ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて
ロックは、木人形を一体だけ動かせるだけの外れスキル「パペットマスター」を持つDランク冒険者。周囲から嘲笑され、日々は薬草採取で細々と食いつなぐ孤独なものだった。しかし、酒場で出会った中年の薬草師バルドを助けたことから、その日々が少しずつ動き始める。
バルドのおかげで安定した収入を得られるようになり、木人形との連携も日増しに上達していくロック。そんな彼を、エルフの土魔術師リリア・ファロンディールが、魔の森の三ヶ月に及ぶ調査任務に誘う。彼女が操る二体の強力なゴーレムに圧倒されながらも、ロックは人形と共に戦う自分だけのスタイルに、確かな手応えを感じ始めていた。
突如、キラーアントの巣に足を踏み入れ、クイーンアントと対峙する危機が訪れる。絶体絶命の窮地の中、ロックとリリアは共闘し、辛くもこれを討伐。リリアは礼として、ロックにクイーンの魔石を託し、人形への融合方法を伝授する。すると人形は、味方を強化し敵を弱体化させる新たな支援能力「リンクフィールド」を覚醒させるのだった。
それは、決して無能なスキルなんかじゃない。誰にも真似できない、自分だけの力。ロックは初めて、心からの自己肯定を得る。支
ユニークスキル、パペットマスター(木人)の可能性を信じて - 役立たずが役立たずを教えてる——それの何が悪い
王都の朝は、ラステラよりもずっと騒がしい。
石造りのギルドの建物が、朝日を浴びて長い影を落としている。通りではすでに商人たちが荷車を引き、冒険者たちが今日の依頼を求めて足早に歩いていた。
ギルドの裏庭には、そんな喧騒が嘘のように静かな空気が流れている。
「[nervous]……うまくいかない……」
レオンは汗を拭いながら、自分の木人を見つめていた。昨日、初めて指先がピクリと動いた感触を掴んだのに、今日はもう何度目かの失敗だ。木人はまるでただの置物のように、地面に突っ立ったまま動かない。
「[gentle]焦るなよ」
ロックは自分の木人を背中から下ろしながら言った。相棒の下手くそな笑顔が、朝日を受けてわずかに輝いている。
「[sad]でも先輩、昨日は動いたのに……」
「[calm]そういうもんだよ。俺だって、最初は全然動かなくてさ」
ロックは木人の肩に手を置きながら、遠くを見るような目をした。
「[reminiscent]泥だらけになってさ。何時間も練習して、それでも全然動かなくて。諦めようとしたんだよ、何度も」
「[surprised]先輩も……そんな時期があったんですか?」
レオンが目を丸くする。
「[laughing]みんなそうだろ、たぶん」
ロックは照れくさそうに頭をかいた。
その時——。
ぐるり。
レオンの木人が突然、一回転した。
「[surprised]うわっ!」
木人は回転した勢いのまま、ロックの足の上にドスンと落ちた。
「[crying]いたたたた! こ、こいつ、今のなんだよ!」
ロックが片足で跳びはねる。
「[laughing]す、すみません! でも、動きましたよ! 今の見ました!?」
レオンが嬉しそうに叫んだ。目がキラキラしている。
「[laughing]見た見た! でも足を踏むなっての!」
ロックも笑った。
二人の笑い声が、裏庭の静かな空気に響く。
これが、この日最後の穏やかな時間だった。
——
練習を終えて、ギルドの表通りに出た時のことだ。
人通りの多い広場に出た瞬間、空気が変わった。
街のざわめきに混じって、嫌な気配が漂っている。
「[sarcastic]おい、見ろよ」
低く、嫌味ったらしい声が響いた。
広場の真ん中、噴水のそばに冒険者の一団がいた。五、六人ほど。その中心に立っているのは、大柄な男だ。背中に大剣を背負い、筋肉質な体に傷だらけの革鎧をまとっている。二十代前半にしてB級——ラステラの酒場で、ロックの木人を笑いものにしていた男。
マッシュ。
「[laughing]役立たずが役立たずを教えてる。見ろよ、あれ」
マッシュはわざと大きな声を出した。周囲を歩く冒険者たちが立ち止まり、視線が集まる。
「[mocking]スケルトンの一件で干されたポーターが、今度は後輩の道連れ探してんじゃねえの」
笑い声が、広場に広がった。
レオンの肩が、震える。
ロックの足が止まった。
「[cold]なあ、パペットマスター」
マッシュが一歩、前に出る。大柄な体が、ロックの前に立ちはだかった。頭ひとつ分、マッシュの方が高い。
「[sarcastic]お前のやってること、全部無駄なんだよ。木人使いが活躍した現場、一回でも見たことあるか? ないだろ。それが答えだ」
言葉が、心臓を刺す。
ロックは何か言い返そうとした。口を開きかけた。
でも——。
言葉が出てこない。
(反論できない)
王都で、まだ具体的な実績を作れていない。スケルトンの失敗がある。グレンのパーティでの「お前のせいだ」という罵倒が、耳の奥でよみがえる。
(何を言っても……言い訳になる)
ロックの手が、小さく震えた。
「[laughing]ほらな。何も言えねえ。それが現実だよ」
マッシュが肩をすくめた。仲間たちがドッと笑う。
「[mocking]来週までは持つかな。豚の貯金も底をつくぜ」
「[mocking]それとも豚小屋に帰る? 荷物持ちなら雇ってもらえるかもな」
レオンが、ぎゅっと唇を噛んだ。
マッシュたちは笑いながら去っていった。
——
人混みは、何事もなかったかのように流れに戻る。
ロックとレオンは、広場の真ん中に立ち尽くしていた。
誰も、二人を見ていない。
誰も、声をかけない。
ただ無視されているだけだ。それが、この街での「パペットマスター」の価値だった。
「[whispers]……僕のせいで」
レオンが震える声で言った。下を向いている。肩が、小刻みに揺れていた。
「[whispers]先輩まで……笑われて……」
「[quiet]違う」
ロックは遮った。
でも、それ以上、言葉が出てこない。
(違う、とだけ言っても……何の証明にもならない)
喉の奥が、熱くなった。
(悔しい)
(でも、何もできない)
(俺の木人が——まだ、何も証明できてない)
沈黙が、長く続いた。
その時——。
「[firm]……僕は」
レオンが、顔を上げた。
目が赤くなっている。でも——その声だけは、はっきりしていた。
「[firm]先輩を信じてます」
ロックの目が、レオンに向けられる。
「[earnest]先輩の木人が何をできるか、ちゃんと見てきました。ゴブリン討伐で、リーダーの動きを速くした。弓使いの矢が、今までにない精度で当たった。それ、全部、先輩がいたからです」
レオンの声は、まだ震えている。
でも、言葉は、まっすぐだった。
「[earnest]だから……だから、信じてます」
ロックは、息を呑んだ。
胸の奥で、何かが——燃え上がった。
(信じてる——そう言われたのは、初めてだ)
ラステラのガネッタは「面白いじゃないか」と言った。ガルドは何も言わずに木人を補強した。バルドは紹介状をくれた。リリアは力を貸してくれた。
でも——「信じてる」と、はっきり言われたのは。
初めてだった。
「……ああ」
ロックは深く息を吸った。
拳を握る。
震えが——止まった。
「[determined]じゃあ、証明しよう」
ロックの声は、落ち着いていた。
「[excited]……え?」
「[firm]言葉で返せないなら、行動で示すしかない。ガルドさんがそうしてくれたように——俺も、そうする」
ロックは一歩、踏み出した。
向かう先は、ギルドの掲示板だ。
——
ギルドの掲示板は、今日も依頼票で埋まっていた。
ロックは一枚一枚、めくっていく。
『ゴブリン討伐』『薬草採取』『護衛依頼』——どれも日常的なものだ。
(もっと——もっと、証明できるものを)
指が止まった。
掲示板の隅。他の依頼に隠れるように、一枚の依頼票が貼ってある。
紙の端が、少し黄ばんでいた。ずっと誰も取らなかった証拠だ。
『迷宮下層——罠解除依頼』
ロックの目が、報酬欄に止まる。
金貨一枚。
(宿代、一ヶ月分)
でも——その下の注釈が、さらに目を引いた。
『罠感知スキル持ちの斥候三名が重傷で撤退。D級は受付不可。C級以上推奨』
「[scared]……これ」
レオンが後ろから覗き込み、息を呑んだ。
「[whispers]先輩……ここ、全滅したパーティがあるって……」
「[serious]……ああ」
ロックは依頼票を手に取った。
指先で、紙の感触を確かめる。
(罠感知スキル持ちの斥候でも、全滅)
(生身の人間が行けば、確実に傷つく)
(でも——)
頭の中で、ガルド工房の光景がよみがえる。
無言で置かれていた、補強された木人。
壊れても——直せる。
「[firm]木人なら、刺さっても壊れるだけだ」
ロックは言った。
「[surprised]え?」
「[firm]罠ってのは、人が踏んだら怪我をする。でも木人なら、刺さっても、吹き飛ばされても、壊れるだけだ。壊れたら直せばいい」
ロックの脳裏に、ガルドの背中が浮かぶ。
言葉で示さなくても、腕で示せる。
今度は——自分がその番だ。
「[determined]俺たちにしかできない依頼だ」
レオンは一瞬、怯んだ。
でも——。
「……僕も」
声が、震えている。
「[scared]僕も……やります」
レオンは震えながらも、うなずいた。
二人はギルドの掲示板から、受付窓口へと歩き出した。
——
受付。
ガネッタ・ホルンは、差し出された依頼票を見て——眉をひそめた。
短く切りそろえた赤毛に白髪が混ざった髪が、窓から差し込む光を受けてきらめいている。金茶色の目が、じっくりと依頼票の一行一行を追った。
それから——その目が、ロックを射抜く。
「[serious]……ロック、本当にやるのかい?」
声は、いつもの江戸っ子口調ではなかった。
静かで、重い。
「[serious]失敗すりゃ、二人とも重傷じゃ済まないよ。こいつは——罠感知スキル持ちの斥候が三人、全滅した現場だ」
ガネッタの口調に、嘲笑はない。
あるのは——心配と、確認だけだ。
「[firm]わかってます」
ロックは、背中の木人に手をやった。
「[firm]それでも——やります」
ガネッタは、じっとロックを見つめた。
それから——レオンを見る。
レオンは、緊張で固まっていた。でも、目だけは逸らさない。
ガネッタは——。
何も言わなかった。
ただ、ペンを取る。
無言で、依頼票に受理の印を押した。
その表情には、心配と——信頼が、半々に混ざっていた。
「[quiet]……べらぼうに頑張んな」
最後に、それだけ言った。
ロックは依頼票を受け取り、深くうなずいた。
——
二人が受付を離れると、ギルドの隅から視線が突き刺さる。
マッシュのグループが、一部始終を見ていた。
「[mocking]馬鹿じゃねえの」
マッシュが吐き捨てた。
でも——ロックは、もう聞こえていないふりさえしなかった。
本当に、聞こえていなかった。
今はただ、証明することだけを考えていた。
(行くぞ、相棒)
心の中で、木人に語りかける。
背中の木人はいつものように、下手くそな笑顔で黙っている。
でも——その胸に埋め込まれた魔石が。
かすかに、光った。
次の依頼地は、迷宮下層。罠感知スキルの斥候が全滅した、その先の未知の領域。頼りになるのは、傷ついても壊れても直せる、木人二体だけだ。