学園ものをAIに書かせる — 日常は得意、事件は起きない
AIに学園ものを書かせると、会話は驚くほど自然です。学習データが厚く、型も共有されているからです。ところが、何も起きません。 放課後が続き、昼休みが続き、二十話経っても状況が同じ。日常の再現と、出来事を起こすことは別の能力で、後者は苦手な領域に入ります。
日常は、それだけでは物語にならない
学園ものの序盤が楽しいのは、関係が作られていく過程が読めるからです。席が隣になる、部活で組む、名前で呼び合うようになる。これは立派な物語です。
問題は、関係が完成した後です。仲良くなった人たちが仲良く過ごす日々には、変化がありません。読者は変化を読みに来ているので、ここで離れます。
必要なのは、関係を壊しにくる何かです。それは教室の中には無い。進路、家庭、金、噂、外部の大人。教室の外から持ち込むしかありません。
今日も部室は賑やかだった。
先輩がお菓子を持ってきて、みんなで食べた。楽しい時間だった。
今日も部室は賑やかだった。
ただ、彼女だけが来なかった。三日目だ。
誰も理由を知らないが、進路希望の紙が机に置いたままなのを、俺は見ていた。
自分が通った学校は、統計の外にある
このジャンルで自分の作品を作るとき、最も強い材料になるのは自分が実際に通った学校の記憶です。
流通している学園ものは、記号としての学校を舞台にしています。屋上、放課後の教室、桜の校門。どれも実在の学校ではなく、作品の中の学校です。 AIが返してくるのも当然その平均になります。
けれど実際の学校には、その学校にしかないものがあります。三階の廊下だけ床が鳴る。体育館裏に自販機が一台ある。担任が出席を取るとき、必ず名字だけ二回言う。 こういう情報は統計の中にありません。持っているのは通った人だけです。
一行入れるだけで、その作品は他のどの学園ものとも違う場所になります。そして、これは特別な経験を必要としません。 誰でも学校には通っているし、誰の記憶にも固有の細部があります。使われてこなかっただけです。
学校には、使える締切が最初から埋まっている
学園ものの利点は、時間の区切りが制度として存在することです。中間試験、文化祭、部活の大会、卒業、進路希望の提出日。
これらは締切として機能します。締切があると、何もしないことが選択になる。告白するかどうかを迷っている人物に「卒業まであと三週間」を与えるだけで、迷いが緊張に変わります。
行事を書く時は、行事そのものを描写するのではなく、行事が誰かに何を強いるかを書いてください。文化祭の準備が楽しいだけの話には、山場がありません。
大人を一人だけ、ちゃんと書く
学園ものの大人は、都合よく不在か、都合よく無理解であることが多い。ここを一人だけ真面目に書くと、作品の格が上がります。
生徒の事情を分かったうえで、それでも規則を通す教師。子供を愛しているが、家の事情で転校させる親。正しさを持った大人は、最も手強い障害になります。
逆に、全員が理解のある大人だと、物語の問題が全部子供同士の誤解に収束します。それでは規模が小さくなります。
仕組みから見ると — 会話は得意、事件は苦手
学園ものは言語モデルが得意な部類です。学校を舞台にした日常会話は、学習データが濃い。教室での軽口、部活のやりとり、放課後の帰り道。この手の場面は、指示が薄くても自然に書けます。
ところが、事件を起こすのは苦手です。次の一語を確率で選ぶ仕組み上、穏やかな日常の続きとして最も確率が高いのは、穏やかな日常だからです。放っておくと、何も起きないまま話数だけが進みます。
実際にAIで学園ものを書くと、これが最も起きやすい失敗です。会話は上手いのに、十話書いても状況が変わっていない。
対処は、事件を毎話の指示で明示することです。「今回、誰かが一人、教室から居なくなる」「今回で部活の存続が決まる」。日常の質はAIに任せ、変化は人間が持ち込む。この分担が学園ものでは特に効きます。
制服と教室を、描写で使い切らない
学園ものは舞台が共有されているぶん、描写に頼ると凡庸になります。桜、夕暮れの教室、チャイム、窓際の席。どれも何万回も書かれています。
書くなら、その学校にしか無いものを一つ作ってください。壊れたまま直らない渡り廊下の窓、代々使われている部室の落書き、誰も理由を知らない校則。一つあれば、その学校が特定の場所になります。
共有された舞台の中に、固有のものを一つ置く。これが学園ものの差のつけ方です。
渡すのは、教室の外にある事情
実務では、出来事を人間が持ち込む必要があります。AIは会話を続けることはできますが、状況を変える理由を持っていません。
有効なのは、教室の外にある事情です。家庭、金、進路、病気、引っ越し。 学校の中だけで完結する出来事は規模が小さく、日常に吸収されます。外から持ち込むと、日常のほうが壊れます。
そして毎回の指示に、今回こうなると一行書いてください。「今回、彼女が部活を辞めると言い出す」。これがないと、会話の質が高いまま何も進まない状態が続きます。
よくある質問
日常系を書きたいのですが、事件は必要ですか
事件でなくても構いませんが、変化は必要です。関係の微細な変化(呼び方が変わる、席が離れる)でも、それが積み上がっていれば読めます。何も動かない話だけが続きません。
キャラが増えすぎて書き分けられません
学園ものは人数が増えがちです。名前のある人物は五人までにして、残りはクラスメイトという集合で扱ってください。
AIに書かせると平和すぎます
穏やかな続きが最も確率の高い続きだからです。毎話の指示で、起きる出来事を一つ指定してください。日常の描写はそのままで、変化だけ人間が決めます。