ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック
ハンターズギルドが、かつてない大混乱に陥っている!
ある朝、目を覚ましたハンターたちは、自分たちの身体がすっかり入れ替わっていることに気づく。無敵の大剣使いは可憐な少女に、弓の名手は筋骨隆々の男に。原因は、謎の古龍が落とした呪われた「逆鱗の欠片」。元に戻るためには、その古龍を討ち倒し、すべての欠片を集めなければならない。
しかし、狩猟はめちゃくちゃだ!軽やかになった新たな身体を満喫する者もいれば、重すぎる武器を持ち上げることすらできない者もいる。「俺の髭を返せ!」「この長いまつ毛はなんなんだよ!?」街は笑い声と悲鳴に包まれ、アイルーたちはそれを見て、ちょっと楽しみすぎている様子だ。
そんな中、最大の厄介事は、若きハンターコンビ、リョウとユラに降りかかる。生意気な少年リョウは、ふわふわの金髪を持つ可憐な少女の姿に。相棒のユラは、クールな銀髪の美女から、背の高いハンサムな少年へと変わってしまう。彼らは常に言い争う犬猿の仲だったが、今では互いの新しい身体を前に、うろたえてまともに話すこともできない。
狩猟の最中でさえ、リョウはスカートが気になっ
ハンター試験!?逆転の大脱皮パニック - 起きてビックリ!俺が女の子!?
まぶたの裏が、じんわりと明るくなった。
朝だ。
リョウは寝ぼけたまま、いつものように布団をはいだ。
……なんか、空気がちがう。
腕が、するりと動く。いつもの、筋肉をまとったぶ厚い腕じゃない。細くて、やわらかい。
「……は?」
声が、やけに高い。自分の口から出たとは思えない、ふわふわした響き。
ガバリと起き上がる。
視界が、高い。いつもより、目線が五センチくらいは上にある。いや、これは――ベッドの端に寄っていただけだ。体が、小さくなってる?
「なんだこれ……なんだこれ!?」
あわてて自分の手を見た。
見知らぬ、白くて細い指。ツンツンと短かった爪は、きれいな卵型に整っている。腕には、男だった頃にはなかった、ほのかな丸みがある。
嫌な予感を胸に、ふらふらと立ち上がった。
壁にかけてある、磨き込まれた鋼鉄の鏡に近づく。
一歩。また一歩。
鏡の前に立って、リョウは絶句した。
そこにいたのは、見知らぬ女の子だった。
大きな碧い瞳。長くて濃いまつげが、まばたきのたびにふさふさと上下する。ふわふわの蜂蜜色の髪が、背中の半ばまでゆるやかに流れ落ちていた。白いブラウスに青いスカート。昨日まで着ていた革の胴着とズボンは、床にぶかぶかになって落ちている。
おれじゃない。
絶対に、おれじゃない。
「[scared]うわあああああああああッッ!!」
朝の宿屋『湯煙キャラバン』に、リョウの悲鳴が響きわたった。
しばらく鏡の前で立ちつくしたあと、リョウは腹をくくった。
こんな格好で部屋にこもっていてもしかたない。とにかく、ギルドに行こう。ハンターはギルドに集まれって決まりがある。あそこに行けば、何かわかるかもしれない。
でも。
リョウは自分のはいているスカートを見おろした。
見知らぬ誰かの、女の子のスカート。すそから出ているふくらはぎは、すらりと細くて、このままじゃ転んでしまいそうだ。
「……歩けるのか、これで」
いや、歩くしかないんだけど。
おっかなびっくり、足を前に出す。
ひらり、とスカートのすそがゆれる。
今まで感じたことのない、ふともものまわりの風。なんだか落ち着かない。
いつもは力強く踏みしめていた宿の廊下も、今日はなんだか広く感じる。自分の足音も、固いブーツの音じゃなくて、カツカツという軽い靴音に変わっていた。
宿の女将ヒルダが、廊下のむこうから歩いてくる。元ハンターの彼女は、リョウの姿を見て目をぱちくりさせた。
「……リョウかい?」
「[surprised]えっ、わかります?」
「そりゃあね。今朝だけで、あんたみたいな叫び声が五回は聞こえたからねえ。それに、みんながみんな、そうみたいだよ」
ヒルダはあきれたように言って、肩をすくめた。
「とにかく外に出てごらん。街中がてんやわんやの大混乱だ」
そう言い残して、ヒルダは奥へと引っこんでしまった。
街中が、てんやわんや。
リョウは息をのんで、宿の入り口へと急いだ。
――そして、街に飛び出して、固まった。
そこは、昨日までリョウが知っていたハンターの街、ベルクハイムではなかった。いや、街は同じ街だ。石造りの建物も、中央にそびえる巨大な獣骨のアーチ門も、いつもと変わらない。
でも、そこにいる人たちが、まるでちがった。
「[crying]やだあ! 私のヒゲ、返してよお!」
声は可憐な女の子のものなのに、叫んでいるのは筋骨隆々の大男だった。二メートルを超える巨体をくの字に折りまげて、滝のように涙を流している。
その横を、白髪のおばあさんが、若者の体で全力疾走していく。
「[excited]うひょう! 若いって最高ね! 息が切れないわ!」
宙を、皿が飛んでいった。
どうやら誰かが、うまく手が動かせなくて投げてしまったらしい。
「[angry]おい、誰だ! 俺の体だと思って、勝手に投げやがって!」
「[scared]ちがうんだ! 手が勝手に! この体、言うこと聞かなくて!」
街のあちこちから、怒号と悲鳴と笑い声が混ざって、ぐちゃぐちゃの大合唱になっている。
ベンチに腰かけているのは、どう見ても十歳くらいの少年なのに、その口調は厳しい教官のものだった。
「……訓練が足りないからだ。この体でも、俺は百回腕立てを」
でも、言ってるそばから腕がプルプル震えて、あえなくベンチに沈んでいる。
リョウはあまりの光景に、ただぽかんと口を開けて立ちつくした。
「[whispers]なんだよ、これ……」
自分だけじゃなかったのか。
いや、そうじゃなくて――もっとわけがわからないことになっている。
これはもう、街全体がおかしくなってる。
とにかく、ギルドだ。
リョウは走り出した。
スカートがまとわりついて、いつもの倍は走りにくい。それに、髪だ。このふわふわの長い髪が、走るたびに後ろでばさばさ暴れる。うっとうしいこと、この上ない。
ふと、リョウは視界の端にとらえた自分の金髪をつかんだ。
「……きれいな色だけど」
それどころじゃない。
走って、走って、街の中央にあるフェルガナ狩猟士団本部に飛び込んだ。
中はさらにすごいことになっていた。
集会所は、ハンターであふれかえっている。いつもは精悍な顔つきの男たちや、鋭い目つきの女たちが、今日は全員、別人の顔だ。
ある者は警官のような大男の体で泣きじゃくり、ある者は小さな女の子の体で威張りちらしている。
「[serious]静粛に! 静粛にしてください!」
集会所の正面にある一段高い場所で、ギルド受付嬢のメルヴィが声をはりあげている。
彼女は、この騒ぎの中でも変わっていない数少ない一人だ。きりりとした眼鏡の奥の瞳は、今は混乱を必死に抑えこんでいる。几帳面な性格で知られる彼女が、これだけ大声を出すのは初めて見た。
「[serious]みなさん、話を聞いてください! 今朝方、ギルド上層部から緊急の通達がありました!」
ざわめきが、少しだけ小さくなる。
メルヴィは咳払いを一つして、手に持った羊皮紙を読み上げた。
「[serious]昨夜、古龍ミラヴォルテが、鏡鳴きの山に飛来しました。その際、古龍の逆鱗が十四片に砕け散り、ヴァルトランド地方全体に拡散。逆鱗の力に最も近くにいた者同士が、互いの肉体と精神を――入れ替えられました」
どよめきが広がる。
リョウは自分の手を見おろした。
つまり、今のおれは、どこかにいる誰かと体が入れ替わってるってことか。
この華奢な手の持ち主は、今ごろおれの体で、男として立っているのか。
「[serious]元の体に戻るには、砕け散った十四片の逆鱗のカケラをすべて集め、古龍の胸にある『真核鱗』に触れさせる必要があります。これはフェルガナ狩猟士団創設以来、最大の危機です!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、集会所はさっき以上の大騒ぎになった。
「[angry]十四片だあ!? 誰がどこに落としたかもわからねえのかよ!」
「[scared]鏡鳴きの山だって!? 星五の危険地帯じゃねえか!」
「[crying]俺、もうこのままでいい……星一つの体は楽だ……」
ハンターたちの叫び声が飛び交う。
リョウは混乱のるつぼの中で、必死に自分のスカートのすそを押さえていた。
どういうわけか、さっきから風が吹くたびにスカートがひらひら持ち上がろうとする。
こんな大事な話の時に、スカートなんか気にしてる場合じゃないのに。
でも。
ひらっ。
「[angry]くそっ、やめろって!」
リョウが小声でスカートに悪態をついていると、メルヴィの声が一段と高くなった。
「[serious]なお、ギルドとしては強制はしません。しかし、このままではハンターとしての活動は不可能です。慣れない体で、大剣や弓を扱えますか? 力任せに振り回していた武器が――」
リョウの心臓が、ドキリと跳ねた。
大剣。
(そうだ……おれの大剣は!)
気がつくと、リョウは集会所を飛び出していた。
もうメルヴィの話なんて聞いていられない。
おれの大剣は、ちゃんと振れるのか?
街の南門から二キロ。ギルド訓練場『レンヴァルト演習地』。
東京ドーム三つ分はある広大な敷地に、リョウは転がり込んだ。
訓練場に立てかけてあった、愛用の鉄の大剣を手に取る。
「……重い」
いつもなら片手でひょいと持ち上げられたのに、今は両手でようやく持ち上がる。
構える。
振りかぶろうとした、その瞬間。
ずるっ。
上半身が、大剣の重さに引きずられた。
「[scared]うわっ!」
足がもつれて、思いっきり尻餅をつく。
「いって……」
腰を打った痛みよりも、現実を突きつけられたショックの方が大きい。
できない。
おれの体じゃないから。
リョウは唇をかんだ。
となりでは、別のハンターが弓で泣いている。
「[crying]つがえられないよお……指が震えて、弦さえ引けない……」
別の場所では、ハンマー使いが自分のハンマーに頭をぶつけて、うめいている。
「[sad]この体……距離感が全然わからねえ……」
リョウはもう一度立ち上がった。
何だ、みんな同じじゃないか。
でも、だからってあきらめられるか。
リョウは大剣をもう一度構えた。
重い。
それでも――振ってみせる。
踏みこんだ右足が、地面をすべった。
ガツン、と嫌な音がして、大剣が地面をえぐる。
転倒。
顔から地面に突っこんだ。
口の中に砂が入る。
「……ッ」
女の子の姿で、泥まみれで、大の字になって転がる。
周りのハンターたちの視線が、痛い。
あわれみと、嘲笑と。
でも、リョウは立ち上がった。
何度でも立ち上がる。それがリョウというハンターだ。
――でも。
気がつけば、夕方だった。
結局、大剣は一度もまともに振れなかった。
リョウは泥と汗でぐちゃぐちゃのスカートを引きずって、訓練場からギルド本部へと戻ってきた。
体中が痛い。転んだあざが、何カ所もある。
「リョウ」
冷たい声。
受付嬢のメルヴィが、本部の入り口で腕を組んで立っていた。
「話は聞いたわ。あなた、まともに大剣も振れなかったそうね」
リョウは黙っていた。
メルヴィはめがねを押し上げて、淡々と言う。
「[serious]あなた、今の体でクエストをこなせるの?」
「……やろうと思えば」
「[cold]できないでしょ。言ったじゃない、私。今のあなたは星ひとつどころか、まともに歩くのさえおぼつかないでしょう。星級剥奪よ」
まっすぐな言葉だった。
でも、だからこそ、胸に突き刺さる。
「[cold]星三つ以上のハンターが、鏡鳴きの山へ向かうなら話は別だけど。今のあなたが行くとこじゃないわ」
リョウは言葉をつまらせた。
これまで、二年間。
命がけでクエストをこなして、やっと星二つまで上がってきた。
それが、今日一日で、ゼロになる?
「……わかった」
それだけ言うと、リョウは背を向けて歩きだした。
もう、何も聞きたくなかった。
街の門まで歩いた。
外に出れば、少しは落ち着くと思った。
リョウは門の石柱に背をあずけて、空を見上げた。
夕焼けが、街をぜんぶオレンジ色に染めている。
遠くの山々が、シルエットになって浮かんでいた。
あれが、ヴィルゲン山脈。
北東の端っこに、ひときわ高くそびえる独立峰がある。
鏡鳴きの山。
古龍ミラヴォルテがいる場所。
おれは今、ハンターじゃない。
星級を失った、ただの女の子だ。
誰かに頼るのは、大嫌いだ。
でも――このまま、何もしなければ、ハンターとして終わってしまう。
リョウはスカートのすそを、ぎゅっと握った。
うっすらと涙がにじむ。
でも、泣いてなんかいられない。
「[serious]絶対に、元に戻ってやる」
夕日に向かって、宣言した。
リョウは門の外に立てかけておいた、自分の大剣を引きずる。
ずるり。ずるり。
重くて、かつげないから、地面に引きずるしかない。
それでも。
ハンター・リョウは、たった一人で、鏡鳴きの山へと向かって歩き出す。
スカートのすそを風がゆらした。
長い金髪が、夕日にきらめく。
山頂は、はるか遠く、雲にかすんで見えた。
最初の一歩を、踏み出す。
地面に、大剣の先が長い線を描いていった。