クロウカードの影で〜大道寺知世の秘密の撮影日記〜
夕暮れの撮影室、モニターに映る親友の勇姿。大道寺知世は、魔力を持たない自分にできる「たった一つのこと」——撮影に全てを懸けていた。だがある日、映像の片隅に映り込んだ小さな影に気づく。さくらがカードを封印するたび、決まって現れる、輪郭のぼやけた観察者のような影。敵意はない。でも、だからこそ不気味だった。過去のデータを全て見返し、知世は一つの法則にたどり着く。あの影は、さくらを「撮影」している——自分と同じように。夢の中に現れた黒いローブの声が告げる。「お前の撮影した映像に、秘密が隠されている」。戦えない少女が、カメラという武器で真実に迫る。これは、クロウカードの影で静かに綴られる、大道寺知世の秘密の撮影日記。
クロウカードの影で〜大道寺知世の秘密の撮影日記〜 - 第7話映像の決戦 ― 思い出が記憶を照らすとき
朝の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいた。
知世はベッドの中で、しばらく天井を見つめていた。昨夜のことは、夢ではなかった。さくらが公園で見せた、あの戸惑いの表情。知世のことを「思い出せない」と言った、あの震える声。
(さくらさん)
胸の奥が、きゅうっと音を立てた。
でも、泣いている場合ではなかった。エリオルの言葉が、頭の中で繰り返し響いている。
「あなたの映像が、さくらさんの記憶を守る、唯一の光です」
知世はゆっくりと体を起こした。机の上に置いたビデオカメラが、静かにこちらを見ている。その隣には、昨夜から準備していたプロジェクターと、無数の記録メディアが入ったケースがあった。
(私にできることは、これだけですわ)
知世はカメラを手に取った。ずっしりとした重みが、手のひらに伝わる。この重みが、知世の全部だった。
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登校路は、いつもと変わらない朝の顔をしていた。
友枝町の坂道を、柔らかな風が抜けていく。桜のつぼみが、もうすぐ開きそうにふくらんでいる。パン屋「フローラ」からは、焼きたてのパンの香ばしい匂いが流れてきていた。
知世は、いつもの場所でさくらを待っていた。
やがて、坂の向こうから、ローラーブレードを履いたさくらの姿が見えた。明るい茶色のショートヘア。ピンクの髪留め。太陽のような笑顔——のはずだった。
でも、今朝のさくらは、違った。
知世を見つけると、さくらはゆっくりとスピードを落とした。そして、首をかしげた。
「えっと……知世ちゃん、だよね?」
知世の指先が、カメラのストラップをぎゅっと握りしめた。
(大丈夫。笑顔ですわ。私が動揺してはいけない)
「おはようございます、さくらさん。ええ、知世ですわ」
知世は、できる限りいつも通りの笑顔を作った。でも、頬の筋肉が、ほんの少しだけ引きつっているのが自分でも分かった。
さくらは、困ったように眉を下げた。
「はにゃーん……なんだか、知世ちゃんのこと、思い出せないの」
さくらの声が、かすかに震えている。
「顔は分かるの。知世ちゃんって、名前も分かるの。でも……知世ちゃんと、何をしたかとか、どんなお話をしたかとか……そういうのが、すっぽり抜けちゃってるみたいなの」
さくらは、自分の頭をこつんと叩いた。
「変だよね。わたし、どうしちゃったのかな」
知世は、さくらの手を、そっと両手で包み込んだ。
「大丈夫ですわ、さくらさん。きっと、すぐに思い出します。私が、お手伝いしますから」
(絶対に、思い出させてみせますわ)
知世は、心の中で強く誓った。
さくらの手は、昨日と同じように、少し冷たかった。でも、知世の手を握り返す力は、確かにそこにあった。
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放課後、知世はさくらを大道寺邸へと招いた。
大道寺邸は、友枝町でも有数の大邸宅だ。広大な庭園には、手入れの行き届いた木々が茂り、池には鯉がゆったりと泳いでいる。普段なら、知世はこの庭園でさくらのバトルコスチュームの撮影をすることが多かった。
でも、今日は違う。
庭園の一角に、白いスクリーンが張られていた。その正面には、プロジェクターが設置されている。知世は、さくらをスクリーンの前に立たせた。
「さくらさん。今日は、特別な上映会を開きますのよ」
「上映会?」
さくらが、きょとんとした顔で知世を見た。
「ええ。私がこれまで撮りためてきた、さくらさんの勇姿を、全部お見せしますわ」
知世は、プロジェクターの電源を入れた。小さなファンの音が、庭園の静けさに響く。
その時だった。
「おい、大道寺」
低い声が、庭園の入り口から聞こえた。
振り返ると、桃矢が立っていた。黒い髪を無造作に流し、鋭い瞳で知世を見つめている。高校の制服姿ではなく、私服の黒いシャツ姿だった。
「桃矢さん……どうしてこちらに?」
「さくらの様子がおかしい。それに、お前もだ」
桃矢は、さくらをちらりと見た。さくらは、兄の顔を見ても、どこかぼんやりとしている。いつものように「怪獣」と言い返す元気もない。
「……記憶喰らいの影ってやつか。エリオルから聞いた」
知世は、目を見開いた。
「エリオルさんが……?」
「あいつ、妙に詳しかったぜ。お前が今日、ここで何かやるってこともな」
桃矢は、庭園に張られたスクリーンを見上げた。
「映像で記憶を取り戻す。悪くない作戦だ。だが、あの影が黙って見てるとは思えねえ」
桃矢は、知世の隣に立った。
「俺の魔力で、映像を増幅させる。少しは、あの影への抑止力になるだろ」
知世は、桃矢の顔を見上げた。
(桃矢さん……)
「ありがとうございます、桃矢さん。お願いしますわ」
桃矢は、ふん、と鼻を鳴らした。
「礼はいい。さっさと始めろ。怪獣が、これ以上バカになる前に」
「むっ! 今、怪獣って言ったでしょ! お兄ちゃん!」
さくらが、突然、ぷくっと頬を膨らませた。
知世は、思わず微笑んだ。
(あらあら。さくらさんらしい反応ですわ)
ほんの一瞬だけ、いつものさくらが戻ってきた。そのことが、知世の心を少しだけ軽くした。
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上映が始まった。
プロジェクターが、白いスクリーンに光を投げかける。
最初に映し出されたのは、小学四年生のさくらが、初めてバトルコスチュームを着た時の映像だった。
「知世ちゃん! これ、すっごくかわいい! でも、なんか、ちょっと恥ずかしいかも……」
映像の中のさくらが、ピンクと白のフリルがあしらわれたドレスを着て、もじもじしている。知世が「よくお似合いですわ」と声をかけると、さくらは顔を真っ赤にして笑った。
スクリーンの前で、さくらが小さく呟いた。
「……これ、わたし?」
「ええ。さくらさんですわ。初めてのバトルコスチューム、とてもお似合いでしたのよ」
さくらは、スクリーンから目を離せずにいた。
映像は、次々と切り替わっていく。
ケロちゃんとイチゴタルトを奪い合うさくら。
「こらー! ケロちゃん! それはわたしのタルトなんだからね!」
「なに言うとんねん! わいが先に目ぇつけとったんや!」
映像の中で、さくらとケルベロスが、一枚のイチゴタルトを巡って取っ組み合いをしている。テーブルの上には、知世が用意したお菓子の数々。桃矢が呆れた顔で二人を見ている。
スクリーンの前で、さくらの口元が、ほんの少しだけほころんだ。
「……なんだか、楽しそう」
「ええ。あの時のケロちゃん、本気で怒っていましたわ。でも、最後は半分こにして、仲直りしていましたのよ」
知世は、さくらの表情を、カメラ越しではなく、自分の目で見つめた。
(思い出して。さくらさん。あなたの大切な時間を)
映像は、さらに続いた。
小狼が、さくらに告白の練習をしている場面。
「さくら……いや、木之本。その、だな……」
「なあに、小狼くん? 顔、真っ赤だよ?」
「だ、誰が真っ赤だ! これは、その、暑いだけだ!」
映像の中の小狼が、耳まで真っ赤にして、何かを言いかけては、ごまかしている。さくらは、そんな小狼の様子を、きょとんとした顔で見つめていた。
「……小狼くん、何を言おうとしてたのかな」
スクリーンの前のさくらが、首をかしげた。
知世は、心の中で苦笑いした。
(小狼さん、ごめんなさい。でも、これもさくらさんの大切な記憶ですから)
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映像は、さらに流れていった。
雨の日、桃矢がさくらに傘を差し出す場面。
「ほら、傘。ちゃんと入れ。風邪引くぞ、怪獣」
「お兄ちゃん、ありがとう! でも、お兄ちゃんは?」
「俺はいい。お前より頑丈だからな」
映像の中の桃矢が、自分の肩を雨に濡らしながら、さくらにだけ傘を差し出している。ぶっきらぼうな言い方とは裏腹に、その仕草は、とても優しかった。
スクリーンの前で、さくらが、そっと桃矢の方を見た。
「……お兄ちゃん、ずぶ濡れだったんだね」
「……知るか。昔の話だ」
桃矢が、照れ隠しのように顔をそらした。
知世は、そんな兄妹のやりとりを見て、胸の奥が温かくなるのを感じた。
(桃矢さんも、本当はさくらさんのことを……)
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そして、最後の映像が始まった。
小学三年生の教室。
転入してきたばかりのさくらが、隣の席の知世に、消しゴムを差し出している。
「これ、使っていいよ!」
「ありがとう。お借りしますわ」
「ううん! それ、あげる!」
「え? でも……」
「いいの! わたし、いっぱい持ってるから! それに、知世ちゃん、友達になってくれたでしょ? 友達の印!」
映像の中のさくらが、無邪気に笑っている。
その笑顔は、知世の宝物だった。
スクリーンの前で、さくらの目から、涙がこぼれ落ちた。
「……知世、ちゃん」
さくらが、知世の方を向いた。
「わたし……知世ちゃんと、友達だったんだね。消しゴム……もらったんだね」
「ええ。さくらさん。私は、あの日からずっと、さくらさんのことが大好きですわ」
知世の目からも、涙があふれていた。
その時だった。
庭園の空気が、急に冷たくなった。
池の水面が、ざわざわと波立つ。木々の葉が、一斉にざわめいた。
「——来ますわ」
知世は、涙をぬぐい、カメラを構えた。
スクリーンの映像が、ぶれた。プロジェクターの光が、不安定に明滅する。
そして、スクリーンの中央に、黒い染みが広がった。
いや、染みではない。
それは、影だった。
記憶喰らいの影。
人の形をした、黒いもや。目も鼻も口もない。ただ、黒いだけの存在。それが、スクリーンから、じわりと実体化していく。
「な、なに、あれ……」
さくらが、一歩後ずさった。
「下がってろ、怪獣」
桃矢が、さくらの前に立った。両手を前に突き出し、魔力を集中させる。桃矢の体から、淡い光が立ち上る。
「俺の魔力で、映像を増幅する。大道寺、お前は撮影を続けろ」
「はい!」
知世は、カメラを構え直した。
(私の役目は、撮ること。さくらさんの記憶を、映像で守ること)
記憶喰らいの影が、低く唸った。
「……ジャマヲ……スルナ……」
影の声は、複数の人間の声が混ざり合ったような、不気味なものだった。
影が、知世に向かって、黒い腕を伸ばしてきた。
「知世ちゃん、危ない!」
さくらが叫んだ。
でも、知世は逃げなかった。
カメラを構えたまま、影を正面から見据えた。
「私は、逃げませんわ」
知世の声は、震えていなかった。
「私は、さくらさんの勇姿を、一秒たりとも逃しません。あなたが何者でも、私の撮影を邪魔はさせませんわ」
影の腕が、知世の腕を掴んだ。
冷たい。氷のような冷たさが、皮膚を通して骨まで染み込んでくる。
影が、知世の体を、庭園の壁に叩きつけた。
ドッ、と背中に鈍い衝撃。息が、一瞬止まる。
「知世ちゃん!」
「やめろ!」
桃矢が、影に向かって魔力を放った。光の弾が、影の体を貫く。でも、影は、びくともしない。
「……オ前ノ、魔力ハ……効カナイ……」
影が、知世の腕を、さらに強く掴んだ。骨が、ぎりぎりと音を立てる。
痛い。
でも、知世は、カメラを離さなかった。
「……離しませんわ」
知世は、歯を食いしばった。
「このカメラは、私の武器です。さくらさんを守るための、私だけの力ですもの」
知世は、影の腕に掴まれたまま、カメラを構え直した。
レンズの向こうに、さくらの泣き顔が映る。
(大丈夫。さくらさん。私が、絶対に守りますわ)
知世は、震える指で、録画ボタンを押した。
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その瞬間だった。
プロジェクターの光が、爆発的に強くなった。
桃矢の魔力が、映像を増幅している。スクリーンに映し出された映像が、光の粒となって、庭園中に飛び散った。
光の粒は、さくらの胸に、次々と吸い込まれていく。
「な、なに……これ……」
さくらが、自分の胸を押さえた。
光の粒が、さくらの中で、何かを呼び覚ましていく。
初めてのバトルコスチューム。
ケロちゃんとのイチゴタルト争奪戦。
小狼の不器用な告白練習。
桃矢の照れ隠しの優しさ。
そして、消しゴムを差し出したあの日の笑顔。
「……あ、ああ……」
さくらの目から、大粒の涙が、とめどなくあふれ出した。
「思い出した……全部、思い出したよ……」
さくらの体から、温かな光が、ふわりと広がった。
その光は、記憶喰らいの影を、包み込んだ。
「……グ、ウゥ……」
影が、苦しみ始めた。
「……ナゼダ……記憶ガ……戻ッテイク……」
影の体が、端から、崩れていく。
「……オ前ノ……映像ガ……記憶ヲ……照ラス……!」
影が、最後の力を振り絞るように、知世の腕を握りしめた。
でも、もう、その力は、弱々しかった。
「……さようなら。記憶喰らいの影さん」
知世は、静かに言った。
「さくらさんの記憶は、私の映像が守りますわ。これまでも、これからも、ずっと」
影が、びくりと震えた。
そして、
「……オ前ハ……スゴイ……」
そう言い残して、影は、光の粒となって、消滅した。
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庭園に、静けさが戻った。
風が、そっと吹き抜ける。桜のつぼみが、かすかに揺れた。
知世は、壁にもたれたまま、ゆっくりと座り込んだ。腕が痛い。背中も痛い。でも、カメラは、しっかりと手の中にあった。
「知世ちゃん!」
さくらが、知世に駆け寄ってきた。
「知世ちゃん、大丈夫? 痛い? ごめんね、わたしのせいで……」
「大丈夫ですわ、さくらさん。私は、これくらい平気ですのよ」
知世は、さくらに笑いかけた。
「……知世ちゃん、ありがとう。わたし、思い出したよ。知世ちゃんのこと、ぜんぶ」
さくらが、知世に抱きついた。
「知世ちゃんと、友達になった日のこと。一緒にカードを封印したこと。バトルコスチューム、いっぱい作ってくれたこと。……ぜんぶ、ぜんぶ、思い出した」
「さくらさん……」
知世の目からも、涙があふれた。
「さくらさん。私も、さくらさんの笑顔を、一秒たりとも忘れませんわ」
二人は、庭園の真ん中で、泣きながら、抱き合った。
桃矢が、そんな二人を、少し離れた場所から見ていた。
「……ったく、世話の焼けるやつらだ」
桃矢は、小さく呟くと、空を見上げた。
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その時だった。
知世の足元に、小さな影が、すっと現れた。
猫ほどの大きさの、小さな影。
知世が、これまで撮影した映像に、いつも映り込んでいた、あの影だった。
「……あなたは」
知世は、カメラを構えた。
小さな影は、知世の前に、じっと立っていた。
そして、聞こえた。
「……よくぞ、撮り続けた」
小さな影の声は、鈴を転がすような、澄んだ声だった。
「……お前の映像が、さくらの存在を守った。記録は、記憶を超える。お前は、それを証明した」
「……あなたは、さくらさんを守っていたのですか?」
知世は、尋ねた。
「……さくらを観測し、記録する者。それが、私の役目。だが、私は、記録することしかできなかった。お前のように、映像として、記憶を照らすことは、できなかった」
小さな影は、少しだけ、形を揺らした。
「……お前の撮影は、私の観測を超えた。だから、私は、お前に託す。さくらの記録を。そして、さくらの影を」
「さくらさんの……影を?」
「……いずれ、分かる。今は、まだ」
小さな影は、そう言うと、ゆっくりと、光の中に溶けていった。
「……さようなら。そして、ありがとう」
その言葉を残して、小さな影は、消えた。
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夕暮れが、庭園をオレンジ色に染めていた。
さくらは、泣き疲れて、知世の膝の上で眠っていた。
知世は、さくらの髪を、そっと撫でた。
「……さくらさん。私、これからも、撮り続けますわ」
知世は、眠るさくらに、静かに語りかけた。
「さくらさんの勇姿も、笑顔も、涙も、ぜんぶ。一秒たりとも逃さずに、私のカメラに収めますのよ」
その時、庭園の入り口に、人影が現れた。
柊沢エリオルだった。
濃紺の髪を、柔らかく風に揺らしている。深い紫の瞳が、夕日を受けて、不穏な光を宿していた。
「大道寺さん。お疲れさまでした」
エリオルは、穏やかな微笑みを浮かべながら、知世に近づいてきた。
「エリオルさん……」
「あなたの観察眼は、魔力よりも鋭い。映像という手段で、記憶喰らいの影を退けた。それは、魔法使いにもできないことですよ」
エリオルは、知世のカメラを、興味深そうに見つめた。
「あなたの撮影は、もはや、ただの記録ではない。さくらさんの存在を、この世界に繋ぎ止める、光そのものです」
「……エリオルさん。あなたは、最初から、全て知っていたのですね」
知世は、エリオルを、まっすぐに見つめた。
「ふふ。さあ、どうでしょうね」
エリオルは、微笑んだまま、目を細めた。
「ただ、一つだけ。次は、別の者の影で会いましょう」
「別の者の……影?」
「ええ。記憶喰らいの影は、消えました。でも、影は、一つではありません。あなたのカメラに映り込むものは、これからも、現れるでしょう」
エリオルは、そう言い残すと、夕暮れの中へと去っていった。
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決戦の翌日。
知世は、撮影室で、カメラのメンテナンスをしていた。
昨日の戦いで、カメラのボディには、いくつかの傷がついていた。でも、レンズは無事だった。
(さすがは、私の愛機ですわ)
知世は、カメラを、そっと布で拭いた。
その時だった。
カメラの電源を入れると、液晶画面に、一瞬だけ、何かが映り込んだ。
「……あら?」
知世は、再生ボタンを押した。
映像を、コマ送りで確認する。
すると、昨日の庭園の映像の最後の部分に、一瞬だけ、影が映り込んでいた。
でも、それは、以前の小さな影とは、形が違った。
人の形をした影。
小さな影のように、ぼやけてもいない。輪郭が、はっきりしている。
「……これは」
知世は、眉をひそめた。
その影は、庭園の木の陰から、知世とさくらを見つめていた。
そして、次の瞬間には、消えていた。
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その時、スマートフォンが、小さく震えた。
知世が画面を見ると、小狼からのメッセージが届いていた。
「大道寺、さくらのこと、頼んだぞ。俺はしばらく香港に戻る」
短い、簡潔なメッセージだった。
知世は、小狼のメッセージを読み終えると、静かに微笑んだ。
(小狼さん。さくらさんへの想いを、胸に秘めたまま、香港へ)
知世は、カメラを構え直した。
レンズの向こうには、撮影室の窓から差し込む、朝の光があった。
「さくらさんの勇姿は、一秒たりとも逃しませんわ」
知世は、静かに呟いた。
「……次は、どんな影が映り込むのかしら」
知世の目は、もう、恐怖に揺れていなかった。
その瞳に宿っていたのは、静かな決意と、ほんの少しの好奇心だった。
撮影室の窓の外では、友枝町の空が、青く広がっていた。Noveliaとは?
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