FGO学園 〜聖杯は校庭に埋まってる〜
聖レガリア学園の裏庭で草むしりをしていた藤丸立香は、土の中から金色に輝く杯——聖杯を掘り出してしまう。その瞬間、右手の甲に消えない紋様が浮かび上がり、彼の「無意識の願い」が次々と現実になり始める。購買のパンは好物ばかりになり、机は勝手に片付き……。そこへ「あなたを守るために来ました」と転校生のマシュ・キリエライトが現れる。聖杯の力を制御できなければ、周囲の願いまで巻き込んで暴走する危険があるという。小柄で真剣な彼女との、少し不思議でちょっとドキドキする学園生活が始まる——。果たして立香は、聖杯の力を抑えられるのか。そして夢で聞こえた「必ず、迎えに来るから」という声の主は誰なのか。聖杯は、校庭に埋まってる。
FGO学園 〜聖杯は校庭に埋まってる〜 - 守る宣誓と金色の花壇~マシュの朝ごはん大作戦~
朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいた。
藤丸立香は、布団の中でまどろみながら、右手の甲をそっと撫でた。手袋の下の紋様は、今朝もほんのりと温かい。聖杯を拾ってから、もう五日になる。購買のパンが好物ばかりになったり、給食のメニューが勝手に変わったりと、変なことばかり起きている。
「……今日は、何も起きないといいんだけど」
立香は小さく呟いて、体を起こした。
その時だった。
ピンポーン。
間延びしたチャイムの音が、家の中に響く。
「……朝の七時半に誰だよ」
立香は寝ぼけた頭で階段を下りた。玄関のドアを開ける。
そこに立っていたのは、淡い桜色のショートボブをふわりと揺らした少女だった。紫がかった大きな瞳が、まっすぐ立香を見上げている。小柄な体に、白いブラウスと紺のスカート。手には、小さな紙袋を大事そうに抱えていた。
「おはようございます、立香さん」
マシュ・キリエライト。聖杯の力に惹かれて転校してきた、英霊の少女。
「……マシュ? なんでここに? っていうか、なんで俺の家知ってるんだよ」
「立香さんを守るためには、ご自宅の場所を知っておく必要がありますから」
マシュは、真面目な顔で、ごく当然のように言った。
「そういう問題じゃないだろ! 個人情報って言葉知ってるか?」
「個人情報……ですか。でも、私は立香さんのことをもっと知りたいんです」
マシュは、少しだけうつむいて、頬を染めた。
「……はあ。で、何の用?」
立香が尋ねると、マシュは顔を上げた。その表情は、先ほどまでとは打って変わって、真剣そのものだった。
「立香さんに、朝ごはんを作らせてください」
「……は?」
「朝ごはんです。私、今日のために、卵焼きの練習をしてきました」
マシュは、紙袋をぎゅっと抱きしめた。
「ちょっと待て。なんでそうなる!? なんでお前が俺の朝ごはんを作るんだよ!」
「立香さんの一日は、朝ごはんから始まります。だから、朝ごはんをしっかり食べてもらうことが、立香さんを守ることに繋がるんです」
「理屈が無理やりすぎるだろ!」
立香がツッコんだ、その時。
「あら、立香。朝から女の子と何してるの?」
後ろから、母の声がした。
「げっ、母さん! これは、その、違うんだ!」
立香が慌てて振り返る。母は、興味津々といった様子で、マシュをじっと見ていた。
「あらあら、まあ、可愛らしいお嬢さんね。立香のお友達?」
「はじめまして。マシュ・キリエライトと申します。立香さんと同じクラスで、いつもお世話になっています」
マシュは、ぺこりと丁寧にお辞儀をした。
「あら、ご丁寧に。それで、今日はどうしたの?」
「立香さんに、朝ごはんを作らせていただきたくて参りました」
マシュは、真剣な眼差しで母を見つめた。
「まあ! 立香に朝ごはんを!? いい子ねえ!」
母の顔が、ぱあっと輝いた。
「ちょ、母さん! 勝手に話を進めないでくれ!」
「何言ってるの。せっかく作ってくれるって言ってるんだから、お願いしなさい。さあさあ、マシュさん、上がって上がって」
「ありがとうございます。お邪魔します」
マシュは、嬉しそうに笑って、家の中に入っていった。
「……なんでそうなるの!?」
立香は、頭を抱えた。
台所に立ったマシュは、手慣れた様子で冷蔵庫を開け、卵を取り出した。持参した紙袋から、桜色のエプロンを取り出して身につける。
「お借りしますね」
「あら、エプロンまで持ってきたの。感心だわあ」
母は、台所の入り口でにこにこしながら、マシュの様子を眺めている。
「母さん、なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「だって、立香にこんな可愛い子がご飯を作ってくれるなんて、お母さん、夢みたいだもの」
「夢見がちすぎるだろ」
立香は、ため息をついた。
マシュは、ボウルに卵を割り入れ、菜箸で丁寧にかき混ぜ始めた。その動きは、どこか危なっかしい。
「……マシュ、本当に大丈夫か? 包丁とか、使うのか?」
「大丈夫です。卵焼きだけなので、包丁は使いません」
マシュは、卵液に砂糖と塩を加え、真剣な表情で混ぜ続ける。
「練習は、何回くらいしたんだ?」
「……三十回です」
「三十回!?」
立香は、思わず声を上げた。
「はい。でも、まだ満足のいく出来にはならなくて。立香さんに美味しいと言ってもらえるように、もっと練習しないといけないんです」
マシュは、フライパンに油をひき、卵液を流し入れた。ジュッ、という音とともに、甘い香りが台所に広がる。
「……そこまでしなくても」
立香は、マシュの横顔を見た。
真剣そのものの表情。紫がかった瞳は、フライパンの上の卵焼きだけを見つめている。小さな手で、フライパンを握る姿は、どこか危なっかしくて、でも、目が離せなかった。
(こいつ、本当に真面目なんだな)
立香は、心の中で呟いた。
「……できました」
マシュは、卵焼きを皿に盛り付けた。ほんのりと焦げ目がついた、きれいな黄色の卵焼き。
「おお、上手いじゃないか」
「本当ですか!? よかった……」
マシュは、ほっとしたように笑った。
「さあさあ、二人とも、食卓に運んで」
食卓には、マシュが作った卵焼きと、母が用意した味噌汁とご飯が並んだ。
「いただきます」
立香は、卵焼きを一口食べた。
「……うまい」
素直な感想が、口をついて出た。甘すぎず、しょっぱすぎず、ちょうどいい味付け。卵のふんわりとした食感が、口の中に広がる。
「本当ですか!? よかった……! 立香さんに美味しいと言ってもらえて、私、嬉しいです」
マシュは、ぱあっと笑った。その笑顔は、朝の光の中で、花が咲いたように見えた。
立香は、一瞬、目を奪われた。
(……あれ、こいつ、こんなに笑うんだ)
胸の奥が、くすぐったくなるような感覚。
「……お前も食べろよ。せっかく作ったんだから」
立香は、照れ隠しのように言った。
「はい! いただきます」
マシュは、自分の卵焼きを口に運んだ。
「……あ、ちょっと甘いですね」
「そうか? 俺はちょうどいいと思ったけど」
「立香さんがそう言ってくれるなら、よかったです。でも、次はもっと美味しく作りますね」
マシュは、真剣な顔で言った。
「次も作る気なのかよ」
「もちろんです。朝ごはんは、毎日作ります」
「毎日!?」
「はい。立香さんの朝は、私が守りますから」
マシュは、にっこりと笑った。
「……あのなあ」
立香は、何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
「あらあら、毎日来てくれるの? 大歓迎よ、マシュさん」
「母さんは黙ってて!」
朝から騒がしい食卓だった。
登校中の通学路。星ヶ丘市の朝の空気は、まだ少しひんやりとしていた。
立香の隣を、マシュが歩いている。いや、正確には、立香の半歩後ろを、ぴったりとくっつくようにして歩いていた。
「……マシュ、近くないか?」
「そうですか? これくらいが、立香さんを守れる距離だと思います」
マシュは、真剣な顔で言った。
「いや、守るって、何からだよ。通学路に敵でも出るのか?」
「聖杯の力を狙う者が、いつ現れてもおかしくありません。油断は禁物です」
マシュの声は、本気だった。
「……そうかよ」
立香は、ため息をついた。
その時、後ろから声がかかった。
「あれ、藤丸くん。おはよう!」
振り返ると、同じクラスの女子生徒が、小走りで近づいてくるところだった。
「おう、おはよう」
立香が手を上げて応えようとした、その瞬間。
マシュが、するりと立香の前に出た。
「立香さんは今、私が守っています。話しかけないでいただけますか」
マシュの声は、静かだった。でも、その目は、ガチだった。
「……え?」
女子生徒が、困惑したように立ち止まる。
「ちょ、マシュ! 何言ってるんだよ! クラスメイトだぞ!」
「クラスメイトでも、立香さんに近づく者は、私が警戒します」
マシュは、真剣な表情で、女子生徒をじっと見つめた。
「……ご、ごめん! また後で!」
女子生徒は、逃げるように走り去っていった。
「おい、マシュ。やりすぎだろ。あの子、普通に挨拶しただけだぞ」
「……でも、あの人は、立香さんに笑顔で近づいてきました。何か企んでいるかもしれません」
「企んでないだろ! ただのクラスメイトだって!」
立香は、頭を抱えた。
「立香さんは、優しすぎます。誰にでも分け隔てなく接するから、周りが勘違いするんです」
マシュは、少しだけ口をとがらせた。
「勘違いって、何のだよ」
「……わかりません。でも、立香さんに近づく人には、気をつけます」
マシュは、立香の腕に、そっと手を添えた。
「……マシュ?」
「私は、立香さんを守るのが、私の役目ですから」
マシュは、立香を見上げた。紫がかった瞳が、真っ直ぐに立香を映す。
「……真面目すぎるよ、お前は」
立香は、苦笑いした。
「でも、ありがとうな。心配してくれてるんだよな」
立香がそう言うと、マシュは、ぱあっと笑った。
「はい。立香さんが笑ってくれるなら、私は何でもします」
その言葉に、立香の胸が、不意に高鳴った。
ドキン。
(……え? 今、何か)
立香は、自分の胸に手を当てた。心臓が、普段より早く脈打っている。
(マシュの言葉に、反応してる……?)
立香は、マシュの顔をまじまじと見つめた。
マシュは、立香の視線に気づいて、首をかしげた。
「どうかしましたか、立香さん?」
「……いや、何でもない。行こう」
立香は、慌てて前を向いた。
(何でもない、何でもない。俺は、マシュのことを、ただのクラスメイトとして心配してるだけだ)
立香は、心の中で言い聞かせた。
でも、胸の高鳴りは、しばらく治まらなかった。
昼休み。
立香とマシュは、中庭のベンチで、持参した弁当を広げていた。
「立香さん、卵焼き、食べますか?」
マシュは、自分の弁当箱から、卵焼きを立香の弁当箱に移そうとした。
「え、いいよ。お前の分だろ」
「立香さんに食べてほしいんです。私、朝ごはんの味を、もっと研究したいので」
「研究って……お前は料理人か」
立香は、苦笑いしながら、マシュの卵焼きを受け取った。
「……うん、うまい。朝のやつより、ちょっと味が濃いか?」
「はい。お昼は、朝よりも味を濃くしたほうが、食欲が増すと思ったんです」
マシュは、得意げに言った。
「へえ、すごいな。ちゃんと考えてるんだな」
「立香さんのためですから」
マシュは、嬉しそうに笑った。
その時だった。
「……あれ?」
立香は、中庭の花壇に目をやった。
花壇の花が、全部、金色に変わっていた。
「なんだ、あれ。花が、金ピカになってるぞ」
立香は、立ち上がって、花壇に近づいた。
「……立香さん、待ってください!」
マシュが、慌てて立香の後を追う。
花壇の花は、どれもこれも、鮮やかな金色に輝いていた。触れると、甘い匂いがする。
「……甘い匂い。なんだこれ」
立香は、金色の花に触れた。
「立香さん! 触らないでください!」
マシュが、立香の手を引いた。
「え、何? 危ないのか?」
「……聖杯の願現が始まっています。小さいですが、確実に」
マシュの顔が、曇っていた。
「願現……って、この前、給食室で起きたやつか?」
「はい。聖杯が、持ち主の願いを現実に反映させる現象です」
マシュは、金色の花壇をじっと見つめた。
「でも、俺、花壇を金色にしようなんて願ってないぞ」
「……無意識の願いも、叶えてしまうのが聖杯なんです。だから危険なんです」
マシュは、立香の手を握ったまま、真剣な表情で言った。
「無意識の願い……。じゃあ、俺が、心のどこかで、花壇を金色にしたいって思ってたってことか?」
「……はい。聖杯は、持ち主の心の奥底にある願いを、勝手に叶えてしまうんです。立香さんが気づいていないだけで、何かしらの願いが、この花壇に反映されたのかもしれません」
「……そんなの、怖すぎるだろ」
立香は、金色の花を見つめた。
美しいのに、どこか不気味だった。
「……大丈夫です。私が、立香さんを守ります。必ず」
マシュは、立香の手を、ぎゅっと握った。
「マシュ……」
「聖杯の力が暴走しないように、私がそばにいます。立香さんを一人にしません」
マシュの声は、震えていなかった。
立香は、マシュの手の温かさを感じながら、思った。
(……本当に、聖杯は危ないものなのかもしれない)
初めて、立香は、聖杯の危険性を、実感した。
その直後だった。
中庭の中央にある噴水が、突然、金色に光り出した。
「……え!?」
立香は、目を疑った。
噴水の水が、金色の光を放ちながら、空高く吹き上がっている。
「……私の願いが、漏れてる」
マシュが、顔を真っ赤にして、呟いた。
「えっ、マシュの願い?」
立香は、マシュを見た。
「……立香さんと、一緒にいたいって、思ってました。そしたら、聖杯が、反応して……」
マシュは、恥ずかしそうに、うつむいた。
「お前の願いも、聖杯は叶えるのかよ」
「……はい。聖杯の近くにいる人の願いも、影響を受けるんです。特に、私のような英霊は、聖杯との縁が強いので……」
マシュは、顔を覆った。
「……むきゅ」
「いや、むきゅって言われても」
立香は、金色に輝く噴水と、真っ赤になったマシュを、交互に見た。
「……とりあえず、噴水、止まらないかな」
「す、すみません! 私のせいで……」
マシュは、慌てて頭を下げた。
「いや、マシュのせいじゃないだろ。聖杯のせいだよ、聖杯の」
立香は、苦笑いした。
噴水の光は、しばらくすると、ゆっくりと消えていった。
「……はあ、びっくりした」
立香は、大きく息を吐いた。
「ごめんなさい、立香さん。私のせいで、また聖杯の力を強めてしまいました」
マシュは、しょんぼりと肩を落とした。
「だから、お前のせいじゃないって。それに、俺の願いだって、さっきの花壇で、現実になっちゃったんだろ? お互い様だよ」
「立香さん……」
マシュは、立香を見上げた。
「とりあえず、落ち着こう? な? 聖杯のことは、これから考えればいい」
立香は、マシュの頭に、ぽんと手を置いた。
「……はい」
マシュは、小さく頷いた。
夜。
聖レガリア学園の時計台が、金色に光り出した。
学園中に、甘い香りが漂う。
その異変を、学園四階の星ヶ丘観測所から、一人の女性が見つめていた。
氷室静。星詠み機関の職員で、この観測所の所長を務める女性だ。
「……魔力反応が、予想以上に早い。この分だと、次の願現は、今週末か」
彼女は、手に持った端末を操作しながら、呟いた。
「聖杯の持ち主は、藤丸立香。そして、英霊の反応も確認済み。……事態は、深刻化している」
氷室静は、金色に輝く時計台を、冷たい目で見つめた。
その頃、立香の家では。
「……マシュの願いが、原因なのか」
立香は、ベッドに寝転がりながら、天井を見つめていた。
「私の願いが原因かもしれません。ごめんなさい」
さっき、マシュから電話があった。声は、今にも泣き出しそうだった。
「マシュのせいじゃないよ。俺が聖杯を拾ったのが、始まりなんだから」
立香は、そう言った。
「……一緒に、止めましょう。私、立香さんの力になりたいです」
マシュの声が、耳に残っている。
「……俺の力になりたい、か」
立香は、右手の甲を見つめた。手袋の下で、紋様が、ほんのりと光っている。
「……俺も、ちゃんと向き合わないといけないな」
立香は、ゆっくりと起き上がった。
窓の外では、星ヶ丘市の夜空に、聖レガリア学園の時計台が、金色に輝いていた。
「……聖杯か。本当に、厄介なものを拾っちゃったな」
立香は、そう呟いて、カーテンを閉めた。Noveliaとは?
Noveliaは、AIでライトノベルや二次創作を「読んで・数タップで作って・キャラクターと会話できる」プラットフォームです。挿絵つきの新作が毎日届き、無料で始められます。