第1話に出す固有名詞は三つまでと決めて渡すと、読みやすさが劇的に変わります。AIは放っておくと世界の語彙を全部使いたがります。
第1話の点検
- 一行目で、何かが動いているか
- 固有名詞は三つ以内に収まっているか
- 世界観の説明が三行以上続く箇所は無いか
- 主人公が、一話のうちに一度は自分で選択しているか
- 最後が疑問形ではなく、予感で終わっているか
よくある質問
設定を説明しないと、読者が混乱しませんか
混乱は、離脱ほど致命的ではありません。人は多少分からなくても、面白ければ読み進めて後から理解します。逆に、全部分かるが何も起きていない状態からは戻ってきません。
プロローグは置くべきですか
置くなら、それを第1話と呼んでください。「プロローグ」という見出しは、読者に「まだ本編ではない」と伝えてしまいます。
第1話が短くなりすぎます
短くて構いません。第1話の仕事は読むかどうかを決めさせることなので、短いほうが判断が早く終わります。八百字で十分です。
既に公開した第1話を書き直していいですか
効果が大きいのは、むしろそこです。第2話以降を書くより、第1話を直したほうが読者は増えます。