琥珀の罠 ~冷徹社長は夜だけ淫らに求める~
【琥珀の罠 ~冷徹社長は夜だけ淫らに求める~】
失恋の痛みを忘れようと、バーで出会った謎めいた男と衝動的に一夜を共にした28歳の広告代理店勤務・加賀美栞里。翌朝、緊急招集された会社の会議で現れた新社長は、昨夜の相手その人だった。
公私混同は一切許さないと公言し、冷徹な若き実業家として名高い西園寺怜真は、栞里を完全に無視する。だが、安堵も束の間、仕事終わりに「今夜9時、来い」とだけ告げられ、高級ホテルへと呼び出される。そこでは、昼間の氷のような態度が嘘だったかのように、怜真は彼女を灼熱の抱擁で包み込む。
「お前を誰にも触れさせない」——強烈な独占欲を叩きつけられ、二人だけの危険な秘密の関係が始まる。昼は他人、夜は恋人。ほろ苦い情事に心を溶かす栞里。だが、怜真の残酷さは留まるところを知らず、皆の前で叱責するためだけにオフィスへ呼び出したかと思えば、その夜には優しく抱きしめる。
混乱のさなか、怜真の元婚約者で大株主の妖艶な美麗が現れ、衝撃の事実を暴露する。「彼は復讐のためにあなたを利用しているの」。栞里の亡き父が怜真の父を裏切った過去があり、会社を乗っ取った上で栞里を心身ともに支配する
琥珀の罠 ~冷徹社長は夜だけ淫らに求める~ - 復讐という名の夜——魔性の女と、引き裂かれた真実
ディナーの席は、静寂だった。
ホテル・ヴァンベール東京の地下にあるプライベートダイニング「オルフェ」。テーブルに置かれた二つの皿の上で、キャンドルの炎が小さく揺れている。窓の外には、ライトアップされた日本庭園のしっとりとした緑が広がっていた。
栞里は、目の前の男をまっすぐ見ることができなかった。
フォークを置く。ナプキンで口元を拭う。その全ての動作が、ガラス越しに見られているような緊張感でぎこちなくなる。
(来なければよかった)
医務室で見た、あのメッセージが頭から離れない。
『あなたは復讐の道具』
昨夜、怜真は確かに言った。
『私の物になれ』
そして、その直後に『冗談だ』と。
あれは本当に冗談だったのか。それとも——。
「……なぜ、私をここに呼び続けるんですか」
声が震えた。自分でも驚くほど、か細い声だった。
怜真はワイングラスを傾けかけた手を止めた。
氷のような青い瞳が、ゆっくりと栞里を射抜く。
彼はグラスをテーブルに置いた。カチリ、と小さな音が静寂を破る。
「[cold]お前の父——加賀美誠一郎は、三年前、俺の父が最も信頼していた役員だった」
栞里の呼吸が止まった。
「[cold]その男が、機密情報を競合他社に売り渡した。裏切りの見返りに、個人的な利益を受け取っていた。俺の父の会社は、そのせいで十億を超える損害を出した。そして——父は心臓発作で死んだ」
怜真の声には、怒りも悲しみもなかった。ただ事実だけを、冷たく積み重ねるような口調。
「[cold]俺は忘れていない。お前の父が何をしたのかを。そして——お前が誰の娘なのかを」
栞里の頭の中で、言葉が爆音のように響いた。
復讐の道具。
「[scared]あの、あたし——」
声が出ない。言いたいことが、何もかも喉の奥に張り付いて、言葉にならない。
父が、そんなことをするはずがない。
でも、もし——もし、それが事実なら。
怜真は、窓の外の夜景に視線を移した。東京タワーの赤い光が、彼の横顔を冷たく照らしている。
「食事を続けろ」
それだけを言って、彼は再びワイングラスを手に取った。
栞里はフォークを握りしめた。指先が震える。胸の真ん中に、冷たい鉄の棒を突き刺されたような鈍い痛みが広がっていた。
涙は出なかった。
ただ、目の前の料理が少しずつ冷めていくのを、栞里は見つめていることしかできなかった。
──
夕食が終わると、怜真は無言で立ち上がった。
ダイニングを出て、エレベーターへ。最上階のプレジデンシャルスイート「月華」のボタンを押す、その指先を、栞里はぼんやりと見ていた。
部屋に入る。
広いリビング、キングサイズのベッド。窓の外には東京の夜景が宝石箱のように瞬いている。
「[serious]もう、帰ります」
栞里は立ち止まった。唇を噛みしめて、震える手でバッグを握りしめる。
これ以上、この人と一緒にいたら。
自分の何かが、決定的に壊れてしまう気がした。
怜真が振り返った。
その青い瞳が、スーツの上からでもわかるほどに、栞里の全身を這うように見つめる。
「[cold]帰るだと?」
低い声。
次の瞬間、怜真の手が栞里のブラウスの襟を掴んだ。
ビリッ——。
布が引き裂かれる音が、静かな部屋に響いた。ボタンが弾け飛び、床の上でカツン、カツン、と乾いた音を立てる。
「[cold]逃げるなと言ったはずだ」
同じ言葉。なのに、今夜は違った。
愛情の欠片もない、支配の宣言。
「[scared]やめ——」
抵抗しようとした手首を、怜真の大きな手がまとめて掴んだ。そのままベッドに押し倒される。スプリングがギシリと軋んだ。
怜真の手が、乱暴にスカートをまくり上げる。ストッキングが破られ、露わになった太腿に冷たい空気が触れた。
「[cold]お前の父の代わりに、お前で返してもらう」
その言葉が、とどめだった。
抵抗する力が、ストンと抜けていく。
栞里は天井を見つめた。視界が滲んで、シャンデリアの光がにじんだ。
怜真の指が、下着の上から強く割れ目をなぞる。布越しに感じる圧力に、体がビクッと跳ねた。自分でも嫌になるほど、そこはもう濡れ始めていた。
「[cold]感じているのか」
嘲笑するような、冷たい声。
下着が足から引き抜かれる。怜真はベルトを外し、ズボンからすでに硬く勃起したペニスを解放した。先端からは先走り汁が光っている。彼は栞里の両脚を無理やり開かせると、ためらいもなく膣口に亀頭を押し当てた。
「[angry]いやっ……!」
ずぶり、と音を立ててペニスが中に押し入る。愛液で濡れていたとはいえ、心の準備ができていない場所に無理やり侵入される痛みと圧迫感。子宮の入り口をノックされるたび、栞里の口からは声にならない悲鳴が漏れた。
「[cold]これが、お前の父親がしたことの代償だ」
怜真は腰を激しく打ちつけ始めた。パンパン、と肌がぶつかる乾いた音が部屋に響く。奥を突かれるたびに、栞里の体は意思に反して甘い痺れを生み出していく。
憎い——憎い——憎い——。
心の中で、その言葉だけが繰り返される。
なのに。
「[cold]奥でイけ」
低い命令と同時に、最奥を思い切り突き上げられた。
「あああっ……!」
栞里の視界が白く弾けた。膣がペニスを締め付け、全身が弓なりに反る。絶頂の波に飲み込まれながら、涙が一筋、こめかみを伝って落ちた。
怜真は何も言わず、最奥で精液を放った。ドクドクと注ぎ込まれる熱いザーメンの感覚が、屈辱と快楽を同時に刻みつけていく。
行為が終わると、彼はすぐに体を離した。
バスルームへ向かう足音が遠ざかり、やがてシャワーの水音だけが聞こえてくる。
栞里は一人、暗いベッドの上に取り残された。
乱れたシーツを掴んで、声を殺して泣いた。
初めてだった。
この関係が始まってから、本当の意味で泣いたのは。
──
翌朝。
ほとんど眠れないまま、六本木ヒルズ森タワーの三十九階へ向かう。エレベーターの中でも、栞里は自分の腕をさすり続けていた。怜真につけられた手首の赤い痕を、長袖のブラウスで隠して。
デスクに座ると、フロアの空気がいつもと違うことに気づいた。
ざわついている。全員が同じ方向を見ていた。
エレベーターホールから、一人の女性が歩いてくる。
漆黒のロングストレート、猫のように切れ長の赤い瞳、血のように赤いルージュ。百七十センチはある長身を、黒いドレスと高いヒールでさらに強調している。
まるで、咲き誇る黒い薔薇が歩いているようだった。
「[surprised]誰あの人、モデルみたい……」
隣のデスクで、愛がぽかんと口を開けている。
女性——神宮寺美麗は、周囲の視線をものともせず、真っ直ぐ栞里のデスクへと近づいてきた。
「[gentle]加賀美栞里さん?」
低く、甘く溶けるような声だった。なのに、背筋が冷たくなる。
「[scared]……はい」
「[gentle]私は神宮寺美麗。西園寺怜真の、元婚約者ですの。少し、お時間よろしいかしら」
断れるはずがなかった。
──
三十九階の小会議室。
美麗は優雅に足を組み、向かいの椅子に座る栞里をじっくりと観察した。まるで、獲物を品定めする蛇のような目だった。
「[sarcastic]怜真が最初からあなたを計画的に手に入れたこと、ご存知?」
いきなりだった。
栞里の指先が、膝の上で震える。
「[sarcastic]バー・ラルムでの出会いも、偶然じゃないわ。あなたがそこに行くと、彼は知っていたのよ。全ては、復讐のために仕組まれた筋書き」
「[scared]……証拠は、あるんですか」
やっとの思いで絞り出した声は、自分でも聞き取れないほど小さかった。
美麗は微笑を深めた。その瞳は少しも笑っていない。
「[cold]証拠が必要?あなたのスマホに届いているでしょう、警告のメッセージが。あれを送ったのは——私よ」
心臓が凍りつく。
「[sarcastic]あなたが怜真に抱かれるたび、彼の復讐は完成に近づく。昼は冷たく扱い、夜はあなたの身体を支配する。それが、彼が望んだ復讐の形だったの。可哀想に」
語尾にこもった嘲笑。
哀れみですらない、純粋な悪意のこもった響き。
「[angry]なぜ……なぜ、それを私に話すんですか」
美麗はスッと立ち上がった。椅子を引く音が、妙に大きく部屋に響く。
「[gentle]あなたに哀れみを感じたから、とでも言いましょうか」
そう言って口元に手を当てる仕草は、完璧に作られた上品さだった。でも、その嘘は見え透いている。
(この人は——怜真が欲しいんだ)
栞里は直感的に悟った。
この女の瞳の奥に燃えているのは哀れみなんかじゃない。怜真への、歪んだ独占欲だ。
美麗はドアに向かいながら、振り返らずに最後の言葉を投げた。
「[cold]真実を知りたければ、ご自分でお調べになることね。でも——その時には、もう手遅れかもしれないけれど」
ドアが閉まる。
栞里は会議室の椅子に座ったまま、動けなかった。
昨夜の、怜真の冷たい声。
『お前の父の代わりに、お前で返してもらう』
そして今、美麗の甘い毒のような声。
『最初から、計画的にあなたを手に入れたのよ』
二つの声が、頭の中で何度も重なる。
(あたしは——復讐の、道具だったの?)
怜真の指が、唇が、すべて演技だったのか。あの夜の「私の物になれ」という囁きも、冗談なんかじゃなく、征服の宣言だったのか。
ドアが開いた。
「[worried]栞里?大丈夫?あの人に何か言われた?」
廊下で待っていたのだろう。愛のヘーゼル色の瞳が、心配そうに栞里の顔を覗き込む。
「[gentle]ううん、ちょっと取引先の話で……なんでもないの」
嘘をついた。
愛の目が、納得していない。
「[worried]なんでもないって顔じゃないよ。最近ずっとおかしいし、昨日だって目、赤かったし」
「[gentle]……大丈夫だから」
言えない。
怜真との関係も、父の背任疑惑も、美麗のことも——全部が絡まりすぎていて、愛を巻き込めない。
「[gentle]ありがとう、愛ちゃん。本当に大丈夫だから」
精一杯の笑顔を作って、栞里は会議室を出た。
自分のデスクに戻る。画面には、やり直し中の企画書が開かれたままになっていた。キーボードに手を置く。指はまだ、震えている。
(怜真を憎みたい)
でも——。
ベッドの上で感じた熱。耳元で囁かれた声。髪を撫でた、あの優しい指先。
それらすべてが嘘だったと、信じたくない自分がいる。
(それでも、あの人を——)
好きでいることへの自己嫌悪と、それでも消えない微かな引力が、胸の中で同時に燃えていた。
窓の外では、東京の曇り空が重く垂れ込め、今にも雨が降り出しそうだった。