騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜
黒い企業で命を落とした20歳のタツヤは、女神の手違いで異世界に転生する。お詫びとして授かったスキルは、女性の本音が視える能力だった。
最初はその有用性に半信半疑だったが、冒険者ギルドで出会った金髪の女騎士リュネ・ヴァルデュール。冷たく棘のある外面とは裏腹に、その内なる声はまったく別物で――。
以来、戦闘中であれ浴場であれ、周囲の女性たちの本音が聞こえてくる。氷の女王と呼ばれる美貌の魔術師セリア・フィレンツァは実は寂しがり屋で、エルフの姫は人間の男に興味津々、女海賊船長は究極のツンデレ、計算高い女商人は一途な恋心を秘めていた。
スキルを駆使し、最強の美女たちの弱点や秘密を知ったタツヤは、次々とその心と身体を開いていく。だが、彼女たちの内なる声は愛情と同時に、昏い独占欲にも満ちていて、タツヤは日々の混沌に巻き込まれていく。
そんな中、女たちの本音から、この世界を統べる魔王が実は女であり、千年もの間『真実の愛』を探し求めていることを知る。タツヤは彼女すらも落とすことを決意する。
世界を救うのか、ハーレム王国を築くのか、それともヤンデレ地獄に堕ちるのか。本音が聞こえるからこそ、タツヤ
騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜 - 初陣は洞窟、スライムまみれ——鎧の下に隠れた傷と、縮まる距離
朝の港町カルナックは、いつも通りの活気に満ちていた。潮風が石畳の通りを抜け、魚市場からは威勢のいいかけ声が聞こえてくる。空は高く、雲ひとつない青さだ。
――こんな日に洞窟にこもるってのも、なんだかもったいないな。
タツヤはそんなことを考えながら、銀翼の会カルナック支部の前で足を止めた。転生から一週間。どうにかこの世界の空気にも慣れてきたところだ。
「[cold]遅い。何をぼさっとしているの」
ギルドの入り口に、リュネが立っていた。白銀の鎧に青いマント。腰には長剣。背筋を伸ばし、非の打ちどころのない立ち姿だ。今日もその美貌は完璧で、通りすがりの冒険者たちがちらちらと視線を向けている。
「[gentle]すみません、ちょっと道を間違えて」
――もう、心配したじゃない。無事でよかった。
彼女の口調は冷たいのに、スキルが拾う本音はいつも通りだ。タツヤは笑いそうになるのを堪えた。
「[serious]今日は灰石洞窟のスライム討伐よ。あんた、短剣の持ち方は覚えたでしょうね」
「[gentle]一応、渡された通りには」
――ダメね、全然できてない顔だわ。まあ、最悪私が全部守ればいいし。
リュネはため息をついた。
「[cold]はあ……まあいいわ。これが依頼書よ。内容は単純。洞窟に湧いたスライムを十匹倒すだけ」
羊皮紙を受け取る。そこには確かに、スライム討伐の依頼と、報酬額が記されていた。彼女はもう、さっさと歩き出している。
――後ろに立たせると危ないから、前を歩かせるのがいいわね。視界に入れておけば、何かあってもすぐに守れる。
(まただ)
タツヤが歩き出すと、リュネは自然な動きで斜め前の位置についた。振り返らず、さりげなく。でも確実に、彼女の視界の隅にタツヤを捉えている。
道中、港を抜けて北東の街道に出る。店先に並ぶ魚や香辛料の匂いが遠ざかり、代わりに潮風と草いきれが混ざるようになった。石畳は途切れ、踏み固められた土の道に変わる。
「[serious]スライムは弱いけど、体液が厄介よ。布や皮膚を溶かす。絶対に直接触れないこと」
「[gentle]わかりました」
――あの鎧、昨日手入れしてなかったわね。ちゃんと手入れしないと、いざって時に困るのに。
「[gentle]あの、鎧の手入れ、後で教えてもらえますか」
リュネの足が一瞬止まった。
「[surprised]……なんでそれを」
――まただ。なんで私の考えてること、わかるのよ。
「[gentle]いや、なんとなく。こういうのはちゃんとやらないとダメだなって」
リュネはしばらく黙ってから、小さく「いいわ」 とだけ言った。それだけなのに、スキルが拾う本音は――嬉しい、なんて。
その時、タツヤの足が道端の岩に引っかかった。
「うおっ」
――危なっ!
リュネが振り返りざま、タツヤの腕をがっしりと掴んだ。細い腕なのに、騎士として鍛えた握力が、転倒を防ぐ。
「[angry]ちょっと、前をよく見なさいよ!」
――って、私今、何を……。別に転んでも困らないし!
心の声が爆音で流れ込む。
「[gentle]ありがとうございます」
リュネは無言で前を向き直し、歩き出した。耳の先が、ほんの少し赤い。
灰石洞窟の入り口は、ぽっかりと口を開けていた。石灰岩の壁が白く、ひび割れた岩肌からは地下水が滴っている。洞窟に入ると、ひんやりした空気が肌にまとわりついた。外の日差しが嘘のように、薄暗い空間が広がっている。
「[serious]ランタンは私が持つ。あんたは周囲を警戒しなさい」
ランタンの灯りが壁をオレンジに照らす。足元の石灰岩は濡れてぬるぬるしていて、一歩踏み出すたびに滑りそうになる。タツヤは腰の短剣に手を当てたまま、慎重に進んだ。
その時だった。
ずるり。
物陰から、半透明のゼリー状の塊が滑り出てきた。スライムだ。予想以上の速さで、湿った石の上をすべるように迫ってくる。
「[scared]うおっ!」
タツヤの足がすくむ。
だが、リュネは一瞬だった。鞘走りの音。白刃が闇を裂き、スライムの核を正確に貫く。ゼリー状の体が崩れ、ぱしゃ、と体液が飛び散った。
「[serious]前に出るな。いいわね」
――びっくりして顔が真っ青になってた。大丈夫か、こいつ。
リュネの冷静な声とは裏腹に、本音は心配でいっぱいだ。タツヤは苦笑いを浮かべて頷いた。
さらに洞窟の奥へ進む。スライムがあちこちから現れるが、リュネの剣は一匹たりとも通さない。そんな中、タツヤはスキルを使って彼女の注意を先読みし始めた。
――次の角、音が複数ある。三匹、いや四匹か。
「[gentle]リュネさん、ちょっと右に寄ってください」
「[surprised]は? なんで」
――でも、まあ言う通りにしてみようかしら。
彼女が右の壁に寄った瞬間、左の角からスライムが三体、同時に這い出てきた。
「[surprised]何……!?」
リュネは素早く迎え撃つ。三匹を十秒足らずで斬り捨てると、信じられないという顔で振り返った。
「[surprised]なぜわかったの」
「[gentle]なんとなく、です」
――なんとなく、じゃない。絶対なにかある。でもまあ……使える。
タツヤは心の中で小さくガッツポーズをした。その直後、リュネが近くのスライムを斬った。体液が派手に跳ねて、タツヤの顔面に命中する。
「ぶっ!?」
「[laughing]汚い!」
――ぷっ、似合ってる。
くすくすと笑いを堪えるリュネの肩が震えている。
「[sad]笑わないでくださいよ……」
「[laughing]笑ってないわよ」
――笑ってるけどね。
最深部の地底湖付近。鍾乳石が天井から垂れ下がり、湖面がランタンの灯りをぼんやりと反射している。そこでタツヤたちは、足を止めた。
地底湖のほとりに、大型スライムが一体。その周りに、小型スライムが八体も群がっている。退路は、すでに塞がれていた。
「[cold]……多いわね」
リュネの声が、初めて緊張に染まる。彼女は剣を構え、星素を込めて魔法剣を発動した。刃が青白く輝く。
「[serious]私は前をやる。あんたは下がって」
――絶対守る。
リュネが駆ける。魔法剣の一振りで大型スライムを牽制し、返す刃で小型を二体切り捨てる。だが、その隙に他のスライムが側面からタツヤに迫った。
――後ろ! 右に飛べ!
スキルがリュネの叫びを拾う。タツヤは彼女が声を出す直前に、右へ跳んだ。
「[angry]タツヤ、右に!」
リュネが叫んだ時、タツヤはもう安全地帯にいた。彼女は一瞬、驚きに目を見開く。
――また先読みした……何者なの、この人。
タツヤはそれに答えず、今度は自分からリュネの背後を指さした。スキルが、彼女の死角から迫る三匹を捉えている。
「[serious]後ろです!」
リュネは振り返りざまに斬り払う。二人の連携が、かみ合い始めた。大型スライムが触手を伸ばすが、タツヤの声でリュネが先にそれを断ち切る。
そして――
「はああっ!」
最後の一撃。蒼い刃が大型スライムの核を貫いた。ゼリー状の体が崩れ、体液が水しぶきのように飛び散る。戦闘が終わった。
静寂。地底湖の水面が、ゆらゆらと揺れている。鍾乳石から滴る水の音だけが、規則正しく響いていた。
「[sad]はあ……終わった」
リュネは答えない。拳をぎゅっと握りしめて、じっと何かに耐えている。
――痛い。痛い、痛い。でも言えない。
タツヤは気づいた。リュネの右腕の鎧の隙間から、黒ずんだ焼け跡が見える。大型スライムの体液が、鎧の隙間から入り込んだのだ。
「[gentle]リュネさん、腕、怪我してませんか」
「[cold]問題ない」
――問題ある。すごく痛い。でも弱みを見せられない。
彼女の声は平静だったが、スキルの本音は力強い拒絶だった。洞窟の薄明かりの中、汗と湿気で乱れた金髪が額に張り付いている。外れかけた鎧の一部が、白い肩口を覗かせていた。
タツヤは一瞬、目を奪われたが、すぐに気を取り直した。
貝殻の宿に戻った。宿の女将マルガが「夕飯は漁師風スープだよ!」と威勢よく声をかけてきたが、リュネは軽く手を振り、真っ直ぐ自室へ向かった。
――手が届かない。自分で鎧を外せない。呼ぶのは恥ずかしい。でも痛い。
廊下で迷っている。その葛藤の本音が、タツヤの部屋にまで漏れていた。
タツヤは部屋を出て、リュネの部屋の扉の前に立った。
こんこん。
「[gentle]リュネさん。手、貸していいですか」
長い沈黙。
――なんて言えばいいの。頼むって言うの? 私が?
扉が、少しだけ開いた。ランタンの灯りが、細く廊下に漏れる。
「[whispers]……頼む」
小さな、本当に小さな声だった。初めて聞く、素直な言葉。
部屋に入ると、リュネは壁を向いて座っていた。右肩当てを外そうとして、痛みで動きが止まっている。タツヤは無言で近づき、鎧の留め具に手をかけた。
かちり。かちり。
金属の音だけが静かに響く。彼女の金髪から、微かに汗の匂いがした。
鎧が外れ、白い肩口から腕にかけてが露わになる。化学熱傷の痕。赤く腫れて、肌がひび割れている。
――私の体、見られてる。でも……なぜか嫌じゃない。
タツヤは「碧の滴」で買った傷薬を布に染み込ませ、そっと傷口に当てた。
「[scared]……っ」
リュネが小さく息をのむ。タツヤの指が、彼女の肌に直接触れる。しっとりと熱い感触。
「[gentle]痛いですか」
「[whispers]……少し」
初めての、素直な返答だった。
ランタンの灯りの中で、露わになった白い腕と肩の曲線が、影を落としている。タツヤは自分の手が微かに震えているのに気づき、傷薬の作業に集中することでごまかした。リュネの耳は、壁を向いているのに真っ赤だった。
「[sad]昔ね」
不意に、リュネがぽつりと話し始めた。
「[sad]私がまだ小さかった頃、訓練で一緒だった子がいたの。護衛の役目の少女で……魔物に襲われた時、私は、怖くて動けなかった」
――なんで話してるの、私。でも止められない。
「[sad]父には、弱さを見せるなって言われた。それ以来、誰かに頼ることを、忘れた」
リュネはずっと壁を向いたままだ。
タツヤは何も言わず、手当ての最後の布を固定した。
「[cold]あなたは今日、私の指示より先に動いたわね」
「[gentle]ああ、はい」
「[cold]なぜですか。また、なんとなくですか」
タツヤは少し考えてから、口を開いた。
「[gentle]あなたが、俺を守ろうとしてるのがわかったから。それなら、同じ方向に動こうと思っただけです」
――ずるい。この人、ずるい。
リュネは振り返らない。
「[whispers]……そうですか」
しばらく、沈黙が流れた。会話よりも多くのものを伝える、静かな時間だった。
翌朝。銀翼の会のカウンターに、タツヤとリュネは並んで立っていた。依頼完了の報告だ。
「[sad]お疲れ様です。依頼完了、確認しました」
受付嬢のマリスは、いつもの愛想笑いを浮かべている。だが、その本音がタツヤには聞こえていた。
――昨日の依頼記録、副マスターが直接回収していったのよね。なんかおかしい。でも、私には関係ない。
「[serious]そういえば、昨日の記録ですが」
マリスの顔色が少し変わった。
「[sad]ああ、はい。ドルフ副マスターが、手続きに必要だからって。少し変ですけど、上の人に逆らえませんし」
――何か企んでるんでしょ。でもあの人に目をつけられたら面倒だし、知らんぷりしとこ。
ドルフが依頼記録を手元に置く。通常手順に反する行為だ。タツヤはその事実を胸の内に刻んだ。
ギルドを出ると、リュネがぽつりと言った。
「[cold]証拠が欲しいんでしょうね。役立たずを抱えている、と」
――嫌な予感がする。タツヤを巻き込みたくない。
「[serious]でも、俺たちはちゃんと結果を出しました」
リュネは前を向いたまま、少しだけ歩調を緩めた。
「[whispers]……今日の依頼。うまくやれましたね」
「[gentle]はい」
それだけだった。でも、スキルには確かに聞こえていた。
――また一緒に行きたい。
タツヤは誰にも見られないよう、顔をそらした。潮風が、彼の前髪を揺らす。
港の近くで、魚を焼く煙が立ち上っていた。遠くから、子供たちの笑い声が聞こえる。
日常の風景。だが、その裏で、確実に何かが動き始めている。
ドルフの影。回収された記録。そして、まだ見えない次の一手。
タツヤは、そっと拳を握った。