ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて
ロックは、木人形を一体だけ動かせるだけの外れスキル「パペットマスター」を持つDランク冒険者。周囲から嘲笑され、日々は薬草採取で細々と食いつなぐ孤独なものだった。しかし、酒場で出会った中年の薬草師バルドを助けたことから、その日々が少しずつ動き始める。
バルドのおかげで安定した収入を得られるようになり、木人形との連携も日増しに上達していくロック。そんな彼を、エルフの土魔術師リリア・ファロンディールが、魔の森の三ヶ月に及ぶ調査任務に誘う。彼女が操る二体の強力なゴーレムに圧倒されながらも、ロックは人形と共に戦う自分だけのスタイルに、確かな手応えを感じ始めていた。
突如、キラーアントの巣に足を踏み入れ、クイーンアントと対峙する危機が訪れる。絶体絶命の窮地の中、ロックとリリアは共闘し、辛くもこれを討伐。リリアは礼として、ロックにクイーンの魔石を託し、人形への融合方法を伝授する。すると人形は、味方を強化し敵を弱体化させる新たな支援能力「リンクフィールド」を覚醒させるのだった。
それは、決して無能なスキルなんかじゃない。誰にも真似できない、自分だけの力。ロックは初めて、心からの自己肯定を得る。支
ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて - 役立たずが役立たずを教えてる——それの何が悪い
王都のギルドは、今日も朝から騒がしかった。
石造りの高い天井に、数十人の冒険者たちの声がごちゃ混ぜに反響する。剣士、魔法使い、弓使い——それぞれが今日の依頼を求めて掲示板の前に群がり、臨時パーティの募集を呼びかけ合っていた。
ロックはその人混みの中で、ひとりぽつんと立っていた。
傍らには木人。高さ150センチの、下手くそな笑顔の相棒。ガルドに補強してもらった関節は、以前よりずっとスムーズに動く。
(今日こそ、臨時パーティに潜り込まないと)
ロックは掲示板に貼られた募集票を、一枚一枚めくっていく。
『ゴブリン討伐。前衛一名求む』
『薬草採取。護衛二名急募』
『スケルトン掃討。経験者優遇』
どれもこれも、パーティを組む前提の依頼だ。ソロで受けられるのは薬草採取くらい、、、それじゃあ宿代を稼ぐのが精一杯でその日暮らしだ。
(次こそは、ちゃんと役に立たないと)
胸の奥に、前回のスケルトン討伐の記憶がよみがえる。グレンの肩から飛び散った血。自分に向けられた「余計な真似をしたからだ」という罵倒。ぐるぐると頭の中を回る、あの言葉。
(木人がいなくても勝てた)
(効いてるかどうかもわかんねえのに)
あれから三日。ロックが掲示板の前に立っても、誰も声をかけなくなった。
パーティを探しているらしい冒険者のグループが近くを通りかかる。革鎧を着た剣士が、ロックと目が合った。
「[recruiting]あ、そこの——」
期待が、一瞬だけ胸をよぎる。
でも、剣士はロックの背中の木人に気づくと、ぱっと目を逸らした。
「[awkward]……いや、やっぱいいや。もう人数揃ったし」
剣士は仲間の肩を押して、人混みの中に消えていった。
ロックは小さく息をつく。
(まあ、そんなもんだよな)
笑顔を作ろうとした。でも、口元が少しだけ引きつった。
無意識に、木人の肩に手を伸ばす。ぽん、ぽん、と手のひらで叩く。ラステラにいた頃からの癖だ。不安な時、悲しい時、いつもこうしてきた。
ぽん、ぽん、ぽん。
自分でも気づかないうちに、その回数が増えている。
木人はただ、下手くそな笑顔で黙っていた。
その時——
「[worried]あの、すみません!」
突然、ロックの袖を誰かが掴んだ。
振り返ると、少年が立っていた。
年の頃は十五歳くらい。身長はロックよりひと回り小さく、150センチちょっと。くすんだ茶色の髪があちこち跳ねていて、頬には擦り傷がいくつもある。
着ている服はところどころ擦り切れて、袖口はほつれていた。でも、服と同じくらい古ぼけた手作りの木人——高さ150センチほどの人形——が隣に立っている。
「[nervous]先輩ですよね! 木人使いの!」
「[surprised]は? 先輩って——俺?」
「[excited]そうです! 俺、ずっと探してたんです! 木人使いで、D級以上の冒険者ってほとんどいなくて——いても昨日は見つけられなくて——」
少年は早口でまくし立てる。緑がかった茶色の目が、ぎらぎらと輝いていた。必死さと期待が混ざったような、そんな目だ。
「[confused]ちょ、ちょっと待ってくれ。話が見えない」
「[urgent]俺、レオンって言います! 十五歳で、まだE級ですけど——でも! 木人使いなんです! でもみんなに、荷物持ちの道具だって——それで、もっと強くなりたくて——でも誰も教えてくれなくて——」
レオンは目を真っ赤にして、声を詰まらせた。
その言葉の一つひとつが、ロックの胸の奥に刺さっていく。
(木人使いは荷物持ちの道具)
(誰も本当の使い方を知らない)
(笑われて、バカにされて、相手にもされない)
——ああ、こいつも。
ロックは、ラステラの酒場で初めてリンクフィールドを使った時のことを思い出した。酒場の連中が笑った。冒険者たちが鼻で笑った。
それでも、ひとりで薬草を採り、ひとりで練習し、ひとりでボアを仕留めてきた。
「[quiet]……俺も、大したことは教えられない。お前も聞いたかもしれないけど、俺のスキルはハズレスキルだって——」
「[desperate]違います!!」
レオンが叫んだ。
その声は、周囲の冒険者たちの喧騒を一瞬だけ黙らせるほど大きかった。何人かがチラリとこちらを見て、また視線を外す。
「[crying]違うんです……俺、先輩がゴブリン討伐で支援したって聞きました。ダリルさんって人が動きが速くなったって、フィオナさんって人の矢の狙いが正確になったって——それって、木人使いのスキルなんですよね!?」
レオンの目から、涙がこぼれた。
「[sobbing]俺、ずっと……ずっと嫌だったんです。木人を使ってるだけで笑われるのが。でも、それでも諦めたくなくて……でも、どう練習すれば強くなれるのか、全然わからなくて……」
ロックは言葉を失った。
レオンが隣にいる木人を見る。高さ150センチ。関節はぎこちなく、顔に彫られた笑顔は泣きそうに見えた。
まるで——かつての自分みたいだ。
ラステラで、ひとり木人を彫っていた頃の自分。誰にも認められなくても、誰にも教えてもらえなくても、それでも相棒を信じてきた。
「[quiet]……頭を上げてくれ」
ロックはレオンの肩に手を置いた。
「[embarrassed]俺、教えられることなんて、ほとんどない。でも——それでもいいなら」
レオンが顔を上げた。
涙で濡れた顔が、くしゃっと笑った。
「[excited]ありがとうございます!! 本当にありがとうございます!!」
レオンは何度も頭を下げる。その度に、隣の木人もコクコクと頭を動かしていた。
ロックは苦笑いして、その光景を見つめる。
(誰かに教えるなんて、考えたこともなかった)
でも——悪くない。
ギルドの受付の奥から、ガネッタがその様子を見ていた。
彼女は口元を少しだけ緩めて、小さく頷く。
「[gentle]ほらほら、挨拶はそれくらいにして。自己紹介すんだよ。あたしはガネッタ・ホルン、この支部の支部長さ」
ガネッタがカウンターから声をかけてきた。彼女は短く切りそろえた赤毛と白髪が混ざった髪をかきながら、金茶色の目を細めている。
「[surprised]あ、はい! 俺はレオンです! えっと、ギルド登録して三ヶ月で——」
「[laughing]まあ、ゆっくり行きな。ロック、あんたも。裏庭、使っていいよ。ただし、壺は割るんじゃないよ」
ガネッタはそう言うと、手をひらりと振って受付の奥に引っ込んだ。
ロックはレオンを連れて、ギルドの裏庭に向かった。
——
裏庭は、ギルドの喧騒が嘘みたいに静かだった。
石畳の小さなスペースに、古い樽と木箱がいくつか積まれている。壁には蔦が這い、日陰はひんやりとしていた。
「[serious]まず、お前の木人を見せてくれ」
ロックが言うと、レオンは大事そうに木人を差し出した。
高さ150センチ。素材はおそらく松系の柔らかい木材だ。ロックのテッコウジュとは違って、軽くて加工しやすいが、強度は低い。
「[curious]自分で彫ったのか?」
「[embarrassed]はい……でも、下手で……父さんの大工道具をこっそり借りて……あ、でも思うように上手くいかなくて! 誰かに教わるのも難しくて・・・」
「[laughing]いいよ、別に。俺のも全然すごくないし」
ロックは自分の木人の顔を指差した。下手くそな笑顔。何度も削り直して、それでも曲がったままの口元。
レオンがその顔を見て、ぷっと吹き出した。
「[laughing]なんか、怒ってるのか笑ってるのかわかんない顔ですね」
「[embarrassed]うるさいな。俺の彫刻が下手なのは自覚してるんだよ」
ロックは苦笑いして、木人の胸に手を当てた。女王アリの魔石が、かすかに光っている。
「[serious]いいか、レオン。これ、多分誰にも教えてもらえないやり方だから、ちゃんと聞けよ」
レオンが、ごくりと唾を飲み込んだ。
「[explaining]木人を上手く動かすには、魔力回路を同期させる必要がある。木人に魔力を流し込んで、自分の神経を木人の関節に繋げるイメージだ。操作範囲は大体30メートル——それ以上離れると精度が落ちる」
「[nervous]魔力回路の同期……?」
「[explaining]そう。まずは木人に集中しろ。胸の奥から温かいものを、指先に流すような感覚だ。最初はゆっくりでいい。焦らなくていいから、魔力が木人の内側に染み込んでいくのを感じるんだ」
レオンは目を閉じて、自分の木人に手を当てた。
沈黙。
風が、そっと裏庭の蔦を揺らす。遠くから、ギルドの中の喧騒がくぐもって聞こえた。
一分、二分——。
木人は、ぴくりとも動かない。
「[frustrated]動かない……」
レオンの額に、汗が滲んでいた。必死に魔力を流そうとしているのがわかる。でも、木人の関節は固まったままだった。
「[calm]焦るな。俺も初めて動かせたのは、何ヶ月も練習した後だ。木人はやればやるほど応えてくれる。そういう相棒なんだ」
ロックは自分の木人の肩に手を置いた。
その言葉を口にした瞬間——胸の奥で、何かがストンと落ちるような感覚があった。
(そうだ。俺は、これを誰にも言えなかった)
(でも、今は言える)
スケルトン討伐の失敗。グレンの罵倒。「役立たず」の嘲笑。それでも木人は、ずっとロックの隣にいた。ガルドが無言で補強してくれた相棒を、ロックはまだ信じている。
「[gentle]もう一度やってみろ。今度は、ゆっくりでいい。木人が少しでも震えたら、それで成功だ」
レオンは歯を食いしばって、もう一度目を閉じた。
今度は、ゆっくりと——本当にゆっくりと。
その指先が、わずかに震える。
そして——。
カタン。
小さな音がした。
レオンの木人の人差し指が、ほんの少しだけ曲がった。
「[shocked]動いた!!」
レオンが叫んだ。涙が再び溢れて、鼻水まで出ている。
「[surprised]やったじゃねえか!」
ロックも思わず声を上げた。レオンの肩をバシバシ叩く。
「[crying]俺、動かせた……俺の木人が、ちゃんと動いた……」
レオンは自分の木人を抱きしめて、声を上げて泣いた。
ロックはその背中を見ながら、自分も鼻の奥がツンとするのを感じた。
(俺が教えたことが、ちゃんと役に立った)
(それだけで、十分だ)
——
「[sarcastic]はあん? なにやってんだ、木偶使いが二人も揃って?」
冷たい声が、裏庭に響いた。
ロックが顔を上げる。
ギルドの裏口に、三人組の冒険者が立っていた。
二十代半ばの男たち。いずれもそれなりに良い装備を身につけている。銀の胸当てに、磨かれた長剣。C級のバッジが腰に光っていた。
リーダー格の男——肩まで伸びた黒髪を後ろで束ねた剣士——が、にやにやと笑いながら近づいてくる。
ロックは知っていた。
この男は、スケルトン討伐の依頼の後から、ギルドで噂を広めている連中の一人だ。木人使いは役立たずだと、大きな声で話してまわる。
「[mocking]役立たずの木偶使いが、今度はガキに木偶の使い方を教えてるのか?」
別の男——弓を背負った細身の男——が、腹を抱えて笑った。
「[laughing]これ、お笑いにもほどがあるだろ!」
「[mocking]役立たずが役立たずを教えてる——こりゃあ、ギルド始まって以来のギャグだな!」
三人はゲラゲラと笑い声をあげた。
その笑い声は、ギルドの裏庭から表通りにまで響いて、通りすがりの冒険者たちが何事かと立ち止まる。
ロックの胸が、冷たく固まった。
(黙れ)
(違う。俺たちは、ちゃんと——)
でも、口が開かない。
スケルトン討伐の時のことが、頭の中でぐるぐる回る。あの時も、何も言い返せなかった。
「[mocking]おいおい、泣きそうになってるのかよ?」
黒髪のリーダー格が、レオンを覗き込んだ。
レオンの肩が、震えている。
さっきまで動かせた喜びでいっぱいだった顔が、今は真っ青だ。
「[sob]……俺は、先輩を信じてます」
震える声で、レオンが言った。
「[whispering]先輩のスキルは、ハズレスキルなんかじゃない。ちゃんと、俺の木人、動いたんだ——だから」
レオンは、ぎゅっと拳を握りしめていた。
震えている。怖くて、泣きそうで、でも逃げないで立っている。
ロックの胸に、レオンの言葉が刺さった。
(——先輩を信じてます)
(——ハズレスキルなんかじゃない)
その瞬間、スケルトン討伐の時にグレンに言えなかった言葉が、心の中で爆発した。
(違う——違うんだよ!!)
(俺はちゃんと戦ってた!! リンクフィールドは効果があったんだ!!)
(なのになんで——なんでいつも、何も言えないんだ俺は——!!)
「[angry]役立たずで何が悪いよ」
声が、出た。
自分の喉から絞り出したような、掠れた声だった。
それでも——確かに、出た。
「[angry]俺たちは、ちゃんと練習してる。木人はちゃんと動く。それで十分だ。それの、何が悪いんだよ」
ロックは、三人組のリーダーを真っ直ぐに見据えた。
拳は震えている。足も震えている。怖くて、悔しくて、涙が出そうだ。
でも——逃げなかった。
冒険者たちは、少しだけ笑いを止めた。
「[sarcastic]チッ、面白くもねえな。行くぞ」
リーダー格が舌打ちして、仲間を促す。
「[dismissive]精々、役立たず同士で仲良くやってな」
三人はまだ笑いを引きずりながら、通りへと消えていった。
裏庭に、重い沈黙が残る。
「[whispers]……先輩」
「[quiet]大丈夫か?」
「[crying]はい——でも、俺、悔しくて——」
レオンは袖で目をこすった。ボロボロと涙がこぼれている。
ロックは、そっとレオンの頭に手を置いた。
「[gentle]逃げなかったな。」
「[sniffling]先輩も——」
「[quiet]ああ。まあ、なんとかなった」
ロックは小さく笑った。
胸の奥はまだ痛い。悔しさも、無力感も、スケルトン討伐の失敗も、全部残っている。
でも——それでも。
(逃げなかった)
(ちゃんと、言った)
それだけで、少しだけ前を向ける気がした。
——
夕方。
ロックとレオンはギルドの掲示板の前に戻っていた。
さっきの冒険者グループの嘲笑は、まだ心のどこかに刺さっている。でも、それよりも——今はやるべきことがある。
「[surprised]これ……」
掲示板の隅に、一枚の依頼票が貼ってあった。
『迷宮下層——罠解除依頼。罠感知スキル持ちの斥候求む。報酬、銀貨五十枚』
銀貨五十枚。
ロックの月収の、ほぼ三ヶ月分だ。
「[worried]でも先輩——これ、注釈に『罠感知スキル持ちの斥候でも全滅例あり』って書いてあります」
レオンが不安そうに、依頼票の下の細かい字を指さした。
「[thinking]……木人なら、刺さっても壊れるだけだ」
ロックは呟いた。
「[surprised]え?」
「[serious]罠ってのは、人が踏んだら怪我をする。でも木人なら、刺さっても、吹き飛ばされても、壊れるだけだ。壊れたら直せばいい」
ロックの脳裏に、ガルド工房の光景が浮かぶ。無言で、ただ仕事で示してくれた鍛冶師の背中。
(壊れても、直せる)
(俺の相棒は、それでも動く)
ロックは依頼票に手を伸ばした。
「[nervous]先輩——本気ですか?」
「[firm]ああ。お前も来るか? 危険だけど」
レオンは一瞬怯んだ。でも——。
「[determined]行きます!!」
レオンも、ぎゅっと依頼票に手を伸ばした。
二人の手が、同時に依頼票を掴む。
ロックは依頼票を受付に持っていった。
ガネッタが、依頼票を受け取る。彼女は細かい字で書かれた依頼内容をじっくりと読み、それからロックの顔を見た。
金茶色の目が、まっすぐにロックを射抜く。
「[serious]……ロック、本当にやるのかい? 失敗すりゃ、二人とも重傷じゃ済まないよ」
彼女の声は、いつもの江戸っ子口調とは少し違って、静かだった。
ロックは、背中の木人に手を置いた。
「[firm]やります」
ガネッタはしばらくロックを見つめていた。
それから——ふっと、口元を緩める。
「[gentle]……わかった。べらぼうに頑張んな」
彼女は、依頼受理の印を押した。
「[whispers]ありがとうございます」
ロックは依頼票を受け取り、レオンと顔を見合わせた。
レオンの目には、まだ不安の色が残っている。
でも——その奥に、確かな決意の光が灯っていた。
(行くぞ、相棒)
ロックは心の中で、木人に語りかける。
木人はいつものように、下手くそな笑顔で黙っている。
でも——その魔石が、かすかに輝いた。