ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて
ロックは、木人形を一体だけ動かせるだけの外れスキル「パペットマスター」を持つDランク冒険者。周囲から嘲笑され、日々は薬草採取で細々と食いつなぐ孤独なものだった。しかし、酒場で出会った中年の薬草師バルドを助けたことから、その日々が少しずつ動き始める。
バルドのおかげで安定した収入を得られるようになり、木人形との連携も日増しに上達していくロック。そんな彼を、エルフの土魔術師リリア・ファロンディールが、魔の森の三ヶ月に及ぶ調査任務に誘う。彼女が操る二体の強力なゴーレムに圧倒されながらも、ロックは人形と共に戦う自分だけのスタイルに、確かな手応えを感じ始めていた。
突如、キラーアントの巣に足を踏み入れ、クイーンアントと対峙する危機が訪れる。絶体絶命の窮地の中、ロックとリリアは共闘し、辛くもこれを討伐。リリアは礼として、ロックにクイーンの魔石を託し、人形への融合方法を伝授する。すると人形は、味方を強化し敵を弱体化させる新たな支援能力「リンクフィールド」を覚醒させるのだった。
それは、決して無能なスキルなんかじゃない。誰にも真似できない、自分だけの力。ロックは初めて、心からの自己肯定を得る。支
ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて - ポーターの矜持、砕かれた木人
王都の朝は、ラステラよりずっと騒がしい。
ギルドの掲示板の前で、ロックは一枚の張り紙を見つけた。
『スケルトン討伐 臨時パーティ募集。荷物持ち一名求む。日当銀貨五枚』
(銀貨五枚……宿代三日分か)
悪くない。ロックは張り紙を剥がし、受付へ向かった。
受付の女性が、ロックの冒険者証を確認する。木人のスキル欄を見て、一瞬だけ眉をひそめた。でも、何も言わない。王都の受付嬢は、訓練されている。
「[calm]応募者だ。スケルトン討伐の」
「[professional]はい、お待ちしておりました。リーダーのグレン様が中でお待ちです」
ギルドの奥のテーブルに、彼はいた。
剣士グレン。
年の頃は二十五歳くらいか。肩までの金髪を後ろで束ねて、筋肉質な体に銀の胸当てをつけている。手入れの行き届いた長剣が、背中に輝いていた。テーブルにはすでに二人の仲間——若い魔法使いと弓使いの女——が座っている。
ロックが近づくと、グレンが顔を上げた。
「[cold]お前がパペットマスターか」
視線が、ロックの背中の木人に向けられる。下手くそな笑顔の、百五十センチの相棒。
「[casual]はい、ロックです。よろしく」
グレンはロックの差し出した手を、ちらりと見ただけで握らなかった。
「[blunt]ポーターは後ろで荷物を見ていろ。前に出るな。木人も戦闘に使うな。いいな」
命令だった。
ロックの胸の奥が、ちくりと痛んだ。でも、表情には出さない。慣れている。
「[resigned]……わかりました」
魔法使いの若者が、小さく笑う。弓使いの女は、ロックの顔すら見なかった。
(まあ、なんとかなるって)
ロックは木人の肩をぽんと叩き、パーティの最後尾についた。
——
廃坑跡は、王都の北東、馬車で半日の距離にあった。
かつては鉄鉱石が採れた坑道も、今は採掘が終わって打ち捨てられている。薄暗い入り口からは、かび臭い風が吹き出して、骨の匂いが混ざっていた。
スケルトン——死体に残った魔力が動かす、動く骨。危険度はD級。個々は大した敵じゃないが、群れると厄介だ。
「[firm]陣形は基本の三角。俺が前衛。魔法使いは中央。弓使いは後衛から援護。ポーターは一番後ろで荷物の番だ」
グレンが短く指示を出す。
ロックは傍らの木人に視線を下とし、荷物を横に置いた。戦闘には加えられない。木人の顔が、ぼんやりとロックを見上げている。
(ごめんな)
心の中で謝った。
坑道の奥から、カタカタと骨が擦れる音が聞こえる。
最初のスケルトンが、暗闇から這い出してきた。空っぽの眼窩が、かすかな青い光を宿している。手には錆びた剣。顎の骨がカチカチと鳴った。
「[shout]来たぞ! 前衛、構えろ!」
グレンの長剣が、弧を描く。スケルトンの骨が砕け散った。でも、すぐに次の一匹が現れる。さらに二匹、三匹——。
戦闘が始まった。
でも——陣形が、乱れている。
グレンが前の敵に集中するあまり、側面ががら空きだ。魔法使いの若者が詠唱に夢中で、右側から迫るスケルトンに気づいていない。
「[urgent]右だ!」
ロックの声に、魔法使いが振り返った。間一髪で火球を放つ。スケルトンが燃え崩れる。
「[sharp]勝手な真似をするなと言ったはずだ!」
グレンが怒鳴る。でも、ロックの体はもう動いていた。
ショートソードを抜く。木人には目配せで指示を送った——荷物を守れ、と。
木人がこん棒を掲げて、小さく構える。
ロックは前に出た。
(荷物持ちは後ろにいろって言われたけど——放っておけない)
スケルトンの注意を引き、攻撃をかわす。自分からは攻め込まず、味方の邪魔をしない程度に遊撃する。それは地味で、誰の目にも止まらない動きだった。
でも——魔法使いが詠唱を終える時間を稼げた。弓使いの矢が、スケルトンの眼窩を正確に貫く。
木人も荷物の前で、こん棒を小さく振り回して牽制している。体長百五十センチの木人形が、地面から這い出ようとする骨の手を、ぽかりと叩いて引っ込めさせる。間抜けな光景だ。でも、木人は真剣に任務を果たしていた。
グレンが舌打ちする。
「[angry]だから木人使いは戦闘に加えるなと——」
でも、戦線はどうにか保たれている。
ロックは息を切らしながら、自分の動きにモヤモヤしたものを感じていた。
(荷物持ちの分際で、出しゃばったかな)
でも——もし自分が動かなかったら、魔法使いは怪我をしていたかもしれない。
(どっちが正解だったんだろう)
答えは出ない。
——
戦闘の終盤。
スケルトンの群れは、坑道の奥の広い空洞に集まっていた。ざっと二十体はいる。中央に、一回り大きな個体——リーダー格だ。
「[confident]俺の剣技でとどめを刺してやる」
グレンが長剣を構え、単独で群れの中心に突っ込んだ。
「[scared]馬鹿、待ってください!」
一拍遅れた。
グレンがリーダー格のスケルトンに斬りかかる——でも、剣が届く前に、周囲の骨たちが一斉に動いた。包囲された。
「[desperate]リンクフィールド——!」
ロックは木人に魔力を送ろうとした。でも——。
(遠い!)
グレンまで十五メートル以上ある。リンクフィールドの範囲外だ。木人を走らせても、間に合わない。
ロックは自らショートソードを構えて飛び込もうとした。
——ガギィン!!
グレンの長剣が骨の剣に弾き飛ばされる。胸当てが砕けた。骨の剣が、肩を深く切り裂く。血が飛び散った。グレンが、地面に叩きつけられる。
「[shocked]グレンさん——!!」
魔法使いと弓使いが、恐怖で固まる。
「撤退だ!!」
誰かが叫んだ。
ロックは歯を食いしばり、倒れたグレンのもとへ走った。肩を抱え、引きずる。血がロックの服に染み込む。骨の群れが迫る。木人がこん棒で牽制する——カツカツカツ、と骨を叩く間抜けな音が、今は必死に聞こえた。
ロックは手が届かなかった。
自分の限界を、まざまざと突きつけられた。
——
ギルドへ戻ると、もう夕方だった。
受付の前で、グレンのパーティが報告をしている。グレンは肩を大きく包帯で巻かれ、顔色が悪い。
ロックが近づくと、三人の視線が一斉に彼を向いた。
「[cold]木人使いが余計な真似をしたからだ」
グレンが、低い声で言った。
「[surprised]……え?」
「[accusing]ポーターの分際で前に出て、陣形を崩した。お前の木人もあちこち動き回って——だから連携が乱れたんだ」
弓使いの女が、冷たい目でロックを見た。
「[defensive]でも、俺は——」
「[cutting]結果、クエストは失敗だ。グレンさんも重傷だ。誰のせいだと思ってるの?」
魔法使いの若者が、吐き捨てるように言った。
ロックの喉が、つまりそうになった。
(違う。俺が動いたから、お前たちは怪我をしなかった。陣形が乱れたのは、元からだ——)
でも、言葉が出てこない。グレンが重傷を負っている事実。自分が確かに、ポーターの分を超えて動いていた事実。
(本当に俺のせいなのか——?)
頭の中で、ぐるぐると声が回る。
周囲の冒険者たちが、チラチラとこちらを見ている。噂は広まり始めていた。
「[whisper]聞いたか? 木人使いのポーターが勝手に動いて作戦を台無しにしたって」
「ハズレスキルの分際で、またやらかしたのかよ」
ロックは俯いた。
反論の言葉を探した。でも、見つからない。
——
夜。
酒場の灯りが、石畳に細長い影を落としている。
ロックは一人で店を出た。酒の味もよくわからなかった。
(俺は、間違ってたのかな)
空を見上げる。王都の夜空は、ラステラより星が少ない。街の灯りが、星の光を隠している。
足が、自然と東石畳通りへ向かった。
ガルド工房。
扉を開けると、中は薄暗い。炉の火は消え、金槌の音も聞こえない。
「[quiet]……ガルドさん?」
呼びかけても、返事はない。
誰もいない。
作業台の上に、昨日預けた木人が置かれていた。
ロックは近づいた。
そして——息を呑んだ。
木人の関節部分が、補強されている。蝶番の隙間が、丁寧に埋められていた。ゆるんでいたねじが、締め直されている。左肩の、細かいひび割れが——消えている。
(直してくれたのか)
メモも、置き手紙も、何もない。
でも、ロックには伝わる。
——ゴルツの時と同じだ。
何も言わずに、腕で示す大人が、ここにもいた。
ガルドはいつも、無口で、無骨で、何を考えているかわからなかった。でも——この仕事が、すべてを語っていた。
『お前の相棒は、まだやれる』
『お前は、間違ってない』
そんな言葉が、聞こえた気がした。
ロックは木人を胸に抱えた。
冷たかったはずの木の表面が、じんわりと温かく感じる。魔石が、かすかに光っていた。
凍えていた心が、少しずつ溶けていく。
「[whispers]……ありがとう」
誰に言うでもなく、呟いた。
工房の薄暗がりの中で、ロックはしばらく立ち尽くしていた。
木人を抱く腕に、力がこもる。
(明日——また、やってみよう)
小さな決意が、胸の奥で灯った。