騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜
黒い企業で命を落とした20歳のタツヤは、女神の手違いで異世界に転生する。お詫びとして授かったスキルは、女性の本音が視える能力だった。
最初はその有用性に半信半疑だったが、冒険者ギルドで出会った金髪の女騎士リュネ・ヴァルデュール。冷たく棘のある外面とは裏腹に、その内なる声はまったく別物で――。
以来、戦闘中であれ浴場であれ、周囲の女性たちの本音が聞こえてくる。氷の女王と呼ばれる美貌の魔術師セリア・フィレンツァは実は寂しがり屋で、エルフの姫は人間の男に興味津々、女海賊船長は究極のツンデレ、計算高い女商人は一途な恋心を秘めていた。
スキルを駆使し、最強の美女たちの弱点や秘密を知ったタツヤは、次々とその心と身体を開いていく。だが、彼女たちの内なる声は愛情と同時に、昏い独占欲にも満ちていて、タツヤは日々の混沌に巻き込まれていく。
そんな中、女たちの本音から、この世界を統べる魔王が実は女であり、千年もの間『真実の愛』を探し求めていることを知る。タツヤは彼女すらも落とすことを決意する。
世界を救うのか、ハーレム王国を築くのか、それともヤンデレ地獄に堕ちるのか。本音が聞こえるからこそ、タツヤ
騎士サマの本音、まる聞こえですが何か?〜異世界ハーレム建国記〜 - 死地への出発令状——副ギルドマスターの罠と、素直になれない恋心
あの洞窟での戦いから一夜明けても、火傷の痕はまだリュネの右腕に生々しく残っていた。
銀翼の会の前に立ったタツヤは、重たい石造りの扉を見上げる。ここに来るのは、いつも少しだけ気が重い。今日は特に、だ。
「[cold]何をぼさっとしているの。さっさと入るわよ」
リュネが先に立って扉を押し開けた。いつも通りの、背筋の伸びた完璧な立ち姿。でも、スキルが拾う本音は、今日は少し違っていた。
――この前みたいに、ドルフが何かしてこなければいいけど。
(……やっぱり、気にしてるよな)
タツヤも同じことを考えていた。前回のスライム討伐の記録を、副マスターのドルフが無理やり回収していった。あれが、ただの嫌がらせで終わるとは思えない。
ギルドの中は、朝だというのに妙に静かだった。酒場に数人の冒険者がいるだけで、壁に貼られた依頼書も、なんだか色あせて見える。
カウンターに座る受付嬢のマリスが、二人に気づいて顔を上げた。
「[sad]あ、お疲れ様です」
いつもの営業スマイル。でも、その裏でスキルが拾う声は、はっきりと違っていた。
――ああ、来ちゃった。副マスターが「二人が来たら二階に通せ」って。なんかまずい雰囲気だったけど、私には関係ないし。
「[serious]お二人に、副マスターからお話があるそうです。二階の個室にお越しください」
リュネが小さく息を呑んだ。表情は変わらない。でも、握りしめた拳が、ほんの少し震えている。
――来た。
「[cold]わかりました。行きましょう」
二人は古い木の階段を上がった。一段踏むたびに、ギシリと嫌な音が鳴る。二階の廊下の突き当たり。ドアの前で、リュネが一瞬だけ足を止めた。
――怖い。でも、タツヤには見せられない。
スキルが痛いほど拾い上げる本音に、タツヤはなんて声をかけようか迷った。でも、リュネはすぐに顔を上げて、ドアを三回ノックした。
「[serious]リュネ・ヴァルデュールです。副マスター、お話があると伺いました」
「[sarcastic]おお、待っていたよ。入りたまえ」
ドアの向こうから聞こえてきた声は、ねっとりと甘く、それでいて背筋が冷たくなるような響きを持っていた。
個室の中は、薄暗かった。窓には分厚いカーテンが引かれ、机の上のランプだけが部屋を照らしている。ドルフは、その灯りのすぐそばに座っていた。脂ぎった顔に、油の浮いた笑みを張り付けている。
「[sarcastic]やあ、よく来たね。まずは、スライム討伐の成功、おめでとう。新人としては上々の成果だ」
言葉は丁寧だった。でも、その目は全く笑っていない。
リュネが前へ出た。
「[cold]ご用件をお聞かせください」
「[sarcastic]まあ、そう急くな。……ところで、リュネ嬢。ヴァルデュール家の当主様、お父上の容態が最近あまり優れないと聞いたが?」
リュネの顔から、血の気が引いた。
――父の名前を出すな……!
スキルに、怒りと恐怖の混ざった爆音が流れ込む。タツヤは机の下で、自分の太ももを強くつねった。やばい、顔に出そうだ。
「[sarcastic]病床の父君に、娘が役立たずを抱えているなどという噂が届いたら……おいたわしいとは思わんかね?」
「[cold]……何が言いたいのですか」
ドルフは一枚の羊皮紙を、机の上を滑らせるように差し出した。
「[serious]魔狼の巣窟討伐。C級相当の難易度だが、君たち二人なら問題ないだろう? 報酬も弾む」
タツヤは羊皮紙を覗き込んだ。場所はカルナックの北西、嘆きの地下墓地のさらに奥。C級。ついこの前スライムと初めて戦ったばかりの自分には、明らかに過ぎた任務だ。
(罠だ。絶対に)
頭ではわかっている。でも、男の本音は聞こえない。スキルが全く役に立たないという事実が、ぞわりと背中を冷やした。
「[serious]……もし、断ったら?」
ドルフはにっこりと笑った。
「[sarcastic]タツヤ君の失格記録をギルドに公示する。残念だがね、規定でね。新人が任務を拒否した場合の措置だ。そうなれば、パトロン契約を結んでいる君の実績にも傷がつく。ヴァルデュール家が『役立たずを抱えている』という噂は、噂ではなく事実になるわけだ」
――この、外道が。
リュネの本音が、刃のように尖る。それと同時に、別の声も聞こえた。
――でも、タツヤをこんな罠に巻き込めない。どうすればいい。
「[gentle]……期日を、一週間いただけますか。準備が」
タツヤが口を開いた。時間を稼げば、何か手があるかもしれない。
「[sarcastic]残念だなあ。ギルドマスターがお戻りになるのは三日後でね。それまでに返答をもらわないと、こちらの手続きが進められないんだよ」
行き止まりだった。
「[cold]……引き受けます」
リュネの声は、静かだった。でも、スキルが拾う本音は泣き叫んでいるようだった。
――なんで、いつもこうなるの。
部屋を出ると、リュネは早足で廊下を歩いた。そして急に立ち止まると、タツヤの腕を掴んで壁際に引き寄せる。
「[whispers]断れる状況じゃないのは分かっています。ですが……これは私の家の問題です。あなたは、明日は宿で待っていなさい」
――一人で死にたくない。でも、あなたを巻き込みたくない。
スキルが拾った本音に、タツヤの胸がズキリと痛んだ。
リュネの手が、まだタツヤの腕を掴んだままだ。廊下の薄暗がりの中で、二人の距離はやけに近かった。リュネの蒼い瞳が、不安そうに揺れている。彼女の吐息が、ほんの少しだけタツヤの頬にかかった。
――近い。心臓がうるさい。最悪。
リュネの本音が、そんなことを叫ぶ。彼女ははっとして手を離し、一歩後ろへ下がった。白い頬が、ほんのりと赤い。
「[gentle]行きます」
タツヤは短く言った。
「[surprised]……何を」
「[gentle]一緒に行きます。聞こえましたか。残れって言ったのは」
「[angry]聞こえたなら、なんで」
「[gentle]聞こえたけど、行きます」
リュネが言葉に詰まった。口を開きかけて、閉じる。その目が、うっすらと潤んでいるように見えたのは、ランプの灯りのせいだろうか。
――なんでこの人は……なんで私のために。
混乱する本音の奥に、小さな、本当に小さな声が隠れていた。
――ありがとう。
リュネは何も言わなかった。でも、タツヤにはちゃんと届いていた。
宿に戻ると、外はもう暗くなっていた。窓から港の灯りが、ぽつりぽつりと見える。
部屋では、ランタンが一つだけ灯されていた。二人は無言で、それぞれの装備を確認する。タツヤが短剣を逆さまに鞘へ収めようとした時だった。
無言で、リュネが手を伸ばし、短剣の向きを正した。
「[cold]……逆」
――やっぱり心配。でも、一緒なら少しだけ……いや、何も思ってないし。
スキルが拾うツンデレ全開の本音に、タツヤは内心で崩れ落ちそうになる。可愛いって思っていいですか。いや、絶対言ったら怒られるやつだ。
リュネが鎧の肩当てを自分で付けようとして、右手がうまく上がらなかった。火傷の痕が、まだ動きを制限している。タツヤは立ち上がると、無言で背後に回った。
「[surprised]……何を」
「[gentle]じっとしててください」
肩当ての留め具を外し、正しい位置に合わせる。ランタンの灯りが、リュネの白い首筋と、華奢な肩の曲線をオレンジ色に照らしていた。タツヤの指先が、彼女の肌にほんの少し触れる。ひやりとしていて、それでいてしっとりと汗ばんでいる。
自分の呼吸が、少しだけ乱れた。
「[cold]……あんた、手つきが妙に手慣れてるわね」
「[gentle]社畜時代に、上司の奥さんの着付けを手伝わされたことがあるんですよ」
「[surprised]……なにそれ」
――ちょっと面白い。あ、ダメ、笑っちゃ。
リュネがぷいと横を向いた。でも、耳の先が赤い。
装備の確認が終わると、リュネは立ち上がって、タツヤの方に真っ直ぐに向き直った。
「[serious]最後に言うわ。残りなさい。これは私の義務で、あなたには関係のないことよ」
――死ぬかもしれない場所に連れて行きたくない。でも、こんなことしか言えない私は、やっぱりずるい。
「[gentle]関係あります」
「[angry]どこが」
「[gentle]パトロン契約。俺、あんたのパートナーですから」
リュネは何も言わなかった。ただ、唇をぎゅっと噛みしめて、タツヤを見上げた。
――ずるい。
それだけの本音が、ランタンの灯りのように、ふわりと揺れていた。
翌朝、まだ空が白む前に二人は宿を出た。
潮風市場を通り抜けると、朝市の準備で商人たちが慌ただしく動いている。魚の匂いと、香辛料の刺激臭、波止場の潮の香りが混ざり合う。
エルフの商人が、二人連れと話しているのが聞こえた。
「[excited]森の大陸から王女様がこっちに来るらしいぞ! 人間の男に興味があるとかで。セリア様とかいう、若い姫君だ。こりゃあ街も大騒ぎになるな」
――あんな美人の王女がくるなら、しばらくカルナックも賑わいそうね。でも、私には関係ないわ。
商人の連れの女性の本音が、スキルに引っかかった。エルフの王女、セリア。タツヤはその名前を、頭の片隅に留めておく。
市場を抜けて北西の街道に出ると、人通りはぐっと減った。リュネは無言で前を歩いている。昨日より、歩く速度が少し速い。
――早く終わらせる。早く帰る。タツヤを無事に帰す。
彼女の本音が、行軍のリズムに合わせて、繰り返し流れ込んでくる。
「[gentle]少し速くないですか?」
「[cold]問題ありません」
――早く着いたほうがいい。でも、着いたら戦いが始まる。でも……。
リュネの心は、ぐるぐると渦を巻いていた。
小川にかかる飛び石を渡る時、タツヤが先に渡ってから、岸に立って手を差し伸べた。
「[gentle]どうぞ」
「[cold]結構です」
リュネはそう言った。でも、一瞬だけ、差し出されたタツヤの手をじっと見る。
――……握りたかった。
本音が、小さく、でもはっきりと聞こえた。タツヤは川のせせらぎに紛れ込ませるように、小さく咳払いをする。自分の顔が熱くなっているのを、必死にごまかした。
やがて、周囲の木々が歪み、岩肌が露出した荒れ地に変わる頃、目的地が見えてきた。
魔狼の巣窟。
入り口の岩は、鉄が錆びたような赤黒い色に変色している。洞窟の前の地面には、獣の足跡が乱雑に重なっていた。
リュネが片膝をつき、足跡の深さと大きさを確認する。
「[whispers]数が……多すぎる」
――これはおかしい。聞いていた情報より、明らかに多い。ドルフに嵌められた。
タツヤも、横で足跡を見ながら同じ結論に達していた。C級どころの騒ぎじゃない。少なくとも、十匹以上の群れだ。
リュネが立ち上がり、剣の柄を握り直した。その指先が、ほんの少しだけ震えている。
――怖い。でも、怖いと言えない。でも、タツヤに死んでほしくない。
彼女の横顔は、無表情だった。でも、心の中は悲鳴でいっぱいだ。
「[gentle]行きましょう」
リュネは一秒だけ、目を閉じる。それから、小さな声で答えた。
「[whispers]……ええ」
洞窟へ踏み込む直前、タツヤは気づいた。リュネの手が、まだ震えている。剣を握るその手に――自分でも意識しないまま――手を伸ばして、一瞬だけ上から重ねた。
「[surprised]……っ」
リュネが驚いて顔を上げる。でも、タツヤはもう前を向いて、手を離していた。
――手が、温かかった。
スキルが拾った本音は、動揺と、それを押し込めようとする必死さでいっぱいだった。
二人は、暗い洞口へと足を踏み入れる。背後で、朝の光が細く遠ざかっていく。
その時だった。
グオォォォ――――……
洞窟の奥から、獰猛な遠吠えが響き渡った。一匹じゃない。二匹、三匹……いや、もっとだ。暗闇の奥で、無数の赤い目がぎらりと光る。
ドルフが仕込んだ罠の全貌が、今、幕を開けた。