湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜
湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜
バーチャルアイドルだった湊あくあは、目を覚ますと現代日本のごく普通の女子高生として転生していた。前世の記憶はおぼろげで、歌や配信の才能もリセットされている。ドジでオタクな少女として平穏な学園生活を送ろうと決意するが、その計画は初日から打ち砕かれる。クラスには見知った顔ぶれ——白上フブキや大神ミオ、友人の猫又おかゆといった、かつてのVTuber仲間たちが揃っていたのだ。なぜか後輩の灰原そらまで同じクラスにいて、しかも全員が前世の記憶を持っているらしい。しかし、喜びの再会もつかの間、彼女たちは大きな危機に直面する。全員が、学園の「完璧王子」こと生徒会長・雨宮奏多に首ったけになっていたのだ。さらに事態をややこしくするように、奏多の親友でクールな月城理央が、あくあにだけ妙に優しく、意味深な視線を向けてくる。秘密の恋心を抱えた友情は、少しずつ軋み始める。学園のどこかで、アイドルだった少女たちの、愚かで愛おしい恋の頭脳戦が再び幕を開ける。互いに助け合い、足を引っ張り合いながら、友情と小さな恋の行方を必死に追いかける——。これ
湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜 - クールな副会長、あくあだけに甘い罠!
あれから一週間が経った。
朝の教室には、相変わらずみんなの笑い声が溢れてる。
でも、あたしの頭の中はそれどころじゃなかった。
(あぅ……昨日もかなた先輩のこと考えてたら夜中の三時になってた……)
黒板の前で数学の先生が何か言ってるけど、あたしの耳には全然入ってこない。
だって、一週間前の入学式で出会ったあの先輩のことが、どうしても頭から離れないんだもん。
柔らかい栗色の髪。透き通るような青い目。あたしを抱き上げた時の、あの優しい腕。
「……ふへへ」
気がつくと、あたしはノートの端に、かなた先輩らしき人の落書きをしてた。
しかも、髪型とか目の形とか、めっちゃ細かく描いてる。
まずい。これはまずい。
「あくたん、それ誰の顔〜?」
突然、耳元で声がした。
「ひゃあっ!」
あたしは大声を上げて、ノートを慌てて隠した。
でも、もう遅い。
隣の席のふぶきが、キラキラした銀色の髪を揺らしながら、あたしの手元を覗き込んでる。
その金色の目は好奇心でキラキラしてて、口元はニヤニヤしてる。
「ちょっと見せてよ〜、え、これってかなた先輩でしょ! すっごい上手に描けてるじゃない!? あ、でも目がちょっと大きすぎない? 漫画の主人公みたいになってるわよ」
「ち、違うの! これは、その、新しく始まるアニメのキャラで……!」
「はいはい、アニメのキャラねぇ。あくたん、嘘つくの下手すぎよ」
ふぶきは声をひそめて、あたしにだけ聞こえるように言った。
「でもね、あくたん。私だって負けないんだから」
その言葉に、あたしの胸がきゅっとした。
そうだ。
ふぶきも、みおも、かなた先輩のことが好きなんだ。
あたしたちは、親友で、そしてライバル。
その時、前の席から声がした。
「二人とも、授業中よ。静かにしなさい」
振り返ったみおが、じとっとした目であたしたちを見てる。
肩より少し長い黒髪が、後ろで赤いひもで一つに結ばれてて、ぱっつん前髪の下の茶色い目が、ちょっと怒ってる。
でも、その手に持ったノートにも、小さく「生徒会」ってメモが書いてあるのを、あたしは見逃さなかった。
「みおだって、休み時間ずっとかなた先輩の話してたくせに!」
「なっ……! ふ、ふぶき、それは言わない約束でしょ!」
みおが真っ赤になって、立ち上がろうとした。
でも、先生に睨まれて、慌てて座り直す。
その様子がおかしくて、あたしとふぶきは顔を見合わせて小さく笑った。
——
昼休み。
あたしたち三人は、中庭の大きなケヤキの木の下にあるベンチに集まった。
空は青くて、遠くから部活の掛け声が聞こえる。
ケヤキの葉っぱが風でザワザワ揺れてて、木漏れ日があたしたちの制服にキラキラと落ちてた。
「で、どうする? このまま指をくわえて見てるだけ?」
ふぶきが、買ってきたパンをかじりながら言った。
今日のふぶきの髪は、左側だけ三つ編みにして、先っぽを赤いリボンで結んでる。
いつも通りの、キラキラした雰囲気。
「もちろん、そんなつもりはないわ。まずは情報収集よ」
みおはお弁当のふたを開けながら、真面目な顔で言った。
今日のお弁当は、卵焼きにからあげ、それにブロッコリー。
バランスが良くて、みおらしい。
「情報収集って……?」
あたしが聞くと、みおは少しだけ自慢げに言った。
「かなた先輩が放課後に必ずいる場所。本館3階の、生徒会室よ」
「さすがみお! もう調べてたんだ!」
「こ、これは委員長として、学校の施設を把握しておくのは当然だから……」
照れてるみおがかわいくて、あたしは笑ってしまった。
「よし! じゃあ放課後、さっそく生徒会室に行ってみようよ! かなた先輩に会えるかも!」
ふぶきが立ち上がって、拳を突き上げた。
「え……でも、それってストーカーみたいじゃない……?」
あたしは不安で、自分のスカートの端をぎゅっと握った。
だって、先輩に迷惑をかけるのは絶対にイヤだ。
それに、あたしみたいなドジっ子が行ったら、絶対に何かやらかすに決まってる。
「大丈夫だよ、あくたん。見つからないように、こっそり近くを通るだけだから」
「それに、もしもの時のために、非常時の合図も決めておきましょう。例えば……咳を三回」
みおが真面目な顔で言うと、ふぶきが吹き出した。
「ちょっとみお! 咳を三回って、それじゃ風邪ひいた人にしか見えないわよ!」
「そ、それなら、もっといい合図を考えてよ!」
「あはは! みおのそういうところ、前世から変わってないよね!」
「前世」という言葉に、あたしの胸が少しチクリとした。
前世。
あたしたちがバーチャルアイドルだった、もう一つの人生。
ふぶきはあたしの同期で、みおも同期で。
でも、あたしの記憶は夢みたいにぼんやりしてて、はっきりとは思い出せないことが多い。
ふぶきは結構はっきり覚えてるみたいだけど。
「……あくたん、大丈夫? やっぱり、行くの怖い?」
ふぶきが、あたしの顔をのぞき込んだ。
その声は、さっきまでの明るい声じゃなくて、すごく優しかった。
「うん……あたし、どうしてもドジしちゃうから。先輩に迷惑かけちゃうかもって……」
「大丈夫よ。あくあは確かにドジだけど、それ以上に優しいもの。それに、私たち三人一緒なら、何があっても怖くないわ」
みおが、そっとあたしの手を握った。
その手は温かくて、少しだけ震えてた。
みおも、本当は緊張してるんだ。
「そうそう! 正々堂々が私のモットーよ! 行くわよ、あくたん!」
ふぶきが、あたしのもう片方の手を引っ張った。
「ちょ、ちょっと待って……!」
あたしの抵抗はむなしく、二人に引っ張られるようにして、あたしは立ち上がった。
——
放課後。
あたしたちは、本館3階の廊下にいた。
生徒会室は、廊下の一番奥にある。
廊下には誰もいなくて、遠くで誰かが掃除をしてる音だけが響いてる。
窓から差し込む夕日が、廊下をオレンジ色に染めてた。
「……ここね」
みおが、目の前のドアを見つめて言った。
ドアには「生徒会室」って書かれたプレートがかかってる。
あたしの心臓が、うるさいくらいバクバクしてた。
「中から声が聞こえる! かなた先輩の声よ!」
ふぶきが、目をキラキラさせてドアに耳をくっつけた。
「ちょっとふぶき、危ないわよ! まずは中の様子を確認しないと」
みおがふぶきを引き剥がそうとしたけど、興奮したふぶきは全然離れない。
「大丈夫、大丈夫! ちょっとだけだから……あ、かなた先輩の声、すごく優しい……やばい、好き……」
「だからってドアに張り付いてたらバレるでしょ! 私が鍵穴から見るから、二人は見張ってて!」
みおがそう言って、鍵穴に目を近づけようとした。
でも、その時。
「あ、あくたん! かなた先輩がこっちに近づいてくる音がする!!」
「ええっ!?」
「ど、どうしよう! 隠れなきゃ!」
三人はパニックになって、その場で右往左往した。
その時、みおの足が何かに引っかかった。
「きゃっ!」
みおがバランスを崩して、廊下の壁に積まれたプリントの山に倒れかかった。
大量のプリントが、雪崩みたいに崩れてくる。
「みお、危ない!!」
あたしはとっさに、みおをかばおうと前に飛び出した。
でも、次の瞬間。
ドサッ!!
あたしはプリントの山に、顔から突っ込んでた。
「いったぁ……!」
鼻が痛い。
プリントが制服の中に入って、ガサガサする。
髪の毛もぐちゃぐちゃだ。
「あくたん、ごめん!!!」
「ご、ごめんなさいあくあ!! 私のせいで……!」
二人の声が、頭の上から聞こえる。
あたしは、プリントの中で動けなかった。
(もう、最悪だ……やっぱり来るんじゃなかった……)
その時。
生徒会室のドアが、静かに開いた。
顔を上げると、廊下に誰かの影が伸びてた。
夕日を背にして立つ、背の高い人。
黒に近い藍色の髪が、斜めに前髪を下ろしてて、片目が少し隠れてる。
灰がかった銀色の目は、すごく無表情で、何考えてるのか全然わからない。
左手の薬指に、シンプルな銀の指輪が光ってた。
それは、かなた先輩じゃなかった。
つきしろ りお先輩。
2年生で、生徒会副会長。
かなた先輩の親友って聞いたことがある。
りお先輩は、廊下の惨状を無表情で見下ろしてた。
ふぶきとみおは、完全に固まってる。
りお先輩のひんやりとした空気が、廊下に広がってく。
まるで、温度が下がったみたい。
そして。
りお先輩は、プリントの山に埋もれたあたしに、手を伸ばした。
「……大丈夫か」
その声は、思ったよりずっと低くて、優しかった。
あたしが呆然としてると、りお先輩はあたしの腕を掴んで、軽々と抱き起こした。
片手で。
まるで、あたしが羽根みたいに軽いみたいに。
「へっ……!?」
気がつくと、あたしはりお先輩の腕の中にいた。
至近距離で、りお先輩の銀色の目があたしを見つめてる。
かすかに、洗剤のいい匂いがした。
心臓が、ドカンと大きな音を立てた。
「怪我はないか」
りお先輩が、あたしの耳元でささやく。
声が低くて、くすぐったくて、あたしは首をすくめた。
「だ、大丈夫です……あ、ありがとうございます……!」
あたしは真っ赤になって、必死にプリントを拾い始めた。
りお先輩は、そんなあたしをじっと見てた。
そして。
りお先輩の手が、あたしの髪に伸びた。
「お前ら」
りお先輩が、ふぶきとみおに冷たい声を向ける。
「騒ぐなら帰れ。ここは遊び場じゃない」
その声は、さっきあたしに言ったのとは全然違う、氷みたいに冷たい声だった。
「なっ……!」
ふぶきが何か言い返そうとしたけど、りお先輩はもうあたしの方を向いてた。
りお先輩の指が、あたしの大きなリボンのヘアピンに触れる。
その指は、思ったよりずっと優しかった。
「……そのヘアピン、似合ってる。取れそうだったから、直した」
りお先輩は、そう言って、ほんの少しだけ口元を緩めた。
それは、笑顔と呼ぶにはあまりにも小さな変化だった。
でも、確かに、笑ってた。
あたしは、もう声も出なかった。
顔が真っ赤になって、頭から湯気が出そうだった。
その時。
「あれ、みんな、生徒会に興味あるの? 良かったらお茶でもどう?」
生徒会室から、あの声がした。
かなた先輩だ。
あたしたち三人は、顔を見合わせた。
「「「失礼しましたー!!」」」
次の瞬間、あたしたちは全力で廊下を走って逃げてた。
——
「なにあれなにあれなにあれー!! なんであくたんだけあんなに優しくされるのよ!!」
学校を飛び出して、あたしたちはカスミヶ丘駅前の商店街「ハナミチ通り」に来てた。
夕暮れの商店街は、学校帰りの生徒たちでにぎわってる。
コロッケ屋さんからいい匂いがして、お腹がグーッと鳴った。
今は、通り沿いにある「カフェ・ルポ」の2階。
半個室のソファ席は、あたしたちの秘密基地みたいな場所だ。
「確かに、あの態度の差は異常だわ。合理的な説明がつかない」
みおも、紅茶のカップをテーブルに置いて、難しい顔でうなずく。
あたしはというと、オレンジジュースのストローをグチャグチャに混ぜながら、うつむいてた。
「わ、私にも、なんでなのか全然わかんないの……」
本当に、わからなかった。
りお先輩とは、今日初めて会ったはずだ。
それなのに、なんであんなに優しくしてくれたんだろう。
「……ねえ、あくたん。もしかしてだけど、前世でりお先輩と何かあったんじゃない?」
ふぶきが、スフレパンケーキをフォークで切り分けながら言った。
ふわふわのパンケーキから、バターの甘い香りが漂う。
「前世?」
「そうよ。だって、あの態度、普通じゃないもん。絶対に、前世であくたんと面識があったんだって。でも、あくたんは覚えてなくて、りお先輩だけが覚えてるとか」
「前世の記憶って、人によってはっきりしてる度合いが違うっていうしね。私は結構覚えてる方だけど、あくあは……」
「うぅ……あたし、りお先輩のこと、全然思い出せないよぉ……」
あたしは、テーブルに突っ伏した。
前世。
バーチャルアイドルだった頃の記憶は、夢みたいにぼんやりしてる。
みんなで歌って、配信して、すごく楽しかったっていうのは覚えてる。
でも、細かいことは、霧がかかったみたいに思い出せない。
「ごめん、あくたん! 責めてるわけじゃないの! でも、私も記憶がはっきりしてるわけじゃないし……かなた先輩に至っては、前世の記憶があるのかどうかもわからないし」
ふぶきが、めずらしくしょんぼりした顔であたしの肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫よ、あくあ。無理に思い出そうとしなくてもいいの。そのうち、自然に思い出すかもしれないわ」
みおの優しい声に、あたしの目から涙がにじんだ。
「うん……ありがと」
——
その夜。
あたしは自分の部屋の布団の中で、天井を見つめてた。
壁にはお気に入りのアニメのポスターが貼ってある。
机の上には、フィギュアが並んでる。
いつもの、あたしの部屋。
でも、今日はなんだか、落ち着かない。
(りお先輩……どうしてあたしだけにあんなに優しかったんだろう)
目を閉じると、あの銀色の目が浮かぶ。
無表情だけど、あたしを見る時だけ、少しだけ熱を帯びてた。
(前世で、あたし、りお先輩に何かしたのかな。それとも、りお先輩が、あたしに何か……)
考えれば考えるほど、頭の中がぐるぐるする。
いつのまにか、あたしは眠りに落ちてた。
——
そこは、暗いスタジオのような場所だった。
大きなモニターと、マイクと、配信機材が並んでる。
でも、誰もいない。
(どこだ、ここ……?)
あたしがキョロキョロしてると、後ろから声がした。
「いつかまた会えるって、信じてるから」
誰かが、あたしの耳元でささやく。
すごく優しい声。
でも、誰の声か思い出せない。
「……だれ?」
あたしが振り返ろうとすると、体が動かなくなった。
声は、もう一度だけ言った。
「私を見つけて」
——
朝日が、カーテンの隙間から差し込んでる。
あたしはベッドの上で、目を覚ました。
「……ゆ、夢?」
起き上がろうとして、違和感に気づく。
枕が、濡れてた。
涙の跡だ。
「うそ……あたし、泣いてたの?」
鏡の前に立つ。
そこには、寝ぐせで髪がボサボサの、いつものあたしがいた。
でも、目がちょっと赤い。
あたしは、制服に着替えて、いつものように大きなリボンのヘアピンをつけようとした。
でも、その手が止まる。
昨日、りお先輩が触れてくれたヘアピン。
「絶対に、思い出すから……!」
あたしは、小さく決意した。
でも、その決意が、かなた先輩への恋心とどう関係するのかは、まだ自分でもわからなかった。
ただ、心の奥底に、小さな火種が灯ったみたいに、ほんのり温かいものを感じてた。
それは、新しい恋の火種かもしれない。
それとも、前世から続く、何かもっと深いものなのか。
カーテンを開けると、朝日がまぶしくて、ちょっとだけ目を細めた。
今日は、いい天気になりそうだ。Noveliaとは?
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