AIがあっても続きが書けない — 止まっているのは生成ではなく、判断
書けない、という状態の中身が変わりました。以前は文章が出てこないことでした。今は、出てきた三つのうちどれを選ぶかが決まらないことです。AIは供給の問題を解いたので、残っているのは判断の問題だけになりました。そしてこちらは、AIが最も苦手とする部分でもあります。
供給が解けると、止まる場所が移動する
連載が止まる理由として長く言われてきたのは、飽き・時間不足・才能でした。実際には、次に書く場面が決まっていないことが大半です。決まっていれば、疲れていても書けます。決まっていなければ、一日空いていても書けません。
AIはここを直接には解きません。解くのは、決まったあとの実装のほうです。 場面が決まってさえいれば、それを文章にする工程はほぼ消えます。
その結果、書けない状態は「何も出てこない」から「どれにするか決まらない」に形を変えました。
なぜ選べないのか — 候補が全部「正しい」から
モデルは分布の中心から引いてくるので、出てくる候補はどれも無難に正しい。破綻せず、辻褄が合い、読める。そして優劣がつきません。
人間が選ぶときに使っている基準は、正しさではありません。自分がそれを読みたいか、書いていて手が動くか、という身体的な判断です。ところが正しい候補が三つ並ぶと、この判断が働きにくくなります。どれも減点がないので、減点法で選べない。
ここで多くの人がやるのが、もう一度生成することです。四つ目、五つ目。候補は増えますが、どれも同じ程度に正しいので、選べなさは深くなります。生成で判断の問題は解けません。
「直して」と言うと、直らない
止まったときにやりがちなもう一つの手が、書いたものを直させることです。ここには実測できる落とし穴があります。
私たちのサービスで、エピソードを作り直す処理に前回の本文を一緒に渡していた時期がありました。参考になるだろう、という判断です。結果、出力の98%が前回とほぼ同じ文章になりました。モデルは前の文章を見ると、書き直すのではなく手直しをするモードに入ります。直前の文字列が次の予測を強く縛るので、当然といえば当然でした。
前の本文を渡さずゼロから書かせるように変えたところ、本当に別の文章が出るようになりました。行き詰まったときに「これを直して」と渡すのは、最も変化が起きにくい頼み方です。 捨てて引き直すほうが早い。
AIを、判断の側に使う
候補を増やすのに使うと沼りますが、判断を助ける使い方はあります。三つあります。
1. 選択肢を二つに絞らせる。 十個出させてから「この作品の芯に照らして、残すべき二つを理由つきで選んで」と頼む。人間は二択なら決められます。三択以上で止まります。
2. 各候補の先を書かせる。 選べないのは、その先がどうなるか見えていないからです。候補Aで進んだ場合の三話先、候補Bの三話先を短く書かせると、読みたくないほうが一瞬で分かります。
3. 質問させる。 「この場面を決めるために、私に聞くべきことを五つ挙げて」。答えているうちに、自分がどちらを書きたかったのかが出てきます。決めているのは自分で、AIは質問の形を用意しているだけです。
止まらない構造を外側に作る
個人の意志で連載を続けるのは、思ったより難しいことです。締切のない創作は、優先度が下がった瞬間に止まります。
ここでAIが効くのは、判断の回数を減らせる点です。次に何が起きるかを一話ぶんだけ先に決めておけば、その日は迷いません。逆に、十話先まで決めようとすると決められなくなります。判断の粒度を一話に落とすことが、止まらないための実務です。
私たちが一日一話ずつ配信する形をとっているのも同じ理屈です。書き手が「今日書くかどうか」を毎日判断しなくて済む構造にしています。
それでも書き続ける理由は、機械の側にはない
判断を助けることはできても、何を書きたいかを決めることはAIにはできません。 分布の中心にあるのは平均的な正しさで、「これが読みたい」という偏りは、そこには存在しないからです。偏りは人間の側にしかない。
そして偏りこそが、書き続けられるかどうかを決めています。技術で止まっていた人が技術の問題から解放されると、残るのは偏りの強さだけになります。強い偏りを持ちながら、書く技術がないせいで一本も完成させられなかった人は、たくさんいたはずです。
その人たちの作品が出てくることに期待しています。うまく書ける人が増えるより、今まで一行も出せなかった人が七話を出せるようになることのほうが、面白い作品が生まれる確率を上げると思っています。
止まったときの4点
- 候補を増やす方向に逃げていないか(増やすほど選べなくなる)
- 「直して」と頼んでいないか(ほぼ同じものが返る)
- 決めようとしている範囲が広すぎないか(一話ぶんに落とす)
- 選ぶ基準を、正しさではなく「読みたいか」に置いているか
よくある質問
AIを使えば書けなくなることはなくなりますか?
なくなりません。止まる場所が、文章が出てこないことから、候補を選べないことへ移るだけです。ただし選ぶ作業のほうが軽いので、再開はしやすくなります。
書いたものを「直して」と頼むと、ほぼ同じものが返ってきます
仕様に近い挙動です。直前の文章がモデルの予測を強く縛るため、前の本文を見せると手直しモードに入ります。変えたいときは、前の本文を渡さずゼロから書かせてください。
候補をたくさん出しても決められません
候補の数が問題です。三択以上は判断が止まります。十個出させたあと、作品の芯を渡して二つに絞らせ、その二つの先をそれぞれ書かせて比べてください。
結局、続ける力はどこから来ますか?
「これが読みたい」という偏りからです。これは平均を出す装置の中には存在しないので、人間の側にしかありません。技術の負担が減った分、偏りの強い人ほど有利になります。