生存者のための遺書
近未来社会では、人類は支配する者と支配される者に分かれている。支配される者に権利はない。親のいない子供たちは施設で育てられ、成人すると使い捨ての資源として送り出される。支配階級の貴族であるヴェルナーは、こうした人々を使ったデスゲームを娯楽として主催している。予選は単純な消耗戦だ――何百人もが走り、生き残った者だけが本戦へ進む。本戦の勝者には「人権」が約束される。
カイトとレンは、ともに施設育ちで、別々の予選を運だけで生き延びた。本戦は砂時計都市と呼ばれる封鎖地区で行われる。参加者は全員、位置と所持アイテム数を観客に配信する装置を身につけている。支配者たちは賭けをし、脱落のたびに歓声を上げる。
カイトとレンは初めて出会い、すぐに互いを疑い合う。大所帯のグループに追われ、渋々手を組む。二人はそれぞれ独自に、同じ戦略を考え出していた。所持アイテム数ゼロのふりをするのだ。若い運用助手のサラは、淡々とルールを説明する。「指輪は六十個。生存ラインは三点。タイムアウトは即死」
しかし二人は同時に、ある抜け穴に気づく。未確認の指輪は装置に表示されない。確認するまで、自分の所持品を隠せるのだ。二人
生存者のための遺書 - 砂時計の街 ―― 負けたふりの二人
風が、止まっていた。
スナドケイ区の廃墟に満ちる空気は、数日前までとは違っていた。殺し合いの熱と、血と、鉄と、汗とが混ざり合ったあの重たい匂いが、今は薄れている。代わりに、何かが終わる前の、張り詰めた静けさだけが、崩れた工業地帯の上に横たわっていた。
制限時間まで、あと三時間。
カイトは、廃工場の屋上に立っていた。
足元のコンクリートはひび割れ、剥き出しになった鉄骨が、夕暮れの鈍い光を反射している。遠くでは、砂時計型のモニュメントが、残り少ない時間を静かに告げていた。あの巨大なガラスの器の中で、最後の砂粒が、音もなく落ちていく。
(あと三時間)
カイトは、腕輪型のリソース端末に目を落とした。
画面には、参加者の位置と所持数が表示されている。残存する青い点は、もう数えるほどしかない。北区画の罠で、西区画の争奪戦で、東区画の封鎖で、参加者の大半が消えた。生き残った者たちも、皆、指輪を求めて、あるいは奪われることを恐れて、この廃墟のどこかに潜んでいる。
(レンは、まだ生きている)
端末の地図上で、レンの青い点は、カイトのすぐ隣に表示されていた。
屋上の、崩れたフェンスのそば。
レンは、そこに座り込んでいた。
茶色の癖毛が、風のない空気の中で、ぴたりと止まっている。そばかすのある頬は、夕暮れの光を受けて、くすんだ金色に見えた。琥珀色の瞳は、カイトではなく、二人の間に置かれたものを見つめていた。
指輪が、三つ。
錆びた鉄板の上に、丁寧に並べられていた。
カイトが隠し持っていた二つと、レンが隠し持っていた一つ。未確定のまま、端末に表示されていない、このゲームの唯一の抜け穴。
「……並べたな」
カイトの声は、低く、短かった。
「ああ」
レンも、短く答えた。
いつもの軽口はなかった。笑顔もなかった。核心に触れた時の、あの急に静かになる声。今のレンは、まさにその状態だった。
「三時間、か」
レンが、指輪から顔を上げた。
「ああ」
「あんた、気づいてる?」
「何をだ」
「ハエの数が、増えてる」
カイトは、目だけを動かして、空を見た。
監視ドローン「ハエ」が、廃工場の周囲を旋回している。全長十五センチの小型ドローン。静音設計で、近づかなければ羽音すら聞こえない。赤い接眼レンズが、夕暮れの空気の中で、不気味に明滅していた。
一機、二機、三機。
確かに、増えている。
「観客が、見てるんだろうな」
レンが、指輪の一つを手に取った。
「残り少ないゲームの、最後の見せ場を。どっちが生きて、どっちが死ぬのか。あいつらは、それを見るために、金を賭けてる」
レンの声は、静かだった。
カイトは、答えなかった。
代わりに、自分の端末をもう一度確認する。指輪の反応は、まだない。三つの指輪は、どれも未確定のまま。手に取って「確定」させない限り、観客にも、オッズマンにも、その存在は見えない。
(だが、見えている)
カイトは、旋回するハエの赤いレンズを見た。
(俺たちが、何かをしている、ということは)
(指輪を並べて、向かい合っている、ということは)
(あいつらには、全部、見えている)
「……カイト」
レンが、手に持った指輪を、鉄板の中央に置いた。
「これを、中央に置く」
「どういうことだ」
「奪い合いの図を作るんだよ。三点の指輪を、二人の真ん中に置く。どちらかが取れば、もう一人は、生存ラインを満たせない。そう見えるようにする」
レンは、もう二つの指輪も、中央に寄せた。
三つの指輪が、夕暮れの光を反射して、かすかに輝いた。
「観客は、これで、どっちが先に動くかを見る。残りの参加者も、端末で俺たちの位置を確認して、指輪を狙って来るかもしれない。全員の目が、この屋上に集まる」
「……囮か」
「そう。囮。そして、時間稼ぎ」
レンが、カイトを見た。
琥珀色の瞳が、夕暮れの中で、静かに光った。
「あんたも、同じことを考えてただろ」
カイトは、数秒の沈黙の後、短く頷いた。
「ああ」
二人は、それ以上、言葉を重ねなかった。
カイトは、レンの意図を理解していた。レンも、カイトの意図を理解していた。
互いに、相手を勝たせるための算段を、それぞれの頭の中で組み立てている。
カイトは、自分の計画を、もう一度、頭の中でなぞった。
(レンを勝たせる)
(生存ラインは、公爵の気まぐれで変動する)
(朝は三点、夕方は五点、あるいは、もっと)
(だから、この三点を、レンに確定させる)
(俺は、指輪を取らない)
(所持ゼロのまま、脱落する)
(それで、レンは、生き残る)
(問題は、レンが、指輪を取らないことだ)
カイトは、レンの横顔を見た。
レンは、指輪を見つめていた。
その横顔に、カイトは、自分と同じ計算を見た。
(こいつも、俺を勝たせようとしている)
(指輪を、俺に取らせようとしている)
(だから、中央に置いたんだ)
(俺が手を伸ばせば、それで、俺が三点を確定する)
(レンは、所持ゼロのまま、脱落する)
(そういう、図だ)
カイトは、口元を、わずかに歪めた。
(お互いに、相手を生かそうとしている)
(お互いに、相手に指輪を取らせようとしている)
(袋小路だ)
風が、吹いた。
止まっていた空気が、わずかに動く。
カイトの短い黒髪が、揺れた。
「……先に、端末を光らせるのは、どちらだ」
レンが、ぽつりと言った。
カイトは、答えなかった。
「指輪を確定させれば、端末が光る。観客は、それを見て、勝者を決める。賭けは、その瞬間に、決着する」
レンの声は、低く、静かだった。
「あんたが先に取れば、あんたの勝ちだ。俺が先に取れば、俺の勝ちだ。どっちでもいい。どっちかが、生き残る」
「……お前は、どっちがいい」
カイトが、短く聞いた。
レンは、少しだけ、笑った。
口元だけの、かすかな笑み。
「俺は、あんたに生きてほしい」
レンの声は、真剣だった。
「……なぜ」
「なぜだろうね。損得で考えたら、自分が生き残るべきだ。でも、俺は、あんたに生きてほしい。理由は、わからない。でも、そう思う」
レンの言葉は、数日前、封鎖区域で聞いたものと同じだった。
あの時、カイトは、同じ言葉を返した。
「俺も、同じだ」
カイトは、静かに言った。
「お前に、生きてほしい。理由は、わからない。でも、そう思う」
二人は、見つめ合った。
沈黙が、屋上を包んだ。
監視ドローンの羽音だけが、かすかに聞こえる。
――
レンは、左手首を、無意識に触っていた。
親指で、隠し印をなぞる。
袖の下に刻まれた、楔型の刻印。
クサビの構成員である証。
カイトも、同じ刻印を、同じ場所に持っていた。
二人は、数日前、互いの刻印を見せ合った。
共犯者であることを、確認し合った。
だが、それだけだった。
互いが、どんな任務を帯びているのか。どんな過去を背負っているのか。どんな嘘を抱えているのか。
それは、まだ、明かされていない。
(弟に、嘘をついた)
レンは、指輪を見つめながら、過去を思い返していた。
(「すぐ追いかける」って)
(あれは、嘘だった)
(俺は、弟を置いて、一人で逃げた)
(弟は、あの後、どうなったんだろう)
(生きているのか、死んでいるのか、それすら、わからない)
(でも、俺は、生き延びた)
(弟への嘘を、守るためだけに)
(生き延びてきた)
レンは、指輪に手を伸ばした。
だが、触れなかった。
指先が、かすかに震えていた。
「……カイト」
「なんだ」
「あんたも、何か、背負ってるんだろ」
カイトは、答えなかった。
代わりに、予選の記憶が、頭の奥で蘇った。
(くじ引きで選ばれた、少女)
(あの子は、笑っていた)
(「生きて」って、言った)
(俺は、生き延びた)
(あの子は、死んだ)
(あの子の笑顔を、俺は、忘れられない)
(だから、俺は、誰かを生かさなければならない)
(レンを、生かさなければならない)
(そうしなければ、あの子の笑顔が、報われない)
カイトは、左眉の上の古い傷を、指でなぞった。
痛みは、もうなかった。
だが、あの夜の無力感は、まだ、骨の髄に残っていた。
「……お前も、背負ってるんだろ」
カイトが、低く言った。
レンは、少しだけ、驚いたような顔をした。
そして、静かに頷いた。
「……ああ」
「同じだな」
「……同じだね」
二人は、再び、沈黙した。
三つの指輪が、夕暮れの中で、静かに輝いていた。
――
その頃、スナドケイ区の上部、九十五層に設置された空中観覧テラスでは、一人の男が、ガラス越しに屋上を見下ろしていた。
銀髪を後ろに流した長髪。冷たい薄い青の瞳。常に微笑んでいるような口元。左手には、大きな宝石の指輪。
ヴェルナー・フォン・アルストレム公爵。
ケージ支配層の頂点に立つ、五大貴族家の一つ、ヴェルナー公爵家の当主。ホルダー評議会の議長であり、トケイバコの主催者。
彼の足音は、ほとんどしない。
テラスの床を、音もなく歩き、ガラスの手すりに手を置いた。
「……あの二人は、まだ殺し合いませんね」
公爵の声は、穏やかで、芝居がかっていた。
「ええ、睨み合ったまま、もう三十分以上が経過しています」
傍らに控えていたオッズマンが、端末を確認しながら答えた。
「退屈だ」
公爵は、微笑んだまま、ため息をついた。
「観客も、そろそろ飽きてきた頃でしょう。追加の撹乱を仕掛けますか? 北区画に、もう一度、偽の指輪反応を――」
「いえ、待ちなさい」
公爵が、オッズマンの言葉を遮った。
「まだ、誰も死んでいない」
公爵は、屋上の二人を見下ろしながら、ゆっくりと言った。
「制限時間まで、あと三時間を切っている。この状況で、参加者が二人、殺し合いもせずに、指輪を挟んで向かい合っている。……これは、予想外だ」
「予想外、ですか」
「ええ。私は、これまで十三回のトケイバコを主催してきました。参加者たちは、皆、同じでした。指輪を奪い合い、殺し合い、最後は、生き残るために、仲間さえも裏切る。それが、このゲームの常識でした」
公爵は、薄い青の瞳を、細めた。
「ですが、あの二人は、違う。あの二人は、殺し合うどころか、互いに、相手を生かそうとしている。そうでしょう?」
「……そのように、見えます」
「あの二人は、何かを隠している」
公爵の声が、わずかに、低くなった。
「指輪を三つ、未確定のまま、隠し持っている。端末に表示されない、抜け穴。あの二人は、その抜け穴に気づいている。そして、それを利用して、このゲームを、自分のものにしようとしている」
「……何を、企んでいるのでしょう」
「さあ。それは、まだわかりません。ですが、面白い」
公爵は、笑った。
口元だけの、冷たい笑み。
「予定調和は、退屈です。ゲームは、こうでなくては。参加者が、私の予想を裏切る。その瞬間が、最も甘美なのです」
公爵は、手すりから手を離した。
「追加の撹乱は、やめなさい。あの二人が、何をするのか、最後まで見届けましょう」
「しかし、それでは、観客の賭けが――」
「賭けは、最後の瞬間に、大きく動きます。それでいいでしょう」
公爵は、オッズマンに背を向けた。
「あの二人は、きっと、私に、もっと残酷な結末を見せてくれる。そう期待していますよ」
公爵の足音が、テラスに消えていった。
オッズマンは、端末を見つめながら、冷や汗をかいていた。
――
テラスの隅で、一人の若い男が、ガラス越しに屋上を見下ろしていた。
エーリヒ・フォン・アルストレム。
ヴェルナー公爵の一人息子。二十二歳。
彼は、父の言葉を聞きながら、屋上の二人の動きを、じっと観察していた。
(あの二人……)
エーリヒは、カイトとレンの位置関係に、違和感を覚えていた。
(殺し合う気配がない)
(それどころか、互いに、相手を守るような動きをしている)
(あの二人は、ただの参加者ではない)
(何か、別の目的がある)
エーリヒは、自分の端末を取り出した。
画面には、カイトとレンの、詳細なデータが表示されている。
ソダテヤ第7出身。施設育ちのリソース。予選を、運だけで生き延びた。
(……運だけで?)
エーリヒは、データを、何度も読み返した。
(この二人の動きは、運だけのものではない)
(計算されている)
(まるで、最初から、このゲームの仕組みを知っていたかのように)
エーリヒは、端末を握りしめた。
(父上は、あの二人が、何かを隠していると、そう言った)
(もし、あの二人が、このゲームを壊すつもりなら)
(俺は、どうすればいい)
エーリヒは、答えの出ない問いを、胸の奥に押し込めた。
――
サラ・ノックスは、封鎖解除された配管区画の影に、身を潜めていた。
黒い長髪を、後ろで一つに束ねている。切れ長の黒い瞳が、暗がりの中で、屋上の二人を見つめていた。
彼女の右耳の後ろには、小さな痣があった。
リソース管理局所属の運営補助。トケイバコの実務を担当する、リソース出身のスタッフ。
そして、反抗組織クサビの連絡係。
サラは、手に持った運営端末を、静かに操作していた。
画面には、生存ラインの設定項目が表示されている。
現在の生存ラインは、三点。
だが、この数値は、公爵の気まぐれで、いつでも変動する。
(公爵は、あの二人を、見ている)
サラは、端末の画面を見つめながら、考えていた。
(あの二人は、互いに、相手を生かそうとしている)
(でも、生存ラインが、変動したら)
(二人とも、脱落する可能性がある)
(どちらか一人しか、生き残れない)
(それが、このゲームのルール)
(でも、あの二人は、二人とも、生き残る方法を、探している)
(未確定の指輪を、隠し持ったまま)
(負けたふりをして、実は勝つ)
(そういう、逆転を)
サラは、生存ラインの変動幅を、指先でなぞった。
(私は、組織の命令で、動いている)
(クサビの協力者として、参加者を救出するために)
(でも、今、私がしようとしていることは、組織の命令ではない)
(私の、自己判断)
サラは、端末の画面を、そっとタップした。
変動幅の設定が、表示される。
最大値と最小値。
公爵は、この幅の範囲内で、生存ラインを、自由に変動させることができる。
(この幅を、狭める)
サラは、指を動かした。
(変動幅を、限界まで狭くする)
(そうすれば、公爵は、生存ラインを、大きく変動させることができなくなる)
(三点のまま、維持される可能性が、高くなる)
(あの二人が、二人生き残る可能性が、少しだけ、高くなる)
サラの指先が、かすかに震えていた。
(これは、独断だ)
(組織の誰にも、相談していない)
(もし、バレたら、私は、処分される)
(でも)
サラは、屋上の二人を見上げた。
(あの二人は、互いのために、嘘をついている)
(私も、あの二人のために、嘘をつく)
(それが、私にできる、たった一つのこと)
サラは、端末の設定を、確定させた。
画面に、小さく「変更完了」と表示された。
サラは、端末を、制服のポケットにしまった。
そして、誰にも見つからないように、配管区画の影から、静かに、その場を離れた。
――
屋上では、時間が、ゆっくりと流れていた。
夕暮れが、深まっていく。
空の色が、赤から紫へ、紫から藍色へと、静かに変わっていく。
砂時計型モニュメントの砂は、残りわずかだった。
「……カイト」
レンが、口を開いた。
「残り、十秒だ」
カイトは、端末を見た。
画面に、カウントダウンが表示されている。
十。
九。
八。
「……ああ」
カイトは、短く答えた。
七。
六。
五。
二人は、指輪を見つめていた。
三つの指輪が、夜の始まりの中で、最後の光を放っていた。
四。
三。
二。
カイトは、指輪から、手を引いた。
レンも、同時に、指輪から、手を引いた。
一。
ゼロ。
端末が、小さく震えた。
画面に、文字が浮かび上がる。
「制限時間終了」
「生存ライン:三点」
「所持数:ゼロ」
「判定:脱落」
カイトの端末に、そう表示された。
レンの端末にも、同じように表示されているはずだった。
だが、二人は、笑っていた。
カイトは、口元を、わずかに歪めた。
レンは、静かに、笑った。
「……負けた、な」
レンが、ぽつりと言った。
「ああ」
「負けたふりをして、実は勝った」
レンの声は、震えていた。
「どちらも、指輪を確定させなかった。どちらも、脱落者として、演出された。でも、生存ラインは、直前に、公爵の気まぐれで、変動するはずだった」
「……ああ」
「でも、変動しなかった。生存ラインは、三点のままだった。あんたが、隠してた二つと、俺が隠してた一つ。合わせて三点。どちらかが、確定させていれば、生き残れた。でも、二人とも、手を引いた」
レンは、カイトを見た。
「あんたは、俺に、三点を取らせようとした」
「……お前も、俺に、三点を取らせようとした」
「ああ。そうだ」
レンは、うなずいた。
「俺は、あんたに、生きてほしかった。だから、指輪を、あんたに取らせようとした。でも、あんたも、同じことを考えてた。だから、二人とも、手を引いた」
「……そういうことだ」
カイトは、空を見上げた。
夜の空に、監視ドローンの赤いレンズが、無数に浮かんでいた。
「俺たちは、互いの嘘を、守り合った」
カイトの声は、静かだった。
「助け合うつもりが、互いの嘘を、守り合っていた」
「……ああ」
レンも、空を見上げた。
「でも、これで、終わりじゃない」
レンの声が、低くなった。
「脱落者として、演出された。でも、本当は、生きてる。指輪も、まだ、隠したままだ。このゲームは、まだ、終わってない」
「……ああ」
「公爵は、俺たちのことを、見てる。あの人は、俺たちが、何かを隠してるって、気づいてる。これから、もっと、厳しくなる。監視も、ルールも、全部」
「……だろうな」
「でも、俺は、あんたと、もう一度、生き延びたい」
レンが、カイトを見た。
琥珀色の瞳が、夜の闇の中で、まっすぐに、カイトを捉えた。
「……俺もだ」
カイトは、短く答えた。
二人は、並んで、夜の空を見上げた。
砂時計型モニュメントの砂は、もう、すべて落ちきっていた。
だが、時間は、まだ、止まっていなかった。
試験は、まだ、終わらない。
――
遠くで、拡声器の音が、かすかに響いた。
「——参加者の皆さん。規則の再確認です」
サラの声は、いつものように、淡々としていた。
「制限時間が終了しました。脱落者の処理を開始します。生存者は、中央広場へ集合してください。規則ですので確認してください」
カイトとレンは、顔を見合わせた。
「……行くか」
「ああ」
二人は、屋上から、ゆっくりと、階段へ向かった。
監視ドローンの赤いレンズが、二人の背中を、追いかけていた。
その赤い光の向こうで、ヴェルナー公爵が、微笑んでいる。
そんな気配を、カイトは、確かに感じていた。Noveliaとは?
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