湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜
湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜
バーチャルアイドルだった湊あくあは、目を覚ますと現代日本のごく普通の女子高生として転生していた。前世の記憶はおぼろげで、歌や配信の才能もリセットされている。ドジでオタクな少女として平穏な学園生活を送ろうと決意するが、その計画は初日から打ち砕かれる。クラスには見知った顔ぶれ——白上フブキや大神ミオ、友人の猫又おかゆといった、かつてのVTuber仲間たちが揃っていたのだ。なぜか後輩の灰原そらまで同じクラスにいて、しかも全員が前世の記憶を持っているらしい。しかし、喜びの再会もつかの間、彼女たちは大きな危機に直面する。全員が、学園の「完璧王子」こと生徒会長・雨宮奏多に首ったけになっていたのだ。さらに事態をややこしくするように、奏多の親友でクールな月城理央が、あくあにだけ妙に優しく、意味深な視線を向けてくる。秘密の恋心を抱えた友情は、少しずつ軋み始める。学園のどこかで、アイドルだった少女たちの、愚かで愛おしい恋の頭脳戦が再び幕を開ける。互いに助け合い、足を引っ張り合いながら、友情と小さな恋の行方を必死に追いかける——。これ
湊あくあ、学園で恋の頭脳戦!? 〜転生したら5人の幼なじみがいました〜 - 天然おかゆ、爆弾発言で恋の頭脳戦スタート!
四時間目が終わった。チャイムが鳴って、教室が一気に騒がしくなる。
あくあは机に突っ伏したまま、横目で隣の席を見た。
ふぶきが、銀色の長い髪をかきあげながら、あくあにウインクしてくる。左側の三つ編みの先で、赤いリボンがぴょんと跳ねた。
「あくたん、お昼、中庭で食べない?」
「え、いいけど……どうして?」
あくあが顔を上げると、ふぶきは金色の目をキラキラさせて、声をひそめた。
「だって、かなた先輩が通りかかる確率が一番高いのが中庭なのよ。私、ちゃんと調べたんだから」
「ふ、ふぶき! それ、作戦ノートに書いてあったやつ!?」
「そうよ。データは嘘をつかないの」
あくあは思わず身を乗り出した。ふぶきのくれた「かなた先輩攻略データ」、あれはすごい。先輩の行動パターンが時間割みたいにまとめてあって、あくあの宝物だった。
その時、前の席から声がした。
「二人とも、またそんなこと言ってるの?」
振り返ったみおが、じとっとした目であくあたちを見てる。肩より少し長い黒髪が、後ろで赤いひもで一つに結ばれてる。ぱっつん前髪の下の茶色い目が、ちょっと怒ってるようにも、あきれてるようにも見えた。
「今日はね、私の親友を紹介するから、変なことはしないでほしいの」
「親友?」
「え、みおに親友なんていたの!?」
「失礼ね! いるわよ、それくらい!」
みおは腰に手を当てて、ふぶきをにらみつけた。でも、すぐにその表情が、ちょっと照れくさそうな笑顔に変わる。
「同じ中学で、ずっと一緒だったの。名前は、ねこまた おかゆっていうのよ」
「へぇ、どんな子?」
「うーん……説明するより、会った方が早いわ。ちょうど、約束してたの。もう来る頃よ」
みおが教室の入り口に視線を向ける。
あくあとふぶきも、つられてそっちを見た。
——その時。
「みおー、お待たせー」
扉のところに、ふわっとした雰囲気の女の子が立ってた。
肩くらいまでの、ちょっと茶色がかった髪。前髪は眉の上でぱっつんに切ってあって、大きな目が印象的だった。
でも、何より目を引いたのは、そのゆるーい笑顔。
なんていうか、見てるだけでこっちまで眠くなりそうな、ほわほわした雰囲気。
「紹介するわ。ねこまた おかゆ。親友なの」
みおが手を差し出すと、おかゆはあくあたちの方に、のんびりした足取りで近づいてきた。
「おかゆだよー。みおから話は聞いてるよー」
「あ、あくあです! よろしく……あぅ」
あくあは慌てて立ち上がろうとして、机に膝をぶつけた。
「私はふぶき。よろしくね、おかゆちゃん」
ふぶきが笑いながら手を振る。おかゆも、ゆっくり手を振り返した。
「みんなで同じ人が好きなんだって? 大変だねー」
——え?
あくあの動きが止まった。
ふぶきの笑顔も、凍りついた。
「お、おかゆ……! ちょっと!」
みおが真っ赤になって、おかゆの口に手を当てようとした。
でも、おかゆは気にした様子もなく、にこにこ続ける。
「みおがねー、恋愛相談してきたんだよー。かなた先輩にどうやって近づけばいいかって。それで、その話をしてたら、他の子も同じ人を好きだって言ってて」
「あぁあああ! もう、言わないで!」
みおがおかゆの腕をつかんで、必死に止めようとしてる。
でも、おかゆはまるで雲をつかむみたいに、するりとかわして続けた。
「そしたら、『あくあちゃん』と『ふぶきちゃん』も同じ人を好きだって。わー、これは三角関係だねーって。でも、みおが『三角じゃなくて五角かも』って言ってて」
「もう許して……おかゆ……!」
みおが、机に突っ伏した。耳まで真っ赤だ。
教室中が、なんとなく静かになってた。
何人かのクラスメイトが、こっちをチラチラ見てる。
(五角……って、どういうこと?)
あくあは、頭が真っ白になって、声も出なかった。
「……みお、ちょっと話があるんだけど」
ふぶきの声が、急に低くなった。
いつものキラキラした笑顔が消えてる。金色の目が、真剣な光を帯びてた。
「ふ、ふぶき……?」
みおが顔を上げる。目がうるうるしてる。
「なんで、私たちの恋愛のことを、他の人に話したの?」
「そ、それは……おかゆは親友だから……それに、あくあやふぶきの悪口を言ったわけじゃなくて、ただ、相談に乗ってほしくて……」
「……でも」
「あー、私が悪いんだよー」
おかゆが、あくあたちの間に、ひょいっと割り込んできた。
「みおはね、すごく悩んでたの。それで、私が『教えて』って言ったの。無理やり聞き出したのは私の方。みおは悪くないよー」
「……おかゆ」
みおが、涙をためた目でおかゆを見上げる。
おかゆは、にこにこしながら、あくあの方を見た。
「それにね、あの先輩、よく中庭で猫と遊んでるよねー。この間、生徒会の仕事をサボって猫に餌をあげてたのを見たよ」
——今、なんて?
あくあの耳が、ピンと立った。
ふぶきの表情も、変わった。
みおも、涙が引っ込んだみたいに、目を見開いてる。
「ちょっと待って。それ、本当?」
ふぶきが、おかゆに詰め寄った。
「うん。白い猫と黒い猫の二匹でねー。かなた先輩が『おいで』って言うと、猫たちがすごく懐くんだよー」
「なんでおかゆだけ、そんなこと知ってるの!?」
ふぶきの声が、ちょっとだけ尖ってた。
あくあの胸の中にも、チクリと痛みが走る。
(おかゆ……先輩と猫の話、したのかな)
(それって、おかゆだけが特別ってことじゃ……)
「たまたまだよー。野良猫を追いかけてたら見つけただけ」
おかゆの声は、相変わらずのんびりしてる。悪気はまったくなさそうだった。
でも、その言葉が、あくあの心に、小さなささくれみたいに引っかかった。
(たまたま……? それだけで?)
みおも、唇をかんでる。
教室の空気が、なんとなく重くなった。
——その時。
「……よし! 決めた!」
ふぶきが突然、拳を握った。
「放課後、中庭に行くわよ! みんなで!」
「え、全員で?」
「そうよ。おかゆの情報が本当かどうか、確かめるの。もし本当なら、先輩に会える。もし嘘なら……まあ、それはそれで」
「……わかったわ。私も行く」
「あ、あたしも!」
あくあは勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、私も行くねー」
おかゆは、ゆっくりうなずいた。
——放課後。
中庭の空気は、ちょっとひんやりしてた。
大きなケヤキの木の葉っぱが、風でザワザワ揺れてる。
あくあは、花壇の影に隠れて、ケヤキの木のそばを見つめてた。
(まだかな……まだかな……)
心臓がドキドキして、めまいがしそう。
その隣では、ふぶきが双眼鏡を取り出して、真剣な顔で構えてる。
「どこで双眼鏡なんて買ったの……」
「黙ってて。これは私の秘密兵器なんだから」
ふぶきが小声で言い返した。
そして——
「……あっ」
反対側のベンチの陰に隠れてたみおが、小さく声をあげた。
あくあも、息をのんだ。
ケヤキの木の下に、誰かが立ってる。
背が高くて、栗色の髪が夕日に透けてキラキラしてる。
かなた先輩だ。
先輩は、小さな紙袋から何かを取り出して、地面に置いた。
すると——
にゃあ、と鳴き声がして、茂みから白い猫と黒い猫が飛び出してきた。
「おいで。今日は鰹節だよ」
先輩がしゃがみこんで、猫たちの頭をなでる。
その笑顔が、すごく優しくて。
(わぁ……先輩、猫にこんな顔するんだ)
あくあの胸が、きゅんと熱くなった。
「……行くわよ」
ふぶきが、立ち上がろうとした。
その時——
ガサッ!
「あぅっ!」
あくあはバランスを崩して、花壇の枝に足を取られた。
「ちょっと、静かにしてよ!」
ふぶきがあくあの腕をつかんだ。
「ご、ごめんなさ……んぐっ」
みおが後ろから、あくあの口に手を当てた。
三人がもみくちゃになってるうちに——
「あ、いけない。もうこんな時間か。生徒会の仕事が残ってた」
先輩が、腕時計を見て立ち上がった。
猫たちが、名残惜しそうに先輩の足にすり寄る。
「ごめんね、また今度」
先輩は、猫たちに手を振って、歩き出した。
あっという間に、本館の入り口に消えていく。
「……行っちゃった」
ふぶきが、双眼鏡を下ろした。その声は、怒りで震えてた。
「あんたがドジって大きな音を立てたからよ!」
「ち、違うの! ふぶきが急に『行くわよ』って言うから!」
「私のせい!? それはあくたんが花壇に突っ込んだからでしょ!」
「だって、足が引っかかって……」
「あんたたち、静かにしなさい!」
みおが、いつにない大きい声で叫んだ。
ふぶきも、あくあも、びくっとして口を閉じる。
みおは、こめかみをピクピクさせながら、二人を交互ににらみつけた。
「ふぶきが大声で作戦会議を始めたからよ! あんなに堂々と隠れてたら、誰だって気配に気づくわ!」
「私のせい!? じゃあ、みおは隠れるのが上手すぎて、むしろ挙動不審だったじゃない!」
「な、なんですって!?」
「そうよ! あのベンチの陰、絶対に先輩から丸見えだったわ!」
「それはあなたの双眼鏡がギラギラ光ってたからでしょ!」
「ふ、二人とも! 落ち着いて……!」
あくあが間に入ろうとしたけど、二人の勢いは止まらない。
「もういい! 今日のことは、全部あくたんがドジったのが原因なんだから!」
「ふぶき!」
あくあは、目の奥がじんと熱くなった。
(……ひどいよ)
(あたしだって、頑張ってたのに)
「みおも! 隠れる場所くらい考えなさいよ! どうせ恋愛作戦ノートに書いてなかったんでしょ!」
「ノートの話は関係ないでしょ!? それに、私のノートには、ちゃんと『奇襲作戦は場所の選定が重要』ってメモしてあるわ!」
「あら、そう。じゃあなんで今日は失敗したのかしら」
「……もう、いい加減にして!」
みおが、拳を握って叫んだ。
三人の間に、冷たい風が吹き抜ける。
中庭のケヤキの葉っぱが、ザワザワと音を立てた。
——沈黙。
誰も、口を開かなかった。
ふぶきは、唇をかんで、地面をにらんでる。
みおは、肩を震わせて、下を向いてる。
あくあは、どうしていいかわからなくて、ただ突っ立ってた。
(嫌だ……こんなの)
(あたし、ふぶきとケンカしたくなんかないのに)
(みおとも、仲良くしたいのに)
でも、口からは何も出てこなかった。
「……帰る」
ふぶきが、小さく言って、背を向けた。
「ふ、ふぶき!」
あくあが呼びかけたけど、ふぶきは振り返らずに、早足で校舎に消えていった。
みおも、無言で立ち上がり、ふぶきとは反対の方向に歩き出す。
「みお……!」
みおの背中も、どんどん小さくなっていく。
あくあは、一人、中庭に取り残された。
ケヤキの木の下には、もう誰もいない。
さっきまで先輩がいて、猫たちが走り回ってた場所なのに。
今は、夕日だけが、地面に長い影を落としてる。
(どうして……)
(どうして、こんな風になっちゃったの)
あくあの目から、涙がこぼれた。
——教室に戻ると。
窓際の席に、おかゆが一人で座ってた。
手に持ったスマホの画面を見て、にこにこしてる。
「あ、あくあちゃんだー。おかえりー」
「……ただいま」
あくあは、自分の席に座った。机の上に突っ伏したい気分だったけど、おかゆがいるから、なんとか耐える。
「ねえ、見て見て」
おかゆが、スマホの画面をあくあの方に向けた。
そこには、白い猫と黒い猫の写真。先輩の膝の上で、二匹が丸くなって寝てる写真だった。
「あの猫、かなた先輩にすごく懐いてるんだよねー。今度一緒に見に行かない?」
——今度、一緒に。
その言葉が、あくあの胸に、ぐさりと刺さった。
(おかゆは、先輩と猫でつながってる)
(あたしには……何もない)
「……おかゆ、それって」
あくあが言いかけた時、教室の扉が開いた。
「……ただいま」
「……私も、戻ったわ」
ふぶきとみおが、別々の扉から、ほとんど同時に入ってきた。
二人とも、あくあと同じくらい、暗い顔をしてる。
「あ、みんな揃ったね。どうしたのー? 暗い顔して」
おかゆが、首をかしげた。
「……別に」
「……何でもないわ」
ふぶきとみおが、同時に言って、顔をそらした。
気まずい沈黙が、教室を包む。
「……そうなんだ。あ、それより、見て見て。猫の写真」
おかゆは、空気をまったく読まずに、ふぶきとみおにもスマホを見せた。
二人の顔色が、さらに暗くなる。
「……おかゆ、あなたも先輩のこと」
みおが、言いかけた。
でも、最後までは言えなかった。
だって——
「うーん、先輩は猫がいるところがかわいいよね」
おかゆの答えは、いつものゆるーい口調で、それ以上でもそれ以下でもなかった。
好きなのか、そうじゃないのか、まったくわからない。
でも、あくあたちには、それが逆に怖かった。
(おかゆは、自分だけが先輩の秘密を知ってる)
(そのことを、無邪気に自慢してるみたい)
(それとも、本当に何も考えてないの?)
誰も、次の言葉を出せなかった。
ふぶきは、机に突っ伏した。
みおは、窓の外を見てる。
あくあは、自分の手をぎゅっと握った。
おかゆだけが、にこにこしながら、猫の写真をスクロールしてる。
教室の時計が、カチ、カチ、と音を立てた。
その音だけが、やけに大きく聞こえた。
外は、もうすっかり夕暮れだった。
ホシミ川の桜並木が、オレンジ色に染まってる。
あくあは、その景色をぼんやり見つめながら、心の中でつぶやいた。
(あたし、どうすればいいんだろう)
(ふぶきと、みおと、もっとケンカしたくない)
(でも、先輩のことも、あきらめたくない)
(……おかゆのことも、なんだか怖いと思っちゃった)
教室に、誰もいないみたいな静けさが広がる。
でも、その静けさの真ん中で、四人の心の中だけは、ぐるぐると嵐みたいに荒れてた。
友情と、恋。
どっちも大事なのに、両方を一緒に持つことは、こんなにも難しい。
あくあは、こっそりと涙をぬぐった。
指の先が、制服のスカートに、小さなシミを作る。
(もしかしたら、あたしたち、もう戻れないのかもしれない)
そんな考えが頭をよぎって、あくあは、ぎゅっと目をつぶった。
おかゆのスマホから、かすかに猫の動画の音が聞こえてる。
にゃー、にゃー、という鳴き声が、やけに場違いで、それが余計に、あくあの心を締めつけた。Noveliaとは?
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