くすぐり小説をAIに書かせる — 失敗する場所と、嗜好の渡し方

この題材をAIに頼むと、ほぼ確実に同じ失敗をします。いきなりくすぐり始めて、三行で書くことがなくなる。 原因は仕組みの側にあります。そしてもう一つ、この題材にはもっと根本的な事情があります。読みたいものが、そもそも市場にほとんど存在してこなかったということです。

いちばん多い失敗は、始めてしまうこと

この題材を書こうとした人がまずやるのは、くすぐり始めることです。そして数行で手が止まる。当然で、行為そのものには情報量がほとんどありません。笑う、身をよじる、やめてと言う。三往復で書くことが尽きます。

読者が本当に読んでいるのは、その手前です。手が伸びてくるまでの時間、逃げ場が塞がれていく過程、まだ何もされていないのに分かってしまう感覚。ここを書けば一頁もちますが、行為に入ると三行で終わります。

ありがちな書き方

「やめっ、あはは、やめてってば!」

 彼女は身をよじって笑った。しかし俺は手を止めない。

「もう、許してっ」

手前を書いた場合

 彼の手が、まだ触れてもいないのに持ち上がった。それだけで彼女は椅子の背に体を寄せる。

「……何もしてないだろ」

「してからじゃ遅いでしょ」

 指が一本、ゆっくりと曲げられた。彼女の視線がその指を追う。追ってしまったことに気づいて、目を逸らす。もう遅い。

この題材は、ずっと供給が足りていなかった

書き方の話に入る前に、前提を確認しておきます。この題材を主題に据えた作品を、あなたは何本読んだことがあるでしょうか。おそらく片手で足ります。

商業出版は部数が立つ規模を想定して企画が通ります。この題材が単独で企画になることは、ほぼありません。 存在するとしても、コメディの一場面として数ページ挟まる程度です。同人まで広げても、書き手が同じ嗜好を持ち、なおかつ書く技術と時間を持っている必要があります。条件が三つ重なる確率は高くありません。

だから読者がやってきたのは、読むことではなく探すことでした。作品を通しで読むのではなく、該当する数ページを探し当てて、そこだけ何度も読む。探索にかかる時間が読書時間を上回るという、冷静に考えると異常な状態が常態でした。

しかもこの題材は分岐が多い。どちらが優位か、笑わせたいのか耐えさせたいのか、拘束があるか、事故か同意か、加減する側の心理を書くか。 掛け合わせれば数十通りになります。市場が供給できるのは、そのうち最も多数派の一つだけです。自分の分岐に当たる確率は、はじめから低かった。

ここが変わりました。一話ぶんを、自分の分岐で作れます。 探して七割で妥協する作業から、指定して作る作業に変わる。刺さるかどうかを決めているのは文章の上手さではなく、分岐が自分と一致しているかどうかなので、この変化は品質の向上より効きます。

主導権を握っているのは、される側です

構図だけ見れば、する側が一方的に優位に見えます。ところが実際には、この場面を終わらせる権限を持っているのはされる側だけです。降参すれば終わる。つまり、いつ終わるかを決めているのは、動けないほうなのです。

だからこの題材は、力の物語ではなく意地の物語になります。言えば楽になると分かっていて言わない。その数秒の我慢に、その人の性格が全部出る。

逆に言うと、される側が最初から素直に降参する話は成立しません。抵抗が短いほど、物語も短くなります。

「言えばやめる」

「……やだ」

「意地張る場面じゃないと思うけど」

 言いながら、彼は手を止めていた。止めたまま、待っている。それが一番ずるいと彼女は思った。

加減に、その人の全部が出る

する側の描写で書くべきは、どうやったかではなく、どこで止めたかです。相手が本気で嫌がる直前で引く人。限界を正確に見極めてそこで止める人。分かっていてあと一歩踏み越える人。

この三種類は、それぞれまったく違う人格です。そして読者は、行為の描写よりこの加減のほうを覚えています。優しさも意地悪さも、ここにしか出ません。

応用が利く話でもあります。加減の描写が上手い書き手は、体格差のような題材でも上手い。相手との距離をどう測っているかを書ける、ということだからです。

逆転をどこに置くかで、話の形が決まる

短編なら逆転なしで成立します。一方的なまま終わって、余韻だけ残す。

ただし連作や長めの話にするなら、どこかで立場をひっくり返したほうがいい。同じ構図が続くと、三回目で読者が飽きます。人間関係そのものが動かないからです。

七話構成なら、中盤で一度ひっくり返し、終盤でもう一度戻すと、関係が最初と変わって見えます。単なる繰り返しが、関係の変化の記録になる。

コメディにもシリアスにも倒せる

この題材は温度の振り幅が広いのが強みです。じゃれ合いとして書けば完全にコメディになりますし、逃げられない状況に置けば緊張の場面にもなります。

決めるのは行為の内容ではなく、される側が本当に嫌がっているかどうか。ここだけです。嫌がっていなければ、どれだけ長く書いてもコメディのままでいられます。

AIに渡すのは、自分がどこで良いと思うかの構造

最後に実務の話をします。渡すべきなのは濃度でも語彙でもありません。自分がこの題材の何に反応しているのか、その構造です。

代表的なのは三つです。逃げ場が塞がれていく過程に反応しているのか。加減する側の理性が保たれているところなのか。声の変化、つまり笑いから懇願へ移る瞬間なのか。どれを中心に置くかで、同じ場面がまったく別物になります。

自分の座標が分かっていないなら、選びながら決めれば済みます。三通り書かせて、良かったほうを選ぶ。それを数回繰り返すと、自分が何を読みたかったのかが後から輪郭を持ちます。 事前に言語化できていなくても構いません。

そのうえで言っておくと、感情が動くのはAIが上手いからではありません。自分の嗜好に正確に当たっているからです。 そして当てられるのは、自分だけです。

間合いの設計まで含めて、AIに書かせてみる

無料でAI小説を作る

登録で5,000ポイント付与。

よくある質問

短編と長編、どちらに向いていますか?

短編のほうが自然です。長くする場合は、関係そのものが変化する軸を別に用意してください。同じ場面の反復では三回目で飽きられます。

どの関係性が書きやすいですか?

距離が近すぎない関係のほうが書きやすいです。友人未満、仕事の同僚、久しぶりに会った旧友など、遠慮が残っている関係のほうが間合いを長く取れます。

地の文とセリフ、どちらを厚くすべきですか?

地の文です。この題材はセリフが単調になりやすいので、視線・呼吸・手の位置といった地の文で持たせるほうが上手くいきます。

続けて読む