プリキュア世界に放り出されてしまったけど
プリキュア世界に放り出されてしまったけど、高木恭一はついに怪物じみた魔神を打ち倒した。自分の世界に帰れると、そう思っていた。だが、最終決戦の大爆発に巻き込まれ、またしても異次元へと吹き飛ばされてしまう!
今度は、伝説の戦士『プリキュア』が怪物と戦っている最中の屋上に墜落した。チート能力は健在で、それは最高だったんだが、とんでもないことが起きる。なんと、プリキュアが変身したり強くなったりするために使う、妖精のような存在になってしまったのだ!
さらに最悪なことに、彼の魔力は伝説の戦士である、超クールで男前な美墨なぎさと完全にリンクしてしまった。こうして恭一は、事実上なぎさのパワーアップ妖精となる。好き嫌いにかかわらず、彼の戦いを助けなければならない。
生活は一変する。なぎさはぶっきらぼうでやや不機嫌だし、相棒は超がつくほど元気な女の子で、いつも恭一を振り回す。まさにカオス! だが、この世界の敵はただの間抜けな怪物じゃない。闇の力が、なぎさの秘めた弱さや悲しみにつけ込み、その心に侵入しようとしているのだ。クールな態度の裏で、なぎさは傷ついている。それを、恭一は放っておけなかった。
た
プリキュア世界に放り出されてしまったけど - 黄昏の灯の老女——お前の正体、見えてるぜ
契約の夜から一晩が明けて、なぎさのアパートには静かな朝が訪れていた。
カーテンの隙間から細い日が差し込む。部屋の真ん中で、小さな金色の光の玉がふわふわと浮いていた。高木恭一だ。まだ寝ているのか、光がゆっくりと明滅している。
「起きなさいよ! 今日は大事な話があるんだから!」
なぎさは手近にあったクッションを掴んで、恭一目がけて投げつけた。クッションは恭一の小さな体をすり抜けて壁に当たる。
「……うるせえな。まだ朝だろ」
「もう十時よ! 昨日の仮契約の後、ずっと寝てたの?」
なぎさは腰に手を当てて、テーブルの上の恭一を見下ろした。昨日の魔力共有で、二人は互いの過去の断片を覗き見てしまった。なぎさは恭一が元の世界で恋人を失ったことを知ったし、恭一はなぎさの二年間の孤独を知った。
気まずい。でも、少しだけ距離が近づいた気もする。
「で、大事な話ってなんだよ」
恭一が伸びをしながら尋ねた。小さな光の体がくにゃりと歪む。
「ベアトリスさんに会いに行くわ。黄昏の灯結社のトップ。あの人があんたを見たいって」
「……ババアか? めんどくせえ」
「ババアって言わないの! すごく偉い人なんだから!」
なぎさは恭一を無理やり掴むと、自分のカバンに押し込んだ。こういう時の彼女は有無を言わせない。
――――――――――――――
二人が訪れたのは、ベルクレイン区の一等地にそびえ立つオベリスクタワーだった。高さ180メートルのランドマークタワー。地上30階は表向きの貿易会社「ルミナス・トレーディング」のオフィスになっている。
なぎさは正面玄関ではなく、裏手の小さな通用口に向かった。虹彩認証と、魔力波長認証を済ませる。
「ここからが本当の入り口よ」
隠しエレベーターが地下へと降りていく。到着した場所は、まるで未来の研究所のような空間だった。白い壁に淡い青色の照明。最新のグローム探知システムが壁一面に並び、十人ほどの職員が忙しそうに働いている。
「へえ……すげえな」
恭一がカバンの中から顔を覗かせて呟いた。
通路を抜けると、重厚な木製の扉が現れた。なぎさは小さく深呼吸してから、ノックした。
「入っていいですわよ」
扉の向こうから、落ち着いた女性の声が聞こえた。
なぎさが扉を開けると、そこは驚くほどクラシカルな執務室だった。壁一面にぎっしりと並んだ古い書物。暖炉の火がパチパチと音を立てる。大きなアンティークの机の向こうに、一人の老婦人が座っていた。
銀色の髪を後ろでシニヨンにまとめ、片眼鏡をかけている。鋭い金色の瞳が、じっとなぎさのカバンを見つめていた。右手には古い火傷の痕。脇には銀の杖が立てかけてある。
「お久しぶりです、なぎささん。そして——そちらの妖精さんも、どうぞ出てきてくださいな」
恭一はカバンからふわりと浮かび上がった。ベアトリスと目が合う。その瞳は、全てを見透かすように鋭かった。
(このババア、やべえな)
恭一は直感的に警戒した。面倒なタイプだ、こういうのは。
「まあ……異界の来訪者ですわね。しかも、妖精化している。500年の歴史で、こんな事例は初めてですわ」
「なっ……見ただけで分かるんですか!?」
なぎさが驚きの声を上げる。ベアトリスは静かに微笑んだ。
「私も長く生きておりますので。先代のプリキュアを支援したこともありますしね。通常の光の妖精とは、魔力の質が全く違います。この方は……混沌としている」
「要するに、俺は異世界から来た元人間の、高木恭一だ。今はこんな姿だけどな」
恭一は面倒くさそうに自己紹介した。どうせ隠しても無駄だと思ったのだ。
ベアトリスは杖をついて立ち上がり、恭一の目の前まで歩いてきた。しわだらけの手を伸ばし、恭一の周囲の金色の粒子にそっと触れる。
「なるほど……これはまた、面白いことになりましたわね」
「面白いで済まされてもな。こっちは大変なんだぜ」
「おーっほっほっほ! 言葉遣いは粗野ですけど、根は善人。悪くありませんわ」
高笑いする老女に、恭一はますますめんどくせえと内心で舌打ちした。
「なぎささん」
突然、ベアトリスの声が真剣なものに変わる。
「この方と、正式な契約を結びなさい。おそらく——あなたの孤独を終わらせる鍵になります」
なぎさは目を見開いた。孤独を終わらせる鍵。その言葉が、胸の奥にすとんと落ちる。
「……はい」
「で、契約ってのはまあいいとして」
恭一が話に割り込んだ。
「もっと具体的に、俺の扱いを決めようぜ。あんた、俺の能力を知りたいんだろ?」
ベアトリスの金色の瞳が、わずかに細められた。
「話が早くて助かりますわ。そうですね——何か、見せてほしいですわね。あなたの本当の力というものを」
「よし、見て驚け」
恭一は小さな手を虚空に突っ込んだ。収納魔法の入り口が開き、淡い金色の光が溢れる。彼の手が掴んだのは、ごつごつした岩のようなブローチだった。
「古代ゴーレムの召喚石だ。結構使えるぜ」
恭一がブローチを床に放ると、それは瞬時に巨大化した。
ドゴォォン!
重い地響きとともに、全長5メートルの石像ゴーレムが実体化する。灰色の巨体が、執務室の天井すれすれにそそり立った。無数の魔法文字が、ゴーレムの表面でぼんやりと光っている。
「……先代プリキュアが使っていた召喚術よりも、はるかに強力ですわ」
ベアトリスの声がわずかに震えた。片眼鏡の奥の金色の瞳が、驚愕に見開かれている。
「だけじゃねえぞ。動けるんだ、これが」
恭一が指を鳴らすと、ゴーレムはぎこちなく手足を動かし始めた。そして——奇妙なダンスを踊り始めた。
巨大な石の体が、リズムに乗ってくねくねと揺れる。腕をぐるぐる回し、腰を振り、時折ピョンと跳ねる。
「あはは! なにそれ! なにやってんのよ!」
なぎさが腹を抱えて笑い出した。涙が出るほど笑っている。
「……ぷっ」
ベアトリスも思わず吹き出した。手を口に当てて、肩を震わせている。
「あ、あはは! こ、これは失礼……! 500年生きてきて、ゴーレムのダンスを見る日が来るとは思いませんでしたわ!」
ベアトリスは涙を拭いながら、何度か咳払いをした。そして、すぐに表情を引き締める。
「……この力は、冗談では済まされません。深淵の満潮を止める鍵になるかもしれない」
「深淵の満潮?」
なぎさが笑いを引っ込めて尋ねた。
「1000年周期の闇の力の活性化現象です。グロームの発生率が通常の50倍に跳ね上がり、楔となる人口が急増する。すでに、その兆候は現れ始めているのです」
ベアトリスは杖で床を軽く叩いた。壁に掛けられた巨大な地図が光り、トウキョウ都市圏の様々な場所に赤い点が表示される。
「先週だけで、グロームの発生数は通常の15倍。このままでは、トウキョウ中が楔で溢れかえります。なぎささん、そして恭一さん——あなたたちの正式な契約が、この危機を乗り越える鍵になるのです」
なぎさは黙って頷いた。恭一は面倒くさそうにため息をついたが、その光は強くなっていた。
――――――――――――――
その夜。
ベアトリスとの会談を終え、二人はなぎさのアパートに戻っていた。恭一はテーブルの上でだらりと寝転がり、なぎさはベッドに腰掛けて窓の外を眺めている。
「深淵の満潮……そんなのがあるなんて、知らなかった」
なぎさが呟いた。その声には、かすかな震えが混ざっている。
「まあ、何があってもどうにかなるだろ」
「どうにかなるって、そんな簡単に——」
なぎさが言いかけた瞬間だった。
けたたましい警報が、部屋中に鳴り響いた。壁に立てかけてあったグローム探知機が、激しく赤く点滅している。
「……これ、すごい反応! 場所はトウキョウ駅前!」
「サイファーじゃねえな。もっとでかい」
恭一の光が鋭く輝いた。彼は空中で素早く向きを変え、ポケットから何かを取り出す。ゴーレムの召喚石と、万能傷薬の瓶だ。
「行くわよ、恭一!」
「へいへい。やるか」
二人は夜の街へと飛び出した。
――――――――――――――
トウキョウ駅前は、地獄だった。
駅舎の一部が崩れ落ち、炎が上がっている。逃げ惑う人々の悲鳴。ひっくり返った車。割れたガラスの破片が、街灯の光を反射してぎらついていた。
その中心に、そいつは立っていた。
全長8メートル。漆黒の巨体が、人間の形をしている。三つの頭部を持ち、六本の腕がゆっくりと蠢いている。全身から立ち上る黒い靄が、周囲の光を吸い込んでいた。
オブシディアン。複数の楔の闇が融合した、大型グロームだ。
「……プリキュアか。待っていたぞ」
オブシディアンが口を開いた。人間の言葉を話す。その声は、三人の人間が同時に話しているかのようだった。深く、ねじれた声。
「俺は三人の楔が融合した存在。孤独で、絶望して、死にたかった者たちの塊だ。お前の心の闇も——よく見えるぞ」
「黙れ!」
なぎさは怒りに任せて地面を蹴った。同時に、右拳に光が集まり始める。光浄拳のチャージだ。
「無駄だ」
なぎさが光浄拳を放つ。白い光の奔流が、まっすぐにオブシディアンの頭部へと向かう——だが。
ガキィン!
黒い装甲に弾かれた。光が四散し、周囲の建物に穴を開ける。
「なっ!?」
次の瞬間、オブシディアンの六本の腕のうちの一本が、鞭のようにしなった。黒い触手が空気を裂き、なぎさの腹部に直撃する。
「——ぐっ!」
なぎさの小さな体が、吹き飛ばされた。ビルの壁に叩きつけられ、制服が血で染まる。口からも血が滴り、彼女はうめき声を上げた。
「たかが一人の人間が、闇に勝てると思うな。お前は孤独だ。誰にも守れない。誰からも必要とされていない」
オブシディアンが嘲笑う。その言葉は、心浸蝕の力だ。なぎさの心の闇が、ぞわりと膨れ上がる。
——私なんて
——一人で何ができるの
——守れない、誰も
「……う、あ……」
なぎさの視界がぼやける。痛みと、闇の浸蝕とで、まともに動けない。
「てめえ!!」
恭一が吠えた。小さな金色の光の玉が、なぎさの前に立ちはだかる。
「よくもやってくれたな! ゴーレム、来い!!」
恭一が召喚石を投げつける。地面に落ちた瞬間、爆発的な光が溢れ出し、5メートルの石像ゴーレムが実体化した。
ゴーレムはオブシディアンに突進する。重い拳を叩き込むが、オブシディアンは涼しい顔で受け止めた。
「こんな玩具で時間稼ぎか」
「うるせえ!」
恭一はなぎさの元に飛び降り、万能傷薬の瓶を彼女の口元に運んだ。
「……ごめ、ん……」
血を吐きながら、なぎさが謝る。
「謝ってる暇があったら飲め! 死にてえのか!」
恭一は傷薬をなぎさの口に流し込んだ。彼女の傷がみるみる塞がっていく。しかし、完全に回復するには時間が足りない。
出血は止まったが、彼女の体はまだ震えている。制服が真っ赤に染まっていた。青白い顔。苦しそうに歪む眉。
その姿が、恭一の記憶と重なった。
——ユキ。
血の海に倒れた、長い黒髪の女性。伸ばした手は空を切った。守れなかった。あの時も、こんな風に。
(もう二度と——)
恭一の胸の奥で、何かが破裂した。怒りと、悲しみと、決意が、爆発する。
「お前を一人で死なせるかよ!!」
恭一が叫ぶと同時に、彼の小さな体から信じられない量の魔力が溢れ出した。金色の光が津波のように広がり、周囲の闇を焼き払う。
全魔力開放。
ゴーレムが、倍のサイズに巨大化した。10メートルの巨体が、オブシディアンの倍以上の大きさになる。
「なっ……!」
オブシディアンが初めて動揺した。ゴーレムが六本の腕を全て掴み、がっしりと拘束する。
「今だ、なぎさ! やれ!!」
恭一の声が震えていた。彼の妖精体が明滅を始めている。魔力が限界に達しているのだ。
なぎさはよろめきながら立ち上がった。恭一の魔力が、彼女の拳に流れ込む。黄金の光が、渦を巻いて集中していく。
「……これが、私たちの力——ッ!!」
なぎさが吼えた。
一瞬、時が止まった。
——次の瞬間。
光浄拳が、黄金の奔流となって放たれた。それはもはや、先ほどの白い光とは比べ物にならない。太陽の輝きそのものが、オブシディアンの頭部コアに向かって突き進む。
ドォォォォン!!!!
爆発。
漆黒の巨体が砕け散り、黒い結晶が無数に飛び散る。三つのグロームコアが、地面に落ちてカランと音を立てた。
「……はぁ、はぁ」
なぎさは膝から崩れ落ちた。恭一もまた、限界だった。光が小さくなり、ふわりと地面に落ちる。
「……やったか」
「……うん」
二人はその場に倒れ込んだ。
――――――――――――――
戦闘から一時間後。
二人は、恭一が収納魔法から取り出した簡易テントの中で休んでいた。テントの中は、不思議と暖かかった。恭一の魔力が、残り少ないながらも、毛布のように二人を包んでいる。
なぎさは毛布にくるまり、膝を抱えて座っていた。恭一は彼女の肩の上に浮かんでいる。
長い沈黙が続いた。
「……私、二年間、ずっと一人だった」
なぎさがぽつりと話し始めた。テントの小さな窓から、わずかに月明かりが差し込む。
「男なのにプリキュアに選ばれて、誰にも言えなくて。学校では明るく振る舞って、放課後は一人で戦って。友達と遊びに行っても、心のどこかでいつも『私だけ違う』って思ってた」
恭一は黙って聞いている。
「夜になると、すごく怖くなって。もし私が負けたら、誰がこの街を守るんだろうって。でも誰にも頼れなくて……一人で、泣くしかなかった」
なぎさの目から、涙がこぼれた。二年分の孤独が、堰を切って溢れ出す。
「誰かに……誰かに『大丈夫だよ』って言ってほしかった。『一人じゃないよ』って……」
恭一は黙って、彼女の頭に触れた。小さな光の手で、ゆっくりと撫でる。
「……お前はもう、一人じゃねえ」
恭一の声は、とても優しかった。いつもの面倒くさそうな口調とは、まるで別人のように。
「…………恭一」
なぎさは恭一の小さな体を両手で包み、自分の額にそっと押し当てた。涙が、恭一の光に吸い込まれていく。
「俺はお前を、一人で戦わせたりしねえ。めんどくせえけど——それだけは、絶対にやらねえ」
恭一の決意が、魔力となってなぎさに伝わる。テントの中が、淡い金色の光に包まれた。二人の魔力が共鳴しているのだ。
なぎさはしばらく泣き続けた。でもその涙は、さっきまでの絶望のものとは違った。
ようやく、誰かに甘えることができた。
その安堵が、彼女の心を少しずつ癒していく。
――――――――――――――
その光景を、遠くから見つめる者がいた。
オベリスクタワーの屋上。
銀の杖をついた老女——ベアトリス・シンクレアが、双眼鏡を下ろした。彼女の表情は、優しさと、そして深い憂いに満ちている。
「……あの金色の光。確かに素晴らしい。ですが」
彼女の金色の瞳が、細められた。
「恭一さんの魔力の奥に——ちらりと見えた、異質な闇の気配。あれは、何ですの……?」
ベアトリスは月を見上げた。
「妖精化しただけではない。何か、もっと深い……根源的な闇が、あなたの中には潜んでいる。もしそれが目覚めたら——」
彼女は首を振り、それ以上は言葉にしなかった。
ただ、冷たい夜風が、彼女の銀髪をそっと揺らしていた。
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