甘い嘘と苦い本音
カリスマデザイナー・飴村亂數、24歳。幼い外見と無邪気な笑顔でシブヤの若者たちを魅了する彼には、誰にも言えない秘密があった——中王区の極秘プロジェクトが生み出した、感情を持つクローン人間だということを。命をつなぐ特製飴が尽きたとき、追手の影が忍び寄る。天才医師・神宮寺寂雷だけが知る、彼の本当の姿。甘い笑顔の裏に隠された苦い本音が、静かに胸を締めつける。これは、嘘と本音のあいだで生き続ける一人の男の物語。
甘い嘘と苦い本音 - 雨に咲く、居場所の花
雨は、まだ降っていた。
シブヤの細い路地裏。ビルの隙間から漏れるネオンの光が、濡れたアスファルトを紫色に染めている。生ゴミと雨と、かすかに鉄の匂い。
飴村亂數は、その路地の壁に背中を預けて、ずるずると座り込んでいた。
ピンク色のふわふわした髪は、雨に濡れて頭の形に張り付いている。いつもの跳ねるような元気は、そこには一片もなかった。大きく丸い琥珀色の瞳は、開いているのか閉じているのかも分からないほど、虚ろに闇を映していた。
左目の下の泣きぼくろが、青白い肌の上で、雨粒を一滴、受け止めている。
首元のキャンディのネックレスが、鈍く、光っていた。
(……もう、動けない)
指先から、力が抜けていく。
いや、もっと前から、力なんて残っていなかった。
特製飴。乱数の体を維持するために必要な、命綱。神宮寺寂雷の研究室でしか作れない、月に約20粒の飴。
最後の一粒は、昨日の雨の中で、飲み込んでしまった。
もう、何時間も前の話だ。
体中の細胞が、悲鳴を上げている。血が、ドロドロと重くなっていくような感覚。心臓が、時々、一拍、跳ねる。そのたびに、胸の奥で、ぐちゃり、と嫌な音がする。
(……寒い)
雨が、体温を奪っていく。
いや、雨のせいだけじゃない。
体の内側から、凍えていた。
ブブッ。
ポケットの中で、スマートフォンが震えた。
乱数は、重い腕を持ち上げた。
指が、うまく動かない。何度か画面に触れて、ようやく、メッセージが開いた。
『もうお前の居場所はどこにもない。シブヤも、イケブクロも、シンジュクも。お前を受け入れる場所は、この世のどこにもない。大人しく、消えろ』
差出人は、不明。
でも、分かっていた。
中王区の粛清局。通称、掃除屋。
黒ずくめのスーツを着た、中王区のエージェント。感情を持つクローンである乱数を、非合法に処理するために追ってくる者たち。
(……分かってるよ)
乱数は、心の中で、そう呟いた。
(そんなこと、言われるまでもない)
(俺の居場所なんて、最初から、どこにもなかった)
(……なかったんだ)
スマートフォンを握る手に、力が入る。
指が、白くなる。
(失敗作)
(感情を持つ、失敗作)
(中王区に捨てられた、出来損ないのクローン)
(そんな俺が、居場所なんて、望めるわけが……)
そこまで考えて、乱数は、目を閉じた。
もう、何も考えたくなかった。
このまま、雨に溶けて、消えてしまいたい。
路地の壁に、もたれかかる。
冷たい。
硬い。
でも、今は、その冷たさが、心地よかった。
(……ああ)
(これで、終わりなのかな)
意識が、遠のいていく。
暗い、深い、底なしの闇に、引きずり込まれていく。
その時。
——困ってる奴を放っておけないだけだ。
誰かの声が、脳裏に蘇った。
低くて、真っ直ぐで、馬鹿みたいに温かい声。
山田一郎。
イケブクロ・ディビジョン代表。Buster Bros!!!のリーダー。
萬屋ヤマダで、初めて会った日。
荷物を抱えてよろけた乱数に、声をかけてきた男。
「困ってる奴を放っておけないだけだ」
あの時の一郎の笑顔が、まぶたの裏に浮かんだ。
八重歯が見える、無邪気な笑顔。
(……なんで)
(なんで、今、あいつの顔が……)
乱数は、ゆっくりと、目を開けた。
雨が、視界の端で、光っていた。
——お前の居場所は、ここだろ。勝手に消えるな。
また、声がした。
昨夜、掃除屋に襲われた時、乱数を抱え上げてくれた時の、一郎の声。
怒りを込めた、でも、どこか優しい声。
(……うるさいな)
(……あんたには、関係ないだろ)
(俺は、俺のことを、自分で決める)
乱数は、唇を噛んだ。
鉄の味が、口の中に広がる。
(俺は、もう……)
その時。
ザッ。
路地の入り口で、水を踏む音がした。
乱数は、顔を上げた。
雨のカーテンの向こう。
ネオンの光を背負って、一人の男が、立っていた。
黒髪の短髪に、赤いメッシュ。強気な赤い瞳。左目の下と唇の左下に、ほくろ。
山田一郎だった。
一郎は、何も言わずに、乱数を見ていた。
雨に濡れた、黒いパーカー。肩で、息をしている。
走ってきたのだ。
ずっと、探していたのだ。
一郎は、ゆっくりと、路地の中へ入ってきた。
水たまりを踏む音が、静かな路地に、やけに大きく響く。
「……来ないでくれ」
乱数の口から、低い声が漏れた。
地声。
普段、乱数が必死に隠している、男らしい低い声。
「お前には、関係ない。……消えてくれ」
乱数は、顔を背けた。
一郎の顔を、まともに見ることができなかった。
でも、一郎は、足を止めなかった。
乱数のすぐそばまで来ると、雨に濡れたアスファルトの上に、片膝をついた。
そして、乱数の濡れた頭に、そっと、手を置いた。
大きな、ごつごつとした、温かい手。
「……お前の居場所は、お前が決めていいんだよ」
静かな声だった。
雨音に消えそうなほど、小さな声。
でも、乱数の耳には、はっきりと、届いた。
「誰かに決められた場所じゃなくて、お前が、ここだって思った場所が、お前の居場所だ」
一郎の手が、乱数の髪を、優しく撫でる。
乱数は、息を呑んだ。
肺の動きが、一瞬、止まった。
(……なに、言ってるんだ)
(居場所を、俺が決めていい?)
(そんなの……)
(そんなの、許されるわけが……)
乱数の胸の奥で、何かが、軋んだ。
凍りついていた何かが、音を立てて、ひび割れていく。
「……俺は、失敗作なんだぞ」
乱数は、震える声で、そう言った。
「中王区に捨てられた、出来損ないのクローンだ。感情を持つ、失敗作。……そんな俺に、居場所なんて、あるわけないだろ」
「あるさ」
一郎は、即答した。
「お前が、ここにいたいって思うなら、ここがお前の居場所だ。それだけの話だろ」
乱数は、唇を噛んだ。
泣きそうになるのを、必死にこらえた。
(……やめろ)
(そんな風に、優しくするな)
(俺は、お前を裏切ったんだぞ)
(The Dirty Dawgを、中王区の命令で、壊したんだぞ)
(お前の大切なチームを、俺が……)
言いたいことは、山ほどあった。
でも、喉の奥で、言葉が、つかえた。
一郎の手の温かさが、乱数の凍えた心に、じんわりと、沁みていく。
雨の冷たさが、少しだけ、和らいだ気がした。
「……ったく、しょうがねえな」
一郎は、苦笑いした。
「お前がそんな顔してると、こっちまで泣きそうになるだろ」
「……泣いてない」
「泣きそうな顔してるくせに」
「してないって言ってるだろ!」
乱数は、顔を上げて、一郎を睨みつけた。
でも、目が、潤んでいる。
「ほら、やっぱり泣きそうじゃねえか」
一郎は、乱数の頭を、ぽんぽんと叩いた。
「……ばか」
乱数は、小さく、そう呟いた。
その時。
「おーい、いたいた!」
明るい声が、路地の入り口から聞こえた。
振り返ると、茶髪の無造作ヘアの男が、雨の中を駆けてくる。
有栖川帝統。
Fling Posseのメンバー。ギャンブル狂の、乱数の仲間。
「ったく、探したぜ!お前、電源切るなよな!」
帝統は、乱数の顔を見て、笑った。
「……乱数、無事でよかった」
帝統の後ろから、もう一人。
黒髪の長めの髪を後ろで軽く結んだ、書生のような風貌の男。
夢野幻太郎。
同じくFling Posseのメンバー。小説家。
幻太郎は、乱数の顔を見て、ほっとしたように、微笑んだ。
「……幻太郎、帝統……」
乱数は、二人の顔を、交互に見つめた。
「なんだよ、その顔。雨に濡れて、子犬みたいになってるぜ」
帝統は、乱数の前にしゃがみ込んだ。
「賭けだ」
帝統は、ポケットから、サイコロを取り出した。
「俺たちが勝ったら、お前は俺たちの仲間だ。お前が負けたら……いや、お前が勝っても、俺たちの仲間だ。どっちに転んでも、お前は仲間だ。……まあ、つまり、そういうことだ」
帝統は、サイコロを、手のひらで振った。
カラカラ。
サイコロが、雨に濡れたアスファルトの上に、転がる。
出た目は、6。
「上等だ!お前の負けだな!」
帝統は、サイコロを拾い上げて、乱数に突きつけた。
「サイコロが決めた。お前は、今日から、俺たちの仲間だ。異論は認めねえぜ」
乱数は、帝統の顔を、じっと見つめた。
(……なんで)
(なんで、みんな、そんなことを……)
「君は嘘が下手だね」
幻太郎が、静かに、そう言った。
「でも、今の君の言葉は、本当だろう?」
幻太郎の紫色の瞳が、乱数の心の奥を、見透かすように、光った。
「君は、本当は、一人になりたくない。そうだろう?」
乱数は、何も言えなかった。
違う、と言いたかった。
でも、言えなかった。
幻太郎の言う通りだったから。
「なら、素直に、そう言えばいい」
幻太郎は、優しく、微笑んだ。
「僕たちは、君の仲間だ。君が何者であろうと、関係ない」
「そうそう!クローンだとか失敗作だとか、そんなの知ったこっちゃねえよ!」
帝統が、明るく、そう言った。
「俺たちが知ってるのは、お前が、俺たちの仲間だってことだけだ!」
乱数の胸が、ぎゅう、と音を立てた。
温かい。
痛い。
嬉しい。
悲しい。
いろんな感情が、ぐちゃぐちゃになって、胸の奥で、渦を巻く。
涙が、溢れてきた。
もう、我慢できなかった。
「……俺は……」
乱数の口から、震える声が、漏れた。
「……俺は、みんなと、一緒にいたい……」
低い、地声。
本音。
乱数が、初めて、自分の言葉で、自分の願いを口にした瞬間だった。
「……ここに、いたい……お前らと、一緒に……」
涙が、乱数の頬を、伝い落ちた。
雨と混ざって、分からなくなる。
でも、確かに、乱数は、泣いていた。
「……それでいいんだよ」
一郎が、笑った。
八重歯が見える、あの笑顔。
「最初から、そう言えばよかったんだ」
一郎は、乱数の頭を、もう一度、撫でた。
「お前の居場所は、ここだ。シブヤだ。俺たちの隣だ」
乱数は、一郎の手の温かさを感じながら、声を上げて、泣いた。
子供みたいに。
雨の中、路地裏で。
三人の仲間に囲まれて。
乱数は、ようやく、自分の居場所を見つけた。
……その時だった。
ブブブブブ!
乱数のスマートフォンが、けたたましく、震えた。
乱数は、泣き腫らした目で、画面を見た。
メッセージが、届いていた。
差出人は、不明。
掃除屋からだった。
『夜明けと同時に、中王区へ出頭しろ。従わなければ、お前がクローンであることを、街中に公開する。お前の存在そのものを、この世界から消してやる』
乱数の顔から、さあっと、血の気が引いた。
指先が、震える。
「……行くしか、ないのかな」
乱数は、震える手で、スマートフォンを握りしめた。
「行く必要なんてねぇ」
一郎が、力強く、そう言った。
「俺たちで止めるぞ。お前の居場所は、お前が決めた場所だ。誰にも、奪わせるな」
「一郎の言う通りだ。君は、もう一人じゃない」
幻太郎も、静かに、頷いた。
「おうよ!掃除屋だかなんだか知らねえが、相手になってやろうぜ!」
帝統も、笑った。
乱数は、三人の顔を、見つめた。
みんな、本気だった。
乱数のために、戦おうとしている。
(……俺は、もう、逃げない)
乱数は、心の中で、そう誓った。
そして、ポケットから、一枚の名刺を取り出した。
『萬屋ヤマダ 山田一郎』
初めて会った日、一郎がくれた名刺。
捨てられずに、ずっと持っていたもの。
乱数は、その名刺を、しっかりと、握りしめた。
雨に濡れた名刺が、手の中で、くしゃり、と音を立てた。
でも、乱数は、離さなかった。
それが、乱数の決意だった。
四人は、雨の中、シブヤの中心街を、西へ向かって歩いていた。
シブヤ・アンダーグラウンド。中王区の監視が届きにくい、シブヤの地下に広がる全長約8キロの地下街。
その入り口の一つへ向かっていた。
雨は、さっきよりも、少しだけ、弱くなっていた。
でも、まだ、降り続いている。
乱数は、一郎の隣を歩いていた。
ふと、一郎の横顔を見上げる。
雨に濡れた、黒いメッシュの髪。
真っ直ぐ前を見つめる、赤い瞳。
(……この人は、なんで、ここまでしてくれるんだ)
乱数は、ずっと、思っていた。
「……なぁ、一郎」
乱数は、地声で、そう呼びかけた。
「あん?」
一郎が、乱数の方を向いた。
「なんで、ここまでしてくれるんだ?」
乱数は、真っ直ぐに、一郎の目を見て、問いかけた。
「俺は、お前を裏切った。The Dirty Dawgを、壊した。……それなのに、なんで、お前は……」
一郎は、少しだけ、黙った。
そして、ふっと、笑った。
「決まってんだろ」
一郎は、乱数の頭に、ぽん、と手を置いた。
「お前が、俺の仲間だからだ」
乱数は、その言葉を聞いて、胸の奥が、じわりと、熱くなった。
顔が、熱い。
雨のせいだけじゃない。
(……なんだよ、それ)
(ずるいだろ、そんなの)
乱数は、顔を背けた。
でも、口元が、少しだけ、緩んでいた。
「おいおい、俺もいるぜ?俺もお前の仲間だろ?」
帝統が、後ろから、乱数の肩に腕を回した。
「忘れてもらっちゃ困るな!俺は、お前とサイコロで決めた仲なんだからよ!」
「うるさいな、わかってるよ!」
乱数は、高い声で、そう返した。
でも、その声は、どこか、嬉しそうだった。
「……ふふ」
幻太郎が、後ろで、微笑ましそうに、笑った。
「君が、そんなに嬉しそうだと、僕も嬉しいよ」
「嬉しそうな顔なんてしてない!」
乱数は、幻太郎を、睨みつけた。
でも、全然、怖くなかった。
むしろ、自分でも、顔がにやけているのが、分かっていた。
シブヤ・アンダーグラウンドの入り口に着いた。
ビルの地下へ続く、人目につかない階段。
四人は、雨を避けて、その階段を降りていった。
地下街は、しん、と静まり返っていた。
深夜のアンダーグラウンド。
店は、ほとんど閉まっている。
非常灯の青白い光だけが、長い通路を、ぼんやりと照らしていた。
四人の足音だけが、地下の静寂に、コツコツと響く。
「夜明けまで、あと何時間だ?」
帝統が、スマートフォンの時計を確認しながら、そう言った。
「あと、3時間ってとこか」
一郎が、答えた。
「3時間か……十分だな。俺の強運があれば、なんとかなる」
帝統は、サイコロを、ポケットから取り出して、握りしめた。
「僕は、中王区の動きを、もう少し詳しく調べてみるよ。掃除屋が、どこまで本気なのか、情報を集める必要がある」
幻太郎は、持っていた本を、パラパラとめくりながら、そう言った。
「俺は、二郎と三郎に連絡を入れる」
一郎が、スマートフォンを取り出した。
「……待って」
乱数が、一郎の腕を、掴んだ。
「弟たちを、巻き込むのは……」
乱数は、一郎の目を見て、首を振った。
「お前の弟たちは、まだ、子供だ。……俺のせいで、危険な目に合わせるわけには……」
「あいつらも、もう大人だ」
一郎は、乱数の手を、そっと、外した。
「それに、あいつらは、お前のことを心配してる。……お前が、シブヤの街頭ビジョンで、あんな風に言われてるのを見て、あいつら、すげえ怒ってたんだぜ」
乱数は、驚いた。
「……なんで、お前の弟たちが、俺のことを……」
「さあな。でも、あいつらは、お前のことを、もう仲間だと思ってるのかもな」
一郎は、笑って、スマートフォンを操作した。
「もしもし、二郎か。……ああ、俺だ。今、シブヤのアンダーグラウンドにいる。……ああ、乱数も一緒だ。……おう、頼む。……ああ、気をつけてな」
一郎は、短く、そう伝えると、電話を切った。
「二郎と三郎は、イケブクロから、情報を集めてくれるってよ。萬屋ヤマダのネットワークを使えば、掃除屋の動きも、多少は掴めるはずだ」
乱数は、何も言えなかった。
一郎の弟たちまで、乱数のために、動いてくれている。
(……俺は、こんなに、みんなに……)
乱数の胸が、また、熱くなった。
「……乱数」
幻太郎が、乱数の隣に来て、そっと、肩に手を置いた。
「君は、一人で抱え込みすぎだ。……でも、もう、大丈夫。君の隣には、僕たちがいる」
「そうだぜ!俺たちがいる限り、お前を一人になんてさせねえよ!」
帝統も、乱数の頭を、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょっと、帝統!髪がぐちゃぐちゃになるだろ!」
乱数は、高い声で、抗議した。
でも、その声は、震えていた。
嬉しくて。
ありがたくて。
涙が出そうで。
乱数は、必死に、それを隠した。
Fling Posseの隠れ家に着いた。
シブヤ・アンダーグラウンド2層にある、元廃墟の倉庫を改修した秘密基地。
広さ約80平方メートル。
入口は三箇所、すべて隠し扉。
乱数専用の休息室、幻太郎の書斎、帝統のカードテーブル。
乱数は、自分の休息室の前で、足を止めた。
(……戻ってきちゃった)
(俺の、居場所)
(……いや、違う)
(俺が、帰ってきたんだ)
乱数は、部屋のドアを開けた。
中は、暗かった。
でも、乱数には、この部屋の匂いが、懐かしく感じられた。
乱数は、部屋の隅に置いてある、自分のヒプノシスマイクを手に取った。
キャンディ型の装飾が施された、特注品。
シブヤのデザイナーらしい、可愛らしいマイク。
でも、それは、ただの飾りじゃない。
乱数の、武器。
乱数は、マイクを、ぎゅっと握りしめた。
「……俺は、もう逃げない」
低い、地声。
「ここが、俺の居場所だ。……俺は、ここで、戦う」
乱数は、マイクを、胸の前に抱えた。
雨に濡れた体が、まだ、冷たい。
でも、心は、不思議と、熱かった。
夜明けは、もうすぐだった。
掃除屋との、決戦の時が、迫っていた。Noveliaとは?
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